「いやあ第二特異点は強敵揃いでしたな、マスター!」
「そうだね、シェイクスピア(淫夢)。また野獣先輩は大活躍だったね」
「その汚物との縁で召喚されたことに、吾輩は嘔吐感を隠せないのですがな……(絶望)」
「生きるべきか死ぬべきか、それが問題ですな……(名台詞)」と、本気で思い悩みながら、シェイクスピアは食堂の机に項垂れた。
西暦60年のローマに発生した第二特異点において、偶発的に召喚されたのが彼、キャスターのサーヴァントであるシェイクスピアであった。当初は著名な文筆家らしく、この世の物とは思えぬ英霊達の決戦に興奮していたものの、自らが召喚された原因がクッソ汚いホモビ男優にあると知り、すっかり意気消沈してしまったサーヴァントである。
しかし、ローマでも皇帝に皇帝に皇帝と、皇帝ばっかじゃねえかお前ん家ィ! と言いたくなる光景を、野獣先輩は「ンアーッ!」の一声で片付けていくのだから物語もクソもあった物では無かった。ネロも「えぇ……(ドン引き)」と呆れとったわ。
それでも神祖だのなんだのをぶっ飛ばし、今回も三日くらいで特異点修復は完了した。野獣先輩を争っているところに放り込めば万事解決するのだから、結構楽である。
「ですが、これではどんな悲劇も喜劇ですぞ。それも三流の汚文です。観客にはそっぽを向かれ、万雷の罵倒が降り注ぎましょう!」
「それはそれで良いんじゃない? 二人は幸せなキスをして終了だよ」
「良いのですか?(ドン引き)」
『とち狂ってるなこのマスター……』と内心で藤丸に引きながら、それでも職業柄、筆を執ることは止めない彼であった。
何せ、人理を守るための旅路である。世界最後のマスターである。奇怪にして希少な旅路は作家にとって格好の材料であり、その主役足る藤丸には多大な関心を寄せているシェイクスピアだった。
「『今が最悪の状態と言える間は、 まだ最悪の状態ではない』とは書きましたがね、流石にこれは底も底、吾輩も思わず情けをかけたくなる登場人物ではありますぞ。野獣先輩を相棒としたマスターなど」
「野獣先輩は何時だって頼れるから大丈夫だよ。いや、そうなると更に底があるってことになるのかな? あはは」
「何故笑うのです……? 避けがたき不幸は過ぎ去っていませんのですが……?」
「ま、多少はね? やっぱり僕は王道を往く……セイヴァー系ですか!」
「うわでた(嫌悪感)」
ぬっと霊体化を解いて現れた野獣先輩に対し、シェイクスピアは露骨に厭そうな表情を浮かべた。それと同時に食堂の扉が開き、ぜえはあ息を切らしながらマルタが現われた。
「おや、これはこれは聖女様。如何なる御用で? 生憎マスターは今、吾輩のインタビューに答えて頂いている最中でして……」
「管制室の召喚サークルに精子ぶっかけた馬鹿はどこよ!?(全ギレ)」
「えぇ……(ドン引き)」
ドン引きした顔で野獣先輩を見つめるシェイクスピアに対し、「良いだろ遠野!」と野獣先輩は何時ものようにヘラヘラ笑っている。「遠野じゃないわよ(全ギレ)」とマルタは声を返し、そのまま杖でぶん殴った。
「オォン!? だ、だってさぁ、こうしてセコセコシコシコ触媒を積み重ねていったら、何時かは遠野が召喚されるかもしれないダルルルォ!? なぁマスターなぁ?」
「そうかもね(適当)」
「そんなわけがないでしょうが! 胡乱なのは貴方だけで結構です! マスターもこの汚物を甘やかさない!」
「えー、だって野獣先輩は頼りになるし」
「お前の事が好きだったんだよ!」
そうして調子に乗ったように藤丸の胸元にチュパスクラッチを繰り出そうとする野獣先輩であったが、すんでの所で「安珍様!」と炎が飛んだ。
清姫である。「ファッ!?」と炎を顔にかけられた野獣先輩はそのまま部屋の隅に転がってターキー先輩へと変貌した。湯気まで漂って非常にくさそうである。
「あはは。面白いね、野獣先輩は。あれって食べられるのかな。ねえシェイクスピア、ちょっと試してみてよ(鬼畜)」
「な、何を言っているのですかなマスター!? 吾輩にスカトロジストの真似事をしろと!?」
「だって何時も嫌いなのは凡人だって言ってるじゃない。挑戦してこその人間でしょ?(人類最後のマスター並感)」
「人間とはなんという傑作だろう(震え声)」
シェイクスピアが震え上がっている一方で、清姫とマルタはゲシゲシと野獣先輩を蹴りまくる。完全にサンドバッグ状態であった。「ロッキー1かな?」とは藤丸の言である。
