「その前に」
と、俺はジジイに杵を突き付けた。ずしりと重い先端部には、重さ以上に圧力が宿っている。
「状況が変わった。もうお前が何を企んでいようがどうでも良くなった。企てた儀式とやらはより詳しい奴等によって利用されるだろう。話はそっちに聞く。だから用済みだ。邪魔立てする前に今ここで死ね」
「待っ、話す! 儂の計画と、先祖代々から続く……」
「さあ、行こうぜ」
パァン! と景気よくジジイの頭を潰して、唖然とする器ちゃんを無視しながら、外に出るとすげーMAG。そして雪。晴れていたのに急に降ってきやがって、明らかに意図して引き起こされている。
俺は溜め息を吐く代わりに思い切り息を吸った。そして、愚痴る代わりに思い切り叫んだ。
「あああああああもうやだああああああ!!!」
「えぇ……(困惑)。さっきまでのシリアスはどこに行ったんですかね……?」
野獣が呆れたように言ってくるが、知らねーよ、そんなの! こっちはもう最悪な気分なんだよ!
「何でこんなことになってんだよお前よお! 勘違い地方名家(笑)を分からせる簡単な仕事の筈じゃねえのかよ! なんであんなクソみたいな巫女がいてクソみたいなダークサマナー共が出張ってくんだよ! ヤタガラスの調査不足じゃねえかこの無能が死ね!」
「なそ
にん」
「あーやだやだ! あんなのが生まれた背景を考えるだけで胸くそ悪いわ死ね! あんなのを使って何か企む奴等も死ね! あのジジイも殺せた気がしねえしよぉ……」
というか既に事を起こし掛けていた以上、ぜってぇ何らかのセーフティかけてやがるわ。それこそ儀式の成果によって土地の主になる可能性さえある。
「じゃあ、あれっすかぁ? やっぱ(憂さ晴らしが)好きなんすねぇ~~」
「そうでもあるがぁ! あんなのが居たら器が壊れる速度が速くなるだろ。傍目にもクソみたいな教育(意味深)受けてそうだったしな」
「あっ、じゃあ淫夢くんみたいなクソザコナメクジの本音を出さなかったのは」
「そんなことしたら器が動揺しちゃうだろ!」
ただでさえテメエのせいで世界が滅茶苦茶になるって言ってるようなもんなんだぞ。これ以上負荷を掛けたらお心が壊れるわ(はんなり)
「お前さサマナーさ、意外とあの巫女のこと考えてんじゃんアゼルバイジャン。これはメシアの誕生かぁ?」
「お前は常に人にとって最良の未来を思い、自由に選択していけ」
「えー、そんなんじゃねえよ。だってあれが壊れたら死ぬじゃん俺。一人の精神状態が世界の崩壊に繋がるとかシンジ君かなにか?」
「それを言うならセカイ系ヒロインだルルルォ!? 念願のヒロインだゾ。中身(直球)はともかく、見た目はソープのナンバーワン嬢間違いなし、って感じだしな!」
「それ褒めてんの?」
珍しく人を慮る事をしたからか、イーノックはドヤ顔を決めて満足そうに頷いているし、やけに野獣が弄ってくる。というか人助け自体は何時もしてるだろうが。大体集団で危機に遭っているから、銃と悪魔で脅しつけるのが一番効果的なだけで(人間の屑)
「てか、ヒロイン、ヒロインねぇ……。いやー、キツいでしょ」
「嘘つけ絶対見てたゾ。照れ隠しとか、お前もしかして、あいつの事が好きなのか?(青春)」
「だってあれ絶対非処女じゃん(エロゲ脳)」
「お、おう……(軽く引き)」
巫女(意味深)とか、儀式(意味深)とか……更に言えば、田舎(意味深)、因習(意味深)、一族(意味深)、伝統(意味深)……全部に(意味深)って付けられるほど後ろ暗いじゃねーか(エロゲ脳)。俺の童貞をそんな腐れマンコに捧げて良いと思ってんのか!
「初対面のメスガキ相手にそこまで言えるとか、お前凄えな(ドン引き)」
「そうか? 理想が高いと言ってくれ」
「だって本人がそこに居るのにな」
「そう……何だって?」
野獣の言葉に思わず振り返っちゃっ……たぁ!
「…………ヤタガラス、様」
「ひえっ」
そこには柱に隠れるようにして、こちらを見つめている器ちゃんことシンジ君こと巫女ちゃんこと……本名知らねえ! とにかく彼女はおっそろしい顔で俺を見つめていた。
ま、前髪が顔にかかって日本人形みたいで怖、可愛いね! 降りしきる雪の中に黒一点、ホラー映画……じゃなく芸術的だなお前な!?
