やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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お待たせしました。
今回から高専編に入ります。


高専編
#51 高専(上)


 空閑家最寄りの私鉄駅ではなく、少し離れたJRの駅まで車で移動。

 

 1時間に2~3本来る快速に乗れば、40分ほどで博多に出られる。

 

 後は新幹線で3時間ほど揺られれば、目的地である京都駅に到着だ。

 

「ふぅ」

 

 グリーン車の窓際の席に座っていた男は、長旅で凝り固まった身体をほぐすように腕を伸ばすと、次いで頭上の荷物置きにぶつからないよう慎重に腰を上げ、席を立った。

 

 まだ15歳のはずだが、成長期にさしかかって以来続いている急速な身長の伸びは、180cmの大台に届いてもまだ止まる気配を見せていない。どうやら彼は、185cmほどある父に似たらしかった。

 

 立ち上がると体格の良さがよくわかる。近くを降りていく一般客の殆どよりも背が高く、遠目に見ても頭一つ分飛び出て見えるだろう。体格がいいのは基本いいことだが、この手の座席や机が窮屈で仕方ないのが欠点である。

 

 見た目にはあまり現れていないが、首回りと腕の太さから、見る者が見ればかなり鍛え込んでいることがわかる。歳の割に老け顔というか、潜ってきた修羅場のせいで顔つきが険しいため、学ラン姿でなかったらアスリートや自衛官と勘違いされていただろう。

 

 彼――空閑徹は、荷物置きから銀色のスーツケースと学生カバン、そして大振りな竹刀袋を取り出すと、それらを抱えて新幹線を後にする。

 

 季節は4月はじめ。徹以外にも学生服や旅行客ではなさそうな大荷物の者、明らかに着なれないスーツ姿の者が多くおり、「おのぼりさん」感のある集団がゾロゾロと京都駅を出ていく。

 

 徹もその例に漏れず、しかし彼は何度か任務で関西を訪れたことがあったので、勝手知ったる足取りで駅を出た。

 

 彼は現在、一般的な紺色の学ランを身にまとっている。現存する高校の8割以上がブレザー制服を採用している現代では珍しいと言えるが、それ単体ならない話でもない。特徴的なのは、上から羽織ったマントと学帽だ。かつて「バンカラ」と言われた学生たちと似た格好である。

 

 本家本元のそれらと違い学生服は新品で、腰からの手ぬぐいや高下駄がオミットされているものの、本人の体格がいいこともあり、どことなく軍人や警官のような風格を感じさせ妙に似合っている。

 

 これは厚着で武装を分かりづらくする目的と、制服の改造を自由とする呪術高専の方針が合体した結果であり、一足先に学生服姿を見たレアからは「葛葉ラ○ドウ」の烙印を押されている。なおそれを逆用して、もし街中で怪しまれた時はコスプレで通すことになった。当初予定していた「応援部なんです」のゴリ押しとどちらが通りやすいかは時々であろう。

 

「お、来たわね」

 

 風変りとは言え100年前には制服だった恰好である。単独だとそれなりに風景に馴染んでいた訳だが、集合場所として指定されていた駅前のタクシー乗り場に集結していた人々と合わされば、途端にコスプレイヤー集団に早変わり。

 

 なにしろ巫女服、狩衣、魔女っ娘風金髪ツインテールの三人組にバンカラが合流してきたのである。周囲の目線を引き付けるのは当然と言えた。

 

「呪術の秘匿」の有効性について疑問が浮かんだ徹だったが、ひとまずこの場は巫女服の女性が発した言葉に返答するのを優先した。

 

「すみません、遅くなりました」

 

「ギリギリ時間前だから大丈夫よ、まだ来てないヤツいるし。というか任務明けに呼び出しちゃって悪いわね、明日にしてくれてもよかったのに」

 

 実はこの日、徹は大分の山中に発見された呪霊の対処に前日深夜から駆り出されていた。

 

