「おいクソども、仕事じゃボケ」
『何か態度が冷たい……冷たくない?』
『一番いいのを頼む』
「お前らだけライドウから逃げ出すからだろうが!」
そんな会話を繰り広げるのは、雪積もるしみったれたクソ田舎の無人駅でのことである。ヤタガラスの仕事の一環として、俺は鹿児島の山奥に飛ばされたのだった。
「ライドウと別れたすぐ後に東北でアラハバキ降臨とか、辞めたくなりますよぉ~~ヤタガラスゥ~~」
『またガイアか(呆れ)』
「そうだよ(溜息)」
まあガイアガイアと言っちゃあいるが、メシア教のように一つに纏まっているわけではない。色々な由来を持つ色々な奴等が、各々の思惑に従って騒ぎを起こしているのだ。
一応、纏まりとしてのガイア教団は存在するが、全く意思疎通は取れていない状態だという。だからこそのChaosだとか何か。お前ら頭イかれてんじゃねえか?(ドン引き)
「しかし、今回東北で騒ぎを起こした、何だっけ? 国津神の系譜だっけ? そいつ凄え馬鹿だよな! こっちには対東北として最強、征夷大将軍の坂上さんが居るのによ」
『実質的に一地方を支配下に収めてるとか、やっぱ名目上は同格とは言え、歴史の重みが違うな~~と思うわけ』
「何が言いたいんだようんこ」
『同僚が東北レコンキスタしてる間、お前は鹿児島の秘境でンゴンゴダンス(笑)』
「だ↑ま→れ↓!」
それにンゴンゴダンスじゃねえよ! 龍脈の流れが変だから、さっさと解決して地鎮の舞を取り仕切れって仕事なの!
「肉おじゃが音頭取りで、ライドウが後詰め! 他名家は関東守護! だから龍脈関係の大仕事が俺に回ってきたんだよ」
『面倒臭そう(直球)』
「まあ、苦労はそこまでじゃねえ。犯人はもう分かってんだ。小金欲しさに一族の伝統をダークサマナーに売りやがった土着の豪族! そいつ殺してぱっと舞って終わり! 閉廷!」
『彼には72通りの名前があるから、なんて呼べばいいのか……』
「一つだよアホガーレ。標的は阿多ソウイチロウ! 小汚ねぇ田舎者のクソ農民だ!」
田舎道を歩きながら、俺はヤタガラスから受け取った書類を再度確認した。
阿多家は元々、朝廷守護の家系であり、ヤタガラスとも縁が深く云々。一族の高祖を神として崇め云々。龍脈がどうたらこうたら云々かんぬん。
「マンドクセ(ドクオ)……要は殺しゃいいんだろ!」
『一回戦負けの雑魚みたいな台詞っすね……。だけど田舎……土着の豪族……儀式……あっ(察し)。これは殺人事件が起きますね、間違いない……』
「俺達が今から起こすんだよ、おう」
『殺人予告を決行と同時に出すとはたまげたなぁ……』
「それはただの殺人じゃねえか?」
そんなこんなで、駅からバスに乗り50分。更に徒歩で40分。インフラのイの字も通ってないようなクソ山奥に俺達は辿り着いていた。
12月の山奥ともなれば、いくら降雪の少ない鹿児島と言えど雪化粧に覆われている。
白雪が沈黙と共に横たわる山間の中、隠れ潜むように居を構えるその村の名は引集村。限界集落と呼ぶには、まだまだ生きている家屋が多い。こんな僻地にもかかわらず、それなりに人が居着いているようである。
しかし……景観の美しさを語るよりも……これは。
「うわぁ……クセェ~~……」
『ダメみたいですね……』
村全体にクッソ汚いMAGが充満してやがる。見れば村の各地に儀式の呪具っぽい石塔が立っており、明らかに何かをしでかしている最中だった。
「イクぞオラァ……」
『気乗りしてないっすね……』
『大丈夫じゃない、大問題だ』
ドデカく吐いた溜息が、白く空へと消えていく。あー寒い。寒いってのにクソ面倒臭い。あんのクソ田舎者、ダークサマナーで小金儲けどころか、村を儀式の場として乗っ取られてるじゃねえか(半ギレ)。ぜってえ厄介なことになってるよこれよぉ……。
とりあえず、村で一番デカい日本家屋、と言うか不自然にデカい黒塗りの高級家に追突していく。積極的インタビューだ!
