生成AI推進派のよくある勘違い集
ネット上でよく見る、勘違い意見を集めてみました。
(というか、私が過去に、SNS上で直接言われたことです)
「タイピストがワープロに代替されたように、技術の進歩は仕事を奪う場合がある。AIがイラストレーターの仕事を奪うのは文明の発展のためには当然のことである」
ワープロは入力手段の効率化でしかありません。著作物である文章は、あいかわらず人間が考えました。しかし、生成AIは他人の著作物をコピー・学習し、大量に作られた出力結果が市場を置き換えます。生成AIは完成品の大量供給装置で、権利処理の問題が発生します。
元となる職業の著作物を勝手に利用して、生成AIは学習し、大量に生成された完成品が市場を置き換えます。このような例は過去にありません。過去に淘汰された職業と同列に扱えないと思います。
「AI学習は人間の学習と同じ」
「人間だって他人の著作物を見て学ぶ。AI学習は人間の学習と同じ。AIの学習を禁止するということは人間の学習も禁止する必要がある。」という、いかにももっともらしい意見をよく見ます。
この意見はAI学習の一部分しか見ていません。AIが学習する際は、大量の著作物をコピーして学習します。実用的な画像生成AIでは、数億枚の画像を学習しています。人間はこのような大量の著作物を学習していません。
また、「人間もやっていることだからOK」というのが、そもそも誤りです。
人間が学習目的でやったことなら、なんでも免除になるわけではありません。たとえば、図書館にある全ての本を個人的な学習のためにコピーすることは、アメリカの「フェアユース」の範囲を外れます。日本でも「私的利用目的の複製」の範囲を外れます。大量にコピーする必要がある場合、それらの本を購入するかライセンスを取得してコピーする必要があります。コピーが商用目的なら、なおのことです。
「生成AIはペン等と同じ、ただの道具である」
生成AIはペンと同じという比喩には、色々な観点が抜け落ちています。
「学習データ収集複製→学習→生成→作品公開」のうち、「プロンプトを入力して画像が生成される」という部分だけ切り出して都合のいい部分だけしか見ていません。
①学習段階の複製行為
AI学習段階では、大量の画像学習データを必ずローカルに複製する必要があります。複製せずに学習はできません。ペンの製造、使用には複製行為が存在しません。
コピーそのものが著作権法上の侵害になり得えます。Getty Images が Stability AI を訴えている核心点がここです。
②ツールの主体が二重
ペンは利用者のみが表現を作ります。生成AIは学習(開発者)と生成(ユーザー)の二重構造です。学習が違法ならユーザーも二次的に侵害に巻き込まれます。
③スケールと市場代替
やろうと思えば1クリックで何百枚もの絵を生成でき、既存のイラスト市場を置き換えかねない力を持ちます。ペンの生産性向上はここまでではありません。生産性が高いのは良いことと単純に思うかもしれませんが、そんな単純な話ではありません。無断で著作物を学習したAIが、元となった著作物の市場を置き換える勢いで大量の作品を生成した場合、フェアユースとはみなせないというのがアメリカ著作権局の判断です。
「AI開発が遅れると世界の競争に負ける」
という、AIを使わないのはダメなこと、という感じで言ってくる人もいました。AI開発現場にいる方がこういうならわかります。しかし、こういうことを言ってくる人ってただのAIを使っている1ユーザーだったりします。そして、その人のSNS(X)を見つけて開いてみると、AIで作ったエッチな画像が
並んでてそっとブラウザを閉じたりします。
これは言ってることは間違えていないので、「勘違い集」に入れるべきものじゃないですね。ただ、私の個人的な愚痴です。
AI企業が、無断で著作物を利用していたのはどんな理屈に基づく?
そもそも、他人の著作物を勝手に複製して、平気でAI学習に用いていたのは、AI企業はどういう理屈でこれを合法だと思っていたのでしょうか。
それは「画像生成AIはテキストから画像を生成するので"変形性"が高いのでフェアユースだから著作物を無断学習してもOK!」というのがAI企業の理屈です。
"変形性"とはフェアユースの要件の1つです。新しい表現や意味が元となった著作物に追加されている場合は変形性が高い、元の著作物のコピーにすぎない場合は変形性が低い、と判断します。例えば、著作物の本の内容を引用して報道に使用する場合は変形性が高いですね。
最近のアメリカの司法判断としては、学習元データと生成結果の市場が同じで商業的に競合する場合、変形性を低く見るべきと判示しています。
考えてますか?
上の例は、
・イラストレーター = タイピスト
・AI学習 = 人間の学習
・生成AI = ペン
という比喩になっています。
こういうのって、何も考えなくていいから楽なんですよ。
人間って、何か新しいものが出てきたときに、それを理解するのは苦痛に感じます。年齢を重ねるほどそうなっていきがちです。なので、「現に存在する何かと同じもの」としてしまうのは、思考を放棄できるので楽なんですよ。
他人を攻撃するのやめようね
私はイラストをTwiterに上げてただけなのに、こういうことを言われてイヤだったよ。誤った認識を元に他人を攻撃しないよう、正しい認識が広まることを願います。
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コメント
138つまり営利目的利用の情報収集の場合、画像検索に写った全てに対して著作権法に抵触する…?
実際には私的利用の複製でもアウトな筈の違法アップロード作品が、閲覧だけなら法的にセーフとなってしまっている辺り複製に当たらなさそうですが
はっかさん
営利目的で画像を収集したら、著作権法に抵触します。
ただし、画像検索に映った、というような一時的なキャッシュの場合、著作権法47条の5で例外として許容されている認識です。
「意図的な保存・収集」と「一時的な閲覧によるキャッシュ」は法的な評価が異なっていて、後者は処罰の対象外です。
米国で学習された場合は、別の論点が発生しますし、学習後のモデルの使い方次第ではあるんですが、日本の著作権法では、思想または感情の享受を目的としない利用であれば、利用できるとの理解に誤り等ありますか?
あと、作風事態は著作権の対象ではない点も
あああさん
日本国内でAI学習を行う場合ですが、書いていただいた内容であっているのですが「ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」という部分が抜けています。
著作権者の利益を害するような場合はNGになります。