ネットミーム・デビルサマナー   作:生しょうゆ

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第十二話 マネモブをヒロインにする暴挙

 

 

 

 俺は開口一番にタフ語録を放った器ちゃんに愕然としつつ、しかし同時に渦巻くMAGの濃密さにも戦いた。明らかに俺のレベルを超えているんですがそれは……。

 

「あの……なんすかこの強さ」

「実質的な土地の主……ボス悪魔……あっ(察し)、ふーん(震え声)」

 

 やじゅ美が口から碌な説明にもならないうんこを放り出している間に、それは像を成していく。器ちゃんの背後から立ち上るように現れた化身は、それはもう見事なほどに邪悪な性質を振りまきながら、混沌そのままに顕現した。

 

「来なさい──ニャルラト・ホテプ!」

「う あ あ あ あ あ !?(PC書き文字)」

 

 積雪を吹き飛ばして現れたのは、無貌の顔に王冠を戴き、悍ましき翼を生やした触手の塊である。ニャルラトホテプとか性質としても最悪すぎる生粋の邪神じゃねーか!

 

「素晴らしい! 素晴らしいよ! それは絶対に人が扱えないようなペルソナだ!」

「何だお前!? 急に興奮してキモ……」

「興奮するに決まっている! ペルソナ使いは何人も見てきたが、これは一個人の側面なんてものじゃない。人の混沌そのものだ! カオスの権化だ! ……察するに君、人をやめたね?」

 

 叫び襲うニャルラトホテプに対抗しつつ、キョウジは大笑しながら言った。それを受け、器ちゃんは唇を噛み、一瞬だけ俺を見てから言った。

 

「……その通りです。人を辞めることが私の生きる道でした。壊れかけた身体に一番適した材料は内にある混沌その物。それはお母様であり、代々の巫女達であり、受け継がれてきた呪いであり、この地に死した悪魔と人の肉であり……それら全ての嘆きと憎しみです」

 

 その言葉の通り、器ちゃんの身体からは悍ましい気配が溢れんばかりに満ち満ちている。だが、それらは決して荒れ狂わない。純然たる意思の元に制御され、混沌が一つ形を成して人となっている。

 

 これは最早、悪魔人間なんて生易しいものじゃない。死の気配を巻き散らかし、死の象徴とも呼称される、魔人と呼ばれる悪魔その物だった。

 

「……どうでしょうか、ヤタガラス様。私は、どうでしょうか。ヤタガラス様の目に、私はどう映っていますか」

「なっ……や……!」

「……はい。分かっています」

「やったぜ! タフ語録だけじゃなくまともな言葉も喋れるじゃねえか!」

「えっ」

 

 器ちゃんは下げかけた顔を上げてぽかんと口を開いた。あーマジで安心した。これで[魔人:マネモブ]とかになってたら目も当てられねえからな。

 

「いや、あの……ヤタガラス様? 私、殆ど悪魔になってしまったんですが……」

「んなもん分かってたわ」

「……えっ」

 

 だって内部で混沌が肉に同化してくのを見ていたし。それにどっからどう見ても人間の雰囲気じゃねえ。だが、正直言って前より今の方がマシである。

 

 器の内部で混沌がぐらぐら揺れているよりかは、混沌をその身に宿し、自らの意思で振るえる方が安心だ。溢れる危険性がないしな。逆説的な話だが。

 

「我は汝、汝は我だっけ? ペルソナ使いとしての覚醒が内面の決着にあるのなら、混沌と合一するのも多少はね。復活からの新たな力は王道だな? やっちゃえ! ……えーと、器ちゃん!」

「……ん、もう。そんな風に呼んでいたんですか?」

 

 にへらと安心したように彼女は笑って、しかしふと目を細め唇を結び、再び眼前に手を翳した。振るう指先にはニャルラトホテプの力がある。五指の動きは触手の動きに連動し、キョウジの肉を削り取っていく。