と、思ったら門前に構えていた農民共に止められた。は?
「なんじゃ、お前」
「……阿多さんにお届け物(鉛玉)です」
「何者かしらんが、今、本家様は誰も入れるなと命じておる。さっさと帰れ」
「おもみもものサービスをさせて頂いてますので(強行突入)」
「なっ、下郎が!」
田舎者のクソ農民どもが騒ごうがどうでもいいわ。だって嫌な予感がさっきから凄えんだもん。この先が儀式の中心だってはっきりわかんだね。
ドッタンバッタン大騒ぎしてるのは突然押し入った俺に対する下人共であるが、その騒ぎとは別として、不自然に家の中が静かだな。生活音がまるでしねぇ。人の流れもなく、まるで住人が一カ所に集まっているような……。
いや、本当にそうなんだな。押し入った先、大広間の和室にて、雁首揃えて喪服を着た一家を前にそう思った。
「……なに? マジで誰か死んだ?」
「何者だお前は!? ここを阿多の本家と知っての狼藉か!」
「奥様が天に召されたばかりというのに……! これ以上、余計な不和をこの家に持ち込んでくるでない!」
おーおー、ヤタガラスのジジイ共を数段カス☆にしたような奴等で犇めいていやがる。維持と保守の権化とは言え、護国のために頑張って仕事をしてるって、なんでこんな比較ではっきりわかんなきゃいけないんだよ。
『こいつはくせえッー! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!』
「そうだよ(溜息)」
野獣がスピードワゴンの台詞を引用した通り、脂ぎった加齢臭の中に、例のクッセェMAGの臭いが流れていやがる。それに、見ろよ見ろよあいつらの顔。経験で分かるわ。こいつら碌な人間じゃねえ。
……いや、数人はまともなのもいるか。若い男に若い女と、深い事情を知らなそうな奴等。
そして、一人はまともじゃない奴で、更にもう一人は本気で碌でもない奴だ。前者がこの部屋の主とばかりに構えている阿多ソウイチロウで、後者は隅に縮こまっている少女である。
『……どっちから殺す?(直球)』
「まあまあ、取りあえず話を整理しようぜ」
な? さっきから真っ青な顔している当主さんよ。逃げられると思ってんじゃねーぞ。
「阿多ソウイチロウの隣で、四十代ほどの男が抱えている遺影が、殺されたって奥さんかね。そんで抱えてるのは推定長男か」
「何だお前は! 早くここから去れ! 下人共は何をやっとるか!」
「ズバリ! 奥さんは池に逆立ちで溺死していた。そうでしょう?」
「な訳があるか!奥様は三日前の朝、庭にて誰かに刺され死んでいたのだ!」
「そーなのかー(便乗妹)」
『そうだよ(便乗兄)』
しかし立派な部屋だねぇこ↑こ↓。金屏風に掛け軸に、壺に日本刀に鎧にと、田舎の金持ちが揃えてそうなもん勢揃いだ。
「金持ってんねぇ! 通りでねぇ!」
「うるさい!黙れ!」
「父上……この者は一体……先程から虚空に向けて何やら……」
推定長男君が田舎者のクソジジイにそう言った。明らかに俺を狂人と思っているような、疎んじる目である。対して阿多ソウイチロウは、震える唇でこう答えた。
「あ……悪魔召喚師……」
「……はい?」
「ヤタガラス……様だ……」
その言葉と同時に、俺は銃弾を天井に向け数発打ち込んだ。
パラパラと木片が肩に落ちる。ヒュッ、と息を呑む声が聞こえる。先程までの敵愾心と侮りは瞬く間に消え、代わりに「ヤタガラス……!」の呟きと共に、殆どの顔が真っ青になる。
露見しないとでも思っていたのか? しかし、レベル差も分からない奴等だ。素養なんて欠片もなく、きっと小賢しい悪事に知識を費やしていたのだろう。
「そうとも、俺はヤタガラス。悪魔殺しの専門家だ」
「う……こ、これはあくまで……お家の事情……」
「そっちの殺人事件はな」
当主気取りのジジイの眉間に向け、俺は拳銃を構えた。SFP9は、以前のクソ骨董品とは違い、実によく手に馴染む。最新式拳銃の支給、ありがとねぇ!
