ネットミーム・デビルサマナー   作:生しょうゆ

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第二十五話 ロウとカオスと

 

 

 

 そんなこんなで無駄にピリピリしたまま会議は始まった、多分。というのも、事前の流れを完全に無視して、クソのエリーが「はい! 発言します!」と手を挙げたからだ。お前道徳の授業じゃねえんだぞ(半ギレ)

 

 胡乱なものを見る視線がエリーに集まる。その目は入室以前からあった物だ。そりゃそうだ。メシアンのトップがこんなメスガキとか誰も聞いてなさそうだったしな。の割に彼女の周囲を固めるジジババ共はまるで文句が無さそうである。ちょっと異様な光景だった。

 

「……何だ」

 

 その『何だ』は、発言にか、存在その物にか、恐らくは両方だろう渋面でゴトウとかいうジジイは言った。対してエリーは常通りのニコニコ笑いである。コワッ。

 

「面倒臭いので一緒に腹を掻っ捌きましょうよ! 嘘も方便も時間の無駄です。全て真実を話しましょうよ。まずは私から!」

「……何だ、お前は」

「本庄の報告にあった、聖女でおじゃるか」

「はい大正解です! 皆さん疑問にお思いでしょう? 何故教主気取りのハニエルがこの場に居ないのか! 答えは私が殺したからです!」

 

 エリーの言葉にざわめきが一気に広がる。うへえ始まりやがったよお寒い独擅場。だからコイツを喋らせるなって言ってんだよ。もう空気が飲まれてんじゃねえか。

 

「結果、露見したのは悍ましき人体実験の数々です。アレは人を軽んずる畜生でした。その詳細については後日、資料として送らせていただきます。もっとも、ヤタガラス方には既に開示しておりましたが! 何せ悍ましき畜生共は退魔庁方と結んでおりましたものねえ?」

「はっ……何を根拠に。メシア教の皆様方も、この様な小娘に勝手をさせてよろしいので?」

 

 挑発するようにゴトウが笑う。対してエリーは「ふうん」と意外そうに言った。

 

「丸くなったものですわね。刀を抜かないのですか? かつての貴方はそうであったと、父から聞き及んでおりましたが」

「はあ? 父親?」

「あ、申し遅れました! 私の名はエリーザベト。エリーザベト・トールマンです! ……90年代に貴方と対立した男の、実の娘ですよ」

 

 その瞬間、退魔庁側の席から殺気が溢れ出た。思わずCOMPを操作しつつ見れば、先のおっさんが凄まじい目でエリーを睨み付けていた。

 

「トールマン……トールマン……? なんだ……?」

「あら怖い。なり損ないの癖に、まだ運命にご関心が? もう代替わりしましたのに! ねえ本庄さん!」

「げえっ!」

 

 エリーの言葉に俺に視線が集まる。止めろってマジで冗談じゃねえぞ! これ『おまんこ(適当)』とか言って誤魔化せる雰囲気じゃねえだろ!

 

「お前と……この雑魚が何かを知っているのか? この苛立ちを、この不快な違和感を、消してくれるのか? なあリエ、こいつらが、あの夢を……」

「ちょっと止めなさい! もう関わる意味なんて全くないんだから!」

「あはは! 関われなかった、が正しいのではありませんか? ねえ本庄さん? 信じられないかも知れませんが、この女が仮にも私の先達ですよ! その意味合いはまるで異なっていますがね」

「あー、チョーネム! ジム行きたい!(半ギレ)」

「似たようなものではないですか」

 

 ライドウがぼそりと呟いた。うん。何か出ちゃった……俺は俺が怖いぜ……。

 

 だ、だってさあ、知らねえおっさんがガンギマリの目でこっち睨んでくるんだもん。その他ボケ退魔庁共も思いっ切りこっち見てくるし、ヤタガラスの皆さんも殺気飛ばさないでくれない? 別に巻き込まれたくて巻き込まれたわけじゃないんだからさあ……。

 

 が、ゴトウの様子には幾らか焦りが含まれているようだった。おっさんを視線で牽制しながらも、どうにも叱責も何も出せないようである。それを馬鹿にしたように笑いながらエリーが言った。

 