 

「ははは! 素晴らしい力だ。だけど可哀想だね? 犠牲になった君の親族は! 僕が唆したことだけどさ。散々苦しんで、最後には利用されてお仕舞いか!」

「……っ」

「乗るな器ちゃん! 戻れ!」

 

 というかキョウジのクソ(直球)、精神攻撃も加えてくるとか姑息だなゴミ野郎が! しかし器ちゃんは毅然として前を向き、返すように言った。

 

「……ええ、可哀想です。だからこそ、猿空間の主は私に言ったのでしょう。『お前は苦しみも悲しみも全てを背負って生きていかなければならない』『それがお前の宿命であり贖罪や』と」

 

「ははは、宿命だって? 定められた道に何があると言うんだ。それに贖罪? 君にそんな台詞は似合わないよ。混沌そのままに、全てを壊してみせなよ!」

 

「……それが本来なのでしょうね。私はそうなるはずでした。この世の全てを恨み、一切の弱者を切り捨て、混沌の世界を生み出す定めが私にはあるのだと、猿空間の主は言っていました」

 

 しかし、と器ちゃんはこちらを見、唇を結んだ。というかキー坊の奴、俺は殴ったのに器ちゃんにはそんな事を言ってたのかよ。随分態度が違わねえか?

 

「しかし、変わったのです。集合的無意識の狭間が猿空間になってしまったように、運命は歪み、崩れました。故に私は宿命の道を、贖罪を共にして振り切ります。……混沌の世界を望む、救世主(カオスヒーロー)としての道を!」

 

 その声に応えるように、ニャルラトホテプが腕を振るう。どんどんペルソナの力が強まっているぞこれ。流石に奴も驚いたようで、慌ててにやけ面を潜めやがった。

 

 そして器ちゃんは更に決着を付けるように、俺に向け叫んだ。

 

「ヤタガラス様っ! "勝利の呪文"を頼みます!」

「えっ……お、お前のお袋は淫売のクソ女……?」

「しゃあっ! ゴングを鳴らして下さい! 戦闘開始ですっ!」

「えぇ……(困惑)」

 

 こいつ頭タフかよ(ドン引き)。いや実際間違ってねえけどさあ……。

 

 器ちゃんは言葉の勢いそのままに、遂に<メギドラ>やらの魔法も使い始めた。タフって言葉はキー()嬢の為にある(確信)。そして彼女の指先一つ、意思の一つによって、ボボパンとキョウジは再び左腕を切り飛ばされた。

 

「お前トカゲの悪魔人間か? よくよく切れるなあ左腕!」

「言うねえヤタガラス君! 律儀な君の仲魔達のおかげだよっ!」

「ま、多少はね?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 キョウジの言葉に二人はドヤ顔を浮かべるが、次の瞬間、飛んできた<メギドラオン>によってドヤ顔のまま消滅した。えぇ……(思考停止)

 

「召喚──魔神:ヴィシュヌ! 久々だよこれを使ったのも!」

「一神話の最高神持ってくるとかクソゲボのチート野郎が!」

 

 キョウジが懐から取り出した管から現れたのは四本腕の偉丈夫である。顕現するだけで馬鹿みたいな圧を発するそいつを前にして、俺は一瞬全てを諦めた。追加でこんな悪魔出されたら勝てるわけないじゃんアゼルバイジャン。

 

 だが、待て。ふと気が付く。妙だな……千円札で煙草一個を買うことよりも妙だ。

 

 顕現したヴィシュヌは見るからに不満そうに佇んでいた。そりゃそうだ。ヴィシュヌって属性:Lawだし。だが、属性の違いを力で無理矢理押し伏せて使役することは出来る。俺はそうする前に悪魔が消え去るけど(半ギレ)

 

 しかし問題は、ヴィシュヌが高位の悪魔だと言うことだ。このクラスの悪魔を無理矢理従えるにはそれなりに力を割く必要があるだろう。それこそ、一人で戦った方が楽なくらいに。

 

 だから、そう。この考えが正しければ……もしかして、もしかするかもしれませんよ?