「喉渇か……喉渇かない?」
「あいつは最初から言うことを聞かなかった。私の言うとおりにしていればな」
知らぬ振りを決め込んでいるこいつらはともかく、ヤベぇこれ! 今すぐ刺してくるか自殺する五秒前って感じだ。フォローしなきゃ!
「お、俺、Fateだと桜が一番好きだから……」
「フォローになってないんですがそれは」
「まあ……良い奴だったよ」
「桜って誰ですか」
「ひえっ」
な、なんでこんなに冷や汗かかなきゃいけないんですかね? そりゃあ陰口叩いたのは悪かったよ。それに精神状態をまもるっ! と言った癖に非処女云々論うとかどの口野郎って感じだよ。
いや、やっぱコイツ人間の屑だわ。死んだ方が良いんじゃない?(自己批判をするアカの鑑)
「いや、本当に悪かった。許して下さい! 何でも……」
「
「……はい?」
「ヤタガラス様の言うそれは、お母様でした。私が産まれるための礎でした。自らが怪物になるのを恐れ、私を親殺しにした母でした」
……スゥーーーーッ……フゥーーーーーーッ…………。
「穢れを祓う巫女の胎には、人を魔性に変える力があると、畜生共は笑っていました。
あれが本妻であるのは、海幸彦が豊玉姫を妻として迎える儀式のため。次の器を残してしまえば、後は男共の穴ぼこだと、妾共は笑っていました。
私達の生には笑いが付き纏っていました。視線が付き纏っていました。悍ましき欲求が纏わり付いていました。
だからお母様を殺したのです。私達を組み伏せたその頭上で、あんな者共が神を気取るなど、苦しくて苦しくて仕方がないと、そう言われてしまったのですから」
「お前重いんだよ!(ドン引き)」
あああああああもうやだああああああ!!! 帰して! お家に帰して! もうおうちにかえりゅううううううう!
「──私にとってはつい昨日の出来事だが……君達にとっては多分、明日の出来事だ」
「うるせえイーノック! 意味不明な戯言はよせって……っ!?」
その時、遠くで家屋が崩れる音が聞こえ、肉を切り骨を砕く音が聞こえた。それと同時にわらわらと異形の姿が、田舎者の服を着て入ってくる。
遠くの音はダークサマナーの襲撃だとしても、何だこいつらは。ここの村民か? だとしても何故こんな姿に?
「何だお前ら!?(驚愕)」
「お前こそ誰じゃ! それより本家様は何故にっ! 儂らは神の子になると! 何だこの姿は!?」
「うるせえ知ったこっちゃねえ!」
アナライズ! [悪魔人間:オトシゴ Lv8 弱点:物理 破魔]!
「雑魚が! 破魔弾をくらえ~~!」
「神は言っている、全てを救えと」
破魔弾とハマオンが、異形の村人共を消し飛ばす。しかし『残り』が蠢いている。黒色の肉塊が、濁り腐った海の匂いを辺りに振りまいて、尚も「どうして」と叫んでいる。
最早人ではない。しかし、悪魔とも言い切れない。何せハマが効いているのに消し飛ばすまでには至らない。考えられるのは先天的、或いは後天的に悪魔と混じった人間か。
「うわぁ……こいつらはインスマスの住民だった……?」
「神聖なる儀式であると、お母様を組み伏せたのは貴方達でしょうに。魔性の力に魅入られ、乳房さえ薬と称し、噛み千切って飲み干したのは、他ならぬ貴方達でしょうに」
「お前重いんだよ!(半ギレ)」
いや、いや。落ち着け。断片的な情報から考察するに、この村は代々厄払いの巫女を生産し続け、家宝たる『サチチ』とやらの呪いをその身に請けていたのだろう。その呪いは親から子へと引き継がれ、生まれながらに業を抱えた器が誕生する。
抱えに抱えた宿業は、孕んだ子供に引き継がれるとしても、その残滓と器としての機能は母体に残る。それは村にとっては都合の良い、使い捨てにされた女体であり……。
いや、本当に都合が良かったのか。性欲発散の意味と、もう一つ。
母胎に残された器としての機能。邪悪なるMAGはあくまで残滓。性交とは生命を生み出す儀式である。
贄と器と儀式が揃えば、簡単に人の域を超える力、悪魔人間が誕生する!
