「骨太の方針」原案 実質賃金1%上昇目標、政策は従来路線
政府の経済財政諮問会議は6日、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の原案をまとめた。物価を調整した実質で1%程度の賃金上昇を定着させる方針を打ち出した。盛り込んだ政策は中小企業への支援など従来路線の踏襲が目立ち、具体的な道筋までは描けていない。
石破茂首相は6日の諮問会議で「デフレに逆戻りせず、成長型経済への移行を確実にするため、当面のリスクの備えに万全を期しつつ、日本経済、全国津々浦々の成長力を強化していく」と述べた。
今年の春季労使交渉は賃上げ率が2年連続で5%を超えるなど、所得環境は改善を続けている。それでもなお現状で賃金の伸びがインフレに追いつかず、個人消費の足かせとなっている。
厚生労働省の毎月勤労統計調査によると4月の実質賃金(帰属家賃を除くベース)は前年同月比で1.8%落ち込んだ。名目賃金は2.3%伸びたがインフレ率は4%以上の伸びを示す。
実質賃金は暦年ベースで2022年以降前年割れが続いている。伸び悩む賃金は個人消費の低迷につながり、経済成長の足かせにもなっている。
石破政権として最初となる骨太の方針の原案では「賃上げこそが成長戦略の要」であると強調した。「持続的・安定的な物価上昇の下、日本経済全体で1%程度の実質賃金上昇を定着させ、国民の所得と経済全体の生産性を向上させる」との目標を掲げた。
実現に向け、中小企業や小規模事業者の賃上げを進める方針を示した。価格転嫁や生産性向上、事業承継やM&A(合併・買収)の後押しなど、支援策を「総動員」すると打ち出した。医療・介護などで働く人の処遇改善も進めるとうたった。
最低賃金についても、20年代に全国平均で1500円に引き上げる目標を掲げ、昨年の骨太の方針の「30年代半ば」から前倒しした。ただ、具体策は価格転嫁対策の徹底、省力化投資といった支援策拡充など、従来路線から大きく変わっていない。
歴代政権は賃金上昇に腐心してきた。今年の骨太の方針で、働く人の所得環境の改善に弾みがつくような新味のある具体策は乏しい。実質賃金1%上昇に向けた政策的な裏付けがあるとは言いにくい。
内閣府幹部は「目指していたほど具体的な道筋を描けなかった」と漏らす。別の経済官庁幹部は今年について「少数与党下である中、与党プロセスを経てまとめる骨太の方針に載せる意義が薄れた」と突き放す。
骨太の方針をはじめて策定したのは01年の小泉純一郎政権だった。聖域なき構造改革を掲げる政権にとって政策の方向性を決める官邸主導の象徴の一つになった。近年は各省庁の予算獲得の土台に変質した。骨太をとりまとめる諮問会議も形骸化が急速に進んでいる。
骨太の方針では国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)は25年度から26年度を通じて「可能な限り早期」の黒字化を目指す方針を示した。
注目を集める農林水産の分野では高騰したコメの価格を「落ち着かせる」と記し、政府の備蓄米の流通円滑化や消費者への情報発信に注力する方針を示した。水田政策は「見直しの具体化を進める」との表現にとどめた。