「しゃあっ! ニャルラト・ホテプ!」
「ミシャグジさまぁっ!」
「召喚:ヨシツネ、ヴィシュヌ」
「二分の一がクソ悍ましい悪魔なんですけどそれは大丈夫なんですかね?」
「君も何かしなよ。呑気に感想言ってる場合?」
えーだって俺が役に立てそうなレベルじゃねえし。精々後方からガーレを撃つイーノックに「がんばえー!」とMAGを供給するだけである。呪殺に関してもこのゆっくりから分捕った装備があるから安心だしな。
「その『組紐』、物凄く高いんだけどね……」
「うおー! がんばえー!(ガン無視)」
「おいボケホモガキ! 属性弾で弱点突くくらいやりなさいよ!」
「楽な任務と思ってアイテム全部置いてきました……(ゴミ)」
「死ね!!!」
まあしょうがねぇなあって事でパァニパァニと適当に銃弾を放つ。ぶっちゃけ邪魔にしかなってないんじゃない? たとえ属性弾を持ってきたとしてもな。
だって目の前で繰り広げられているのは超越者同士の戦闘だ。ベリアルが放った<マハラギダイン>が、ヴィシュヌとニャルラトホテプの連続<メギドラオン>で掻き消され、ミシャグジさまが<ランダマイザ>で動きを縛る。その間隙を縫ってライドウがヨシツネと共に剣戟を重ねていく。
一刀の後に残された力を利用し、足先は間断なく地を踊り、繰り広げられるのは絶技の乱舞。阿呆みたいに高い技量は、ベリアルの身体に次々と傷を刻んでいく。
「ぐっ……ネビロス頼む!」
「分かりまし……っ!?」
物理無効のネビロスにライドウを任せようとしたのだろうが、瞬間にライドウは「送還:ヨシツネ 召喚:ヒトコトヌシ」と管を切り替え、ネビロス相手に弱点の<ザンダイン>を食らわせる。その一撃の間に、前転からの回り込みでベリアルの背後を取り、背中に向け連撃を放った。
流石、馬鹿みたいに立ち回りが上手い。コイツだけゲームシステムが違うんじゃねえかってくらいだ。実際、スキルとしての<回避>が存在するとか言ってたゾ。
一方で器ちゃんと諏訪さんの方も馬鹿みたいな戦況だ。アリスが魔法とも呼びがたい「死んでくれる?」と放った特級の呪詛を、何の対策もなくその身体だけで無効化しやがる。混沌の魔人と祟りの極致相手にゃ、流石の魔人も攻めあぐねているか。
「むううう……! 流石はアリスのお友達だけど、そっちのお姉ちゃんまでー?」
「ミシャグジさま! <ランダマイザ>です!」
「しゃあっ! <メギド・ラオン>! <メギド・ラオン>! <メギド・ラオン>!」
「な、なによそれ! チートよ! チーターよ!」
「うわぁ……」
ちょっと器ちゃんがマジにおかしいことをやっている。諏訪さんも横目でドン引きじゃねえか。そりゃ万能属性でごり押しってのは万能の解決策だけどさぁ……。
「アリス!」と吹っ飛ばされたアリスにベリアルネビロスが駆け寄ろうとするが、その隙を許すライドウではない。奴は刀を肩に乗せ、左手に管を開き、鋭く呟いた。
「ヴィシュヌ」
「あの邪悪な退魔師はまだ生きていたのか……。まあいい、<メギドラオン>だな?」
「送還:ヒトコトヌシ 召喚:ヨシツネ」
「あいよ、<八艘跳び>!」
万能魔法が放たれたと同時に、ヨシツネが異界の中を身軽に飛び跳ねては剣を振り、連続して剣戟を叩き込む。その向かう先は全てベリアルだ。よく仕込まれてんなこの悪魔。
「っずあ……!? こ、の……!」
「ベリアル!? 人間風情が……っぐあっ!?」
が、相手の悪魔のレベルも尋常ではない。これだけ攻撃を受けたのによろめくだけだ。しかしライドウはベリアルとネビロスに向け、修羅回転何とかって仰々しい名前の回し蹴りを叩き込み、吹っ飛ばされたアリスの元へと仲良く飛ばしてやった。
「阿多」
「はいっ! お友達が欲しいなら、人を大事にする心を持って下さいよ! 鬼龍のように!」
「だから鬼龍って誰なのよー!」
一纏めにされた悪魔共へ、器ちゃんが<メギドラオン>を連続して放つ。いや、連続って言うかもう継続って感じで放つ。この子マジでヤバくない?
