異世界転生周回プレイもの   作:にーしち

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名前は不要の票が多かったので、これからも変わらず進めようと思います。
また、お気に入りや感想、評価などありがとうございます。すごく励みになります。
予想以上に多くの方々に読んでいただけて嬉しい限りです。


パーティー

 流星女とパーティを組んで10ヶ月、あの女の宣言通りの1年以内に迷宮の最深部に到達してしまった。

 迷宮の未踏破領域というのは本当に危険なものである。ギルドが設置した転移門もなければ、どんな魔物やトラップがあるかもわからない。それを何階層も降らなければ行けないとなれば、未踏破探索というのは酷く神経を使い、場合によっては何年も掛ける場合もある。

 だがまあ、現実は化け物により未踏破の20層分を数ヶ月で攻略されて無事この迷宮の最下層へ到達してしまった。

 

「思ったより大したことないわね。あいつらはこんなのに手こずってたの?」

「お前の剣技とその剣の前じゃ全て大した事ないだろうな」

 

 頼むからお前の実力でギルドの奴らを測らないで欲しい。最前線で攻略してたパーティーは毎月未踏破領域に挑んで凄く頑張ってた。

 未踏破領域の調査はマッピングの仕事もあるのだが、俺達が時間を取られたのは常にそちらだった。

 全ての迷宮が同じかはわからないが、ここは下へ降りれば降りるほど1層ごとの広さは拡大していた事もあって最下層手前のマップ埋めは死ぬほど苦痛だった。あまりに広すぎる。

 

「さっさとここの地図も埋めて帰るわよ」

「はいはい」

 

 

 数日に分けて最下層を探索した俺達は迷宮の核を守っているであろう区画も発見、大凡の調査を完了した。調査が完了すれば、次は階層の主を倒さなければいけないのだが、今回は事実上のラスボスということもあって流石に緊張する。

 ちなみに階層主は死ねば定期的に復活なんてことはないので1回殺せば終わりである。階層ごとに強力な魔物が生まれるのは迷宮の防衛本能か何かだと言われている。

 

「ビビってるわけ?情けないわね。こんなのこれから何度も相手にするわよ」

「ほっとけ」

 

 軽口を叩きながらグローブを引き絞り、慣れ親しんだ魔剣を抜いて調子を確かめる。

 流星女は何も気にせずに最後の部屋へと踏み込んだ。

 

 

 中へと踏み込み、姿を表したそれは無数の竜頭を生やした魔物だった。現代ならばヤマタノオロチだとかヒュドラだと言えば通じそうな外見のそれは、この最下層への侵入者に首をもたげて威嚇してくる。

 鼓膜が破れそうなほどの咆哮に包帯越しでも肌がピリつく感覚を覚える。それほどまでに目の前の魔物の存在感は強大なものだった。

 百を超える眼がこちらを睨み、出方を伺っていた。ヤマタノオロチにしては些か首が多すぎるな、50以上は確実にありそうだ。

 

「首多すぎるだろ」

「数が多いからどうしたのよ。どっちが多く首を落としたか勝負よ」

「マジかよ」

 

 やっぱりこの女は正気じゃない。

 

 ───戦いの火蓋は、神速の一閃で首ひとつを穿った少女により切られた。

 竜頭の魔物は痛みと怒りを滲ませた咆哮をひとつあげれば、襲撃者を食い殺そうと無数の頭が向けられた。全ての首がまるで別の生き物の様に躍動し、的確にこちらを狙い迫る。

 一手違えば、眼前に迫る顎に捉え食い殺されるだろう。

 しかし、相手の牙がこちらへ達するよりも前に振るった剣が顎を砕き、首を落とす。

 

 戦闘の最中、反対側で笑い声をあげながら剣を振るう少女の様子を見れば、既に十以上の竜の首を地面へと叩き落としていた。

 

 これは、ペースアップを図らないと勝てそうにない。

 こちらも負けじと向かって来る首を片っ端から斬り落としては相手の懐へと潜り込み、曲芸のように身体を回転させながら刃に勢いを乗せ、次々と首を斬り落とす。

 

