やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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#50 時間

2015年 9月 ◎日

 新たな武器を入手してから約2ヶ月。

 

 慣らしを兼ねて遊撃班としての仕事をこなしているが、正直言って予想以上の性能に驚いている。

 

 これまで刀の強度を気にしながら戦うのが癖になっていたが、思いっきり振り回してもひしゃげたり折れたりしないというのは文章や数字に表れるよりよっぽど有難いものだ。これまでの強く握り過ぎて持ち手部分がひしゃげた刀たちを思えば、高価な日本刀を任務の度使い潰さなくてよくなっただけでも大進歩である。

 

 その様子を以前から見ていたレアは「もうドラゴン殺しでも持った方がいいんじゃないスか?」と呆れ半分で言っていたが、実際最適化された刀がそのように(切れ味にリソースを振っている分あれほど巨大ではないが)なったのを見ると、案外力任せに上から圧倒した方が、最終的には強いのかも知れない。鬼が金棒を持っていたのは、当時の技術では彼らの膂力に耐えうる武器がそれくらいしかなかったからなのだろう。

 

 大小で腰に佩いていると重過ぎて重心が偏ってしまうのが難点だが、それを補って余りある威力を発揮してくれている。

 

 呪力無しでの兜割り達成の時点で大方察しが付くだろうが、呪力ありで力いっぱい振り下ろせばビルの柱だって容易く両断する。いや、「大刀」を使えば普通の刀でも同じことは可能だが、刃の通りの滑らかさというか、「刀の強化」に使う分の呪力を威力に回せるようになって明確に威力が増しているのを感じるのだ。

 

 完全な無銘であるため何か名前をと思っていたところ、俺が名づけるまでもなく最近「幽霊船」の呪霊を祓った時の「ヘリボーン(飛び降り)して上空から『大刀』で真っ二つ」という戦法から「斬艦刀」で定着することとなった。因みにというか、噂を総合する限り名づけ親はレアである。

 

 実際に斬ったのは大型の漁船ベースの呪霊なので「艦」と呼んでいいかは微妙なラインだと思うのだが……無駄にスケールが大きかったせいで世間的な評判では「関門の特級」「コトリバコ」「ゆめタウンの特級2体」「魔法少女」に並ぶ俺の戦果としてすっかり浸透してしまっている。

 

 幽霊船は1級相当だったので他の3つと比べてかなり格落ちな筈だが、新武器入手後のわかりやすい戦果として我が家が宣伝してしまったのも大きいらしい。たしかにヘリに同乗していた徹也はドン引きしていたが……。

 

 何にせよ、俺の知覚とあわせて「大刀」で床や壁ごと対象をぶち抜くやり方で簡単に呪霊を祓えるようになったのは助かっている。特級呪霊でもない限り、ほとんどの任務がこれで開幕瞬殺して後始末を任せて帰るだけの仕事に化けた。

 

 おそらく、今の俺とこの刀のフルパワーであれば、五条悟や魔法少女のような概念的防御を持ち出さない限り地球上のあらゆる物体を切断可能だろう。特級クラスの呪霊や術師の防御を抜こうと思うと、これはスタートラインでしかないのだが。

 

 

 

2015年 10月 ◎日

 

 新武器入手による戦闘の効率化は、意外なところにも影響を及ぼしている。 

 

 刀に気を使わなくて良くなった分、浮いた思考リソースを小刀に回せるようになり精度が目に見えて向上したのだ。もう少し鍛えて「縛り」を結べば、「打ち合いを通して敵の持っている刃物にこちらの呪力をしみ込ませて制御を奪う」という新たな技にも到達可能だろう。

 

 この技は特に初代が好んで使ったとされ、非術師~低等級の呪詛師相手ならひと睨みで自害させられる禁縁呪法の奥義。しかしこれは我が家蔵書の秘伝書に記載されていた訳ではなく、禪院家側が所蔵している史書のひとつにのみ記録が残るものだ。

 