「根拠など溢れております! それも資料に添付しておいたので、故にこそヤタガラスはそちらを糾弾したのではないですか? いえいえ、お礼は結構です! 何せメシア教は清廉潔白、嘘偽りの無い組織へと変わったので!」

「うさんくせっ」

「事実ですよ! それを今から証明しましょうか? どうせこの場で糾弾したとして、物語の操り手には及ばぬ。なればこそ、ここで一つ、旧時代の遺物を葬り去るも良いのでは?」

 

 そう言ってエリーはおっさんを指差し、笑った。対峙するおっさんの目には剣呑な色が、そして戸惑うようなものがあった。それを鋭く指摘するようにしてエリーは言った。

 

「いい加減、終わりましょうよ。ねえ? なり損ない(カオスヒーロー)

「誰だよ、お前の彼か?」

「露骨に面倒臭くなり始めたっすねお前」

「私のメシアは貴方だけですよ本庄さん! もっとも、世界としては別に居ますが」

 

 ケラケラとエリーが笑う。その笑みには確信がある。狂信者のものと似ているようで異なる、真実を見据えるようなものだった。

 

「ジリジリと頭の中がうるさいんですよねえ最近。もう役者は揃ってるって事なんでしょうけれど、だからといって遺物をそのままにするのはどうなのかしら? 何か利用する気でもあるのかな?」

「……遺物といえば、君たちの人造メシアはどうしたのかね? ハニエルは自慢げに見せびらかしていたが、その遺物をまさかそのまま利用するのでは清廉潔白とは言えないだろう」

 

 ゴトウのおっさんが話を逸らすようにそう言った。このクソキチガイの話が全く理解できないから理解できる方面から攻めるって魂胆なんだろうが、コイツ相手に話しかけた時点で終わってんだよなあ。

 

 事実、エリーはにんまりと笑って「貴方がそれを言いますか!」と再びおっさんを指差した。

 

「カオスの権化! 混沌の化身! 魔人と夜魔を抱え込むとは……いえ、抱え込まざるを得ない? そうなるようにされている? あはは! 神は言っている。アダムの代わりの代わりなど成立しないと」

「……ゴトウ長官? この娘、さっさと黙らせた方が良いわよ」

「あはは! メシアに出会うことも出来なかったアンチメシアなど笑えますね!」

「……本気で何と繋がってるのよ、この娘」

 

 あー何言ってるか分かんねえよ帰って良いか? おい麻呂野郎、「本庄、翻訳するでおじゃる」とか言ってくるなボケ。こんな奴にはバウリンガルでも使っとけよ。多分『うんち!』とか言ってると思うゾ。

 

「あの聖女と会話を重ねたこともあるのであろう? その意図、目的に関する推察はないのでおじゃるか?」

「ジュワワワジュワワ、ジュワジュワジュジュワワワワワ?」

「殺すでおじゃ」

「に、日本語でおk!」

「殺すでおじゃ(全ギレ)」

 

 し、視線に呪いを込めないでくれよな~~頼むよ~~。いやマジで。呪殺無効装なかったらダメージ受けてるぞこれ(冷や汗)

 

 しかし、そんな俺の危機とは全くの関係なしに事態はどんどん進んでいく。さっきから退魔庁の奴等は挑発されまくって臨戦態勢だし、カオスっぽいおっさんも困惑しながら刀に手をかけてマジヤバい!

 

 対してメシアンの奴等は落ち着いた様子、というか何かを待っているかのように息を整えている。エリーを頂点として一つの生物のように揃った姿勢は不気味通り越してホラーそのものである。

 

 ヤタガラス? 何か「絶対に奴のせいだ。あの子がネットで胸を晒すなどぉ……」「キミヒコが変な笑い方をするようになったのも本庄が入ってきてからでおじゃったな……」とか責任擦り付けてきてるよ。それ本気で俺には関係ねえからな! 坂上さんは九割本人のせいで、諏訪さんは十割だかんな!