 無数にあった竜の首が地へと落ちる度に、魔物は絶叫をあげて怒りを露わにする。そして、口中から生まれた炎を吐き出してこちらを牽制しようと足元一帯を焼き払ってきた。

 魔法使えたのかよ。このまま悠長に足元に立っていれば丸焦げにされる。

 既に顔面は焼却済みなのでこれ以上は勘弁願おう。

 

 迫り来る業火から大きく飛び退いて状況を確認すれば、既に首の半数近くは落ちていた。

 既に次の突撃姿勢を整えていた流星女に落とした数を聞いてみる。

 

「何個?」

「20!」

 

 無理だ勝てねえ!

 

 恐らくこれがこいつの本領発揮だったのだろうが、既に遅すぎた。

 竜頭の魔物は炎、雷、水、氷、口の中で練り上げられた魔力が様々な形を為してはこちらへ放たれる。だが、魔法とは所詮魔力と理論により世界を歪める法に過ぎず。実体のない摩訶不思議な力ではない。

 つまり、全ては斬ればいい。

 

 申し訳ないがこちらは斬る以外の選択肢がないんだ。

 熱かったり寒かったり、そんなことを気にせず全ての魔法を斬り伏せれば、今度は頭の上に飛び乗り長い首の上を駆け抜けた。

 視界に映る首、それらを引き上げられた身体能力に物言わせて片っ端から叩き斬る。

 

 振り下ろし、袈裟斬り、逆袈裟、突き。

 磨き上げられた剣技は、鱗による障壁をものともせず肉と肉の間に刃を滑り込ませ、その繋ぎ目を断つ。

 

 「このままじゃ私の勝ちよ!」

 「わかってるわ!」

 

 あいつのペースが速すぎる。もう半分以上ひとりで落としてないか?

 

 酷い蹂躙劇の果てに、気が付けばあれだけあった首の数も片手で数えられる程だ。

 首の数が減れば手数も落ちる。魔法も近接も、手数が減ればそれだけ攻撃の隙が増える。

 半分以上を初手の攻勢で落とされた時点で、勝敗は決していただろう。

 

 残りの首にも刃を掛けようとしたその時だった、これまでとは種類の違う咆哮を竜頭の魔物があげた。

 まるで、なにかに共鳴しているように全ての首が叫んでいる。

 

 なにか嫌な予感を覚えて退けば、それは的中した。

 これまで全て地面へと切り離した首が塵へと帰ったかと思えば、全ての首が再生し始めたのだ。

 

 なるほど、流石はダンジョンのラスボス。簡単に勝たせてくれないらしい。

 

「どうする?」

「あの子を使うわ、ちょっと稼いで。これ貸してあげる」

 

 流星剣、その異名を担う星の光を灯す剣が姿を表した。

 そして、鞄から取り出したもうひと振り。

 炎を纏う剣を俺へと投げ渡した。

 

「わかった」

 

 実際、それ以外の勝ち筋はなさそうだ。

 あの再生速度を上回る速度で首を落とすことは俺達二人でもできない。

 なら、再生が終わる前に一撃で全て消し飛ばす他無いだろう。

 

 三十秒、ここからは防衛戦だ。

 

 

 

 流星剣とは星の魔力が溢れ、流れ出て形作られた剣。

 故に、星の魔力を宿す。

 

 本来、魔力に纏わせ扱うだけに留めるそれから、生み出される無尽蔵の魔力を引き出して剣へ込める。

 

 流星剣を横に構えた少女は、瞳を閉じて無防備に敵の眼前に立つ。

 荒れ狂う魔力の奔流を全て込めたそれは、一手制御を違えば全てを巻き込んで自爆しかねない。

 故に、少女は回避も防御も全て捨てて全神経を剣の魔力の制御に注ぎ込む。

 

 目の前の脅威に気づいた魔物は、少女を亡き者にしようとあらゆる手段を尽くす。

 

 