「いやあ……あんな大悪魔相手にどうなるかと思ったけど、当代のライドウがこのレベルなら、混沌の魔人との共同で倒せるってわけだ」
「よっしゃあ! 俺達の勝利だ!」
「君は何もしてないけどね」
「俺達(強調)の勝利だ!」
「ああ、そう……」
「私も全く役に立っていなかったが、大丈夫か?」「逃げ隠れたうんちよかマシだよ」と、まさしく神の力が如き連続<メギドラオン>を気楽に眺める。器ちゃんのニャルから<メギドラオン>出す奴で大体勝てるんじゃない? 頭の後ろに手組んでもう楽勝って感じだ。
──が、不意に光輝は切り裂かれた。
「っ、ふうううう……。アリス、無事か」
「うん! ありがとーおじさん達! でも凄いわ貴方! 赤おじさんと黒おじさんでも食い止めるのが精一杯なんて!」
「ウッソだろお前……(絶望)」
「なっ……そんな!?」
三体の悪魔は消滅しちゃいなかった。流石に力は削れているようだが、満身創痍にはほど遠い。ライドウと器ちゃんとかいう激ヤバタッグでこれとかマジで死ぬ(迫真)
「……魔人。魔人、ですが、その本質は違いますね」
赤布のマントを翻し、ネビロスが眉を顰め呟いた。
「救世主。運命の児。……本物ですよ、この少女は。ライドウよりも余程危険です。こういう運命付けられた人間は」
何度辛酸を舐めさせられたか。そう言ってネビロスは右腕を持ち上げた。途端、異界に死の気配が充満する。同時にベリアルが獲物を振れば、死の気配は瞬間に膨らみ弾けた。
ファンタジックな異界が裏返る。或いは本質を曝け出す。そこかしこで猫が死に、兎が死に、空が死んで大地が死ぬ。
だが、その全ては予兆だった。全ての死はネビロスの右腕に集まっていた。奴が操る小汚い人形がカタカタと震え、死をその身に宿していく。
「……ここから入れる保険ってありませんかね?(震え声)」
「あったとしても遺族が受け取る羽目になりますわよ(震え声)」
「待って下さいよ本庄様っ、諏訪さん! 何を弱気になっているのですか! 私は何だか元気になって来ましたよっ!」
「まあ、阿多はそうでしょうが」
器ちゃんが謎にバフを貰っている一方で、ライドウは眼光鋭くネビロスを見つめた。正確には奴が集めんとしている力だろう。どんな理屈かは知らんが、似たようなモンなら飽き飽きするほど目にしている。
異界の中心。異界の主。そいつを殺せば異界は崩れる、半ば異界その物と呼んでも良い悪魔の顕現だ。
このレベルの悪魔共が根城にしている異界を、一つ所に集めた悍ましい悪魔が、今まさに生まれようとしている!
……だからこそ、ふとした気付きに、俺は密かに笑みを浮かべた。
皮肉だがな。皮肉だからこそ、俺はすっかり忘れていたポケットの中のそれを握り締めた。
「えー! おじさん達、おもちゃ箱壊しちゃうのー?」
「後で新しい箱をあげますよ。……私としても、折角作り上げた異界でしたが、アレをアリスが望むのならば仕方がありません」
「フン……我らを望み、我らを食らう、まさしくカオスの権化か。どの世界でも似たような者が現れるな? イーノックよ」
「……ベリアル」
つまらなそうにベリアルは笑い、イーノックは憮然とした表情でそれに返した。どことなく不機嫌そうである。
「……お前ベリアルと知り合いだったっけ? いやエルシャダイに出てんのは知ってんだけどさ、マジモンの悪魔とイーノックは知り合いじゃねえだろ」
「正確にはイーノックではないがな。この我では名を呼べぬのだから仕方がない」
「……神は言っている。まだやっているのかと」
「ははは! 神は言っている、か! まさしく神のお言葉だな、ええ? ああまだやるとも。永遠に続けるとも!」
「救わせないのはどちらか……」
「うん、意☆味☆不☆明」
とかなんとか言っている間にもネビロスが操る人形はMAGをその身に宿していく。これマジでどうするの? って感じだな。 誰がどうしてくれるのだよ!