「犯人はお前だ! さっさと自供しろ!」
「ま……待て……!」
「もう言わんで良か!」
パァニ……パァニ……と脳天と心臓にそれぞれ打ち込んで、これで事件は解決だ!
『それで終わった試しがないんだよなぁ』
「ま、多少はね?」
野獣が言ったとおり、ジジイはまだくたばっちゃいなかった。銃弾を撃ち込まれてまだ息がある時点で、人を止めていると見て違いない。すかさずアナライズする。
[悪魔人間:阿多ソウイチロウ Lv14 Dark-Law]
『ざっこ(笑)』
「そいつもダークサマナー共から貰ったのか? 可愛いね♡ 悪魔人間がよ」
言いながら、俺は銃弾を次々と撃ち込んでいく。その度にクソ共の口から短く悲鳴が溢れ、ようやく逃げだそうとするが、その前に俺はCOMPを動かした。
「イーノック、<マハンマ>」
「大丈夫だ、問題ない」
実体化したイーノックが場に青の神聖なる輝きを満たせば、クッセェMAGの臭いを垂れ流していた奴等がバタバタと倒れていく。人間の癖にハマが効くとか、本当に碌でもねえな。
「こ……殺したっ……人殺しっ」
「お、お父様が、お母様、み、みんな、死んでっ」
「死んじゃいねえよ。気絶しただけだ。まだまだ人間だったって事だな」
基本的に、人間には破魔属性は効かない。なら、こいつらは何らかの理由で悪魔と混じっていたというわけだ。その理由ってのが死ぬほど面倒臭そうだが。
「で?」
俺はジジイのこめかみに拳銃を突き付けながら言った。
「何をやっている? 何を企んでいる? 三行でよろしく」
「っぐ、は、ひっ、ひいいっ……」
「言えよ」
「がっ、あ、あ……!」
引き金に呼応して、畳に脳漿が巻き散らかされる。しかし、死なない。時間はかかるが再生する。
面倒だな。再生力がある悪魔なのか、それとも儀式の中心として何らかの力が働いているのか。
その光景を目にして、悲鳴を上げながら何も知らなそうな奴等が逃げていく。当然か。当主がバケモンだったんだからな。MAGの異様さに薄々気付いてはいただろうが。
「で? お孫さん達に逃げられちゃったお爺ちゃん? 何を企んでいるのかな?」
「わ、我々一族の悲願を……幸鉤の復活を……。海神の呪いを解き、我らこそが正当なる支配者と……!」
「……サチチって何?(レ)」
『ググらんかぁー!(KWM)』
と言うわけでググってみた。
『えぇ……(困惑)。怪現象の原因をググる退魔師とか聞いたこと無いんですがそれは』
「↑↓」
『指差しで主張とかものぐさスギィ!』
お前が言ったんだろうが、と思いながら、俺は検索結果を眺めていった。
「山幸彦と海幸彦……に出てくる海幸彦の針だって」
『……だから?』
「……さあ?」
wikiに色々乗ってたけど、よぐわがんね。文字多いし。
「まあれでしょ。先祖が呪い掛けられて、何か家宝とかあって、そいつを元に力を手に入れようとするあれ。よくある話だな! それで良いよな?」
「大丈夫だ、問題ない」
「な!」
イーノックもこう言ってるし、大意は間違っちゃいないだろう。
「よ……よくある話……だとっ!? 我ら3000年の悲願を……祖父の代より続く探究を……愚弄するかっ!」
「しますねぇ!」
「がああっ……!」
なんか歯向かってきそうなので先んじて目ん玉に撃ち込んでやると、銃弾が食い込んで気持ちが良い!