「あんのクソ田舎者のジジイ、最初っから兵隊作りを画策していやがったか!」
「生体悪魔人間プログラムとはたまげたなぁ……」
そんな事を言っている間にも、外の戦闘音は激しさを増していき、逃げ帰ってくる悪魔の数が増していく。降雪は勢いを増し、殆ど吹雪いているような物だ。
今更ながらに察する。この雪は内部に混沌を押し留めようとする術式の表れだ。空に大地に散り行くMAGを再び降らせんとする意志の現れだ。つまり召喚なり何なりしでかす気満々じゃねーか!
状況はクソだよクソ! ダークサマナーは儀式の中心であるこ↑こ↓を狙ってるってのに、次々と敗残兵たるクソ悪魔どもがやってくる。本当なら結界の一つでも張りたいってのに、こんなんじゃタワーディフェンスになんないよ(半ギレ)
「本当に使えねえなお前らな! 戦うんだったら最後まで戦えよ。逃げるんだったら最初から逃げろよ。ちょっと戦って諦めて逃げてくんじゃねーよ!」
「何じゃお前はっ! あんな奴等など話に聞いてないわ! 巫女様も何をやっておるんじゃ! お前も母親と同じく村のため、あの悪魔使い共に股開いてでも」
「黙れ(ドン太郎)」
「あ……ヤタガラス様……」
パァン! と脳天に弾ぶち込んで黙らせる。止めろって本当に! 器ちゃん今はガンギマリの目をしてっけど、それ自棄になってるだけだってはっきりわかんだね!?
顔真っ青だし、嘔吐いてるし、どす黒いMAG撒き散らしてるし、何かが産まれそう(直球)。もう無理無理! 器壊れちゃ~~う!
外の敵はダークサマナーと悪魔人間の二重で、守る拠点がそもそもの原因で制圧も不十分で、器ちゃんとかいう爆弾も抱えてるとか、なんだこのクソゲー!?(驚愕)
「ヤタガラス様……っ、お逃げ下さい」
「ヤベぇ! 遂にダークサマナーの悪魔が来やがった! ありゃ妖鬼に、それと堕天使に邪龍に悪霊に……随分国際色豊かだなお前な!」
「数が多いっすね……。サマナーだけでも十数人って所っすかぁ?」
「大丈夫だ、問題ない」
「言ってくれるねえイーノック! おいジュセ、デバフの準備しろ!」
「おかのした!」
「お逃げ下さい! ヤタガラス様!」
あっ、やべっ。戦闘に夢中で放っておいちゃった。で、逃げろって?
「いや、お前が逃げろよ(本音)。こんな前線じゃなくて奥に閉じこもっててくれよな~~頼むよ~~」
「……私は儀式の贄になろうとしています。他ならぬ私が望んでいるのです。死んでしまえと、滅んでしまえと。畜生共尽く灰燼に帰し、自らもまた……」
「浸りすぎーー!」
「えっ……」
野獣の<セクシーダンス>(オエッ!)で魅了した田舎者の悪魔人間共を肉盾にしつつ、その上から纏めて<ハマオン>と<マハラクンダ>と属性弾を放つ中、そんな内心の事情とか聞いてられっか!
「だから中に入ってろっつってんだよ! どうせ俺と(ここ人間の屑)クソ農民のお口からの排泄物に動揺したとかそんなんだルルルォ!? お前に死んで貰っちゃこっちも死ぬんだよ!」
「で、ですから、そうなる前に、関係のない貴方だけでも……!」
「良いから落ち着け! もちつけ! ……あっ、そうだ(唐突)。餅つくぞお前らぁ!」
「えっ…………えっ?(二度見)」
俺の声に野獣が「お前正気かよぉ!?」と言いながらCOMPから臼と杵を召喚する。「大丈夫だ、問題ない」とイーノックが、炊いておいた施餓鬼米を臼にぶち込み、俺は杵を持ち上げた。
「男は黙って!」
「大丈夫だ、問題ない」
「男は黙って!」
「一番良いのを頼む」
イーノックに返し手を任せつつ、勢いよくぺったんぺったん搗いていく。(餅が)アツゥイ! (身体が)サムゥイ! しかし俺がぜえぜえと白い息を吐き出す頃には、綺麗に餅が完成していた。
「これで聖餅(和風)の完成じゃオラァ!」
器ちゃんが呆気に取られた顔でこっちを見ているが、別に突然餅つきたくなったわけじゃねえよ。これにはちゃんとした意味があるんだ。
「お前、醤油? きなこ? 餡子? 悪いけどこしあんしかねえぞ」
「大丈夫だ、問題ない」
「イーノックは素のまま派か。珍しいな……」
「一番良い」
「やっぱり僕は、王道を往く……醤油ですねぇ!」
「お前は食うな」
「えぇ……酷くなぁい?」
「……で、何が良い? ひょっとして粒あん過激派か何か?」
器ちゃんはさっきから口をぽかんと開けて黙っている。よし、じゃあ(口に餅を)ぶち込んでやるぜ!
