性
プラスチックのゆりかごの中に知り合いは一人もいない。隣に座っている人の名前も出身も知らない。当たり前だけどぼくはなぜか寂しくなってくる。
特にやることもないのであの人が君に、とおすすめしてくれた小説を読む。
素敵な主人公だ。ぼくの中の清潔な部分を切り取ったような主人公、というと失礼になるだろうか。彼はぼくと違って繊細で美しい。ぼくはある部分で深く共感する。 (以下はその作品を読みながら書いた散文)
恋愛。ぼくはそれについてよく知らない。というより、性について。ぼくはゼロサムでしか考えられない。無いか有るか。高校時代(といってもそれは半年と少ししかなかったけれど)、ぼくは典型的な男子だったと思う。男に期待されることを全うしようとした。一人称はおれで、性の話をした。男と女に明確に分かれた世界で、男を演じた。AVとHipHopの話をした。女子を採点した。ぼくは最悪だった。軽薄な悪口、軽薄に使われる死ねという言葉。そのような世界だった。ホモソーシャル。たいして好きでも無いラッパーをかっこいいと言った。中学生時代のように取り残されることだけは避けたかった。学校に居場所を作るために必死に男であろうとした。その中で彼女もできた。その人に対して好意を抱いたことはなかったけど、彼女を作ることが男であるために必要だった。だから告白した。今考えるとぼくは最悪だし、最低だ。でもその渦中にいる当時はとにかく必死だった。学校で生き残る為に。
初めては酷かった。ヴァージンでいることは許されなかったから。ぼくはその称号のために行為をした。愛もなかった。ただ、それをしたという事実の為に行為をした。相手にも失礼だし、今はそんなことをしていた自分に耐えられない。でも当時はそうせざるをえなかった。
ぼくは多分自意識過剰だった。中学の頃のようにホモソーシャルからはじき出されるのがひたすらに怖くて過剰に順応しよとうして空回りしていたのだと思う。
結局しばらくしてぼくはそれに耐えられなくなった。本来の自分とかけ離れすぎていたのだと思う。苦しくなって学校には行けなくなった。今でもその時の自分が顔を出すことはあるし、それも自分の一部だとは思うけれどやっぱりあれはぼくじゃ無いと思う。思いたい。
女になりたいのかと言われれば、それは違う。ぼくの肉体は間違いなく男性のもので、それは決定事項だ。それを問題にして手術したいわけでもない(誰かがそれをすることに関しては全く否定的じゃないけれど、自分には、たぶん、違う)。
ただ、ぼくは少し曖昧な境界線にいたいだけだ。レザーのスカートを買ったことがある。addidasのジャージと合わせてみたかった。試着室で似合ってますよと言われて、流れで買った。でもいざ履こうとすると、なぜか履けなかった。何かが違うのだ。ぼくがそんなことをしてはいけないような気がする。誰かに怒られるような気がして履けなかった。髪を伸ばしていたときも、決してアイロンはしなかった。してはいけないような気がしたからだ。別に男でもアイロンくらいするし、それで誰に責められるということもない。だけど何故かとても怖かった。積み重ねられた無意識がそれを否定した。
今でもぼくは変われていない。男としての自分は依然として存在しているし、消せない。女になれるわけでも、なりたいわけでもない。ぼくはぼくでありたい。自分でいたい。性別ではなく一人の人間として存在していたい。
でも、それは限りなく難しい。相手が女性的な反応をすると、ぼくはほとんど無意識的に男性的であろうとしてしまう。僕には性欲があって、その為に動いてしまうことがある。それはいくら恨んでもたぶん、変わらない。ぼくは動物に戻ってしまう。それが嫌だし、誰かを傷つけてしまいそうで怖い。ぼくが過去にそうしたように人を傷つけたくはない。もう誰も傷つけたく無い。僕にとって男性性は有害さにしか見えない。でも心の底ではそれを多分求めてる...
ぼくはドラゴンタトゥーの女や女神の見えざる手といった映画が好きだ。女性が活躍する映画、女性がかっこいい映画。ぼくは純粋にそれに惚れるし、好きだと思う。でもそれは考えようによっては、男性性を女性を通して見出しているだけなのかもしれない。ぼくは最低だ。男性的なものから逃げたのに、それをどこかで求めている。
一時期フェミニズムに傾倒していたこともあった。それもあって、どうしても男性性が有害にしか見えない。でもぼくは自身は男性で、多分男性的なものも好きなのだ。それは許されないのに。許されないのは自分が一番わかっているし、許したくも無いのに、そう思ってしまう。
ぼくが正しいと思ったものも、結局は逃避行でしか無くて、ぼくが傷つけない為にやってたことも人を傷つけていたのかもしれないと考えると自己嫌悪でどうしようもなくなる。ぼくは繊細ぶるには酷い過去を持ちすぎているし、今さら高校時代に戻ることもできない。今はただ、誰も傷つけたく無い。
その人がすすめてくれた本は僕にとってすごくよかった。ちなみにタイトルは「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」です。
いいなと思ったら応援しよう!

コメント
1Creepy Nuts発見