 

「や、ヤタガラス様……なんですかあの悪魔は……!」

「つーか今更だけどさ、これ絶対依頼の難易度間違ってるだろ。こんなんライドウが解決してくれよな~~」

「あーっ何言っているのか分かりませんよヤタガラス様!」

「ま、まあ大丈夫だって安心しろよ。……あいつ多分、逃げるつもりだからさ」

「なにっ」

 

 俺の言葉にキョウジは笑みを僅かに強ばらせた。色々言った癖に逃げの一手とか姑息だな?

 

「無理矢理従えている高位悪魔なんて、戦闘中に隙突いて裏切られるに決まってるからな。てめえ初手で決めるつもりだったんだろ? 野獣とイーノックが盾になったのが災いしたな。お前はもう逃げるしかねえよ」

「言うねぇ……その二体が盾になったのも位置的な偶然だというのに」

「へえ、そう言うのか。お前がおめおめ逃げ帰る理由は偶然だって? 精々ガイアの糞共にヘラヘラ顔で誤魔化してな」

「……君ねえ」

 

 そう、奴は逃げるつもりだった。恐らく最善は一撃で決すること。だがその最善は野獣とイーノックを犠牲に潰えた。

 

 ならば次善手はヴィシュヌを足止めに逃走することだ。共闘はあり得ない。制御に力を割けば動きが悪くなるだろうし、制御を放り出せばヴィシュヌが自分の首を狙う。

 

 だからこそ、俺はこいつを挑発する必要がある。見えている地雷を踏ませるほどに怒らせて、この場でぶっ殺すためにな。

 

「おうどうだヴィシュヌ? お前、このクソと一緒に仲良く戦うつもりがあるか?」

「……人間の分際で、我を何十年も封じ込めるとは。碌に外にも出さず、終いには置き忘れられる事もしばしば……!」

「捕獲されてボックスに放置されてる伝説ポケモンみてえだなお前な」

 

 苦渋の顔を浮かべるヴィシュヌとは話が出来そうである。交渉次第では無駄に戦闘を長引かせ、キョウジをMAG切れにも持ち込めるだろう。

 

「どうだ? これで趨勢は決したぜ。さあ逃げろよ。逃がしてやるよ。泣いて逃げ帰れよ葛葉キョウジ」

「……別に、力で従えて君たちを殺せば良いだけのことだ。逃げるだって? 君の勝手な希望的観測だろう」

「それじゃあ何でヴィシュヌを召喚したんだよ。力で押さえ付けて無理矢理戦わせるのとお前一人で戦うの、どっちが楽だ? 確実に後者だろうが。恥ずかしい言い訳だな。何十年も生きて脳味噌が腐ったか? 痴呆老人め」

「ふふふ……酷い言いようですね。まあ事実だからしょうがないですが」

 

 器ちゃん、さっきから笑みが怖いぜ! キャラ変わった? それとその定型はあまり使わない方が良いぞ! というか猿語録も淫夢語録も人に対して使わない方が良いぞ!(おまいう)

 

 キョウジは左腕からだらだらと血を流したまま黙っている。プライドが傷付いちゃったかな? だがこれもお前の大好きな弱肉強食だろ? 笑って襲いかかってこねえのかよ。そうなりゃ器ちゃんとヴィシュヌが殺してくれるのによ(自分で煽って他人任せにする人間の屑)

 

「ああいや、ひょっとしてお前……ガイアじゃないのかな? そりゃ納得だ。田舎者の一族に関与してその始末に大人数連れてくるし、用意周到、準備をしっかりとしているもんな。ガイアと言うよりもメシアの奴等……いやもっと似ているのがあったな」

「……何が言いたいんだい、ヤタガラス君」

「性根が抜けてねえんだよ、()()()()()()

「──殺す」

 

 その言葉と同時にキョウジが突っ込んでくる。しかし直ちにニャルラトホテプが腕を振り、食い止めると同時に<メギドラ>を連続して放つ。その背後から首を狙うはヴィシュヌである。我を忘れて制御を手放しやがったぜ!