「ソロモンさんもダヴィンチさんも大変怒っていたのですよ、この汚物! これで機械が壊れ、安珍様の身に何か起こったらどうしてくれるのです!」
「悔い改めなさい! 貴方の軽口でもなく、空耳でもなく、性根から悔い改めなさい!」
「良いよ、上がって!(助命嘆願)」
「あはは」
藤丸は笑い、腕を捲った。肘まで伸びた十五画の令呪の内、一つに触れながら彼は言った。
「令呪を以て命ず。野獣先輩、とりあえずドクターとダヴィンチちゃんに謝ってこようか」
「ファッ!? おかのしたぁっ!?」
「あっ、待ちなさい!」
令呪により、飛び上がって元の姿に戻り、駆け出した野獣先輩を追いかけて、マルタは去って行った。
同時に藤丸も立ち上がり、その後を追った。そして、何となく付いていく清姫とシェイクスピアであった。
そして管制室に顔を出せば、そこでは令呪の力により、野獣先輩が平身低頭で頭を下げている。
下げられている方のロマニとダヴィンチとしては、最早怒りも呆れも通り越して関わりたくない感で一杯だったので、「あーもう良いよどうでも……」「掃除だけしてくれるかな?」と疲れたような返事であった。
「うん、許してくれたみたいだね。野獣先輩、これからは断りもなく悪戯をしちゃダメだよ?」
「おかのした……」
「いや悪戯って域ではないのですが……安珍様は何時もその汚物に甘いのですから……」
「アンタが毎晩マスターの寝床に潜んでるのも悪戯ってレベルじゃないけどな?」
「わたくしの愛と汚物の汚物を混同しないで下さい、アンリマユさん(全ギレ)」
思わず炎を吹きながら清姫が振り返った先、アンリマユはケラケラと笑っていた。
そうして捲られたままでいる藤丸の右腕を見、言った。
「それにしても! いやあ、いつの間にかすっかりマスターも格好良くなっちゃって。ひょっとしてそれってオレの真似? オレってば憧れの対象だったりする? だったらアニメ化不可能なほどに動かさねえと!」
「はは、アンリマユみたいに何時も動いていたら、残りがどれくらいなのか分からなくて困るでしょ」
「そりゃそうだ! マスターのそれは在り方じゃなくて使う物だからな!」
「なーにを言っているのかしら二人とも」
マルタが呆れ顔で言った。野獣先輩もそうであるが、アンリマユもまた度々よく分からないことを口にする。
しかしアンリマユは笑みを深め、令呪を指差して言った。
「だけど、それは在り方でもあるよな? 人類最後のマスターに相応しい在り方だな!」
そう言われ、藤丸は一画を欠いた令呪を見、それを指でなぞった。都合十五画の令呪は、確かにアンリマユが言うように、これ以上無く己の在り方を示している。
人類最後のマスター。数多の英霊と契約する者の象徴。世界を救う者の聖痕。
そんな赤色の紋様を、清姫が何か言いたげにじっと見つめていた。
「ん? どうしたの清姫」
「い、え……。その……」
口ごもりつつ、清姫は藤丸の令呪を見つめ続けた。そして怖ず怖ずと藤丸の右腕、その中途に刻まれた七画から九画目に触れつつ、呟いた。
「不意に、安珍様は、どこまで行ってしまうのかと、そう思いまして……」
「顔まで刻まれちゃったら萎えるから程々にしてくれよな~頼むよ~……って事すかぁ?」
「そういうことではありません(半ギレ)」
「見えないのは困るよ。残りがどれくらいか確認できないでしょ」
「安珍様も真面目に……いえ、そう、ですね……」
顔まで刻まれるに至る。肘を越え、肩まで伸び、その先に至るまで、藤丸はサーヴァントを召喚し、契約し、闘い続ける。
不意に清姫は、その旅路を途方もなく思った。そして不意に、『この人の名前は藤丸立香というのだ』と、そう思った。
しかし、藤丸立香とは安珍である。それは確かだ。しかし、その青色の瞳を見つめると、どうにもその答えが揺らぎ、形を失い、別の何かが現れようとする。
だから清姫は「安珍様」それが恐ろしくて「安珍様……?」それを嘘だと思うことにした。
「……いえ、なんでもありません。これからもよろしくお願いしますね、安珍様」
「おー、順調に壊れてきてんなぁ! もしかして、アンタも桜シリーズの一体だったりする? 精々オレを飲み込まないように頼むぜ!」
「はあ、相変わらず意味不明な。ねえ安珍様、以前から思っていたのですが、アンリマユさんもそこのゴミと同じ、ビーストシリーズの一体ではありませんか? 何故か単独顕現スキルも持っていますし……」
