「いやあ、第一特異点は強敵揃いでしたね、安珍様!」
「そうだね。やっぱり野獣先輩は頼りになるよ」
「それが嘘ではないというのが歯がゆいですね……! 安珍様が、あの汚物に一番の信頼を置いているなど……!」
がらんとした食堂で、藤丸と清姫は言葉を交わす。彼女は1431年のフランスに発生した第一特異点を修復した後、藤丸に召喚されたサーヴァントであった。
その証拠に、藤丸の右手に刻まれた令呪は、初めの三画から九画に増えている。赤色の線は手の甲を超えて腕に伸び、複雑な紋様を見せていた。
フランスでは邪龍だの聖女だの聖人だの色々居たが、全てのフラグを「ンアーッ!」の一声で吹っ飛ばしてく様には、驚愕や感嘆を通り越して呆れが出てくる始末であった。終いには黒い聖女もでっけぇ海魔も「焼くときは!!!」とぶっ飛ばされ、大体三日ぐらいで特異点修復が完了したのである。
こうなっては英雄と縁を結ぶも糞もない。野獣先輩はかなりの頻度で糞を出していたが。そんなクソ汚い話は置いておいて、それでも愛する安珍の為、カルデアまでわざわざやって来たのが清姫だ。
藤丸自身は『はは、安珍って誰? 新しい淫夢キャラ?(暴言)』と否定したのだが、清姫はもうすっかり藤丸が安珍の生まれ変わりと信じて疑わないでいる。単に安珍とか関係なく惚れただけなのだが、それに当人は気が付いていない。そんな事は清姫という霊基が許せないのだ。
「しかし、安珍様も大変なお役目を請け負ったものですね……。世界を救う旅など、人の身には過ぎた試練でしょう」
「俺しか出来る人が居ないんだから、やるしかないってね」
「それはそうですが……しかし……」
「やるしかないってはっきりわかんだね」
「その口調だけはお止め下さい安珍様!」
「安珍様が、あの汚物に誑かされているなんて……!」と、清姫は寝てもいないのに寝取られやんけと嘆いている。それに対し、「いや誑かされてはねえよ。元からこうだったぞ?」と呆れ顔で言うのがアンリマユであった。
「しっかし最悪英霊、三流英霊と来て、発狂英霊たぁマスターも不幸だな! 少しは愚痴っても良いのよ? オレってそれにかけては一流だから」
「発狂英霊とは失礼ですね。確かにわたくしはバーサーカーですが、少なくともあの汚物や貴方よりは正気ですよ」
「ぎゃはは! 野獣先輩と同類扱いされちまったよオレ! 今なら怒りで宝具使わなくても獣になれそうだわ。ってそれじゃあ本気でプロトタイプじゃねえかってな!」
「わたくしが言うのも何ですが、アンリマユさんもバーサーカーのサーヴァントではないのですか?」
げっそりとした顔で清姫は呟く。愛しの安珍様の傍にいられるのは良いが、先輩サーヴァントには本気で苦手意識を抱いている彼女であった。
そして、そんな声を聞きつけたのか、食堂の扉を潜って「ぬわああああん疲れたもおおおおん!」と半裸の野獣先輩が現れた。「うわでた」と清姫は露骨に顔を曇らせて、藤丸を守るように身を寄せた。
「おいおい何だよマスターさぁ、三人だけで秘密の会議すかぁ? 俺も混ぜてくれよな~頼むよ~」
「秘密って程じゃないけどね。四騎目のサーヴァントを召喚するかどうかを話し合っていたんだ」
「何だよマスター、俺じゃ不満かぁ? ケツ舐められたことあんのかよ誰かによ(嫉妬)」
「舐められたことはないけど、三人は俺の盾役には不向きでしょ?」
「ま、多少はね?」
そう、藤丸が今最も危機感を覚えていたのは、戦闘中に自らの身を守る手段がない事実であった。
本来ならばサーヴァントがその役目を果たすのだが、野獣先輩は絶対的な剣として前線に出さざるを得なく、アンリマユは当人も認める最弱のサーヴァントである。
では追加メンバーの清姫はどうかという話だが、彼女は宝具やスキルは強力なものの、こと守護という役割においては全く向いていない。元はTDN荘官の娘が近接戦闘に優れているわけがなく、精々が炎を噴き出すのが取り柄であり、それも取り回しが悪いのだ。
そんな現状を勘案して、新たにサーヴァントを召喚しようという話になったのである。カルデアの発明であるシステム・フェイトの機能は素晴らしく、こうやって戦力の追加補充が可能なのだ。
「呪われてねーといいけどなあ。オレっていう前科もあるし、何より野獣先輩がいの一番に出てくるようなモンだぜ? 似たようなのが出てきたらどうするよ。ライダーMURとか、ランサーKMRとかさぁ」
「? その様な英霊が居ましたかってうわっ頭の中に……。うわ、うわぁ……安珍様ぁ……これどうにかして下さいよ……」
「寧ろ淫夢が現代知識扱いされてる事に驚きなんだけどね、俺は」
「アラヤの奴もやっぱ好きなんすねぇ~」