「そこで俺の登場! ってわけだwww」
「──はっ?」
ネビロスの人形に向かって俺は全力で投球した。ボールの代わりはコートのポケットの中に置き忘れていたドリーカドモンである。奇怪な形のオブジェが、ぐるぐる回りながら人形に当たり──。
爆発した。
「いや爆発すんのかい!」
「えっ、なっ、はあっ? 何が起こっ……ちいっ!」
「なによこれ! アリスのお人形の筈なのにー!」
異界はぐらぐらと不安定になり、バラバラになって解けていく。当然だ。全ての力を結集させて顕現しようとした悪魔が、急に自害したんだもんな。そりゃ異界も崩壊するわ。
「っへへ、俺のドリーカドモンは特別製でな、悪魔と合体しようとすると悪魔が自害するんだよ!」
「それが特別なのではなく、貴方が特別なのですがね」
「自慢気に言うことでもないと思うが……大丈夫か?」
「うるせえちょっとは期待してたんだよ今度こそ造魔が生まれるんじゃねえかって!(半ギレ)」
「本庄様……(哀れみ)」
それに上手く行くかどうかも全く分からない賭けだった。結果としてドリーカドモンは元の通りに……何か赤黒くなってない? キモッ(直球)
ともかく! 異界は崩壊し、徐々に現実界に引き戻されつつある。既に懐かしくなりつつある六本木だ。どうやらここを根城にしていたようで繋がっていたらしい。
光景が切り替わる。ファンタジックな世界は夢のように消え、周囲に聳えるのはギラギラと輝くビル群である。悪魔が入り込む隙もなさそうな、実に現実的な光景だ。
故に、三体の悪魔共は渋面を作った。
「ほら見ろよ見ろよ! あいつらレベル80台まで下がって……下がって……うん下がってもバケモンだな!(白目)」
「いえ、流石でした本庄。これならば殺しきれます」
「それマジ? ライドウがバケモンを超えたバケモン過ぎるだろ……」
が、信頼は有り余るほどにある。異界の中でも押してはいたんだ。ライドウ鬼つええ! このまま逆らうやつら全員ブッ殺していこうぜ!(結局人任せ)
「チッ……何なのだあの人間は……。大した運命もないくせにイーノックを連れ、剰え、クソッタレステハゲをどのように悪魔として……あ?」
と、不意にベリアルが何かに気が付いたように俺の顔をジロジロ見つめた。メンチ切るつもりか? おう勘弁!(弱気)
「……あー、そうか。道理でこの世界……あのステハゲも、道化に過ぎぬか……」
「いや最悪ではありますけどね。なんでよりにもよって……まあアリスがハマっている時点で影響力はあるのでしょうが」
「だから何だってお前達は説明をしねえんだ(半ギレ)」
意味深なこと呟くだけ呟いて消えようとしてんじゃねーよ! こっちの不安煽るだけ煽っといて逃げようとするとか悪魔か何か? 悪魔だったわ(再認識)
「……アリス、すまないが」
「しょーがないなー。おじさん達が弱いのが悪いのよ!」
「言い返せませんね……」
「あっ、てめえら!」
分が悪いと踏んだか、三体の悪魔共は消え去ろうとする。ライドウが一気に駆け刀を振るうが、すんでの所で奴等は消えた。
糞が。逃げられちまったぜ(失敗糞土方)
既に異様な雰囲気は霧散している。公園内は何ら変哲のない通常の光景である。だからこそ、俺は「チッ」と舌打ちを一つしてライドウに言った。
「ライドウよぉー。何とか追っかけられねえ? このままじゃ器ちゃんが四六時中お友達に狙われちゃうんだけど」
「アカラナ回廊に逃げられました。尋常の方法では無理ですね」
「なにそれ?」
「あー……あの魔人達、別の世界から来た奴等だったの? 道理でアリスなんて聞いたことがないと思ったよ」
「あいつら異世界転移者だったの? だからチート級に強かったのか……(納得)」
「いや違うけど。アカラナ回廊はアマラ宇宙に存在するボルテクス界を繋げる一種のタイムトンネルであってね……」
「あーはいはい(耳ホジ)」
キョウジのゆっくり解説を聞き流しながら、俺は公園の芝生に腰を下ろした。何にせよクッソ疲れたわ。どうしてこんな事になったんですかね? 責任の所在はどこにあるのだよ。
問い:楽な任務の筈がどうしてこうなった? 答え:魔人のせい。
問い:魔人にどうして目を付けられた? 答え:器ちゃんのせい。
問い:じゃあ器ちゃんがこうなった原因は? 答え:クソ田舎のせい。
問い:じゃあクソ田舎がクソ田舎になった原因は? 答え:ゴミクソキョウジのせい。
「元を辿ればお前が原因じゃねえかボケェ!」
「僕もそこで見た未来が切っ掛けで……っぶげえっ!?」
俺は怒りのままにキョウジを蹴り飛ばした。奴は転々と転がるが、それを追いかけ横っ面をぐりぐりと踏みにじる。何仲間面して紛れ込んでんだオラァン!?
