異世界転生周回プレイもの   作:にーしち

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友達

 あの忘れがたい迷宮踏破から数日、酔ってあの時のことを覚えているかわからないが、流星女は変わらず接してきた。こちらは次の日顔を合わせる時に気が気でなかったのに、俺の純情を返してほしい。

 あの日の涙を溜めた顔や微笑みは、ちょっとした役得だったと思って綺麗サッパリ忘れることにした。

 下手な感情を抱けば、かえって自分を傷つけるだけだ。パーティーの男女のいざこざとかよく聞くしな。

 

 あれから変わったことを強いて挙げるなら、模擬戦をする機会が増えた事だろうか。こちらとしては戦闘で学ぶ機会も多いし、こいつ相手ならなんの躊躇もなしで二刀流を試せるから訓練には丁度良かった。

 1年程前から扱い始めた二刀流は俺の突出した身体能力を最大限活用する手段として有効で、器用さの素質もかなり高い数値に設定していたお陰か、異様なほど早く二刀流の基礎をものにすることができた。

 まだ荒削りな部分も目立つが、実戦で短期決戦の戦闘を行うとなれば純粋に手数を増やせるこちらが優先される。以前の迷宮最下層の階層主も、二刀流でなければ流星女を守りきれなかっただろう。

 

 迷宮踏破後も変わらない日常を送っていた俺達だったが、ギルドからある通達があり連合国の首都である都市に赴くことになった。

 

「式典?」

「そうよ。私は階位に認定されるし、あなたも1級でしょ?1級って、貴族としての子爵の階級が与えられるのよ」

「そう言えばあったな、そんな特権」

 

 どちらかと言えばギルドからの優遇処置をメインで考えていた事もあって貴族になれることはすっかり忘れていた。1級を目指す冒険者の中にはこの子爵相当の権力と地位を求めるものも多く、没落貴族が復興を志して1級を目指すなんて話もあったりするらしい。

 

「そう。そういう特権の付与は冒険者ギルドと国が相談して制定してるけど、一応は貴族の位だから授与式が必要なのよ。後は、私の階位認定なんかはギルドの首脳陣と色んな国の王族や皇帝の許可があって初めて認められるのよ」

「詳しいな」

「1級になった時面倒くさかったのよ」

「なるほど」

 

 階位冒険者に貴族の地位が与えられるかは謎だが、多分望めば侯爵の地位なんかは簡単に手に入るだろう。それほどまでに、階位冒険者というのは圧倒的な存在だ。

 いわば単騎で国を崩壊させかねない戦力なわけだし、国からしてもできるだけ飼いならしておきたいはずだ。

 

「式典ってどんな感じなんだ?」

「国の偉い人達が集まるのよ。最初に授与式をして、その後は吟遊詩人が唄う貴族の舞踏会のイメージそのままだわ」

「……出られるのか?」

 

 主に俺の顔とか風貌の問題で。

 

「さぁ?一応招待される側なんだから、出られないってことはないでしょ」

 

 こてんと、可愛らしく小首を傾げる。

 なんとも曖昧なことだが、招集されたからには行かないわけにはいかない。

 ギルドからの正式な通達だ。断ればいつまで経っても1級に昇格できない。

 

「さぁ、って……わかった、とりあえずその式典に出ればいいんだな」

 

 ここまで来たのに式典に出なかったせいで1級昇格を逃しました、は笑い話にもならない。

 

「私は3回蹴ったけどね、首都のギルドマスターが直接出向いて来て頭を下げてきて、しょうがないから行ったのよ」

 

 マジかよこいつ。

 こいつの実力なら2級で放置する方が問題が大きかったんだろうな。

 式典となればマナーとか色々あると思うんだが、大丈夫だろうか。

 

 こうして、ギルドの案内に従い俺は4年ぶりに慣れ親しんだ迷宮都市から離れることが決まった。

 大分間隔が空き始めていた母さんとの手紙には、しばらく手紙の返事を返せないと記してしばらく分のお金を送っておいた。

 稼ぎは増えたが、あんな小さな村に無駄に大きいお金を送っても争いのもとにしかならない。あくまでも稼ぎに足せばそれなりに裕福な生活ができる程度の金額にとどめてある。家族のことも考えれば、丁度いいくらいだろう。

 

 

 