 空閑家はコンスタントに一級を輩出する家だが、初代の操った技の数々が全て伝承されている訳ではない。今の俺と同等かそれ以上の使い手だったと目される初代は、それゆえに二代目以降とは実力が隔絶しており、彼女自身が文章に残した以外の殆どの技が失われている。

 

 今では当時の初代と戦ったことがある禪院家の資料や表の世界の怪談、当時の武将たちが遺した手紙などの資料の一部でのみ、空閑家最初にして最強の術師の、推定特級相当の戦いぶりを垣間見ることができる。

 

 彼女の特異性は術師でありながら国人衆に雇われて表の戦場に出ていたことで、当初の呪術界は呪詛師として扱っていたという記録すら存在している。

 

 九州平定、文禄・慶長の役、関ヶ原、大阪の陣、少し間をあけて島原の乱あたりまで大抵の大きな戦には参戦していた記録が残っており、表では雑兵をちぎっては投げ、裏では呪術界がよこして来た「呪術の秘匿」のための刺客を叩き伏せ。面白いところでは、同郷の先輩術師にあたる果心居士をライバル視して何度も立ち合いを挑むが相手にされなかったとか何とか。

 

 最終的に家として成立してしまったのも、当時の御三家が慶長年間の御前試合に備えており、下手に戦争して当主クラス戦力を失うのを危惧した結果だと伝わっており、相当な暴れ方をしたのだろうことは想像に難くない。

 

 その時代の記録によれば、初代はただ一瞥しただけで行く手を阻む武士たちが次々自害、その手を離れた刀がひとりでに浮き上がって襲い掛かり、後方で控えていた弓兵をなぎ倒し、本人は指一本動かさずに数十人からなる一団を壊滅させたとか。

 

 現代では高位の術師ほど武器に頼らない傾向にあるが、この伝統は元を辿ればこの技の対策だとする説もある。それほどまでに、「空閑やえ」の術式は呪術界を震撼させたと伝わる。

 

 今回実現した技は、その伝説のひとつを再現するものだ。

 

 それでもこの技は極ノ番ではなく、あくまで「小刀」の応用という扱いに収まったまま失伝したのは、彼女の残した術をことごとく修めてきた今なら何となく理解できる。

 

 彼女は女性だったが、あくまで武人だったようだ。強者との一対一を本領として技を整備し、長距離攻撃や範囲攻撃など「雑魚狩り」の類は「わざわざ伝えなくても必要なら勝手に習得するだろう」といった具合だったのだろう。

 

 あるいは、江戸以降の太平の世では合戦で使うような技を行使する機会がなく、立ち合いのための技から派生した大小だけで何とかなってしまったが故の失伝か。

 

 どちらにせよ、また一つ初代に近づいた。ここまで来てもまだ学ぶことが残っているあたり、初代たる空閑やえはいったいどれだけ強かったのやら……。

 

 

 

2015年 12月 φ日

 

 今日は呪術高専に行ってきた。と言っても、京都校や東京校ではなく、実は福岡県内に存在していた分校、「福岡分校」である。

 

 扱いとしては東京校の一部と言うことになっているようで、いわば東京の大学の福岡キャンパスのような立ち位置らしいのだが、その影は薄い。

 

 北海道がアイヌ呪術連による治外法権になっているように、九州が空閑家に実行支配されていることから、それらに対する中央呪術界の監視のため設置された出先機関。それが福岡分校であるらしい。

 

 菅原道真由来と言われる五条家は当然大宰府と深い関わりがある訳で。その関係から福岡分校は五条の影響が強い東京校の方が管轄している……といったところだろう。大宰府の前の駅に「西鉄五条」というのもあることだし。

 

 その成立経緯から、はっきり言って空閑家と福岡分校は仲が悪い。市井から産まれた素質の持ち主もほとんど空閑の方で吸収してしまうので、よほどの訳アリでないかぎり福岡分校の方に進学する者はおらず。空閑家の監視拠点としての役割を果たすどころか、ほとんど廃校寸前の状況に陥っているようだ。

 

 空閑家が九州平定を完遂したのは江戸時代後期のことだが、昭和中期くらいまでは時代がオカルトに寛容だったこともあって他流の生き残りがこういう場に流れていたこともあったと言う。

