『まあ、つまらない話だよ。アマラ宇宙にはそんな世界もある。事実、私が神を超えて事象にまで至った世界もあるのだからね』
ルシフェルは淡々と話してくるが、わりぃ、やっぱ(意味不明すぎて)つれぇわ。そりゃ辛えでしょ。聞けてよかった。
『だが、それをそっくりそのまま繰り返すというのは、やはりサタン。真面目というか、芸がないというか……。大衆の意識を操作し、自らに都合の良いようにと、百年近くかけて準備を整えるとはね』
「えっ、この世界ってとっくに悪魔に支配されてたの? 終わりじゃん(絶望)」
『そこも参考にしたんだろうね。真面目な奴が行動すると一番面倒臭い。私も含め、大抵の悪魔はこんな地道な作業など出来ないよ』
「ほーん(右耳から左耳へ)」
『生返事になり始めたな。流石は運命に全く絡む筈のなかった人間だ。異常事態だというのに平凡な性根を曝け出すとは』
んな事を言っている間に、何かお偉いさん方が騒ぎ始めた。さっきまではエリーに向けて詰問を重ねてはへらへら躱されてブチ切れ寸前だったのに、今や焦燥ばかりが顔に浮かんでいやがる。なんかあった?
坂上さんが腰の刀をチャキチャキ抜き差ししながら寄って来、俺に宝玉とチャクラポットを投げ渡してくる。随分雑だな。苛ついてる? というか焦ってる?
「どしたん? 話聞こか?」
「マジにふざけてる場合じゃないっす。……ヤタガラスの本部が悪魔に襲撃された。帝の身も危ういかもしれない」
「……それマジ?」
電話口から笑い声が聞こえた。ルシフェルが馬鹿にしたように笑っていやがった。
『あいつはやっぱり遊びを知らないね。目的を開示したらすぐに制圧へと移るか。混同されることも多いが、とことん合わないね』
「……このジーンズ大好きおじさんマジで何なんだよ。おいイーノック。お前に頼めるか? 適任だろ、役割的に」
「問題ない。それと、そいつが好きなのは上着だ」
『おっと、「彼」と代わるのはやめてくれよ。何せ、これは善意なのだからね。ぼやぼやしていると、取り返しが付かなくなるぞ』
「……もう取り返し付いてねンだわ。帝落とされると日本の霊的防衛がマジに死ぬンだわ」
言いながら、流石にマジでヤベえので慌てて準備を整える。ついでにもう面倒臭いので電話を切る。しかしそれを邪魔するように勝手に電話口から『おっと、少し良いかな』と声が聞こえた。
『そこに彼女も居るんだろう? 言ってやってくれよ。もう良いってね。ヒーローがこんな有様では、彼女の存在その物が無意味だ』
「勝手に人の電話乗っ取るんじゃねえよボケ! それに誰か知らねえけどお前が直接言えよ恥ずかしがり屋さんか?」
「……そうよ、貴方らしくもない」
「何だお前!?」
何か急にリエとかいう姉ちゃんが言った。別にスピーカーにはしてねえんだけど? だが、それに答えるように電話口でルシフェルが笑った。
『随分と情が湧いたものだね、リリス。アダムの代わりの代わりなど成立しないと、そう言ったアンチメシアの言は間違っていたということかな?』
「……神だの、悪魔だの、そういった者達に振り回される側の気持ちが、懐かしかっただけよ」
『そうか。では、君の役目も終わったということだ。いや、「彼」の言葉を借りれば、「最早、定めなど存在しない」……好きにしてくれよ』
「……あっそ」
そう言って、リエだかリリスだかってやっぱお前高位悪魔じゃねえかの姉ちゃんは、カオスヒーローの死体ごと消え失せた。ぶっちゃけ敵を二度も取り逃がすとかカッコよすぎて俺なら自殺しちゃうねって所だが、今はそんな事に構っているような状況ではない。
しかし、ふとエリーが「んんー……?」と声を漏らした。
「……イーノック様、エノク様……ですよね? あれ? おかしいな……」
「こいつがおかしいのは最初っからだろ。つかお前どうすんの? ご自慢の自殺計画ご破算になっちゃってどうするぅ?」
「それは味方して下さいって事ですか? あはは! いやあ……どうしましょうかね。だってこれ、絶対にお兄ちゃんが敵に回るじゃないですか」
「……えっ、ワグナスが? 何で?」
「運命が無理矢理にも動き出したということは、強制的に役目を与えられて……ああうるさいなあ分かっていますよ我らが主。『打ち倒せ』『討ち滅ぼせ』ってはいはいそのためのアンチメシアですね」
「結局こうなるんだから」とつまらなそうに唇を尖らせて、エリーは三浦に支えられ立ち上がった。しかし足下はよろよろと弱く、常のニコニコ笑いにも翳りがあった。
