通信制高校「サポート施設」は通学定期券対象外?波紋広がる

「やっと居場所を見つけたのに…」

「ほかの高校生と変わらないのに…」

NHKの情報提供窓口、「ニュースポスト」に通信制高校の生徒を持つ保護者から相次いで届いた切実な声。

新年度から通学定期券の利用ができなくなるというものでした。いまや生徒の数が29万人にのぼる通信制高校ですが、中には学びを支援するために設けられた「サポート施設」に通う生徒も多くいます。

こうした生徒を通学定期券の販売対象から外す方針を打ち出していたJR東日本ですが、28日、急きょ方針を延期していたことが判明。

新年度のスタートを前に波紋を広げている「通学定期券」をめぐる動きを追いました。

“年間8万円以上”負担増の可能性も 困惑する生徒

茨城県内に住む、通信制高校の生徒の家庭では通学定期券の販売対象外になると年間の費用負担が2倍近くに増えるといいます。

茨城県八千代町に住む高校2年生の伊東舞桜さん(17)は去年4月から電車とバスで片道2時間ほどかかる、さいたま市内にある通信制高校のサポート施設に通っています。

今月12日の修了式で伊東さんは学校から「通学定期乗車券・学生割引回数乗車券の利用に関するお知らせ」という文書を受け取りました。

この文書にはJRの制度改正で来月1日以降、サポート施設に通っている生徒は通学定期券などの利用対象外になり、通学に影響が出る可能性があると記されていました。

伊東さんの場合、通学定期券にかかる負担は年間9万円ほどで、通学定期券が使えなくなると年間17万円ほどと8万円以上負担が増えることになります。

伊東さんは文書を受け取った日にJR東日本にメールで問い合わせましたが、返信は「個別の学校を審査できない」という趣旨の回答だったということです。

伊東さんがいまの通信制高校を選んだのは前の学校でいじめにあったためでした。

ようやく新しい高校生活にもなじみ、何よりも大学受験を控えた時期の突然の出来事に困惑しているといいます。

伊東さんは「私のようなサポート施設に通う生徒もほかの高校生と変わらない生活を送っているので、通学定期券を使わせてもらいたいという気持ちが一番大きいです」と話していました。

「サポート施設」担当者 “憤り”

サポート施設におよそ1000人の生徒が通っている通信制高校の担当者は「通学定期券の販売対象外となる話を知ったときは衝撃で、校内も混乱しました。通信制高校は前の学校でいろいろなことがあり、『ここなら通える』という生徒が少なくないだけに今回の問題には憤りがあります」と話しています。

生徒や保護者からはこれまでに少なくとも数十件の相談があったとして、中には「頑張って学校に行こうとしているのにその頑張りを否定されたようで悲しい」とか「全日制と同じように通っているのに認めてくれないのは差別だ」という声があったということです。

担当者は「サポート施設の生徒が機械的に切られるような制度変更になっています。生徒たちの学びの選択肢を減らさないためにこれまでどおり通学定期券の対象にしてほしい」と話していました。

通信制高校とは

通信制高校は、戦後、高校に進学せずに就職した「勤労青年」が教育を受けられるよう設置されました。

基本的には通学せず、自分で学習をしてレポートを提出したり、自宅でテストを受けたりします。

一方で、学習指導要領で定められた回数、高校に登校して「スクーリング」と呼ばれる面接授業のほか、体育祭などの特別活動も履修する必要もあります。

こうして必要な単位を修得すると、全日制の高校などと同じように高校の卒業資格を得ることができます。

近年は、増加を続ける不登校の子どもたちの受け皿に加えて、柔軟なカリキュラムで学べることなどから選ぶ子どもも増えていて、多様な学びの選択肢の1つとなっています。

通信制高校の新設も相次いでいて、去年5月の時点で公立と私立であわせて303校にのぼり、この10年でおよそ1.5倍に増えています。

また、通信制高校に通う生徒の数は9年連続で増加していて、29万87人と過去最多となりました。

実に高校生の11人に1人が通信制に通っています。

「サポート施設」とは

「サポート施設」は、通信制高校に通う生徒の学びを支援するために設けられ、通信制高校を運営する学校法人のほか、学校と提携する学習塾などが運営しています。

通信制高校に通う生徒のレポート作成などの支援や生活面のサポートのほか、大学進学を目指す生徒の学習支援を行っていて、中には週5日で通うコースを設けている所もあります。