 だが、その全てが届かない。

 あらゆる魔法は届く前に包帯を纏う剣士に落とされる。喰らいつこうとする顎も両断されては、刹那の間に斬り刻まれ、血ひとつさえ少女へ届くことはない。

 炎が全てを焦がして、蒸発させてしまう。

 明らかに、あの包帯の剣士の動きが先程までと違った。

 

 二刀流。二本の剣を扱う男は先程までとは違う、少女に似た変則的な剣技で目の前の全てを蹴散らす。

 まるで、こちらの攻勢が児戯とでも思えるほどの技で以て少女への攻撃を阻む。

 

 巫山戯ている。

 竜は自らが迷宮により産み落とされたものであると理解していた。

 竜とは、この世界の絶対的な脅威である。

 迷宮の最後の砦となる魔物。

 それ故に、自らは竜として生み出されたのだ。

 

 しかし、その竜の暴威はひとりの人間の剣士の前では無力だった。

 おかしい、こんな事はありえない。

 再生した首は、次々と地面を転がり既に10以上はその命を絶やした。

 このままでは、あの少女の狙いまでに仕留めることは叶わない。

 

 

 竜種が厄介とされるのは、その知能の高さと学習能力の高さもひとつとして挙げられる。

 竜は命が危機が迫った間近、ひとつの解を導き出した。

 

 これまでバラバラに魔力を巡らせていた首を一点に集めて、炸裂させる。

 本来、首ひとつで並の魔法使い以上の火力を誇る故にそんな必要はなかった。

 だが、今この場所では圧倒的な火力が求められる。

 全ての魔法が斬り落とされるなら、剣では斬れぬ程の魔力で片を付ければいい。

 首の大半は反動で死するだろうが、この剣士共を葬ってから再生すれば問題ない。

 

 やはり、自分は竜種。人間種に叶うはずがない存在なのだと安堵にも似た感覚を覚えた竜は、自らの中に巡らせていた魔力を掻き集める。

 勝負は決したとほくそ笑んだその時───

 

 

「悪いが、もう三十秒経ったぞ」

 

「『流星』」

 

 星の奔流が、竜を穿った。

 

 

 

 流星剣の一閃が空間を焼き払えば、あっさりと竜頭の魔物は死んだ。

 よくもまあ最大出力でぶっ放したものだ、核が壊れたり迷宮が崩壊しなくて良かった。

 

 流星女いわく、この技は剣技もへったくれもないから好きじゃないらしい。三十秒以上戦場で無防備状態になるので、元々そこまで現実的な技ではないのだが。 

 本来、あの女の流星剣は無限に溢れる魔力を軽く纏わせて、後はもう生まれる魔力も一緒に剣に乗っけて斬るだけのシンプルな武器だ。性格的には凄くらしい武器だが、流石は二つ名の元になるだけあって出力が尋常じゃない。

 なんかやろうと思えばビームみたいにもできるらしい。

 

「やっぱ斬った感じがしなくてつまんないわね」

「しょうがないだろ、あれ以外に対処方法はなかった」

「ま、そうね。これでこの迷宮も踏破ね」

 

 核は奥の部屋にちゃんと存在した。

 迷宮の核は発見されても特に壊されるとかそういうことはない。

 今後はギルドの厳重な管理のもとで迷宮は運営されるだろう。

 スタンピードとか、何かしらの問題が生じたら致し方なく迷宮が破壊されるとかはあるらしいが。

 

「さ~って、どんな子がいるか楽しみね!」

「剣以外興味ないのか?」

「ないわ」

 

 即答かよ。

 

 迷宮の中には、迷宮内で紛失した武器や道具が取り込まれ、魔力に漬け込まれることで変質する場合がある。取り込まれた武具が何処で再出現するかは運次第だが、特に最深部はその傾向が多い為、最初の踏破時は魔道具や特殊な武器の類が多かったりする。

 

 奥にある迷宮の中心部に向かえば、文字通りの金銀財宝と呼べるものが集められていた。

 流石迷宮最下層の中心。これまで死んだ冒険者の遺品や、迷宮形成時に取り込まれたものが長期間魔力を帯びて魔道具化している。

 全て売っぱらえば一生遊んでも使い切れない金になりそうだ。

 