「まあ、仕方がないでしょう! それが主の望みなれば。では、如何でしょうかヤタガラスの代表さん? 我らメシア教が助力を申し出ましょうか?」
「……否。ヤタガラスの領域にお主らを踏み入らせる訳にはいかぬでおじゃる。お言葉だけありがたく頂戴するでおじゃ」
「お堅いですねえ! まあ、すぐにそうこう言っていられなくなるでしょうけど」
言いながら、メシアンもヤタガラスも纏めて部屋から抜けてエレベーターに乗る。お偉いさん方は、さっきから方々に指示を出しているのか電話かけっぱなしで、特に諏訪さん(父)は繋がらないコールに脂汗を流しては舌打ちを繰り返している。本部に居たはずだもんな、諏訪さん(娘)
と、そこでまた電話口から声が聞こえた。おう何度切っても掛けてくるんじゃねえボケのルシフェル。
『君には分からないだろうがね、これはちょっと、驚きの光景だよ。メシア教がヤタガラスに助力を申し出るなんてな』
「君もう意味不明なことしか言わないなら帰って良いよ!」
「……まあ、待つっすよ、本庄」
不意に坂上さんが俺の右腕を掴んだ。痛い。力強っ。えっなんすか。
「本庄、どうしてかは知らんっすけど、相手はルシファーっすよね? 明けの明星。カオスの頂点。どうせ、この件にも絡んでいるんっすよね? ……代われよ。電話口から叩き切ってやる」
「えっこの人怖……」
「急くなよ坂上。相手が本庄を指定したということは、何らかの意思があっての事。……本庄、何らか聞き出せ。必ずな。頼む」
「えっこの責任重……」
「見えました。『外』ですね。アカラナ回廊の狭間、時の流れに身を隠している。……ルシフェル。時間。時の天使。エルシャダイ。……情報を纏う、ということですか」
「えっこいつ意味不明……俺が何かしなくてもこいつらならRTAこなしてくれそう……こなしてくれそうじゃない?(重圧への冷や汗)」
『運命の歪みだね。本来、ヤタガラスはもっと弱体化しているはずだが、思わぬ影響が出たか。それを片付けるための準備期間でもあったんだろうが』
だが、とルシフェルは呟いた。
『そろそろ始まるぞ。終末が来る。ラッパの音が鳴り、獣の叫び声が響き渡る。是非、活躍してくれたまえよ』
「……テメエは俺に何を期待してやがるんだよ」
『勿論、四文字を殺す事だ。あいつが事象:トリックスターなんてものになれば、性格からしてロウに味方することは必定だ。頑張ってくれよ』
その時、がくんとエレベーターが止まった。電気が消えた。停電だ。騒ぐこともなく臨戦態勢に入る。だが、俺は思わず呟いた。
「……なんだよ、これ」
感じている。如実に感じている。異様なMAGが渦巻いている。この場だけではない。この場はあくまで余波に過ぎない。世界全てにMAGが轟き、大きな何かが変わろうとしている。
しかし、聞こえてきたのは、襲撃してきた悪魔共の叫び声でも、サタンの高笑いでもなく……もっと奇妙な声だった。
『ンアーーーーーーーーーーーッ!!!』
「……は?」
それは、紛れもなく野獣先輩の喘ぎ声だった。
「……おい本庄、この声、非常に聞き覚えがあるのだが」
「なんすかこれ」
「アポカリプティックサウンド。……という名の、男優の喘ぎ声ですね」
「こーんなのでお兄ちゃんが敵に回るとかやってられませんよ本当に!」
『はは! 真面目が過ぎると頭がおかしくなるんだな。たとえば、野獣先輩というネットミームを計画の根幹に置くとかな。……そら、始まるぞ』
いや、あの……始まるぞとか言われても、野獣先輩の喘ぎ声から始まる終末って何だよ(哲学)。物凄く嫌な予感しかしないんですがそれは。それもグロとか悲劇とかそういうんじゃなくて、もっと、こう、恥ずかしくて下らなくて共感性羞恥心を刺激するような……。
切羽詰まった状況に対する物とはまた違う汗が流れつつある中、エレベーターは再び動き出し、階下に行き着いた。そして扉が開かれ、ラウンジを抜け外に出た先、聞こえ、見えたものは……。
「確かにいたしました。投稿者:変態糞総理」
「待って下さいよ総理! 私も確かにいたしました。投稿者:変態糞野党党首」
「女性が糞遊びをするのはダメですか? 私も確かにいたしました。投稿者:変態糞女性議員」
「うわああああああ!? 終末だあああああ!? もう終わりだねこの国!!!」
そ、総理大臣が……街宣車に乗った総理大臣が、変態糞土方を朗読している!? どころか霞ヶ関から凄い数の議員達が街宣車に乗り出して、変態糞土方を朗読している!? 何だこの光景!?