 首都へ向かう最中、無駄に広い馬車の中で揺られながら俺は外の景色を眺めていた。

 俺と流星女で一緒に移動するはずだった馬車の中には、何故か三人の人間がいる。

 窓側に座る俺と、何故かその真隣に座る流星女。そして、対面に座る人物。

 

 そう、優男くんだ。

 彼も3級昇格を兼ねて活動拠点を移すらしい。

 冒険者は外での魔物討伐や貴重な素材の採取などの活動がメインで迷宮探索にだけ全力を注ぐやつも珍しい。俺達が拠点にしていた迷宮は踏破されて、滞在する理由も少なくなったんだろう。

 その点については理解できるが、ひとつだけ気になることがある。

 

 お前パーティーどうしたんだよ。

 

「解散しました」

「あの娘達は?付き合ってたんじゃないのか???」

「いえ全然」

 

 鬼かよこいつ。最近見ないなと思ったらあのハーレムパーティーは少し前に解散したらしい。

 俺があのパーティーメンバーだったら泣く自信がある。

 こいつは準1級クラスの実力で、周りの娘達は良くて4級程度で実力も離れていたから解散という判断はわからなくはない。だが、だからと言っていきなり解散で首都に移動するのは血も涙もなさすぎる。未練とかないのか。

 以前、俺はこいつを聖人君子だと思っていたが最近それが間違いであることがわかってきた。

 こいつは、自分なりのポリシーや正義感、価値観により突き動かされているだけで、それに反したら俺のこともあっさり見捨ててくる結構血も涙もないやつだ。

 実際、流星女の一件で俺は完全に見捨てられた。いつか復讐してやる。

 

「なんでいるのよ」

「言ったじゃないですか。僕も首都に用事があるので」

「別の馬車乗りなさいよ」

「丁度首都行きがあったのでご一緒しただけですよ。先輩も一緒でしたし」

 

 頼むから喧嘩しないでくれ。

 どうして転移門の技術は高低差には強くても横移動には弱いんだ。いや、迷宮内部の高低差とこういう馬車移動の長さを比べたら仕方がないんだが、今はあの瞬間移動技術が恋しかった。

 

「まあいいわ。私達の邪魔だけはしないでよね」

「別に先輩のことを取ったりしませんから」

 

 どうどう、と威嚇する野生動物を落ち着かせるような素振りをする。

 確かにこの流星女は懐かない自由気ままな野良猫と大差はないかもしれない。

 そして、何故この女はずっと俺の隣を陣取っているのだろうか。対面側が嫌なのはわかるが、普通は反対の窓側に行けばいいはずだ。

 無駄に広い馬車の中で何故か片側の窓に3人全員集まるという異様な光景だった。

 なんか息苦しい、誰か助けてくれ。

 

 

 首都へと向かう馬車の旅の最中にも、馬を休める為に立ち寄った村で俺と流星女は模擬戦を繰り返していた。腕が鈍らないようにというのもあるが、迷宮を踏破した頃から二刀流を使った全力戦闘ではチャンスを作れる機会が明らかに増えたことに気がついた。

 この感覚を忘れたくなかった俺は、旅の途中にも関わらず毎日手合わせを繰り返していた。

 

 今日も、また後2.3手足りないという場面で首に剣を当てられて敗北を宣言する。

 

「今日も私の勝ちね」

「クソっ、ダメだな」

 

 着実に、こいつに近付いている。だが、それは未だに勝利からは遠い。

 チャンスがあっても、相手はそれをただ掴ませてくれるわけでない。だから、チャンスに思えるそれも実際には幾重もの壁の先にあるものだ。今の理想通りに動けたとしても相打ちが精々だろう。

 あと少し、数歩、取っ掛かりがあれば攻略ができそうな気がする。でも、その“何か”が掴めない。

 

 死ぬほど手合わせしてわかったが、流星女の身体能力はそこまで高くはない。勿論、1級に恥じない運動神経や腕力だとは思うが、隔絶しているかと言われればそうでもない。問題は、戦闘で連動して身体を扱う上手さだ。

 反対に、俺は流星女ほど身体運びや剣技が熟達していない。勿論、普通の剣士と比べたら圧倒的な才覚があるだろう。それでも、この女に土を付けるには足りない。

 そこで考案したのが自分の身体能力を存分に活かせる二刀流だったわけだが、やはりまだ遠い。

 こればかりは更に時間を掛けて向き合うしかないな。

 剣の技量も、身体能力も、一朝一夕で突然降って湧いてくるものでもない。

 