 

「ざまあねえな! それがお前の弱点か? これからはアナライズ結果に書いとけよ。『僕はお話が苦手です』って!」

「口ばかり達者な若造が! 強者の背に隠れ囀ることしか出来ぬ雑魚め!」

「その雑魚にマジになってるお前(嘲笑)。ヴィシュヌ! 破魔と呪殺は使うなよ。こいつは耐性装備を持っている」

「積年の恨みここで果たし、素首を贄に現世へ顕現してやるぞ!」

「それはそれで困る(本音)」

 

 器ちゃんがにいっと笑みを浮かべ、「人生の悲哀を感じますね」とニャルラトホテプで鳩尾に拳を入れる。辛くもキョウジは腕で受け止めるも、その隙にヴィシュヌは四つの腕で連続して拳を放ち、人体の各部にダメージを負うことになった。

 

 そんな激闘の後ろから、俺は小賢しくパァニパァニと銃弾を放つ。仕事をしている振りかな? ま、まあこれも後に向けての布石だから……。

 

「ごー、よん、さん……あれ? あと何発だっけ?(すっとぼけ)」

「チッ……無駄だよ! たかが銃弾がこの身体に……!」

「しゃあっ! 禁断の<メギド・ラオン>"二度打ち"!」

「ぐううっ……!? さ、流石だ……っ!」

「怪物を超えた怪物って感じだぁ……」

 

 万能魔法連続して打ち込めるとかそりゃ普通の人間には無理だわ。キョウジも流石に頭を冷やしたようで、足先の使い方が慎重になっている。やはり逃げるつもりか。お前逃走経路をチラチラ見てただろ。

 

 だが逃がすかよ。何が弱肉強食だ下らねえ。弱者を食い物にしているだけじゃねえか。お前みたいな奴がいるから俺が忙しくなるんだぞ(半ギレ)

 

「だから、後々を考えても管を狙う必要があったんですね」

「なっ……!?」

 

 双方からの攻撃をポン刀で防ぎきった後、急に身体を翻して山野に逃れようとしたキョウジの懐、緑色に淡く輝く管を俺は狙い撃った。流石、衝撃に強い。銃弾を受けても傷付かず、しかしからりと地に落ちる。

 

 布石だっつってんだろ。残弾残り八発で遊んでいるように見えたのか?

 

「野獣とイーノックが残してくれた機だ。逃すわけねえだろうが」

 

 俺の呟きに器ちゃんは目を見開いてにかあっと笑い、しかし直ちにキョウジへ向け「なめるなっオスブタァッ!」と叫んだ。さっきから口が汚すぎない?

 

「逃げるつもりですかっ! 許さない……! 一つだけ言いたい事があるんです。貴方はクソですよ!」

「おお退魔師! 我が封じられし管を! 素晴らしいぞ!」

「君、君が、君だけは! 許してなるものか! 雑魚の癖に猪口才な!」

「何時まで上から目線を続けてんだよボケ。お前の底はもう割れてんだよ」

 

 憎しみの顔で俺を睨んだキョウジだったが、足を止めたのは不味かったな?

