「いやあ、第三特異点は強敵揃いだったね、マスター君!」
「そうだね、遠野。ヘラクレスも一撃とか野獣先輩は凄いね」
「だ、だからさあ……遠野って言うの止めてよ……志貴って呼んでよ……アレの影響で呼ばれたの本当に嫌なんだから……(絶望)」
そう言ってアサシンのサーヴァント、遠野志貴はげっそりとした顔を浮かべた。
そう、野獣先輩が散々シコシコしたお陰か、何の因果か第三特異点である1573年のカリブ海に召喚されたサーヴァントが彼であった。
当初は遠野という名前に喜んでいた野獣先輩であったが、その様相が彼の恋人である爬虫類に似ても似つかなかったので、「んまぁ、そう……よく分からなかったです……」と捨て置かれた悲しい過去がある。
「いや、全く悲しくないけどね? あんなの(直球)に運命(意味深)として選ばれなかったとか最高だし。まあそれを言うならマスター君は悲惨も悲惨なんだけど……」
「野獣先輩は頼りになるよ。志貴の何とかの目でも殺しきれなかったヘラクレスをぶっ飛ばしたでしょ?」
「直死の魔眼ね? いやまあ殊更に自慢するものでもないんだけど、自信無くす光景ではあったね……(溜息)」
狂い荒ぶる大英雄への一手として、さながらカウンターとして用意されたような遠野であったが、しかし、結果としては余り役に立たなかった。それもそのはず、ギリシャ神話の大英雄に現代人が身体能力で敵うわけないだろいい加減にしろ。
それでも中々良い動きをしてイアソンを苛立たせていたのは、その身に宿る殺人技術が故だろうか。藤丸は、その時青く輝いた両眼を思い起こし、今の遠野と見比べた。
その両目は、『死』をその目に捉えることが出来る最上級の魔眼であるらしい。しかし、今は布に覆われている。まるで罪人のように覆い隠され、外界を覗くことは叶わない。
彼自身がそうしているのだと藤丸は聞いた。かつては魔眼殺しの眼鏡を掛けていたが、今や視覚そのものを封印しなければ抑えきれないのだという。
「それにしても随分と大変なことになっているんだね、この世界は。俺の世界も大概だったけどさ。第六法が実現一歩手前まで行くなんてね……」
「そういえば、志貴の世界にはサーヴァントは存在しないんだっけ?」
「そうそう。まあ難しいことは殆ど先生の受け売りなんだけどさ」
彼の言う先生とは魔法使いらしい。藤丸はそう聞いたことがある。藤丸自身は魔法使いと魔術師の違いを何にも分かっていないが、とにかく立派な人物であると遠野は言う。
「なんでも、人理に対する何とかの違いだとか。いずれにせよ、あいつらが存在しない世界で良かった……訳ではないね。あいつも居ないのかと心配になる」
「アルクェイドさんだったっけ? 真祖だとかなんだとか。それなら孔明が居るとか言ってたような気が」
「それは本当かい!? 三国時代にも暴れていたのかあいつは!」
「いや、現代魔術社会でのことだよ、殺人貴」
そう声を掛けたのは、今し方食堂へと入ってきた二世である。彼の声を聞き、遠野は納得したように「ああ」と言った。
「そう言えば貴方は依代なんでしたっけね。時計塔の魔術師さん」
「なんだ、含みがある言い方だな殺人貴。君の居た世界では魔術師と一悶着があったかね?」
「アインナッシュに関するいざこざでね。それよりも、こっちでも俺はそう呼ばれているのか? 二十七祖は居ないって聞いたけどね」
「そういう枠組みは存在しないが、名高い、いや悪名高い死徒共の間では有名だったのだよ、君は」
「勿論、聖堂教会でも。そして時計塔でも」そう言って二世はじっと遠野を見つめた。彼は見定めるような、何か危険な物を相手にするような、油断のない振る舞いを続けている。
対して遠野は沈黙を続けた。頬杖を突いて、つまらなさそうに虚空へと顔を向けていた。
そんな不穏な空気を打ち破ったのは、「ぬわああああああああああああん疲れたもおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!」というクッソうるさい声だった。
「うわでた(嫌悪)」と二世と遠野は露骨に顔を顰めた。どたばたとクソデカ大声を発しながら食堂に現われたのは野獣先輩である。その後から、げっそりとした顔で清姫、マルタ、シェイクスピアが現われた。
「Foo↑ あっつぅ~! キツかったっすね今日の種火集め。なんでこんなキツいんすかね? 止めたくなりますよ~何かぶっかつぅ~」