「よかったら、僕も1戦してもらえませんか?」

 

 先程の戦いの反省を頭の中で描いていれば、意外な人物が名乗りを上げる。

 ギルドではそもそも流星女に挑むアホなど誰もいなかったから、これは意外だった。

 

「どういう風の吹き回し?」

「いえ、先輩が目指してる場所を身をもって確認してみようかと」

「ふぅん……いいわ、1戦だけ。全力で来なさい」

「はい、もちろんです」

 

 流星女の強さは嫌と言うほど実感してるが、優男くんも相当強い。

 優男くんとは数は多くはないが、模擬戦をしてきたこともあってある程度の実力を把握してる。

 流星女の時ほど全力ではないが、それなりに本気で戦ってきた。

 簡単に決着は付かないはずだ。

 

 星の光を灯す黄金の剣と、清らかなオーラと光を纏う白銀の剣。

 どちらも伝説級の武器であることに間違いないこの対決に、流石に興味を惹かれる。

 

 だが、俺の予想に反して勝負の結末は刹那だった。

 

 

 両者のにらみ合い、合図のない始まりを告げたのは優男くんの方だった。

 彼はお得意の魔法により自らの身体能力を補助して踏み込んだ。

 身体強化系の魔法を使用した純粋な速度は、既に俺を抜いてるかもしれない。

 

 圧倒的な速度で放たれる斜め下からの斬り上げ、それに対応する彼女はまるで剣筋全てを読んでいる様にしてひらりと紙一重の半身で躱す。斬り上げた刃の切っ先が、微かに服と髪を揺らした。

 そして、読み通りに翳された剣を上から叩いて弾けば、そのまま剣の先を踏みつけて首筋へと剣を当ててしまう。

 

「弱い」

「参りました」

 

 予想以上にあっさりな結末だった。

 俺の予想では、もう少し善戦するかと思ったのだが、読みが外れた。

 

「あいつみたいになりたいなら、せめてその隠しきれない余裕を捨てることね」

「……」

 

 彼女は、それだけ言って村の方へと歩いて去ってしまった。

 平常運転ではあるんだが、なんというか微妙に冷たい対応だと感じてしまった。

 優男くんも、貼り付けた笑顔が普段よりも硬い。

 

 確かに、優男くんも若干驕ってる部分はあったのかもしれないが、大体彼はいつでも真面目である。

 今回の立ち会いでも、表情からは気迫が溢れていたし、もしかすれば接戦になるかもしれないと思わせるだけの雰囲気があった。

 余裕がなかったとは言わないが、余裕というのは裏返せばそれだけ相手に緊張してないことでもあって、悪いことじゃない。

 

「大丈夫か?」

「はい、現実を目の当たりにしただけなので」

 

 大体こういう時は遠巻きに眺めるだけで、当事者にならないのが彼のスタンスだ。

 その事もあって、今回自分から名乗りを上げて挑みに行ったのはかなり意外だった。

 

「別に気にするな。誰にでも驕りはあるし、これは実戦じゃないし、模擬戦1回の結果で全てを喪うわけでもない」

 

 なんと言っていいかわからないが、せめてもの慰めの言葉を送る。

 

「いえ……あの人の言葉はあってます。僕は……ちゃんと頑張れてないので」

「どういう意味だ?」

 

 起き上がった優男くんは服についた砂埃を払えば、月を見上げながら提案してくる。

 

「少し歩きませんか?」

 

 

 

 村に灯る光を遠回しに見ていれば、村に住んでいた頃のことを少しだけ思い出した。

 

「僕って、強いじゃないですか」

 

 なんだこいつ、煽りか?