 流星女は剣に夢中で金銀の山をひっくり返した中から剣を集めて並べている。

 俺もそろそろもう1本魔剣が欲しい。

 二刀流する時に片方だけ魔剣じゃないと死ぬほど使いづらい。

 

「この子、なかなか良いわね」

 

 流星女が拾い上げた剣は、明らかに呪われてますと言わんばかりの禍々しい力を帯びていた。

 持ち手が十字になっているその剣は、いわゆるバスタードソードと言われる類の剣だった。

 

「お前大丈夫かそれ」

「これ?別になにもないわよ」

 

 試し振りをすれば剣の軌道上に黒炎が舞った。

 どうやら見た目通りに魔剣だ。

 

「いいわね」

 

 気に入ったらしい。

 

「なぁ、さっきの賭け覚えてるか?」

「どっちが首を落とせるかでしょ?私があいつを殺したんだから、私の勝ちよ」

「いや。お前は『どっちが首を多く落としたか』で勝負って言った。稼いだ三十秒で落とした首も含めれば、俺のほうが多い」

 

 だからその剣をください。

 俺もいい加減二つ名になりそうな武器が欲しい!

 

「なっ!そんなのずるいじゃない!」

「ズルもクソもあるか、今まで見つけた剣は全部くれてやっただろ」

 

 まあ、今までの剣は丁度いいものがなかったから渡してた訳だが、最深部にあっただけあって明らかに業物だ。

 

「むぅ……」

 

 めっちゃ膨れてる。

 そのかわいい顔で膨れるのやめろ、俺が悪者みたいになる。

 

「あ~。わかった、いいよ。それはやるから。賭けに勝ったんだし、いつも貸してくれる炎のやつ、毎回借りるのも面倒だろ。だから、お前と一緒にいる間は持たせてくれないか?」

 

 毎回、戦闘時に借りるのは面倒臭い。

 そもそも二刀流を使う場面が多くないが、いつでも切り替えられるようにしておきたいのだ。

 

「ほんと!?」

 

 ぱあっと花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 こいつどんだけ欲しかったんだよ。

 

「ほんとほんと」

「しょうがないわね、しばらく貸しておいてあげるわ!」

 

 先程まで修羅の如き戦闘を繰り広げていたとは思えない、呑気な笑顔で剣を渡してくる。

 相変わらず憎たらしいほどの美少女っぷり。

 笑顔も相まっていつも以上に金髪が眩しい気がする。

 いつもこうならただの超が付く美少女なのだが───

 

「地上に戻ったら早速試すわよ。付き合いなさい」

 

 結局こうなる。

 

 

 

 ギルドへ迷宮踏破のことを伝えれば、お祭り騒ぎだった。

 冒険者達の間で迷宮踏破の事実が知らされ、瞬く間に情報は拡散してこの都市に住む一般市民も含めて完全に宴会状態だ。この都市自体が迷宮を軸に栄えた場所なわけで、そんな場所の迷宮が踏破されたとなればそれはもう一大行事に間違いない。

 

 流星女はみんなの前で楽しそうに踏破宣言をして、周囲から持ち上げられては有頂天になっている。

 案外、ああいう子供っぽい部分もあるんだなと酒を片手に眺めていると、隣に優男くんが腰掛けた。

 

「お疲れ様です先輩、混ざらなくていいんですか?」

「ああいうのは苦手だ」

「そんなことばっかり言って、また拗ねられますよ」

「ほっとけ」

 

 前世ぼっち陰キャの悲しき性である。

 それ以上に、あんなに可愛くて素敵な娘の隣に包帯野郎が立っていてもいい迷惑だろう。

 名声が欲しいわけでもなければ注目されたいわけでもない。今回の迷宮踏破は流星女の階位認定を確定させる為と、俺の1級昇格も兼ねていた。

 目的が達せられればそれで十分だ。

 

