「……暴走だよな? 暴走だと言ってくれよなぁ!?」
「何をそんなに慌てて……ってファッ!?」
俺達が突如として響き始めた音声に気取られている内に、頭上から光の矢が降ってきた。やべっ! こっちもいるんだった! というか召喚成功かよぉ!
中空に鋼鉄の翼を広げるのは、悪魔とも人ともつかない異形の存在だ。四肢の代わりに機械染みた翼が神聖な気配をまき散らし、わざわざご丁寧に光輪まで背負っていやがる。
そしてその顔は、どっかで見たような顔……ってかワグナス!
「ワグナス(あだ名)が……ワグナス(七英雄)になっちゃっ……たぁ!」
「意味不明……いや、割と正鵠を射てますねぇ!」
同化の法を使ったみたいに、というか悪魔合体したんだから本当に同化しているんだが、しかし流石はタイチョウ! 複数人混ぜ込んだ悪魔合体とか、絶対肉塊に羽が生えた物が出てくると思ってたが、人の顔を残しているとは。もしかして、人格も支配できているのか?
ワグナス(真)は、ゆっくりと目を開き、俺達を見下ろしながら口を開いた。
「──我は大天使メタトロン。状況は不明だが、お前達は神の敵か」
「ダメだこれ。人格が悪魔に支配されている!」
やっぱダメだったか! まあ残当ではある。あんな無茶苦茶な合体しておいて、残滓が残っている方が驚異的なのだ。もしかしたら、マジでとんでもない強者だったのかもしれん。だがもう死んだ!
「呼び出したのはメシアの裏切り者! 俺達はメシア側! 分かってね大天使さん!」
「その様な邪悪な悪魔を連れて、本気にすると思ったか! <ヒートウェイブ>!」
「おっぶえ!」
ヤベーってこれ本気で! いくらレベルが下がってたって俺達より上だし、何より相手は大天使だ! 悪魔人間だからMAG切れでの消滅も狙えねえしマジで死ぬ!
我武者羅に呪殺弾バラマキしても僅かに動きを止めるだけで、決定打にはなりゃしない。相手の一撃はこっちを簡単に屠ることが出来るんだ。何より大天使相手に破魔弱点のジュセはマジでヤバい!
「おい野獣!何時まで機械にチンコ突っ込んでんだよ! お前何時からメカフィリアに目覚めたんだ!」
「くっ、こいつ、膣内が締まっ……!」
「死ね!!!」
『けてるけてるけてるけてるけてるあかし』
「そっちも死んでくれぇ!(懇願)」
というか生まれてこないでくれお願いだから! 情報を食らう鳥なんて悪魔いねえだろうがよぉ!
ワグナスinメタトロンの気を逸らすため、必死に銃弾を放ち「ざぁ~こ♡ざぁ~こ♡」と煽ってみるが、そろそろ攻撃を避けるのも限界になってきた。しかし放たれた斬撃に足を滑らせ、床に転げたその時、システム・ケテルが異常なほどに駆動音を発し始めた。
『けてるけてるけてる緋色のけてるけてる<■■■■>──Keter、Keter、Keter、Keter、Keter。王冠を守護せしメタトロンセフィラ降りて流出は創造へ至り故に故に故に故に』
「なっ、なんだあ!?」
もう何が起こってるのか訳わかんね。ここで自分の頭撃ったらペルソナ使いに覚醒とかしねえかな(現実逃避)
「……この気配は」
「おっ、抜けましたねぇ! 最後が気持ちよかった(小並感)」
使えないうんこは無視して、ふと、何故か知らんがメタトロンが動きを止めた。
響き続ける機械音声に耳を向け、神妙な雰囲気を醸し出している。その顔の先には、不可思議なことに起動を続けるシステム・ケテルが存在する。
「何が起こってるんですかね……?」
「分からん。分からんが……」
銃弾を込めながら、しかし俺には確信じみた直感があった。
システム・ケテルに集まるMAGの奔流は、何かを召喚しようとするものだ。そしてそれは、きっと俺と……いや、俺達と同じ属性の……!
『悪魔召喚プログラムを起動──義人:イーノックを召喚します』
「──多分、俺達の味方だ」
光輝を放つ機械から、見知らぬ召喚陣が編まれていき、その中心から一体の人型が現れた。
そいつは古い西洋鎧を身につけており、覗く金髪と碧眼が、神聖な気配を溢れんばかりに放っている。
見覚えのある姿だ。見たことのある、ネットの素材だ!
「──大丈夫だ、問題ない」
彼の名はイーノック。エルシャダイの主人公にして、いずれメタトロンへと至る者!
……しかし、いや。
「そ、そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
言い切られても不安しか残らねえよ。その装備、トレーラー映像でボコボコにされたやつじゃねえか。一番良い装備ことダーマはどこにやったんだよ。
試しにアナライズしてみれば、そこには予想通りというか、溜息を吐きたくなる結果があった。
[義人:イーノック Lv10 Light-Internet 弱点:呪殺 無効:破魔]
「お前何しに来たの?」
「大丈夫だ、問題ない」
「Lv49の大天使相手にLv10が味方に来て何が出来るんだよお前はぁ!」
この際なんでイーノックが現れたのかはどうでも良い! ただどうせ味方に来るんならもっと強い状態で来いよ!