 緊急性の高い案件であったため徹が対処した後、いったん家に戻りシャワーを浴びそのまま出発という強行軍のおかげで、早めに現地に到着した後カフェで時間を潰す予定がキャンセルされる程度の遅れにとどまったのである。

 

「大丈夫ですよ。あの呪霊九州大結界とか吹かしてた割に全然大したことなかったですから」

 

 徹の物言いに「特級を大したことない扱いできるのはあなたとあいつくらいよ……」と頭を抱える巫女服の女――庵歌姫をよそに、狩衣の少年が声を上げた。

 

「歌姫先生、では彼が?」

 

「ええ、新入生……でいいのかしら、空閑徹君よ。皆と違って彼は既に術師として活動しているから、授業なんかでは教員側に立ってもらいます」

 

「空閑徹です、福岡から来ました。等級は1級。特殊な立場だけど、基本は同級生として授業受けるから、よろしく」

 

 歌姫の説明に繋げて、徹が軽く挨拶をする。なお、プライベートの情報がほぼ含まれない解答のため、金髪ツインテールの女子は「可愛くないマジメくんが増えた」と内心ストレスを深くした。

 

「そうか……空閑、俺は加茂憲紀(かものりとし)と言う。加茂の宗家に連なる者だ」

 

「ああ、事情は聞いてる。まあ、何と言うか……よろしく?」

 

 所在なさげに学帽の位置を直しながら答える徹。彼らしくなくはっきりしない返答なのは、彼、加茂憲紀との間にかなり複雑な関係があるからだ。

 

 徹は名門・空閑家の当主を継ぐものとして、元服を迎えると同時に婚約を済ませている。その相手は、他でもない御三家の一角、加茂家当主の娘である日和であった。

 

 そして憲紀は、日和の異母弟に当たる次期当主。それでいて彼は正妻の子である日和と違って庶子であり、市井に流れていたところをつい最近加茂家に迎えられた。しかし礼法等が不十分なため、次期当主といえど家同士のやり取りに参加できるようになったのはつい最近になってからだ。

 

 そのため、徹と憲紀は将来義理の兄弟となる間柄でありながら、二人が顔を合わせるシチュエーションは、これが初めてなのだった。

 

「ああ。それで空閑、俺はお前……いや、貴方に謝らなければならないことがある」

 

「え、何急に」

 

 困惑する徹をよそに、憲紀は話を続ける。

 

「……貴方の評判は聞かされている。失礼だが俺自身で調べもした。呪術師としてこれ以上なく優秀な人物であるということはわかった。正直、呪術に関しては素人に近かった当時の俺でも凄いと分かる逸話の数々が出てきた」

 

 15歳にして特級呪霊撃破数5(正確には、この日の朝に祓除した分が加算されて6)、黒閃連続発動数5、11歳での特別一級術師認定、その全てが呪術界の常識を塗り替える新記録であり、徹はすでに五条悟に次ぐ異能として知られている。呪術界と関わりの浅い憲紀にも、それらの評判は届いていたようだった。

 

「そして、既に妾がいて子どもまでいるということもだ」

 

 恐らく初耳だったのだろう。徹には、西宮から発された「うえっ」という嫌悪感にまみれたうめき声と、それに伴って絶対零度の如く温度を下げた蔑みの視線が届いた。

 

 しかし憲紀には聞こえていないのか、あるいは自分の話を組み立てるのに夢中なのか、話が途切れることはない。

 

「正直、貴方のことはただ強いというだけのクズだと思っていた。俺自身、呪術界というものにいい思い出がないからな。関わりが少ないとは言え、異母姉(あね)がそんな怪物に嫁がされることを憐れんですらいた」

 

「……」

 

 徹は、その告白を黙って聞いている。

 

 概ね、現代倫理に照らして異常な人生を歩んできた。その件で徹を非難したい、または相容れないというのであれば、徹自身異論はない。甘んじて受け入れるつもりであった。

 

異母姉(ねえ)さんがな。嬉しそうなんだ」

 