「ぐ、う……巫女よっ、我らの宿願をっ、果たす時が来た! 時期は尚早だが仕方ないっ。あのダークサマナー共も、このヤタガラスも纏めてっ……!?」
「うへえ、自爆技か、よっ!」
「ぐ、ううううう……!」
召喚した杵で両足を破壊したジジイが咄嗟に縋り付こうとした先は、逃げ出すこともなく部屋の片隅でただ震えていた少女だった。
俺は杵を再びCOMPに戻し、いや本当に取り回しづらいなこれ。野獣も『お前使い方間違ってんじゃねえの?』とか言ってくるし。だけど威力は本物だ。ジジイの両足が全然再生しねえ。
だからこそ、俺はゆっくりと巫女を観察することが出来る。こいつに関しては本気で碌でもないから後で処理しようと思っていたんだが……。
「と言うか、利用されたんじゃなくてマジに異界発生させようとしてたのか。小金稼ぎどころか、随分長い間画策してたみたいだし」
『で、この巫女ってのが、田舎者達のクソメシア……ってコト!?』
「そうだよ(推測)」
いや、本当に見れば見るほど碌でもないな。人にここまで業を呑ませる事が出来るのかよ。
真っ黒な喪服に、真っ黒な長髪、真っ黒な目、真っ白な肌。どれもこれも生気がない。唇は青ざめ震え、怯える目でこちらを見つめている。
しかしその本質は、その様な外装にはない。
似たような物を見たことがある。ガイアの聖杯という、沖縄でクトゥルー神族を呼び出すのに使われた由来も知れぬ聖遺物。
そいつは結局壊されたのだが、壊すのにもヤタガラスの隔離された区画にて、ゲイリンが祈祷を三日三晩通して行った程だ。俺はよくよく知っている。何せ無理矢理手伝わされたからな(半ギレ)
……まあ、即ちこの人型物体は、本質として器なのだ。
器とは注がれる物であり、満たされる物である。沖縄で使われたのは後者の側面で、満ち足りた贄を元に器を手にする者の喚起、即ち召喚の機能が行使されたが、今回は前者の方であるようだ。
「呪いの注ぎ先、厄落としの巫女ねぇ……俺の力じゃダメだやっぱ。下手に器を壊したら中身が溢れるぞ。大悪魔召喚だ」
『触らぬ神に祟りなし(至言)。まあ世の中には触らなくても祟る神で溢れてるんですけどね、初見さん』
「イーノック、お前の浄化はどうだ?」
「そんな装備で大丈夫か?」
「やっぱりダメか」
突貫工事でレベルアップさせたとは言え、まだまだLv38だからな。力技で解決するには何もかもが足りちゃいない。杵でぶっ叩いても器が壊れることには変わりないし、対となる臼は器ってより餅をつくための場だしな。
しかし面倒臭いことになったなー。器ちゃんは怯えっぱなしだし、ジジイはそれに必死で脅してるし、ダークサマナー共もいるって分かっちゃったし、私いじけちゃうし。
「ひっ……こ、ころ……」
「あ? なに?」
「ころさないで……」
「殺さないよ。ってか殺せねえよ」
「あ……。…………」
なんか項垂れちゃった。力抜けちゃった?
まあいいや、これからのことを考えよう。取りあえず、ジジイはここに縛り付けておいて、ダークサマナー共を殺した後、ゆっくりと話(尋問)を……。
「何をやっている!? 幸鉤の巫女よ、お前の機能を忘れたか!」
……あ?
『うわぁ……老害が女の子に説教とか、情けなくてチンコから涙が出るわ』
「そっちはどうでもいい」
『いいのか(困惑)』
「……今、この村全体が、異界に落ちた」
『ファッ!?』
で、その原因はぁ……と、俺は巫女を見つめた。俺の視線を恐れるように唇を震えさせる彼女は、その身からMAGを溢れさせている。器が壊れそうになってんじゃねーか。
「ひっ……ち、ちが……私は何も……」
「お前は呪いを払い、海の権能を取り戻すための巫女だろう! その内に溜めた厄災を、何故解き放つ!?」
「違う……私は、違うのに……」
「ダークサマナー共の仕業だわこりゃ」
「え…………」
溜息を吐きながら俺は言った。そりゃそうだ。あいつらがこんな田舎者のクソ農民にタダで騙されるはずがねえもんな。
「出ろ、ジュセ」
「ぬわつか! タァイムはどう?」
「一時間くらいじゃない?(適当)そこの巫女からドバーっと悪魔が出るまでの」
「神は言っている、ここで死ぬ定めではないと」
切羽詰まった状態だったとは言え、儀式を開始できるほどには、そこの巫女は完成していたということなのだろう。
だから碌でもないっつってんだよ。こんな利用されるしかない物が、人の形をして生きているってこと自体が最悪だ。
「器を溢れさせるのには、ちょっと衝撃を与えるだけでも良いって事かぁ。まあその位溜まってたしな」
「そこの巫女が便秘腹で、異界化はイチジク浣腸って事!?」
「そうだよ(肯定)」
「わ……私、便秘では……!」
比喩だよ比喩。さあ、行こうぜ。