「そういえば、1級昇格ですね、おめでとうございます」

「ありがと。お前もどうせすぐ上がるだろ」

 

 昔は大差あったはずの優男くんとの差は、気が付けば殆どなくなってしまっていた。

 俺が容姿を差し出して手に入れた強さを、こいつは圧倒的顔面力と共に備えている。

 天は二物を与えずとは何だったのか。

 

「流石に2年以上はかかると思いますよ」

 

 こいつの中で2年あれば上がれる計算なわけだが、十分おかしい。

 1級とは冒険者の頂点。普通は生涯をかけて目指すものである。

 

「十分おかしいけどな」

「先輩に言われたくないですね」

 

 それはそう。

 4年で1級なんて殆んどありえない。

 一番ありえないのは十代にも関わらず階位冒険者なやつだが。

 

「そう言えば、ここに来てもう4年か……お前とも長い付き合いになったな」

「懐かしいですね、昔は殆ど顔も合わせてくれませんでした」

 

 一番人間不信な時期だったからな。

 あの時は顔を合わせた瞬間に攻撃されるんじゃないかと気が気じゃなかった。

 気が付けば、後ろに立たれても警戒する事も少なくなった。

 それを考えれば、大分変わったと言える。

 

「先輩は、どうして僕と組んでくれなかったんですか」

 

 えっ、もしかして気にしてたのかこいつ。

 

「……迷惑かけられないと思ったからだよ」

「そうですか」

 

 優男くんの笑顔がなんか怖い。

 どうした、いつものスマイルは何処に行った。

 

「先輩。僕はいいですけど、もっと周りの人を頼ってあげたほうがいいですよ。特に───」

 

 言葉を続けようとしたところで、思わぬ乱入者が現れる。

 

「あなた、またそのいけ好かないのとばっか喋って、こっち来なさいよ!」

 

 優男くんと話していたのが気に食わなかったのか、こちらへ来ていた流星女に腕を取られて引っ剥がされてしまう。

 向こうで自分の最強っぷりを豪語しながら他の冒険者達相手に酒盛りしていたはずなんだが。もう注目されるのに飽きたんだろうか。

 

「いけ好かないのってな……」

 

 ギルドで1番のモテ男な優男くんに対して酷い言い草である。

 確かにたまに胡散臭いし思考盗聴してくるけど。

 やはりこいつ恋愛に興味ないんだろうか、剣にしか興味ないし。

 

「あなたはこっち来ればいいの!」

 

 片腕をガッシリとロックすれば、離してくれそうにない。

 これには流石に優男くんも苦笑いである。

 

「あはは、僕はお邪魔みたいなので失礼します。先輩、またよかったら今度一緒にクエストでも」

「あぁ、またそのうち」

 

 あぁ、俺の心のオアシスが去ってしまった。

 しかし、こいつ顔が赤いな。どんだけ飲んだんだ?

 

「おい、明らかに酔ってるだろ」

「失礼ね!酔ってないわよ!」

 

 何が失礼なのかまるでわからん。

 呂律も若干回ってないし、明らかに酔いが回っている。

 

「あなたはもっと自分の剣士としての価値を自覚しないとダメよ」

「自覚してるって。じゃなかったら一緒にいないだろ」

 

 こいつ、そんなに酒を飲むやつだったのか?この一年でここまで酔っている姿を見るのは初めてだ。迷宮踏破に遂に階位認定ということもあって浮かれたんだろうが、剣以外に興味のないこいつがなんとも珍しい。

 取り敢えず水を飲ませたが、余り様子も変わらない。

 

「だから~……ねえ、ちゃんと聞いてるの?」

「聞いてる聞いてる」

 

 なんかよくわからんことばっかり言ってる。

 これは祭りもそこそこで宿に送ったほうがいいかもしれない。

 このままこいつを置いていけば、そのうち暴れ出して酷いことになりそうだ。

 

「ほら、帰るぞ」

「もう、わかったわよ……」

 