「吾輩もキツかったですぞ……作家を戦場に立たせるとは末期戦か何かですかな? 末期戦でしたな(納得)」
「資源集めは部活じゃありませんよ、ステハゲ。安珍様が居ないからって事あるごとにサボろうとしないでくれます?(半ギレ清姫)」
「あっ、お前さ清姫さ、お前も事あるごとに『安チン様』って言っていたよなぁ? どっちが迷惑なんだよなぁKMRぁ~?」
「私とKMRなるホモビデオ男優を一緒にするな獣! 悔い改めなさい!(全ギレマルタ)」
「オォン!? アォン!(悲痛)」
マルタにぶん殴られ、野獣先輩は床に転がった。
彼らが藤丸を置いてどこに行っていたのかと言えば、特異点である。今後のサーヴァント数増加を見込み、マスターなしでも資源を集められないかを意図した策ではあったが、三人のげっそりとした様子から余り良くはなかったようだ。
なおダヴィンチは「いやサーヴァントが単独でレイシフト出来るわけないでしょ(正論)」と言っていたが、やってみれば出来たので「頭おかしくなる(半ギレ)」と何時も通りに白目を剥いていた。
「ともかくお疲れ様、野獣先輩。そして清姫、マルタ、シェイクスピアも。どうだった?」
「どうだったもこうだったも……単独顕現スキルがあるコイツは良いとしても、私と清姫、シェイクスピアじゃ碌に行動できないわよ。寧ろ辛うじて動けるのがおかしな話じゃない? いくら人員不足だからって、マスターなしでサーヴァントを行動させるとか正気?」
「吾輩なんかスキルも使えずに本気でお荷物状態でしたぞ……。その上でこの面白うんちが好き勝手やるものですから……」
「そっか、ダメだったか。良い考えだと思ったんだけどな」
「じゃ、私達はソロモンに報告してくるから」とマルタと清姫とシェイクスピアは連れ立って食堂を後にしようとした。
一方で野獣先輩はそのままである。どこからか取り出した瓶ビールを飲んで「ビール! ビール!」と楽しくやっていた。
「あれ、野獣先輩は良いの?」
「こんなの(直球)を連れて行っても話にならないでしょ! いい加減にしなさい!」
「それにこの汚物(直球)を連れて行くとソロモンさんまで汚くなりますからね……。もう安珍様はどうしようもないとして(暴言)、これ以上カルデアを汚くするわけにはいきません」
「『ユダヤ人には目がないのか? ユダヤ人には手がないのか?』シャイロックにはそう叫ばせましたがね、『ユダヤ人でもホモビで笑う』と続けてしまえば、これでは差別も止む無しですぞ……」
口々に言い放ち、三者は食堂から出て行った。「上手く行かないものだね」と藤丸が独りごちる。その声にケラケラ笑ってアンリマユが言った。
「そりゃあ設定からしてマスターがいなきゃ話にならねえからな。道理でこんな便利な機能が実装されないと思ったぜ! だけどいい加減宝具スキップを……ってこれ言い続けて何年目だ?」
「あっ、アンリマユ。どこに行ったのかと思えば」
訳の分からぬ事を言いながら現われたアンリマユに対し、それまで遠野を見つめていた二世が「うげっ!?」と声を上げた。それに遠野は首を傾げた。
「あれ、貴方ってアンリマユにも縁があったんですか? まあ貴方なら縁がありそうだけどね。アルクェイドまで知っているのなら」
「いや、アンリマユというか……いやアンリマユではあるんだが……よくよく考えなくとも大体コイツのせいだったな感が……」
「おっ、そこのロン毛はまた苦労しているのか。まーすっかり可愛くなくなっちゃってさあ。昔はソッチの需要(意味深)も満たす顔してたってのに、かわうそ……」
「何故サーヴァント・アンリマユが私を知っている(困惑)」
自身が体験した聖杯戦争の諸悪の根源を前にして、二世は嫌そうな顔を浮かべながら困惑した。
二世が体験した第四次聖杯戦争において、そしてその後に関わることになった聖杯解体において、諸悪の根源は第三次聖杯戦争において召喚されたサーヴァント、アンリマユだと発覚したのだが、彼自身はサーヴァントであるアンリマユとは面識がない。精々が溢れ出た『この世全ての悪』を目にしたくらいである。
対してアンリマユは「そりゃあなあ?」と何故か野獣先輩に声を掛け、野獣先輩もまた「ま、多少はね?」としたり顔で頷いた。
「アンタってオレ達の界隈では有名人だからな! 主に便利屋としてな。つーか掃除屋? 設定とかを纏めて解説してくれる職人さん?」