「……イーノック。何故、ここに」
「あ? 知り合いか?」
「大丈夫だ、問題ない」
それしか台詞がねえのかよ、と言いたくなるが、しかしイーノックの登場にメタトロンは狼狽えているようだった。中空に翼を広げながらも、自らに向かい来るイーノックに対し、及び腰になっている。
「……我が召喚された理由は分からない。だが、お前が味方しようとする人間は、邪悪な悪魔を連れている。神敵として討ち滅ぼすに足る理由だ」
「大丈夫だ、問題ない」
「……しかし、我が消えれば、この身体を形作る信仰者達の魂はどうなる。また、機械に囚われた人間達も、この人間に任せるわけにはいかない」
「大丈夫だ、問題ない」
「……確かに、お前ならやってくれるだろうが、しかし……」
「大丈夫だ、問題ない」
「……成る程。分かった」
凄え、滅茶苦茶役に立ってんじゃん(熱い掌返し)。正直俺には『大丈夫だ問題ない』botにしか見えんが、メタトロン相手に会話が通じてるし、何か納得させているぞ!
メタトロンは何やら頷くと地上に降り立ち、イーノックの前に跪いた。その頭へとイーノックが手をかざせば、青色の神聖な輝きが満ち足りて、ふとメタトロンの膝が折れた。
「ぐ……ここは……? 私は……」
「大丈夫だ、問題ない」
「何だ……貴方は……? いや、そうか。私は……天使様と……」
「戻ったかワグナス!」
どうやらメタトロンが消えたようで、ワグナスは両手足を翼から人の形に戻していた。というか悪魔いなくなっただけで人格取り戻せるとか凄えなお前な(驚愕)。どんな精神構造してんだろ。
とにかく、これで事件は終わり! 閉廷! 野獣もぬわつか言ってるし、もう帰ろうぜ! 後処理とか面倒くせえの全部丸投げしようぜ!
「機械も壊れたし、首謀者は肉おじゃがやってくれたし、早く帰って宿題しなきゃ(使命感)」
「誰が肉おじゃっすか」
「げえっ! 坂上さん遅い到着じゃないっすかぁ~~!(煽り)」
今更来ても残ってるのは洗脳途中の一般市民君達と、ジャンクになった恐らくメシアの重要機密と、どっから現れたか分からんイーノックと、大天使と悪魔合体したテンプルナイトと……処理しなきゃいけない事案が多スギィ!
こんなんまともに相手してられないよ。俺は帰るぞ!
「じゃあ、俺は戦闘前に助けた女の子の世話をしなきゃいけないから、この辺で……。何だか神聖な気配を感じたし、もしかしたらあの娘、メシアの聖女だったのかも!? こうしちゃいられねえ! 今すぐヒロインルートに入ってくる!」
「この建物から出た人間がいないのは確認済みっす。妄想してる暇があったら事後処理するっすよ」
「メシアの聖女が処理予定の支部周りをうろちょろしてる筈が無いんだよなぁ……。それと、お前(ヒロインが)それで良いのか?」
「ないです(断言)。メシアの聖女とか厄ネタでしかねえじゃん」
「大丈夫だ、問題ない」
「何だお前!?」
いきなり会話に入ってくるからビックリした。ビックリされた側になったことは何度もあるが、した側になったのは初めてだわ(悲しい男)
「そうか……俺ってこんな感じか……そうか……」
「何落ち込んでるんすか。まずは説明から頼むっすよ」
何かテンション下がっちゃった……。ちゃっちゃと済ませて家に帰ろ……。
洗脳途中の一般市民君達は、機器のダウンを確認した後、後方待機していたヤタガラスの処理班に任せて終わり!
ジャンクになった機械は、これまたヤタガラスに任せて終わり!
巻き込まれた一般教徒達は、野獣のドルミナー掛けてヤタガラスに任せて終わり!
イーノックは仲魔になりたそうにこちらを見つめている! じゃあ仲魔にして終わり!