 

 だが、今は責任の所在など探している場合ではないようで、今まさに勃発しかけている抗争に対し、ヤタガラス方も管を抜く。その敵意が向かう先は、この場で最も剣呑な雰囲気を放つ、退魔庁のクソオヤジだ。

 

「……急くなよ。本庄」

「分かってますって。……マジでヤベえよ、このちょい悪オヤジ」

 

 ゲイリンが勝てないと言ったのも頷ける。奔流する殺意の渦は、それだけで一般人を殺せそうなほどだ。クソッタレ魔人とロリコンおじさん共三人分って感じの強さを人間が備えてんじゃねえよ(戦慄)

 

 それと若い姉ちゃんも何なんだこいつ。あからさまに人間じゃない雰囲気振りまきやがって。ぜってえ高位悪魔か何かだろ。二人合わさるとカオスの権化って感じの圧が振りまかれて器ちゃんにそっくりだわ。これに比肩する器ちゃんってなんだよ(哲学)

 

「だからエリーも挑発するんじゃねえよボケ! 法律がどうだろうとオメーの命なんてどうでもいいけどさあッ、俺を巻き込む気ィッ!?」

「あはは! もう遅いですよ。だって睨まれているのは本庄さんですよ? あちらは随分と知りたがっているようで! 始まらなかった物語に! 定まることのなかった自らの運命に!」

「なにがちょい悪オヤジだ……! ふざけたことを抜かす前に、俺をあの真っ白な夢から覚めさせろ!」

「通院したらいんじゃね? 俺もそろそろ通おうと思っててさあ。オススメの精神科が下北沢近くに……」

「死ね!」

 

 おっぶえ! と威圧だけで放たれた剣気を避ける。最早一種の異能じゃねえか。だがこれで開戦だぞバカヤロウコノヤロウ!

 

「坂上、ゲイリン」

「ようやくか! 儂も鬱憤が溜まっておったわ!」

「パパ上達は下がってて良いっすよ。すぐにぶっ殺しマッスル」

「その妙な語尾はやめるでおじゃる……」

 

 三人が抜刀し、管を抜く。うわあ、ヤタガラスのキチガイ三天王勢揃いだぁ……。「四天王ですよ」……いや器ちゃんが四天王扱いは流石に「貴方ですよ、本庄」俺を巻き込む気ィッ!?

 

 対して退魔庁側も剣を抜く。ゴトウだけは脂汗を流して焦燥したように押し黙っている。だが、妙にメシアン共が落ち着いていやがる。狙われているのは自分達もだろうに、エリーの声を待っているように黙って座ったままだ。気味が悪い。何か企んでいやがるのか?

 

 その考えの通り、不意にエリーはニコニコと笑い、眼鏡のおっさんを指差した。

 

「哀れですね。無様ですね。既に終わっていると気付けぬとは」

「……トールマン。トールマンと言ったな。お前、知っているな? 俺の何かが『トールマン』が敵だと、そう言っている」

「無駄ですよ。その運命は動きません。だから終わらせようというのです。貴方も、アレもね」

 

 切られかけた火蓋の上を、悠々と踊るようにしてエリーは言った。そして全てを決定付けるように、世界に向けて言った。

 

「アンチメシアがお前を呪う。お前の正体は救世主。私の敵だ」

 

 故に、とエリーは笑った。馬鹿馬鹿しそうに笑って、笑って……。

 

 ──その瞬間、何かが壁を突き破って飛び込んできた。

 

「来ましたね、なり損ない(ロウヒーロー)

 

 現れたのは、白い、白い、何者か。

 

 青白の法衣を身に纏い、悍ましいほどの神聖な気配を撒き散らすそいつは、あらゆるものを無視して、眼鏡のおっさんに向かって<ハマダイン>を放った。

 

「っ……!? ハニエルの人造メシアか! 何が潔白! 貴様ら隠し持っていたな!」

「せめてロウヒーローと呼んであげて下さいよ。これは、そう呼ばれることを待っていた者達の戦いなのですから」

「この娘どこまで……っ! 止めなさい! それは貴方の敵じゃないの! もうそれと戦う必要なんてないの!」 

 

 リエと呼ばれた姉ちゃんがおっさんへ向けて声をかける。しかし、既に戦闘は始まっている。だが、それ以上におっさんは、妙に笑みを浮かべ、懐かしそうにまでしていた。

 

「お前……そうか、お前が、十字架に磔にされていた……!」

「貴方が、そうか! 悪魔を求める乾いた魂!」

 

 COMPが異常音を響かせる。

 

 今まで押し黙っていたCOMPが勝手に動き出し、画面上に文字を走らせた。

 

[超人:ロウヒーローと 超人:カオスヒーローが 出た!]