「アンリマユはアヴェンジャーだよ、清姫」
「そうそう! 決してビーストでも人類悪でも、ましてや聖杯の泥でも666の獣でもございません! 清廉潔白なこの世全ての悪がオレ! アヴェンジャー、アンリマユだ!」
「矛盾しているでしょうそれ……」
相も変わらずに意味不明な言動に額を抑えつつ、清姫は藤丸を見つめた。彼は清姫を見、微笑んだ。それが嬉しかったからそれで良かった。
何時かの破綻を予感しても。
「それにしても、丁度良かった」と藤丸は召喚サークルに向き合って言った。
「特異点に連れて行けるサーヴァントは六騎までって、前にダヴィンチちゃん言ってたよね。折角だから今召喚しようと思うんだけど」
「えっ、今ぁ? 急だねえ。別に良いけどさ」
「良いだろ遠野!」
「遠野なんてサーヴァントは出てこないから(半ギレ)」
いつの間にか、システム・フェイトへ向けまたもやシコシコ触媒を生み出そうとした野獣先輩であったが、「おいふざけんなよボケ(全ギレ)」「だ、ダヴィンチ!? 口調崩れてるよ!?」しかし、生憎彼は「アーイキソ」と言って全然イかない遅漏なので、触媒が発生する前に召喚は完了した。やったぜ。
それで召喚陣がぐるぐるとして、内に含まれた第五架空元素がひくひくとしている。「ドバーッ」と景気づけに藤丸が言えば、その光球からぬっと手が飛び出した。
今度は野獣先輩のチンコを掴まなかった。代わりに拒絶するように藻掻いていた。
やがて輝きが衰えた後、そこに立っていたのは長髪の壮年男性であった。
「あー……サーヴァント、諸葛孔明。ということになっているが、別人だ。依代というヤツで、説明が面倒なのだが……しかし、それ以前にもっと問題なモノが存在するようだな!」
自分へ向けられたシコシコが萎えていくのを物凄く厭そうな顔で見つつ、孔明もといエルメロイ二世は言った。
「……マスター? 君の、あー……サーヴァントというのは、ホモビデオに関連する人物で占められているのが常なのかね? だとしたら即刻退去したいのだが」
「大丈夫だよ。アンリマユはよく分からない内に契約したし、清姫はよく分からない内に付いてきただけだよ。マルタは普通に召喚。野獣先輩が縁で契約したのはシェイクスピアだけ」
「成程、それは良かった。この汚物に縁を持っているなどと言うことになれば末代までの恥だからな」
「言外に吾輩が侮辱されているのですがそれは……(末代までの恥)」
内心、新たなる被害者の誕生を望んでいたシェイクスピアは、改めて自らの境遇にげっそりとした顔を浮かべた。見ず知らずの英雄を己の境遇に巻き込もうとは、流石はルネサンス期の文筆家の鑑にして人間の屑である。
ともかくとして、エルメロイ二世は「ええい!」と野獣先輩の萎びたチンコを振り払いながらカルデアへと降り立った。
謎に拍手をするアンリマユやらを置いておいて、いの一番に言ったのは、「何故、野獣先輩がここにいるんだ」という至極当然の問いである。
「現代知識として流れ込んできているぞ。野獣先輩。ただのホモビデオ男優。ネットミームとして主に現代日本から東アジアを中心に流行していた。つまりは英雄でも何でもない。それが何故ビーストとして存在し得ているのだ」
「野獣=ビースト。Q.E.D.だよ、孔明」
「ファック! 英霊の座は野獣先輩新説シリーズで読み解けるものではない!」
「へえ、野獣先輩新説シリーズも現代知識扱いなんだ」
「非常に遺憾だがそうらしいな……(白目)」
その言葉に清姫はほっと息を吐いた。何だか今度のサーヴァントはまともそうである。少なくとも、シェイクスピアのように『じゃあ、まず年齢を教えてくれるかな?』などと影響されまくった一文を吐くことはないのだ。
なので「これから一緒に安珍様の役に立ちましょうね、孔明さん!」と期待を込めて清姫は言うが、当の二世は「ああ……あああ?」と不穏を目の前にした顔を浮かべている。
「あー……安珍、とは、また奇妙な名……いや失敬。私は若い時分、少しばかり日本で生活していたことがあってね、少しばかり珍しい名前だと思っただけだ。気にしないでくれ」
「いや、大丈夫だよ。俺の名前は藤丸立香で、安珍じゃないから」
「そうですよ! 安珍様は安珍様ではありますが、安珍様という名前ではないのです! 人の名前を間違えるなんて、いくら三国の英雄でも失礼ですよ、ねえ?」
「おお(戦慄)」
思わず顔を引き攣らせた二世であった。