「こ、これが終末なのぉ……? なんか頭おかしいよぉ……!」
「……マジにやばいっすねこれ。日本中が悪魔に頭乗っ取られてるっす。帝に影響が出る前に即刻片を付けなきゃならんっす」
「もう影響出てんじゃね? 朕のちんちん入ってる^~とか言っちゃ……ヒエッ!?」
あの、坂上さんの右腕が一瞬ブレて、今確かに首を切られたんだけど。なのに繋がってるんだけど。なんすかこれ。って顔怖っ!?
「じょ、冗談じゃないっすかぁ……坂上さぁん……」
「次ぃねえぞ本庄(ブチギレ)」
「ッス……(小声)」
というわけで、こんなふざけた(オブラート)異変を解決するためにも、一刻も早く皇居に向かわなければならん。エリーは「だから言ったでしょう。そうこう言っていられなくなるって!」と笑ってはいたが、しかしその目は思いっ切り腐っていた。
「ほんっとに、何でこんなのでお兄ちゃんが……はあ……カインとアベルというか、ソドムとゴモラでしょうこれ。本国にICBM撃たせたくなってきました」
「聖女様……お労しやだゾ……」
「……ってはいはいそれ故のトールマンでアンチメシア。手っ取り早い解決でしかも神話の再現。現世に主の御威光を知らしめる! ああうるさいうるさい黙っていなさいよ本当に!」
「おっ何時もの発作だな! パキシルパキシル!(呪文)」
「あっ、お薬の時間なの忘れてたゾ……」
「えぇ……(困惑)。病気なのはマジなのかよお前……」
唐突に薬を飲み始める三浦もだが、ちょっとエリーの顔色は悪すぎる。イーノックは沈痛な顔で「大丈夫か」と声を掛けているが、それすらも厭うようにエリーはイーノックを睨め付けた。
「神に選ばれた人間は、皆こういうものなのですかねえ? 先達と言えば貴方も相応しい。神に連れて行かれた選民エノク様」
「大丈夫だ、問題ない。君の道は、君自身が自由に思い、行く先にあるだろう」
「……それでは神に逆らえと? 私の本心はそれですよ。……聖エノクが言うことですか」
その言葉に、イーノックは不意に言葉を止め、しかし強く答えた。
「たとえ、それが神に逆らうことであろうとも、自分が信じた道を行けば良い」
「……はい?」
「自らの意思で進むべき道を選択し、自らが信じた自由を見つければ……そこに、神はいるはず」
そう言って、イーノックがエリーに手を翳した。青色の浄化の輝きが満ち、イーノックが満足げな顔を浮かべた。
「エリーザベト・トールマン。君は大丈夫だ」
「……貴方様は」
「神は言っている。全てを打ち捨てるには、まだ早い」
その言葉に、エリーは呆気に取られたような顔をして、しかし笑みを浮かべた。
「……はいっ! 私は、私が信じた道を行きましょう。だからお兄ちゃんを止めなきゃね!」
「その通りだ。さあ、私達も行こう。サマナー」
「お、おう……野獣もそうだったけどさあ、お前もマジで何者なの?」
えっ、こいつマジでメタトロンか何か? さっきまで気分悪そうだったエリーも、今は元気に「さあ行きますよ三浦!」「ウェゲッホ! あっ、おっ、しゃっくり止まらなくなったゾ……」「三浦ぁ!」とバシバシ背中叩いているし、ニンスレと同じく高位の悪魔が皮被ってる? 正体見たりって感じだな!
「じゃあ、あれか? タイトルは『本庄モトユキはロウルートに進むようです』って感じでぇ……あっなんか急に嫌な予感がしてきた!? 碌でもなさ過ぎる未来が待ち受けているような気がしてきた!?」
「大丈夫だ。君は救世主ではない」
「ほ、ほんとぉ?」
「仮にそうだとしたら私がオヌシを即刻殺している。オヌシは哀れなモータルだ。ニンジャ存在になる運命は三千世界に一つもない」
「メシアの正体はニンジャだった……?」
キリストや、特にブッダがニンジャスレイヤー本編のラスボスになる展開、あると思います。カツ・ワンソー=ブッダ=ヌンジャ説って感じでぇ……とか思いながら、俺達は混沌とした東京を駆けていった。