 

 かつて敵対していた大宰府まほろば衆*1や門司鉄道公安機動隊第四班、通称"櫻燕隊"*2の拠点になっていたり、一時は九州内の反空閑勢力総本山としての役割を果たしたこともあったというが、今や堂々と俺が訪ねていける程度には形無しのようである。

 

 なにしろ作中では影も形もなかった施設だ。どういう立ち位置というか、どんな人員がいるかまるで未知数だったが……学長の奈木野さん以外に特筆すべき人もおらず。既に廃校のための手続きが進んでおり、どうやら今回呼ばれたのも、福岡分校が抱えていた仕事を空閑家に引き継ぐためのものだったようだ。

 

 正直、分校のことはあまり記憶に残っておらず……というのも、帰りに色々あって北九州のヤンキーの抗争を仲裁することになり、そのうち片方が天然の呪術師だったという珍事に意識を取られてしまったのだ。

 

 竜胆サキというその女子中学生は、無意識の呪力強化にモノを言わせて地元で負け知らずのスケバンを張っていたらしい。お礼参りに来た集団相手の大立ち回りが通報され、通りがかり(と称するには200m以上離れていたが)の俺が呪力を感知したことで仲裁に入り保護、今に至る。

 

 彼女は術式の性能も大したことはないので、このままうちの戦闘部隊で雇われるか高専に進学するかの二択となり、彼女は高専を選んだようだ。俺の2学年下の後輩として、後に京都高専に入学するという。元ヤンらしく根性があり、一族のしごきにも悪態つきながら食らいついているらしいが、仲裁した俺のことは本能的に怖いのか避けられている節がある。

 

 彼女のような事例は他にないでもないが、皆うちの戦闘部隊に吸収されるか、高専を経由して補助監督や術師になっている。魔法少女の時がおかしかったのであって、本来の空閑家は(九州管内における)一般出身の術師の発掘・後援も仕事のうちに含まれる。

 

 あるいは、我々空閑家が壊滅した「本来の歴史」では、福岡分校がその役目を代わり、今まで以上の勢力を持つようになっていたかも知れないな。

 

 

 

2016年 3月 Ξ日

 

 真依の妊娠が発覚した。

 

 非常に時間がかかったが……どうやら不妊の類ではなく、シンプルに運が悪かっただけのようだ。

 

 高専入学の前にこれが発覚したのは、間違いなくいいニュースだったろう。裏で進んでいたという真依の高専送りもこれでキャンセルとなった。

 

 本人からは泣いて感謝されたが、俺としては勝手にやっているだけのこと、感謝には値しないだろう。

 

 あとは産まれた子供が禪院なり空閑なり、術式を持っていることを祈るだけだ。

 

 いよいよ、来月からは俺も高専生の一員になる。

 

 といっても、これは伝統や政治的やりとり、箔付けみたいな所が大きいので、実際の業務は殆ど教師側のそれになるそうだが。

 

 ともかく、いよいよ原作開始時期が近づいて来た。

 

 俺にどこまでのことが出来るか……せめて何もしないよりマシな結果を生み出せるといいのだが。

 

 何にせよ、俺に出来ることは多くない。

 

 呪霊を狩り、持っていたいものを守る。それだけだ。

*1
今でこそ術師を廃業してパフォーマーになっているが、一昔前は傍流とは言え本物の五条分家であった

*2
GHQの監視が無くなった後に政府所在戦力を確保する目的で、線路上など僻地の呪霊対策を目的に裏で呪術師を雇用していた。こちらも紆余曲折を経て現在ではよさこいを踊るだけの集団




見た目がシーカー族の導師みたいという理由で呪術師出身にされるまほろば衆と
見た目が葛葉ライドウみたいという理由で呪術師出身にされる櫻燕隊に悲しき現在。ちなみに門司鉄道公安機動隊と櫻燕隊は両方とも実在しますが、現実の両者に関係はありません。

24/9/23 時系列の矛盾を修正しました。
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