「あっ、お前さあじぱーさ、さっき『第六法』って遠野(偽)が言ったとき、変な顔してたよなお前な」
「野獣先輩ってあじ派だったんだね。ちょっと幻滅したかな」
「お前うぇい派かよぉ!?(驚愕)」
相変わらず訳の分からぬ会話だが、二世は野獣先輩が言った『第六法』という言葉に眉を顰めた。
「そういやそうだったね」と藤丸が言う。
「遠野が言うには、『第六法』って言うのは『終わり』のことでしょ? Program No.6。死徒って人達の悲願……って言ってたよね?」
「後々情報を纏めてそう結論付けただけだけどね。それに挑戦して敗北した死徒が居たんだ。ヤツの望みは世界の救済だったよ。だからヤツが挑戦したのは『世界の終わり』だと思うんだけど」
「いやいや、待ちたまえ。第六法とは『第六魔法』の事ではないのかね? 第五魔法に続く最後の神秘。存在しない最後の席だ」
孔明が慌てたようにそう言った。それに対し、遠野は唸って言った。
「ううん……どうなんだろうね。だってアイツらは、『第六法』をまるで歓迎するように言っていた。それにアルクェイドが……いやアルクェイドじゃないんだけど、彼女が先生に対して、『第六法を待つまでもない。消し去ってやる』とか言っていたらしいし」
「世界のルールが違うと言うこともあるだろうが……しかし……」
「それに、さっき言ったヤツ……タタリって死徒なんだけど、そいつは『朱い月』になるつもりだったんだ。で、これもアルクェイドが言っていたんだよ。『たとえ何千と年月を重ねようが、その身が第六と成る事はない』って。……『第六法』が『第六魔法』だったら、それは『朱い月』とイコールって事になるだろ? それっておかしくないか?」
「朱い月のブリュンスタッド……死徒共が語る月の王か。確かに、『魔法』がかつて存在した『月の王』と同じというのは不可解だ」
二人は難しい顔をして話し合っている。そんな様子を見て、藤丸は何時も通りに「訳が分からないね」と笑った。
「スター・ウォーズを1から見るとこんな気分なのかな? ジェダイとシスがフォースで戦ってルシがファルシでコクーンでパージ?」
「途中からFFになってるんだよなぁ……(呆れ)。ま、原作でも碌に説明されてないことだし、多少はね?」
「オレは結構重要な話だと思うけどなぁ? その話に照らし合わせれば、オレだって一つの『第六法』だろ? 七騎を以て対抗する人類悪……第六法……闇色の六王権……あっ(察し)」
と、そこでアンリマユが何かに気が付いたように、或いはふざけて笑いながら言った。
「オレ分かっちゃったかもしれねえ! もしかして、冠位英霊が人類悪に対抗できるのって、『一つ多いから』……ってコト!?」
「そんなギャグみたいな話がある訳ないだろ! いい加減にしろ!」
と、野獣先輩が言い、「ま、そもそも第六が人類悪にも適用できるか分からんしな!」とアンリマユが笑った。
「だが、コレは覚えておいた方が良いと思うぜ。何せ第六法はもう訪れているからな。マスターがまだ生き足掻くつもりなら、第六魔法でも目指したら良いんじゃね?」
「人理焼却の黒幕が第六法だって君は言いたいの? 俺は違うと思うけどなあ……。だって第六法って、何というか、形がないような感じがするし」
「なに、黒幕がそうだとは言ってねえよ。絶倫メガネくん」
「絶倫メガネくん!? め、メガネは今かけてないけど!?」
「絶倫なのは否定しないのかね……?」
墓穴を掘った遠野に対し、二世は引いたように言った。「確かに方々で女を引っかけているという話が……」と思い当たる節があったのか呟いたが、「いや別の世界の話でしょ!」と、こちらもまた思い当たる節があったように冷や汗を流した。
「と、ともかく! 第六法が、世界の終わりがもう訪れているだって? 随分と酷い言い草じゃないか。マスター君はまだ戦っているのに」
「ああ、酷く言うよ。この世界はとっくに終わってるんだ。マスターはまだ戦うつもりらしいけどな」
「……おい、君」
ふと、遠野が声を低くした。童顔に似合わず割とキレやすいのが彼である。そうでなくとも彼は藤丸という人間を高く評価していた。
遠野は世界の終わりに挑んだ人間を複数見てきたが、藤丸のそれは性格が違う。彼は能動的に戦いを挑んだのではなく、被害者として戦場に巻き込まれたのだ。
