■「お元気ですか」って書かれた封筒を開けられない
大学時代の友達から、手紙が届いた。
封筒の表に、丁寧な字で「お元気ですか」と書いてあった。
宛名も、差出人の名前も、当時のままだった。
開けられなかった。
SNSではとっくに繋がっていないし、
連絡先ももうスマホには残っていない。
たぶん、卒業してから一度も会ってない。
なのに、10年以上経って突然届いた手紙。
何かあったのかもしれない。
ただの近況報告かもしれない。
でも、開けたら何かが壊れてしまう気がした。
私はあの頃と、まったく違う場所で、まったく違う人間として、
なんとか今日まで生き延びてきた。
何かに成功したわけじゃないけど、
誰にも迷惑かけずに静かに暮らすことで精一杯だった。
それなのに、過去だけが、こうやって勝手に呼びかけてくる。
「お元気ですか」なんて、いちばん返しづらい言葉だ。
元気じゃないわけでもない。
でも、胸を張って「はい」と言えるほどの毎日でもない。
そのあいだの、どこにも位置づけられない10年だった。
封筒はまだ机の引き出しにある。
たまに取り出して眺めるけど、まだ開けられない。
開けられなかった理由が、言葉にできないまま溜まっていって、
こうしてはてなに書いている自分がいる。
今、あなたが誰かに「お元気ですか」と書こうとしているなら、
どうか、その言葉が相手にとって優しさでありますように。
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