 

「貴様ーッ! ヤタガラス様を愚弄する気ですかぁっ!」

「今こそ好機! 首を晒せ!」

 

 一瞬の隙に距離を詰めたニャルラトホテプは、見事に奴の心臓を貫いた。その上からヴィシュヌが四つの手刀を首に浴びせ、断ち切った。

 

「ぐっ……が、あ……!」

 

 ごとりと首が地面に転がる。まだ生きていやがる。ぱくぱくと口を開いて憎悪の瞳で俺を睨みやがる。

 

「上手く行きすぎたわ。お前煽り耐性なさスギィ! 最初っから逃げとけば良かったのにな?」

「……ははは。そうだね。負けた、負けたよ。でも君に負けたんじゃない。君は何もしていない。混沌の巫女と、他ならぬ僕の悪魔に負けたんだ」

「そうだよ(肯定)。だからそんなに睨むなよ。俺は何もしていないんだろう? だから睨む必要なんてない筈だよな?」

「……分かってはいるんだよ。でもね、僕の性根が君を認めるわけにはいかないんだ。弱者の癖に、他人に頼って戦果を掠め取るような……があっ!?」

 

 キョウジがぶつくさ言っているところへ、急に器ちゃんが蹴りを飛ばした。生首がサッカーボールみたいにごろごろ転がる。そんなばっちい物に触っちゃいけませんよ!

 

「怒らないで下さいね。そんな状態でまだ物を言うとか馬鹿みたいじゃないですか」

「君は……素晴らしいね。まさしくガイアの体現者だよ。君に殺されるなら悪くないけど……」

「あーっ何言っているのか分かりませんよ。貴方は私ではなくこの人に負けたんです。無様な晒し首ですね。忌憚のない意見というものです」

 

 すっげえ怒ってる。怖いぜ。その間に俺は「ではな、退魔師よ。恩故に見逃してやろう」とか言っているヴィシュヌを無視して管に戻す。管の手解きを無理矢理教えてきたゲイリンのジジイ、また役に立ったな!

 

「ぬわあああああああん疲れたもおおおおおん!!! でもこれで全部終わり! 平定! 帰ってオナニーでもするか」

 

「面白いことを言いますねこの蛆虫は」とか言いながらゲシゲシと生首を蹴りまくっている器ちゃんは、正直どうしよ……って感じであるが。

 

 いや本当にどうしようこんなの(直球)。混沌の魔人にしてニャルラトホテプのペルソナ使いとかヤバすぎるわ。ヤタガラスも対処に困るゾ。第一、謀反人の娘だからなぁ……。

 

「まま、ええわ。ゲイリンのジジイに放り投げときゃなんとかなるでしょ(適当)」

 

 つーわけでそろそろ事件を解決しなきゃ(使命感)。ぶっちゃけ今までの全部寄り道みたいなもんだからな。

 

「儀式の中心にほらいくどー」

「えっ、どちらに行かれるんですか? ヤタガラス様? あのう……」

「僕の頭を蹴りながら移動するのやめてくれない?」

「舐めないで下さいよ! こら!」

 

 ゴッ!ゴッ! とキョウジの首を蹴りながら器ちゃんが付いてくる。歩む先は阿多の本邸である。異界化が収まったとはいえ、まだ儀式は解決しちゃいないのだ。

 

 俺達は阿多の奴等が一堂に会していた部屋に辿り着いた。クソジジイ共はまだ昏倒してやがるが、阿多のジジイの姿がない。血溜まりを残したまま移動の後が床の間に続き、そこで途切れている。

 

「隠し扉とは王道じゃねえか。おっ、掛け軸の裏が開いてんじゃ~~ん!」

「こんな所に……」

 

 掛け軸を捲った先には地下へと繋がる階段があった。降りていけば広い部屋、それも見るからに邪悪な雰囲気を振りまいている部屋が待ち構えていた。

 

 何せそこら中にミイラが転がってるんだもの。巫女服を着た何体ものミイラ達が、手を合わせた姿勢のまま干からびていやがる。それらが向かう先に阿多のジジイは居やがった。

 

「[天津神:ウミサチヒコ Lv36]……普通だな! 察するに胸から生えてる釣り針が『サチチ』って奴? まだ完全には祓えてねえじゃんそれ」

「ひ、ひぃっ……! な、何なんだ。何が起こったと言うんだ! く、葛葉キョウジ……!? 生首になって!? そ、それに、お前、何だその悍ましき様は!」

「……お父様ではないですか」

 