しかし藤丸は立ち向かっている。世界の全てを巻き込んだ戦いに、何の力も持たぬ一般人が意思だけで挑戦しているのである。元来お人好しである遠野は彼に手助けすることを厭わなかった。
その身が常人以上に死に満ちていることも、遠野が藤丸を気にかける一因であったが。
だがアンリマユは尚も笑い、言った。
「そうは言っても事実だぜ。世界はとうに剪定されて、進むも戻るも叶わない。第六という終わりは既に刻まれているんだ。だから今この瞬間は、終わりに行き着くまでの過程に過ぎないのさ」
「おっ、そうだな(便乗)。マスターには悪いけど、この先はないってそれ一番言われてるから」
「だが、過程ってのもそう捨てたモンじゃねえよ。なにせそれこそが運命であり、物語なんだからな。ひょっとしたら本当に第六魔法まで行き着くかもしれない」
「そこんところどう?」とアンリマユは野獣先輩に言った。「んまぁ、そう」と野獣先輩は明後日の方を見た。
「……何なんだよ、君達は」と、遠野が顰め面で言った。
「あー、マスター君。これは経験から言うけどね、こういう意味不明なことばっかり言う奴らの話は聞かない方が良いよ。疲れるだけだからね、本当に」
「はは、そうなの遠野?」
「そうだよ。全く、終わりがどうとかこうとか、気分が悪くなることばかり言って……」
「まあ、終わろうが何だろうが、俺は戦うけどね」
「あはは」と藤丸は笑って言った。「それが運命ならそうなんじゃない?」と、自らのこめかみを叩いて言った。
「だって、皆が言っているんだ。『終わりたくない』ってね」
遠野は息を呑んだ。一瞬だが、死の線と点に満ちた藤丸の身体が、死など存在しないかのように消え失せた。
「君は、まさか──」
「あっそうだ(唐突)。おいMSTァ! お前きよひーに寝床侵入されて嬉しがってただろ(野獣の眼光)。やっぱ好きなんすねぇ~」
「えっ、そんなことないけど(本音)。だって俺は安珍なんて淫夢キャラじゃないし(暴言)」
「ケツ舐められたことあんのかきよひーによぉ(嫉妬)。あんなキチガイ(EX)に童貞奪われる前に俺が貰ってやるから安心しろよな~!」
「オレはきよひーあんま好きじゃねーなー。だってアレ、オレの逆だぜ? オレは殻を被らなきゃ生きられねえけど、あの女は他人に殻を被せなきゃ生きられねえんだ。それが自分ってんだから救いようがないよナー」
アンリマユがぶつくさ言っているのを他所に、野獣先輩はすっかりその気(直球)になったようで、「お前の事が好きだったんだよ!」と大胆な告白をかましながら藤丸に飛び掛かった。
「はは、令呪を以て命ず。遠野、宝具を使え(この手に限る)」
「えっ、ちょおっ!?」
野獣先輩が飛びつく寸前、藤丸の令呪の一画が光り輝き、遠野の身体が意思を無視して動き出した。その結果繰り出されるのは宝具というかラストアークの『再証・十七分割』である。特に格好いいルビは付いていない。
ともかく魔眼殺しの包帯は解かれ、死に満ちた視界の元に十七分割は行われた。十七分割のくせに十七撃なのはご愛敬である。しかし野獣先輩は「ンアーッ!(射精)」と喘ぐばかりで、死の線を切られたというのにあんまり効いていないのだった。
「えぇ……(困惑)。なんで死なないの……? 死の線を切ったんだけど……?」
「ま、多少はね?(ビンビン)」
「多少はねって……あーいいや、こういう手合いは本当に相手にしない方が良いね。うん……」
脳裏にトンチキナマモノを思い浮かべながら、遠野はそう無理矢理自分を納得させた。流石に仮にも公式の存在を野獣先輩と同類扱いするのはどうかと思うが、ネタとカオスの権化という意味なら同じどころか凌駕しているだろう。
一方で、二世はずっと難しい顔をして会話を聞いていたが、ようやく口を開いた。
「……ずっと気になっていたが、君達は何なんだ? 野獣先輩と、アンリマユと、そう言ってしまうには余りに異常で、物を知りすぎている。特にアンリマユ、まさか君は、冬木で行われた聖杯戦争の……」
「おっと! ネタバレはよしこちゃんだぜ? つーか野獣先輩を『そう言ってしまう』って何だよ(哲学)」
「それはそうだね、孔明」
「貴方はまともだと思っていたんだけどなぁ……(失望)」
「ええい、うるさい! 黙れ!」
そんな風に盛り上がり、二世は『プロフェッサー・インム』という不名誉なあだ名を頂戴した。かわうそ……。