 階級的には3級だが、1級冒険者とも遜色ない力のあるこいつを誰も弱いとは言えない。

 失敬、あの流星女を除いてだ。

 

「そりゃな」

「でも……だから、先輩みたいになりたいんです」

 

 俺みたいに?どういう意味だろうか。

 包帯グルグル巻きになりたいとか、剣士として近づきたいとか、あの女と競い合えるようになりたいとか、そういうニュアンスでないことはコミュ障の自分でも察せられる。

 多分、これは結構真面目な話だ。

 

 初めは俺が助けただけの関係だったが、この4年で俺はこいつに散々助けられた。

 ギルド間のことや、俺が知らない情報、友人として過ごしてくれたこと。

 なら、それだけの恩返しはしたい。

 

「僕は、色んな意味で才能があったと思います。魔法の才能も、いろいろな武器を使う才能も」

「そうだな」

 

 確かにこいつは得物は何を使わせても強い上に、色々な魔法も取得している上に魔法戦士としてそれが使える。

 魔法と近接の両立というのは果てしなく難しい。魔法を発動する為のプロセスを踏みながら、近接戦による戦闘も行う。それは、難しさで例えるなら両手の鉛筆で違う文章を書きながら平均台を歩くのに等しい行為だ。

 だが、それを彼は簡単にこなしてしまう。才能というほかない。

 

「先輩は、剣術は僕よりも強いです。それひとつで1級に上り詰めてしまう程に……でも、先輩はいつも僕よりもずっと必死でした。毎日毎日、剣を振ってただがむしゃらに何かに追われるみたいに。そして、今度は何かを追いかけるように」

 

 なるほど、少しだけこいつの言いたいことが理解できた気がする。

 

「先輩は、僕の憧れでした」

 

「迷宮に潜って死にかけた時、僕は諦めてたんです。これでもいいかって」

 

「でも、あなたに助けられて。毎日必死になって剣を振って、戦う姿を目にしました。戦うことが好きでもないのに、痛そうに怪我をして戻ってきた時も、次の日は変わらず戦いへ向かって。地位も名誉も、僕よりも上にあるのに、あなたは1日だって剣を振ることをやめなかった。満足しなかった」

 

「だから、あなたの軌跡を追いかけるみたいに、僕も上を目指しました。最初は勝手もわからなかったですけど、あなたを真似て、あなたを超えられるように……でも、あなたみたいに必死にはなれなかった」

 

「人を助けていい気分になったりもしました、仲間に囲まれて、天才だって持ち上げられて、楽しかったです。でも、それ以上は十分だって、感じてしまったんです。先輩みたいに、強引な方法で階級をあげたり、あの人に必死に追いつこうとしたり、そういう風にはなれなかったんです」

 

「僕はいつも、なにをやっても、心の何処かで現状に満足してたんです」

 

「何があなたをそうさせるんですか?」

 

 俺は、自分が頑張ってる姿が他人にここまで影響を及ぼすとは思わなかった。

 でも、それはあの日俺がこの世界へまた向き合う決意をした流星女の練習風景と似たようなものなんだろう。

 

「俺が必死なのは、これしかなかったからだ。自分の目的の為には、剣以外なかった。それ以外、なんにもなかったんだ」

 

 俺が必死になれたのは、何もなかったからだ。

 そして、目的があった。その為に努力しなければいけなかった。

 きっと、こいつにはそれがない。

 金も名誉も力も、なんでもあって、目的もない。

 

「うーん……じゃあ、そうだな」

「はい」

「俺は、世界を救う運命を背負ってるんだ。失敗すれば、どれだけの人が死ぬかもわからないって言えば、お前は納得するか?」

 

 完全に思考停止した顔になってしまった。

 それはそうだろう。だって言ってる意味わからねぇもん。

 

「理解はしました」

「よし」

 

 つまり、こいつは何でもできるから必死になりたいということだろう。

 何でもできるから、適当に始めた冒険者でも1級クラスになれてしまって。

 何でもできるから、適当に他人を慮って人気者になってしまって。

 絞り出した才能でここまで食いつないできた俺からすればなんとも羨ましい事この上ない話だ、ぶん殴ってやりたくなる。

 

 でも、それと同時に考える。

 俺はきっとこいつみたいに容姿も才能も地位も恵まれていたなら、ここまで努力できなかっただろう。

 災厄が来ることがわかっても、きっともっと酷いゲーム感覚で臨んでいたはずだ。

 だから、きっとわかってやれるなんて言葉では言えないが、少しだけ想像することはできた。

 

「お前、友達だよな」

「少なくとも僕はそう思ってます」

 

 今まで言語化は避けてきたのでほっとする。

 もしもこれで友達じゃないとか言われたらショックで寝込むところだった。

 これで前世から続く36年間のぼっち脱却である。

 アホみたいに惨めに頑張ってたら友達ができるなんて、わからないものだ。

 