 肩を貸してやれば急に大人しくなって従い始めた。

 酔いが冷めて恥ずかしくでもなったんだろうか。

 主役が途中退場するのは申し訳ないが、どうせ明日も宴会騒ぎは続くことだろう。

 飲みに飲んで騒ぎ立てている冒険者達を横目に、流星女を連れてギルドを後にする。

 

「ねぇ」

「どうした?」

 

 宿へ続く帰路の途中、急にしおらしくなった流星女が口を開いた。

 ここまでしおらしい姿は今まで見たことがない。

 普段の傍若無人な振る舞いからは想像できない態度だ。

 なにか変なものでも食べたんだろうか。

 

「私は、これで階位でしょ?あなたは、これで1級だわ」

「そうだな」

 

 急に当たり前のことを言い出した。

 

「その……最初にパーティーを組んだ時、迷宮を攻略するって、言ったでしょ」

「言ったな」

「でも……その……迷宮を、踏破しちゃったじゃない」

「したな」

 

 喋れば喋るほど、普段あれほどはつらつとした彼女の言葉尻が弱々しくなる。

 夜の暗闇の中、都市の明かりを頼りに彼女の表情を伺えば、目尻には若干涙が溜まっている。

 何か泣かせるようなことをしてしまったのだろうか。

 俺は、できるだけ彼女の信頼には応えてきたつもりだ。

 裏切るようなことだって、してきたつもりはない。

 

「……」

「大丈夫か?」

 

 不味い、本気で心配になってきた。

 パーティー解散とか言われるんだろうか。

 いや、それも仕方ない。やっぱりこの包帯塗れの不審者といるのは、嫌だったのかもしれない。

 急に自分の心の中にも不安が募ってくる。やはり剣を貸してくれなんて言わないほうが良かっただろうか。

 

「パーティー……」

 

 パーティー?

 

「続けるわよ……ね?」

 

 こちらへ体重を預けたまま、涙を溜めながら上目遣いで覗き込んでくる。

 ズルだろ、それは。

 

「当たり前だろ。解散する理由もないし、あの剣譲り損になるだろ」

「えへへ……確かに、言われてみればそうね!」

 

 ダメだ、顔をろくに合わせられる気がしない。

 今日ほど自分が包帯をしていて良かったと思ったことはない。

 今の笑顔は、童貞歴36年の俺には刺激が強すぎる。

 

 俺は、これまでこの女を極力異性として捉えないように努力してきた。

 自分の容姿で誰かを好きになったとしても迷惑をかけるだけだと、今世の幼少期からの経験で嫌になるほど理解しているから。

 それなのに、今の笑顔は反則技だ。

 

「勝手に抜けるとか言い出したら、許さないから」

「わかってるよ」

 

 第一、こいつは自分の可愛さをよく理解してるんだろうか?

 いやまあ、確かにこいつは紛れもない剣狂いだが、それ以上に途方もない美少女である。

 ギルドでも、こいつにワンチャンスと考えている人間は少なくないだろう。

 それを考えるだけで、苛々した。

 

 宿の前に辿り着けば、できるだけ感情を悟られないように押し殺して別れの挨拶をする。

 

「水飲んで、暖かくして寝ろよ」

「もう、わかってるわよ」

 

 俺も酒を飲んで今日のことは忘れよう。

 

「ねぇ」

 

 背中を向けたところで、後ろから呼び止められた。

 

「絶対、勝手に何処かへ行ったら許さないから」

 

 ───俺は、その言葉に一瞬だけ薄ら寒いものを感じた。

 

「あぁ」

 

 振り返り、いつも通りの返事をした。

 彼女の表情は、暗くてわからなかった。

 

「ならいいわ。おやすみ」

「あぁ、おやすみ」

 

 何だったんだろうか。

 いや、今日のことを深く考えるのはやめよう。

 俺の目的は災厄を止めて、軽率な判断の末に生まれた自分の存在をこの世から消すこと。それだけだ。

 今日は俺もあいつも、お互い迷宮攻略達成や昇格の事で舞い上がっていたんだろう。

 明日になれば、いつも通りの日常だ。

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