「えっ、わっ……あつっ……」
「美味いか? 美味いだろ? 美味いと言ってくれよな」
「……美味しい、です」
「ヨシッ!」
野獣が「呑気は調教が大変だぁ」などと言ってくるが、別に呑気をやっているわけじゃない。これでもマジに焦っているのだ。だからぶっちゃけ成功するか怪しい物を試さなきゃならなかった。
「……あれ、あの、悪魔は」
「餅つきで死んだよ」
「……えっ」
そうとも、門前には消滅しかけの悪魔共が伏しており、その後方ではダークサマナー共が歯噛みしている。こちらを睨み付けるしかないってどんな気持ち? ねえどんな気持ち?
「葛葉の神具に、ヤタガラスの施餓鬼米。メタトロンに至る神気を共にして祭事を行えば、容易に邪悪が侵入できぬ結界となる。……この村の外観を思い出してよ。儀式が場を変質させるのなら、同じ事が出来んじゃねえかってな」
「餅つきだけで結界を敷けるとか、何だその杵(驚愕)!? ……それと、俺の餅は?」
「お前に食わせたら消し飛ぶゾ、純粋な破魔属性だからな。それでも良いか?」
「(よく)ないです」
それと、理由はそれだけじゃない。俺は餅を頬張る器ちゃんを見つめた。
「お、美味しい、です。本当に……」
「そんな量で大丈夫か?」
「あ、は、はい。ではもう一つ。……ありがとうございます。あの、悪魔さんも、ヤタガラス様も。……こんな私に」
「じゃあ非処女云々も許してくれよな!」
「……それは……嫌かも、です」
「そうか? まま、ええわ」
「……良いんですか? 許さなくて」
「良いんだよ別に。悪いのは完全に俺だしな」
「……そんなこと、初めて言われました」
うへえ。この会話だけでクソジジイ共の糞っぷりが窺えるような気がする。しかし、言い返せるようになったってだけで良い方向に働いているな。
……血色が良くなっている。碌に食っていなかったのか、遠慮がちだったのも忘れて醤油に餡子にきなこにと、イーノックの手作り餅に次々手を伸ばしている。その咀嚼の度に陰気が薄れていく。狙いは上手くいったか。
「……悪しき物を食らい取り込めば悪しきに変ずる。クソ農民共の逆だぜ。良き物を食らい飲み込んで、壊れかけていた器を安定させる。勿論、元来の器の強さを前提にした上でのことだが」
その点で言えば心配は要らない。何せ目の前の巫女は、神の呪いを完全に祓うことを目的に製造され、完成した器なのだから。その頑丈さは折り紙付きだ。皮肉にもな。
だが、『美味い』と言ってくれて良かった。これで不味いとか言ってたら、それはもう中身が完全に祓われるべき災厄に飲み込まれていると言うことで、始末を付ける必要があったからな。
「じゃあこの餅は接着剤代わりかよぉ! 花瓶割っちゃった小学生かな?」
「後でちゃんと業者に直して貰うさ」
「……私を殺さないんですか?」
「殺さねえっつってんだろボケ!」
「ボケって……私を慮りながら……?」
器ちゃんは何故か不思議そうにそう言うと、じっと掌の餅を見つめた。更にクソ農民の残骸とクソダークサマナー共に目をやって、何やら納得したように頷いた。
「……ああ、ヤタガラス様って……あは、単に性根と性格と品性と口が悪いだけで、良い人なのですね」
「それ誉めてんの? 貶してんの?」
変な笑い方をする器ちゃんに軽く引きながらも、そう、終わりは見えていた。
澱んだ空気は薄れている。雪の勢いもまた弱くなっている。風はなく、ただしんしんと降り積もるのみ。
儀式の中心は推定器ちゃんだ。ダークサマナーが起こした異界化は、その外縁部から起こした一つの大きな衝撃に過ぎない。大元を安定させてしまえば、異界化も正常に修正されていく。
「後は、このクソダークサマナー共をぶっ殺すだけだな」
俺は臼から杵を持ち上げ、雪景色を睨むように眼前へ構えた。
死んで堪るか。俺が死ぬ前に、死ぬ原因の全てを殺してやるよ。
「……杵の先っちょに餅付いてるし、得物がそれとか格好つかなスギィ!」
「うるせぇ!」
杵の先にはぷらぷらと餅が垂れており、とても美味しそうだった(小学生並みの感想)