「お前が原因で殺されかけたし、器ちゃんは付け狙われることになったし、何より諏訪さんが無駄に恥をかいたじゃねえか!(責任転嫁)」
「最後のは関係ないだろういい加減にしてくれよ!」
「そうですわよ(半ギレ)。お前のせいで私のヤタガラス生活があーもう滅茶苦茶ですわよ!」
「何時か下手こいて露見するよかマシじゃない?(適当)」
「露見の仕方という物がありますわ! 私の予定ではプロから声優としてスカウトされ、それを断るために仕方なく(大嘘)上層部に報告するという黄金のストーリーが出来ていましたのに!」
「承認欲求が強すぎるだろ……(呆れ)」
諏訪さんのあまりに腐り果てた人間性に呆れていると、不意にライドウが「あの」と妙に気が進まないように言った。
「先程の異界とは違い、印もないので難しいのですが……それ程までに心配ならば、追えない事もないですよ」
「ん? だってのに珍しく嫌そうじゃねえか。悪魔殺せるなら大抵の事は進んでやるだろお前」
「そうですが。そうしなければならないのですが。あまり使いたくはないのです」
ライドウがそう言葉を濁すと同時に、諏訪さんが何やら顔を引き攣らせた。
「えっ、ライドウ様……ま、まさか……!?」
「はい。必殺の霊的国防兵器を使います」
「……阿多様~~? 本当に、本当に申し訳ないのですが~~……ヤタガラスの守護札と積極的殺害依頼で、何とかご納得いただけませんかしら……?」
「えっ……? いやそんな。私はそこまでしていただかなくとも……」
「いや使えるなら使えばいいじゃん(いいじゃん)」
「黙りなさいホモガキ! 死ね!(直球)」
「えぇ……(困惑)」
何を怖がってんだよ。ライドウがぶっ殺してくれるなら万々歳……だけど、諏訪さんの口振りからして、そ……そんなにヤバいのん?
と、そこで靴の下のキョウジが「えっ」と声を上げ、目を見開いた。
「……完成してたの? あれ」
「はい。私が完成させました」
「あっ、えっ? おっ、ああ……(意味不明)」
「何かゆっくりが呻きだしたんですがそれは」
キョウジがSANチェックに失敗したような反応見せるって事は、本気でヤバい代物だな! 器ちゃんには悪いけど永久に封印しておこう!
「……そうですね。それこそ、私がライドウ様ほどに強くなれば良いだけの話です。ふん……何がお友達ですか。今度会ったときは毒蛭観音開きを……」
「あっそうだ(話題逸らし)。おい諏訪さんゥ! 今回の件に関して報告しなきゃいけないんだけど、ク☆関係どうするぅ?」
「えっそれは……」
「もし諏訪さんがぁ、全部請け負ってくれるならぁ、俺は何も言うことはねえんだけどなぁ?(笑)」
「人間の屑ですわねこの野郎……!」
ライドウにバレねえようにこそこそ小声で諏訪さんと罵倒し合う。やったぜ。これで面倒な仕事を完全に押し付けることに成功したぜ!
……しかし後日、ライドウが「諏訪は声優としても活動しているらしいですね」とお偉いさんである諏訪さん(父)の前で言ったことにより、報告の隠蔽と改竄がバレ、二人纏めてしこたま怒られることになったのだった。
そして諏訪さんは泣かれた。父親に。俺もお前の立場だったら死ぬほど恥ずかしいわ(大爆笑)