【終戦の日】土田ヒロミ『ヒロシマ・コレクション』より、一部を特別公開

2023/08/04

 1995年に刊行された『ヒロシマ・コレクション』は、被爆資料の展示を通じて平和を訴える広島平和記念資料館と、ヒロシマを撮り続ける写真家・土田ヒロミの共同作業による、フォト・メッセージ・ブックです。数々の被爆資料を静謐なモノクロ写真に収め、被爆物にまつわる小話とともにその惨状を伝えます。
 終戦の日を記念して、片岡脩氏による寄稿文と収載写真の一部を特別公開します。

写された数々の遺品、それを感じるのは、見るもの個々の心にある――片岡脩

 土田ヒロミが、記録し、残していこうとしているこの写真群には、こういったジャンルのものにありがちな、対象に向かっての気負いが感じられない。冷徹な眼で個としての感情を抑え、深呼吸をひとつしてから、静かにシャッターを押しているように思える。対象物に対してつとめて静謐になろうとしているのか、カメラマンとしての主張を通そうとするような気配はない。単なる物として対面していない、語りかけてくるものへの襟を正しての対処だ。

 もの言わず語りかけてくるのは、写された数々の遺品であり、感じとるのは見るもの個々の心にある。そのことをきちっとわきまえている。無駄なものをいっさい排除した一枚一枚の写真のなかにこそ、人が生きること、生の尊厳が込められている。限りなく静かな写真だが、圧倒されるほど強く胸を衝く。

 数多くの遺品のなかには、13歳の夏で散っていった私の同級生のものもあって、個人的には冷静な心で見ることはできない。感情というか思いのほうが先行して平静を保てないのは、私が土に還っていく日まで続くだろう。

 広島がヒロシマと書かれるようになって50年、爆心地から800メートル(旧制広島県立第一中学校、現・国泰寺高校)の地点で、生き残ることができた“語り部”の一人でもある私の人生マラソンも、ゴールに近づいている。いつまでも生の声で語り続けることはできない。『ヒロシマ・コレクション』の意義は、単なる資料としてではなく、地球に生き続ける全人類の世紀を超えた人間の価値そのものを永久に語り訴え続ける、もの言わぬ生きた文化資産だという点にある。

 人は今を生きる。明日もまた、いまを生きる。さまざまな願いと思いをこめて、イマを生きる。今の心、思いがあるかぎり、人はみな平等に生命の価値を分かち合えると信じたい。

 この写真集、ぜひ若い人たちに見ていただきたい。次の世代を生きる人の感性に訴えることができたら、どんなに素晴らしいことか。

片岡脩(グラフィック・デザイナー、愛知県立芸術大学教授 13歳のとき被爆)

ヒロシマ・コレクション 広島平和記念資料館蔵被災資料より

女学生の夏服 寄贈 1988年7月8日/寄贈者 大下定雄(大下靖子さんの父親)

女学生の夏服 寄贈 1988年7月8日/寄贈者 大下定雄(大下靖子さんの父親)

大下靖子(のぶこ)さん(当時高女1年)は、動員学徒として土橋付近(爆心地から800m)の建物疎開作業中に被爆。己斐まで逃れていたところを発見され大竹の両親のもとに運ばれたが、当日深夜死亡。

熔けた仏像 寄稿 1968年10月29日/寄稿者 高橋広吉

熔けた仏像 寄稿 1968年10月29日/寄稿者 高橋広吉

弁当箱と水筒 寄贈 1962年7月24日/寄贈者 折免シゲコ(折免滋君の母親)

弁当箱と水筒 寄贈 1962年7月24日/寄贈者 折免シゲコ(折免滋君の母親)

折免滋君(当時中学1年)は、動員学徒として中島新町(600m)で建物疎開作業中に被爆。8月9日早朝、母シゲコさんが積み重ねて焼かれた滋君の遺体と、遺体に抱えられた水筒と弁当箱を発見した。滋君は「今日は大豆ご飯だから、昼飯が楽しみだ」と言って出かけたという。

雑嚢 寄贈 1985年8月7日/寄贈者 内藤美保子、平川彰(平川コハルさんの長女と次男)

雑嚢 寄贈 1985年8月7日/寄贈者 内藤美保子、平川彰(平川コハルさんの長女と次男)

比治山国民学校教諭の平川コハルさんは、児童の荷物を疎開先に運ぶ途中、住吉橋手前(1,350m)で被爆。遺体が確認されることのないまま、息子の彰さんによってこの雑嚢と眼鏡他が発見された。

(『ヒロシマ・コレクション 広島平和記念資料館蔵』より、一部抜粋・編集して公開)

『ヒロシマ・コレクション 広島平和記念資料館蔵』1995年7月刊 定価2,670円(税込)

『ヒロシマ・コレクション 広島平和記念資料館蔵』1995年7月刊 定価2,670円(税込)

著者

土田ヒロミ
1939年、福井県生まれ。写真家。1971年、「自閉空間」で太陽賞受賞。ニューヨーク近代美術館をはじめ、ポンピドゥーセンター、パリ国立図書館などが作品をコレクション、国内外を問わず高い評価を受けている。写真集に『俗神』(オートブックス社)。『ヒロシマ』(佼成出版社)、『パーティー』(IPC)、『砂を数える』、『ヒロシマ・モニュメントⅡ』(冬青社)、『ベルリン』(平凡社)、『フクシマ2011-2017』(みすず書房)など。写真家活動のほかに、創作の森美術館(福井県)館長も務める。

関連記事

NHKテキストからの試し読み記事やお役立ち情報をお知らせ!NHKテキスト公式LINEの友だち追加はこちら!