「はは、誰? 新しい淫夢キャラ?(暴言)」
「アラヤ(淫夢)とか守護者がブチ切れそうだなおい。特にこの殻の中身とかな!」
魔術世界に関しては無知無知の藤丸が勝手に人類の集合的無意識を淫夢ネタ扱いしたところで、管制室から連絡が入った。召喚の準備が出来たのである。
四人は連れ立って管制室へと赴き、幾何学的紋様で構築された召喚サークルに向き合った。
「本当は召喚の触媒があった方が良いんだろうけどね……完全に運か縁でしか呼べないとは、これはもうガチャだね。ガチャ。SSR英霊の確率は何%かな?」
「言い当て妙だねドクター。そうなると何か儀式でもやる? チンタップ教とかどう?」
「へえっ!? ホ、ホナニーですかぁ!?(ノリノリソロモン)」
「どっちもうるさいんだけど(半ギレ)」
「ご、ごめんダヴィンチ……」
ホモガキ同士の下らない会話をダヴィンチに怒られながら、藤丸は予め渡されたカンペを開く。「人理の轍より応えよ、汝星見の言霊を纏う七天」云々と、カンペをガン見しながら拙く詠唱し、やがて召喚サークルが光り輝いた。
「なー、誰が出てくると思う? 俺はあの黒い聖女様とか出てきたら面白そうだと思うナー。俺とのアヴェンジャーの縁でさあ!」
「あのサーヴァントはそもそも存在しなかったはずでは? と言うかアヴェンジャーではなくルーラーでしょう。わたくしはまあ順当に、フランスで出会ったどなたかが駆けつけて下さると思いますが……」
「良いだろ遠野!」
「貴方の恋人が出てくるのはわたくしとしては歓迎致しますが……主に安珍様に毒牙が向けられなくなるという意味で」
「いや最悪だよ!? カルデアが下北沢になっちゃう! カルデアこわれちゃぁ~う!(ソロモンこわれる)」
「私もこれ以上低俗な英霊が増えるのは勘弁して欲しいかな……(横目で同僚にドン引き)」
しかし言っている内に野獣先輩はその気になったようで、「ホラホラホラホラ!」と召喚サークルにちょっかいをかけ始めた。モノをしごいて召喚の触媒を今から調達しようという、実にマスター思いのサーヴァントな訳があるかいい加減にしろ。
「うわぁ……(侮蔑)……うわぁ……(ドン引き)……安珍様、この汚物、即刻燃やすべきではないですか?」
「はは、これで遠野以外が召喚されたら俺殺されるんじゃないかな」
「言ってる場合かい藤丸君! あーもう今すぐ召喚を停止させて……!」
と、余りの光景に仕方なく召喚を止めようとするダヴィンチであったが、その前に召喚陣は光球を形成し、その内から徐々に人型が形を成す。
そして、ぬっと伸び出た腕が野獣先輩のモノをふん捕まえて、引き千切らんばかりの勢いでぶん投げた。
「オォン!? アォン!? あ、アーイキソ……イキソ……(致命傷)」
「はは、遠野じゃないみたいだね。殺されるかな俺」
「だからなんだって君はそう呑気なのだよ(呆れ)」
ダヴィンチに呆れられながら、藤丸は召喚されたサーヴァントを見つめた。野獣先輩のモノを掴んだというのに、平然と「ふん」と鼻息を立て、汚物でも見るように睨んでいる。と言うか汚物そのものだから仕方がない。
身の丈を超えた杖を片手に、身に纏った白布を靡かせながら、彼女は言った。
「私はマルタ。ルーラーのマルタです。いの一番にこんな汚物を見せ付けないでくれない? マスター!」
「あ、さっきぶりだね。あの時はライダーだったけど」
「あら、順当なお方が」
「ちぇっ、賭けには負けかよ」
藤丸は笑ってマルタを歓迎した。マルタはフランスで対峙したサーヴァントの一騎であった。「いや、聞いてるの?」「聞いてる聞いてる」言う割にへらへらと笑っている藤丸に、マルタは長い溜息を吐いた。
「あの時もそうだったけど、さいっあくの現代知識ね……。現代に神の愛は十分じゃないのかしら? 人の業が形を成したもの。祈りましょうか……」
「い、いの、祈る前に回復して欲しいんですがそれは……!」
股間を押さえながらビクビクと床に這う野獣先輩を、マルタは「うわキモッ」と言って蹴飛ばした。
「いくらアンタが無辜の怪物であったとしても、いきなりチンコを見せ付けてくる輩に愛を唱えたくはないわよ。私はあの人ではないのだから」
「キリストなら野獣先輩のチンコを見ても愛を唱えてくれるの?(素朴な疑問)」
「そうよ!(断言)」
「そうなんだ……(感心)」
そこで藤丸はロマニをじっと見つめた。対してロマニはぎょっとして冷や汗を流した。
「い、いや、なんだい?」
「ドクターはどう?(鬼畜)」
「な、なにが?(め そ ら し)」
ソロモンとキリスト、系列的には同じ神話の救世主として期待するようにロマニを見つめる藤丸に、決して目を合わせようとはしない彼であった。