基本、通学する必要がない通信制高校の生徒にとって、サポート施設は進学のための学習場所のほか、先生や友だちに会える学校のような場所ともいえます。

ただ、あくまで学校教育法で認可された学校ではありません。
通信制高校との位置づけがあいまいとなるなか、一部の通信制高校で不適切な学校運営が問題となったことなどを受けて文部科学省は2022年に法令の改正を行い、「サポート施設」をあくまで支援のための施設であり、卒業に必要な単位を修得できない施設に明確に位置づけました。

文部科学省によりますと、サポート施設は、去年5月の時点で全国に1897件あり、およそ4万3000人の生徒が通っているということです。

問題の背景に「サポート施設」めぐる見解の相違

今回の問題の背景にあるのが、サポート施設が「通信高校の単位修得に関わる施設かどうか」の見解の相違です。

文部科学省によりますと、JR東日本側は2022年の法令改正でサポート施設はあくまで支援のための施設で、通信制高校の卒業に必要な単位認定に関わる施設ではないとされたことから通学定期券の対象に含めない判断をしたということです。

一方、文部科学省の見解は異なります。

サポート施設が行っている学習や生活面の支援は、生徒が単位を修得することにつながっているほか、学校の組織などを定めた規則に記載された施設で、都道府県知事の認可を得ているとしています。

文部科学省によりますと、去年12月以降、JR東日本から通信制高校に対し、「ことし4月からサポート施設については通学定期券の販売対象から除外する」と連絡があったということです。

このため文部科学省は鉄道事業を所管する国土交通省とともに先月と今月中旬の2回、JR東日本側に多様な生徒の学びを確保するためにも通学定期券の対象に含めるよう依頼していました。

JR東日本の対応は

JR東日本では、卒業に必要な授業などを受けるためにJR側が指定した学校に通学する場合に通学定期券の販売対象としてきたとしています。

そして、2022年の文部科学省の法令改正ではサポート施設はあくまで支援のための施設で、通信制高校の卒業に必要な単位認定に関わる施設ではないとその役割が明確化されたとして、新年度が始まる来月から通学定期券の販売対象から除外することを決めたということです。

去年12月以降、各通信制高校に通知しましたが学校や保護者などから「急に利用できなくなることは納得できない」とか、「困惑している。再考をお願いしたい」などといった見直しを求める声が相次ぎました。

このため、一転して、来年3月31日まではこれまでどおり通学定期券の販売対象にすると方針を変更し、28日、国に伝えたということです。

NHKの取材に対してJR東日本は「順次該当する通信制高校担当部署に電話や書面によって連絡します」などとコメントしています。

一方、来年4月以降の取り扱いは現時点で決まっていないとしています。

識者 “サポート施設の実態明らかにすることが必要”

通信制高校に詳しい愛知学院大学教養部の内田康弘准教授は「通信制高校の発足時と違い、近年は不登校経験など多様なニーズを抱えた子どもが入学していて、学校側にとってもサポート施設は通信教育を行う上で重要な施設であることは間違いない。こうした教育活動の実態を理解した上で、通学定期券の負担をどうするのか議論していかなければならない問題だ」と指摘しています。

そのうえで「サポート施設は、ビルの1室にあったりフリースクールに併設されたりとさまざまで、運営実態が正確につかめていない課題もある。国などがサポート施設の施設数や生徒数、活動内容などを明らかにすることが、今後の議論において必要になる」と話しています。

今回の取材のきっかけになった「ニュースポスト」。身の回りの困りごとや不正・不祥事についての情報をお寄せください。その声をもとに私たちは取材を進めていきます。