 器ちゃんは呆れたように異形と化した人型物体を見つめた。そりゃ呆れるわ。思いっきり儀式が失敗してんのに、まだ諦め悪く神具を胸に埋め込んで悪魔に成り果てやがったんだからな。

 

「実際それ、呪いを完全に祓ったとしても、ヤタガラスに刃向かえるほどなんかな? 今の状態の器ちゃんの方が圧倒的に強いと思うんだけど」

 

「権能の問題だよ。山幸彦は豊玉姫を娶ることで海と山、常世と現世の両方を支配するに至った。まあ豊玉姫の正体は異形で一種の異類婚姻譚ではあるんだけど、そう考えれば海幸彦は人の域に在りながら異界への支配権を持つ異才を持っていたことになる。だからこそ海幸彦が力を振るえないよう、鉤に呪いが掛けられたんだけど……ごべっ!?」

 

「生首が喋るのはルールで禁止ですよね」

 

 器ちゃんがキョウジを蹴り上げ、阿多のジジイにシュートした。ジジイは震えっぱなしでモロに受けやがった。無様(笑)

 

「ぼ、僕は経緯を説明してるだけだよ。呪いを祓えば権能は戻る。尊き血統に与えられた海の権能がね。だからこそ阿多隼人の血族は代々守り通していたんだろう。臥薪嘗胆の象徴としてもね。実際、それは海という常世を支配する神具であり、退魔組織たるヤタガラスに対しての……」

 

「儂は、こ、こいつに騙されただけだ! 先代も、先々代も騙されたのだ! ヤタガラスに対する強力なカウンターになると、こいつは我々に器を作り上げることを提案し……」

 

「そうですか」

 

 器ちゃんは溜息を吐きながらジジイに近づいて行き、ぬっと腕を伸ばして胸を貫いた。「がっ」と苦悶の声を指先に残し、抜き取って血濡れた手には光り輝く針がある。彼女はそれをつまらなそうに見つめていた。

 

「お父様は頭が悪く、力もなく、それでいて欲望だけは溢れているものだから、こんなものに縋ることでしか自尊心を満たせなかったんですね。……これっぽっちも可哀想だとは思いませんよ」

「ひっ」

 

 器ちゃんは針を指先に弄び、霊格がごっそりと削れたジジイをじろりと睨み付けた。

 

 ……話が長くなりそうだし、こっちはこっちでそろそろやるか。

 

「ぬわあああああん! シャツがもう、ビショビショだよ……」

「……あの、ヤタガラス様? 何をなさっているのですか」

「え、言ってなかったっけ? 俺ここの龍脈の流れを正常化するためにやって来たんだけど」

「聞いていませんが……いや何を始めているんですか? 何で、あの、服を脱いでいるんですか」

 

 龍脈の流れがおかしかったのは、部屋の中を見れば大体見当がついた。儀式の中心はこの部屋であり、実行される儀式とは悪魔召喚のそれである。まあ純粋に召喚するわけではないんだろうが。

 

 今までの情報を整理してみれば、段々と分かってくる。恐らく阿多のクソジジイは、単に呪いを祓う以上に、復活した針で神にでもなろうとしたんだろう。

 

 発想の切っ掛けは恐らく、生体悪魔合体プログラムと化した先の巫女、もとい淫売のクソ女だ。あれで力にでも魅入られやがったか、悪魔人間という兵器を量産すると同時に、大本命である自分の悪魔化を狙っていやがった。

 

 そのために必要なのは贄と場所と器である。器はまさしく器ちゃん。贄は溜め込まれた呪いをそのまま転用するとして、場所となって困ったのだろうな。高レベルの悪魔となるには、流石にセックスの一発だけじゃ不釣り合いだ。そのために村全体を異界化させて、儀式が成功しやすい下地作りを企んだ。

 