 だから、その弾んだ声色は完全に予想の外にあった。

 

「言っていいのか分からないが……貴方と会う前の異母姉(あね)はだいぶ参っていてな。部屋から丸一日出てこないことも度々あった。正直、顔合わせを済ませていきなり元気になったのを見た時は洗脳でもされたんじゃないかと思ったぞ」

 

「いや本当に正直だな」

 

 徹をもってしても思わず素が出る程度の暴露話は、しかし徹の脳裏に一つのひらめきを生み出す。

 

 思った以上に追い込まれていた日和。"原作"に彼女は登場しないという徹だけが知る事実。自分以外の加茂日和の婚約者候補は、五条悟と禪院直哉であったこと。

 

 だが、起こらなかったことまで一々掘り下げるには、呪術界の闇は深すぎることを徹は知っている。

 

 とにかく、自分の起こしたことが良い変化だったと信じることにして、憲紀の話の続きを待った。

 

「姉を通じて貴方のことを聞いた。真面目なだけの普通の()()だと言ってたよ、それが何より嬉しかったと。考えてみれば当たり前のことだ。別に、見合いで決まった相手だからといって必ず悪人という訳じゃない。今こうして話してみてよく分かった」

 

「言うほど長く話した訳でもないと思うけど」

 

「いや。名家の後継者をやる人間が"俺"とこうして話しているというだけで充分だ。名門の人間なら視界にも入れないか、ボロを出させて政治工作のとっかかりにしようとしてくるのが普通だぞ」

 

 自虐的な冷笑と実感の籠った発言を出されては、そのような対応に覚えが(主に禪院家で)あったこともあり徹からは何も言えない。

 

「そういう訳で、俺は貴方を誤解して、勝手に怪物だと決めつけていた。最初に会った時に、そのことについて謝ると決めていたんだ。すまなかった」

 

 深々と頭を下げる憲紀を見て、徹はいっそ呆れるほどの誠実さに感服していた。

 

「真面目だな。黙ってればなあなあに出来てたのに」

 

「そうはいかないだろう。これから同級生になるのだから猶更だ」

 

「じゃあ、とりあえずその"貴方"ってのやめてくれよ。それで貸し借りなしにしよう」

 

 徹の提案した罰則代わりの呼び方の変更は、すんなりと受け入れられた。ただ――

 

「む、そうだな。すまん義兄(あに)上」

 

「いや兄上は勘弁して、同い年なんだから徹って呼んでくれ頼むから」

 

「ふふ、そうか」

 

 そういえば原作でも天然ボケな所が描写されてたな、と徹が慌てていると、背後から怒気を孕んだ気配。

 

「ふふふ、じゃあ一段落したところで――天下の往来でバカみたいに重たい話してんじゃないわよ!!!

 

 完全に会話に置いて行かれていた教員・庵歌姫の強烈な突っ込みによって、徹の高専生活は幕を開けた。

 

 なお、この数分後に遅れて登場した東堂葵により、せっかく落ち着いた一行は再び騒がしさを取り戻すことになる。

 

 恐らくこの場で一番割を食ったのは金髪の女子生徒――西宮桃であったろう。




空閑徹(くがとおる)
年齢      15歳
出身地     福岡県
身長      180cmくらい(成長中)
所属      京都府立呪術高等専門学校一年
等級      特別1級→1級(高専入学に伴う正規登録)
高専入学方法  家系
趣味・特技   バトル漫画・徹夜(4徹まではパフォーマンスに影響なし)
好きな食べ物  「ウエスト」のかき揚げ丼定食
苦手な食べ物  フルコース
ストレス    政治と女
生得術式    禁縁呪法
黒閃経験    有り(連続記録保持)
反転術式    アウトプット可能
領域展開    晩鐘劍ヶ丘



R-18版できました。
18歳以上の方は、目次のリンクからどうぞ。
なお、同時にSkeb依頼も募集しておりますので、「や呪クソ」に限らず奮ってご応募ください。
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