テンプルナイト君は……どうすんのこれ。
「偶発的に発生した悪魔人間っすか。テンプルナイト隊長で、合体した悪魔は大天使……。要素が揃いすぎているっすね。そのままメシア教にお帰り願うっす」
「この事件に関しても無知な被害者って点で押し通せば元鞘でしょ。じゃあ帰れ!」
「いや、待ってくれ!」
んだよコイツ。こっちは疲れてんだよ。いくら組織にぶん投げるっても、引き渡しするのは俺達なんだからな。
「で、何でしたっけ? 坂上さんがぶっ壊した贖罪発電炉とかいう代物でしたか。悪魔を溶かして発電するってやべー奴。そいつがどうかしたんすか?」
「召喚と維持に龍脈の力を使っていたっす。実際には、龍脈からMAGを吸い取る施設だったって事っす」
「マネーロンダリングならぬMAGロンダリングとはたまげたなぁ……」
龍脈の管理はヤタガラスの領域で、メシアが秘密裏に手を出してた、なんてことが露見すりゃあ、そりゃ一大事だ。重要そうな機械と言い、どうにもトカゲの尻尾切り感が否めない。
「……やはりか。メシアは暗闇を内に孕んでいる」
「はよ帰れやワグナス」
「……いや、私はメシアには戻らない」
「えっ」
じゃあウチに来るの? やだよ、おう(直球) 元テンプルナイト隊長で大天使の悪魔人間とかぜってえメシアが目の敵にする(確信) こんなのが同僚とか辞めたくなりますよヤタガラスゥ~~。
「……私の内には、犠牲となった仲間達の魂がある。そして、犠牲を強いた幹部の魂も。メタトロン様の力もまた、この内に」
「ほーん(生返事)」
「私は最早、元の私ではない。このままメシアでテンプルナイトを続ける事に疑問を覚えている。この事件が氷山の一角に過ぎないとすれば、私の居場所は最早メシアにはない」
「ほーん、で?」
「私は名を捨て、私なりに神の正義を見つけていこうと思う。勿論、ヤタガラスと事を構える気は無い。それを伝えたかった」
「長えんだよ!」
「す、すまない……」
こっちは忙しいってさっきから言ってんだルルルォ!? 『メシアやだ。ヤタガラス好き。でも自由にやりたいです』それで終わりで良いだろうがよお!
「ただ……感謝は伝えたかったのだ。君が我らの目を覚まさせてくれなければ、私は翻意を抱くこともなく、システム・ケテルの内に溶けていただろう。……これもまた、神の定めか。故に私は、君から貰った名を名乗ろうと思う」
「えっ、マジ?」
「私は本日より、ワグナスと名乗ろう。悪魔人間、ワグナスだ」
……それ、ゲームキャラの名前なんですがそれは。というか、個人的には七英雄コラの方の……。
「……梅酒でも作る?」
「梅酒? ああ、そうだな。新しく趣味を持つのも悪くないな。ははは」
ワグナスは楽しそうに笑っているが、正直冷や汗が凄い。こいつの新しい名が知れ渡った後で元ネタがバレたら、俺殺されるんじゃねえか。
「……これ大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
「おお、イーノック様も新たな門出を祝福して下さるか。これはありがたい」
そう言って、ワグナス(本名)はイーノックに跪いた。イーノックはその頭へと手を翳すが、今度は青色の光は出てこない。単に祝福しただけのようである。
「一番いいのを頼む」
「うおっ!? お前『大丈夫だ、問題ない』以外も口に出来たのか……。ってか、一番いいの? なんかあげろって?」
「いやいや、私にはそんな……」
「じゃあ野獣をやるよ(押し付け)」
「……いや、本当にそれはいい」
「一番いいのを、頼む」
「チッ、しゃーねーな」
「お前、暗に一番良い物じゃねえって言われてんぞ」「ひどくない? お前の態度の方が」と野獣と軽口を叩きつつ、何かやれるものっつったって、何もねえぞ。
……あ、丁度良いのがあったわ。
「ほらやるよ、ドミネーター」
「……良いのか? 君の愛銃ではないのか」
「なくしたって言えば、ヤタガラスがもっと良い銃くれるからあげる。貰ったとか言うんじゃねえぞ!」
「そ、そうか……」
クソ取り回しのしにくいクソ銃を押し付けることに成功したぜ! でもこれで三八式とか支給されたらどうしよ……あいつら頭昭和通り越して明治だからな。
「一番いいのを頼む」
「あ? ドミネーターじゃ不満か? ってか、どうして自分を指差して……」
「これって……自分にも何かくれ……ってコト!?」
イーノックがドヤ顔で頷き、「一番いいのを頼む」と、俺の下半身を指差した。えぇ……(困惑)
「召喚の対価として魔力供給(隠語)とか、やっぱ好きなんすねぇ~~」
「お前もホモかよぉ!?」
「大丈夫だ、問題ない」
イーノックは慌てたように首を振り、パシパシと自分の太腿を叩いた。そういやこいつ、一番良い装備の時は下にジーンズ履いていたっけ。
「……え? ここで脱げって?」
「一番いいのを頼む」
「代わりのズボンとか用意してねえんだけど?」
「大丈夫だ、問題ない」
「まるでどっかの上着ドロみたいだぁ……。属性が対極になると、奪う服の位置も対極になるとはたまげたなぁ」
野獣が訳分かんねー事を呟いてるが、えぇ……どうしろってんだよ。ワグナスは目を逸らしてるし、坂上さんは「まぁた変な悪魔を従えたっすね」と笑っている。
「覚悟して脱げよホラ脱げって!」
「一番いいのを頼む」
俺の仲魔はこんなんばっかかよ!