「つまりこのジジイ、自分の娘とよろしくやるつもりだったって事か。キモッ……」

「こんなものを復活させるために……いえ、ヤタガラスでしたっけ。それに反抗するために? たかが村の名士風情が随分と夢を見ましたね。傍迷惑にも程があります」

「じゃけん仕組みは見えたんで踊りましょうね~~」

「ヤタガラス様は変なお薬でもなさっているのですか?」

 

 何だか器ちゃんが滅茶苦茶失礼なことを言ってくるが、何が変だってんだよ、おう。ちょっと白目剥いて尻叩きながらジャンプしてるだけでしょ?

 

「びっくりするほどユートピア! びっくりするほどユートピア!」

「……変なお薬をなさっているようですね」

「いやこれマジ話、この程度の邪悪な気配はこれで何とかなんのよ」

「……えっ」

 

 本格的な地鎮は後々ヤタガラスの専門業者に任せるとして、この土地に行き渡った悪い物達を祓うには十分だ。別に悪魔が出現しているわけでもねえしな。一度異界化したことでMAGは随分薄れた。

 

「俺もさっ、最初はっ、術式とか組むの面倒臭くてっ、よっ、冗談交じりにやったんだけどっ、これが中々通りが良くてさっ、びっくりするほどユートピア! 多分明るい変態行為が祭事として認識されてると思うんだけどそこんところどう?」

「君の属性が変だから、行為も相まって滅茶苦茶に場が乱れて霧散してるだけじゃない? ずっと思っていたけどなんだい、その妙な性質は」

「ジュセに聞いてくれ。まあそんなわけで、俺も最初は恥ずかしかったけど慣れると中々爽快感があってさあ……」

「……ヤタガラス様って人は結構おかしい人なのですね」

 

 はあ、と器ちゃんは溜息を吐き、ガキみたいに頭を抱えて震えているジジイを見つめた。そうして指先の針を摘まみ上げた。

 

「……どうしましょうか、これ。最早無用の品物ですし、放っておくのも問題がありそうです」

「取り込めば良いんじゃない?(適当) 海の権能とか強そうじゃん(小並感)」

「……良いんですか?」

「どうせ持ち帰っても封印されるか壊されるだけでしょ。戦利品は一つでもあった方が得だからな」

 

 どうせ器ちゃんがクソ面倒な存在なのは変わりないし、こうなりゃヤケだ! 面倒な物全部一纏めにしたる!

 

 その方が、謀反人の娘という立場を霞ませるだろうしな。

 

 器ちゃんは俺をじっと見つめ、そうですか、と一つ呟き、針を呑み込んだ。神具は混沌の中に呑み込まれ、勝手な因縁も宿命も全てを無為にし、彼女の内に力を宿した。

 

「……これで、この村の全てが荼毘に付したのですね」

「まだ終わってねえぞ! キョウジの始末に、阿多のジジイの始末に、地鎮の舞の取り仕切り、ダークサマナー共への尋問、村の連中への尋問、ヤタガラスへの説明、資料作成、プレゼン準備……やることが多過ぎィ! 死ぬ(半ギレ)」

 

 あと交通費も申請しなきゃだし、回復薬と銃弾の支給に関しても申請しなきゃだし、反魂香は別途で申請しなきゃ……。サポートは手厚いけど、その分書かなきゃいけない書類が多すぎる(白目)

 

「だから、針を飲んでくれてありがとナス! これで面倒な資料作成が一つ減ったゾ~~」

「私、ヤタガラス様の正体に心当たりがあるんです。……っふふ、割と人間の屑ですね」

 

「それでも」と器ちゃんは俺を見つめて言った。

 

「それでも……私にとっては、最高に格好良かったですよ。忌憚のない、素直な……っえへへ、感想というものです」

 

 そう言って器ちゃんは笑った。まあ色々あったけど、良いんじゃない? 結末はハッピーハッピーやんケ。

 

 

 

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