 俺は、この言葉でこいつを変えられるとは思わない。

 結局、自分を変えるのは自分自身だ。

 それでも、少しでもこいつのモチベーションになるのなら、“友達として”この言葉を言いたかった。

 

「なら、お前が俺を助けてくれ」

「え?」

「予知夢みたいなものだ、半信半疑でもいい。でも、確実にその未来は来る。きっと、俺や、あの流星女だけじゃ足りないほどの脅威が訪れる。で、俺は女神様のお告げでそれを止めなきゃいけない」

 

「そんな時、お前が友達って言うなら、俺に力を貸してほしい」

 

「そして、それは今の俺達の実力なんかじゃきっとどうしようもない。俺は口下手だし、協力者だって上手く作れないだろうな。でも、お前は実力もあれば交友関係もある、俺以上に何でもできる」

 

「現状で満足されたら困る」

 

 ぽかんと、口を開けたままだった優男くんはしばらくフリーズしてから腹を抱えて大笑いした。

 こいつ、人が大真面目に話してるのになんて奴だ。

 

「ぷっ、ふふ。あは、あははははは!なんですか、それ」

「言った通りだよ」

 

 人間には目的へ向かう為のモチベーションというものがある。

 俺は、前世でそこまで人に期待された覚えがない。

 それなりの成績で、地元のそれなりの高校へ入って、お前はできる、お前は特別だなんて誰にも言われたことはない。

 ゲームだけは別だった。ゲームの世界でだけは、簡単に特別になれた。

 だから、俺はゲームが好きだった。際限なくのめり込んだ。

 今もそうだ。数十回しか言葉を交わしてない対して思い入れのない女神様だとしても、俺は世界を救うことを期待されてる、だから頑張れる部分も多少はある。

 

 人は、自分で自分に期待できなくなれば、あっけなく頑張れなくなってしまうことを俺は知っていた。

 

「俺はお前に期待してる。もっと強くなって、いつか困ったときに助けてくれるって」

 

「だから、頑張ってくれ」

 

 お腹痛いといいながら腹を抱えて笑っていた優男くんは、先程までの暗い雰囲気を忘れたようにいつも通りに笑った。

 

「はい、じゃあその時は先輩の助けになります。まずは、そのためにも先輩と同じ1級にならないと、示しがつかないですね」

「あー……いつも先輩って呼んでくれてるけど、タメ語でいいぞ。そもそも、俺って年下だし」

 

 地味にこれをずっと言うタイミングがなかったんだ。ここで白状してしまおう。

 

「そうだったんですか?身長も僕より大きかったので、年上かと」

「詐称だよ詐称。ギルドに突き返される可能性があったから」

「でもいいですよ。先輩は先輩なので、これからも先輩って呼びます」

「ならいいけどな」

 

 当人がいいと言うなら突っ込むのも野暮か。

 

「それより、さっきの話ってもうあの人にしたんですか?」

「あいつに?いや、全然」

 

 別にお前にだって喋る予定はなかったよ。

 ただ、ノリと勢いに任せて言ってしまっただけだ。

 いつかは話して力になってもらおうかと淡い考えはあったが、決めていた訳では無い。

 そもそも、ここまでこいつから憧れだとかいう感情を抱かれてるとは思わなかった。

 

 流星女には、袂を分かつときが来たら相談しようとは思っていた、特定のタイミングで力を貸して欲しいと。ただ、一向にそのタイミングが来ないままここまで来たので、結局話すことがなかった。

 

「あぁ~、そうなんですか」

 

 優男くんは何やら満足気に微笑んでいた。

 なんでこいつこんな満足そうなんだ?

 さっきまでへにゃへにゃに落ち込んでいたはずなのに、突然元気になった。

 

「じゃあ、僕は先輩の『友達』なんで、これから色々頑張らないとですね」

「あぁ、頼りにしてるよ」

 

 何が楽しいのかよくわからないが、とりあえず元気になったので良しとする。

 

 

 後日、結局優男くんは引き返して解散したメンバー達に声をかけてくると言っていた。

 

「僕を信じて着いてきてくれてた人達なので、1回裏切っちゃいましたけど、ちゃんと話してみます。僕も、あの人達のことは好きなので」

 

 とのことだった。俺は、こいつのこういう面があるから突き放せなかったんだと思い出した。

 

 ちなみに翌日はなぜか死ぬほど不機嫌な流星女の相手を1日中させられた。

 解せぬ。

 

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