●5カ月訴えたSOS
2021年2月、野々市市布水中の当時1年の女子生徒(13)が複数の同級生からのいじめを苦に、自ら命を絶った。学校に被害を訴えてから5カ月、毎月のアンケートに「いま、いじめられている」と回答を続けたが、学校側は重大事態として受け止めなかった。死を選ぶ前日の調査用紙では「いじめられていない」を選択し、対応してくれなかった学校への諦めがにじんだ。同じ布水中では2年後にもいじめが原因で生徒が転校する事態が明らかになっている。住みよいまちを標ぼうする野々市で続くいじめ問題の実態に迫る。
20年9月、布水中は市教委にいじめに関する報告書を提出した。そこには、その後自死する女子生徒の名が「加害者」として書かれていた。
理由はこうだ。クラスメートから嫌がらせを受けていた女子生徒が、無料通信アプリ「LINE(ライン)」で言い返す形で加害生徒の名前を書き込んだ。すると、加害生徒はその行為を「いじめられた」と受け止めて「被害者」として学校に訴えたのである。
●「加害者」のイメージ
女子生徒の父親によると、学校に事情を聞かれた女子生徒は自らの被害を申し出ても聞き入れられなかったという。母親は学校に呼び出され3時間以上話を聞かれたが、娘が受けたいじめに対応する様子はなかった。
「学校は娘の声に一切耳を傾けなかった。最初の『加害者』という誤ったイメージを引きずって詳しく調べることをせず、問題の幕引きを図った」。父親は憤りを隠さない。
女子生徒は教諭の指示に従ってラインに書き込んだ加害生徒の名前を削除。学校はいじめを認知してから3カ月後の20年12月、この問題は「解消した」と市教委に報告した。
当時から野々市市教育長を務める大久保邦彦は「最初の報告から3カ月しっかり経過を見た上で、問題は解消されたと考えていた」と振り返る。
しかしその間、女子生徒に対する同級生のいじめ行為は解消するどころか、エスカレートしていった。
女子生徒の死後、市教委が設けた第三者調査委員会の報告書などによると、20年9月以降、女子生徒は複数の同級生から仲間外れにされてラインのグループから削除されたり、「学校に来んな」「死ね」と悪口を言われたりと孤立するようないじめを繰り返し受けた。
女子生徒の異変に気づいた両親も学校に出向き、いじめに直結している生徒間のSNS(交流サイト)のやりとりを調べるよう要求したが、学校側は消極的な姿勢に終始したという。
●「確証を持てず」
父親が特に問題視しているのが、学校のいじめアンケートである。
全校生徒を対象にほぼ毎月行われているもので、女子生徒は20年9月から翌年1月まで毎回、「いじめられている」と答え続けた。しかし、学校は、市教委にアンケート結果を報告することすらしなかった。
なぜ、学校側は深刻ないじめ問題ととらえなかったのか。当時、布水中の学年主任として対応したベテラン男性教諭=金沢市=は「訴えには組織的に対処していたが、いじめと言い切れるか確証を持てない面があった。学校は警察のようなことはできませんから…」と言葉を濁す。
女子生徒は21年2月11日、自宅で死亡した。その前日に配られたアンケートには「いじめられていない」に丸が付けられていた。
受け止められなかったSOS。「娘は先生も学校も信じられなくなり、絶望したのだと思う」。そう目頭を押さえる父親は、今も無力感と悔恨にさいなまれている。(敬称略)