 

「……なにこれ?」

 

 勝手に殺し合ってるのは良いけどさあ、誰か説明してくれよ。何だこいつら。と思っていると更に画面上に文字が走る。同時に、何か懐が温かくなってきたな。ホッカイロ入れてたっけ?

 

「あはは! これが本来の運命ですよ本庄さん。無理矢理一方を目覚めさせれば、ここぞとばかりにもう一方が来たる。運命とは残酷ですね。強制するばかりか、それを望むまでになるのですから」

「あっち! うわあっちいなこれ! これもお前の仕業かよぉ!」

「え? 何ですか?」

 

 エリーが不思議そうな目で俺を見やがるが、何かアッツ! アツゥイ! って懐から取り出せばきっしょい赤黒のドリーカドモンが熱を発して震えていた。ローターか何か? こんなんじゃマンコが火傷して死んじまうよ(伊邪那美命並感)

 

 と、不意に地面がぐらついた。地震か? いやなんか引っ張られるっていうかドリーカドモン君勝手に飛び出さんといてよ! 後で知ったけどすっげえ高級品なんでしょ君! 使えねえなら高値で転売するつもりだったんだからな!

 

 とかなんとか言っている間にドン☆ と床が弾けた。「何だこのオッサン!?」と言うや言わずや、飛び出したドリーカドモンが床を突き破って現れた赤黒い炎に溶け合っちゃった。

 

「もう! 勝手にして! ドリーカドモンの事なんて知らないんだからね!」

「……いえ、これから関わり続けざるを得ないでしょうね。何せ、契約が完了してしまいましたし」

「は?」

 

 ライドウの言葉に、ドリーカドモンと溶け合った赤黒の炎が、人型の象を成していく。

 

 肌の露出は一切なく、装束と同じく赤黒い篭手に具足を身に付けたその様は、悍ましき怨嗟の炎を押し固めたかのような様相。

 

 そして、その顔には覆い隠すような面頬が……いや、メンポが! そこには禍々しき書体で「忍」「殺」の文字が刻まれているではないか!

 

 彼は、慌てふためく俺を他所に、静かにオジギをして言った。

 

「ドーモ。はじめまして、ホンジョウ=サン。ニンジャスレイヤーです」

 

[魔人:ニンジャスレイヤーが 一体 出た!]

 

「アイエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

「状況判断だ!」

「アイエッ!?」

 

 突如として現れたニンジャスレイヤーは、説明を後にして白黒のヒーロー共の剣戟の内へと拳をすり込ませる。殺戮者のエントリーだ! ってナンデ!?

 

「ドーモ。ロウヒーロー=サン。カオスヒーロー=サン。ニンジャスレイヤーです。災禍を巻き起こす救世主気取り共め! オヌシ達は今ここで死ね! イヤーッ!」

「何だこの悪魔!?(驚愕)」

「何ですかこの悪魔!?(驚愕)」

「何だこの状況!?(驚愕) おいエリー! これもお前の仕業かよぉ!?」

「いや知りませんよ! なんですかこれ!? 何が起こってるんですか!?」

 

 お前も知らねえのかよ! まあエリーは知らなそうである。何せこの悪魔……悪魔か? は、ニンジャスレイヤーという小説に登場する主人公、ニンジャを殺すニンジャ、ニンジャスレイヤーだ。

 

 即ち創作物のキャラクター、そして淫夢とも並ぶネットミームの化身! 俺はニンジャに詳しいんだ。

 

 だが、だからこそ言いたいことがある。なんで現れやがったのかの説明も含めて!

 

「てめえここ千代田区内幸町だぞ! スゴイタカイビルではあってもマルノウチじゃねえだろうが!」

「マルノウチ・スゴイタカイビルは丸の内にはない! ネオサイタマはカスミガセキ・ジグラットの北東に位置する! 故に問題はない!」

「アッハイ」

 

 それは何故現れたのかの説明にはなっていないのでは? 俺は訝しんだ。

 

 

 

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