月2.5億円の役員報酬は「高すぎ?」 味噌会社の訴え、最高裁が退ける 原告は"さじ加減課税"に異議
●「年収2000万円で雇うから同じことやってみて」
地裁、高裁の裁判で、松井さんは弁護士2人と出廷した。一方、国税側は毎回、10人近くの弁護団を組み、さらに傍聴席には国税職員が20人近く見学に来ていたという。 「傍聴席にいたのは、主に20代の若手でした。裁判をしてまで国税と対立するのが珍しく、『勉強に行け』と言われたのでしょうね」 弁護士と相談したうえ、裁判の席で松井さんが国税職員たちに怒りをぶつけたことがあった。居並ぶ若手国税職員に対して「そこにいる20人以上全員を年収2000万円で雇うから、1人でも私と同じことができるならやってみればよい」と呼びかけたのだ。 その裏には、「適正給与支給額」への疑問に加え、税務調査で「経営者として大したことをしていない」と言われたことへの憤りがあった。 また、松井さんは中小企業の経営者の多くが、税務調査への対応に苦慮していることにも言及した。「何らかのお土産がないと帰ってくれない」というのが、仲間の経営者の共通認識になっているという。納得いかなくても、粘られるよりはましと考え、国税に花を持たせるのだ。 役員報酬が過大だと指摘を受ける数年前にも、松井さんは国税の税務調査を受けた。 その際には、申告内容に特に問題が見つからないとの結論に至る「是認」を得た。顧問税理士は「国税調査の是認をとることは、プロ野球の打者で三冠王を獲得するような快挙」と喜び、寿司屋でパーティーを開いてくれたという。
●「さじ加減一つで課税できるのはおかしい」
実際、松井さんは税務調査のときから足掛け7年近く、国税とやり合った。「聞きたいことがあるから戻って来て」と言われ、滞在先の中国から帰国したが、国税側が前日になり「やっぱりいいです」と断りを入れてきたこともあった。 また、役員報酬への指摘は、事業の正当性を調べた国税が「採算性、実現性に問題はありませんでした」と結論付けたあと、突然持ち出されたものだった。それだけに国税への不信感は拭えない。 「2人だけの会社のため、裁判などの対応でどれだけ事業が遅れたか。なければ、よりビジネスで利益を出せ、国に貢献し、税金ももっと払えた」 こう総括する松井さんだが、決して後悔の念はない。ただし、国税の対応が示す不透明さが残る日本のビジネス環境に警鐘を鳴らす。 味噌屋と聞くと一般には、蔵で職人が丁寧に仕込んだ味噌を出荷する仕事をイメージするかもしれない。しかし、松井さんは日本・中国・イギリス・シンガポール・マレーシア・香港に法人を構えている。 「各国を比較する中、日本の法人税の高さはマイナスに働きますが、まだ明文化されたルールなので受け入れられます。ただし、国税が『あいつはいっぱいもらっているから、税金とったろう』と役員報酬に目を付け、さじ加減一つで課税できるのは、おかしいと思います。 『地域限定倍半基準』を言うのなら、土地の値段を示す地価公示と同じように、国税が役員報酬の目安を示してくれないと困ります。慣例や不文律が強い国では、ビジネスは育ちません」
弁護士ドットコムニュース編集部