やがて「はは」と笑って藤丸は言った。
「残念だね、野獣先輩。ドクターは君を愛してくれないってさ」
「あっ、お前さSLMNさ、さっき俺の事チラチラ見てただろ」
「見てないけど!? ホモ特有のこじつけは止めてくれないかな!?」
「はぁ? ソロモン? アンタが? ……とと、おほん」
今更過ぎる繕いをした聖女マルタであったが、「いや無理だろ。ヤンキー丸出しだったぜ? 新約聖書のコネチカット・ヤンキーか?」とアンリマユの言葉に青筋を立てている時点で無駄であった。
「あーうっさいうっさい。というかアンリマユ? 常識的に考えて悪神が召喚に応えるものなの?」
「野獣先輩が召喚されている時点で常識もクソもねえだろ! つーかオレも一応は聖人枠だからな! そら、この姿はまるでクリスマスツリーのように!」
そう言ってアンリマユは謎に青く輝き始めた。本人も「なんでオレ青色に光ってんだ?」と不思議そうに首を捻っている。本人でさえ知らぬのだから、その理由は誰にも分からない。
そして、いきなり光り出したアンリマユにドン引きしながら、清姫が言った。
「まあ、アンリマユさんが意味不明なのは何時ものことですし……何より、あの汚物に比べれば何でもマシではないですか?」
「それはそうね……(納得)」
ともかくとして、無事にカルデアの新顔として迎え入れられたマルタであった。ルーラーの割には何故か近接戦闘に優れており、藤丸の盾役としてはぴったりである。
本人も「共に世界を救いましょうね、マスター!」とやる気十分で、藤丸も満足げにうんうんと頷いていた。
「良かったなマスター! ようやくまともなサーヴァントが来たぜ。これでオレも安心してサボれるって訳だ!」
「わたくしを貴方達の同類扱いしないで下さい。燃やしますよ?」
「清姫さんとアンリマユはともかく、アレがまともじゃないのは確かね」
「満場一致でまともじゃない扱いとか酷い……酷くない?」
アンニュイな顔で言った野獣先輩に対し、藤丸は笑って言った。
「大丈夫。たとえまともじゃなくても、野獣先輩は頼れるサーヴァントだから。ファヴニールとかいう淫夢キャラだって一撃だったでしょ?」
「最上級の竜種すら淫夢キャラ扱いとか、全く藤丸君にはたまげたなぁ……(呆れ)」
「私は君にもたまげっぱなしなんだけどね。同僚がホモビデオを楽しんで見てたとか(半ギレ)」
「く、クゥーン……(アンニュイソロモン)」
「……アンタ、本気でソロモンなの? 本気の本気で? 神に誓って?」
わざわざアンニュイ先輩の顔真似までして語録を使うロマニのホモガキっぷりに、マルタは呆れ混じりにドン引きした。「後輩のあの人に恥ずかしくないの?(追撃)」と言葉でぶん殴り、「そ、そうだね……(図星)」と見事にKOである。
それを他所にアンリマユは言った。
「まー仕方ないんじゃねーの? だってアンタら驚いたり警告発したり野獣先輩に罵倒重ねたりしてマスターに説明してくんねーし。つーか悪竜現象って何だよ(哲学)」
「悪竜現象が何だとしても、それとは全く関係なく竜種になった清姫は本気で何なんですかね……?」
「うわっ、わたくしの名前を口にしないでくれますか? ゴミ」
「流石に酷い……酷くない?」
清姫に罵倒され、意気消沈した野獣先輩であったが、「まあまあ」と藤丸が取り成した。
「確かに野獣先輩は見るだけで不愉快だし、クッソ汚い汚物だけど、だからこそ頼りになるんだからさ。マルタもよろしく頼むよ」
そう語る藤丸の目には野獣先輩への全幅の信頼がある。呪いのせいで言うほど役に立たなかったジークフリートやらを差し置いて、単騎で敵を殲滅する彼の姿は、藤丸には確かに英雄と映っていた。
そして何よりも、それを成したのが野獣先輩だというのが藤丸を勇気付けた。よく知らない英雄よりもホモビ男優の方が強いのだ。笑っちまう事実である。
その事実があったからこそ、藤丸はまだ笑えた。
「マスターがそう言うのなら……」とマルタは渋々と頷こうとして「いや、やっぱ無理よ」と掌を返した。「まあそう言わずに。ね、野獣先輩?」と藤丸は言い、しかし返事は返ってこなかった。
見れば、野獣先輩は感極まったように涙を流し、「おお(感涙)」などとほざいている。そしてそのまま、まさしく野獣が如くに飛び掛かった。
「お、お前の事が好きだったんだよ!!!」
「くたばりなさい邪悪! これは神の思し召しです!」
「オォン!?」
藤丸に魔力供給(意味深)しようとした野獣先輩を、見事にマルタが杖でぶっ飛ばした。
何かと藤丸を襲おうとする野獣先輩から守るという意味でも、マルタはぴったりのサーヴァントであった。