やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

48 / 61
高専準備編
#48 間隙(上)


2014年 6月 ▲日

 

 魔法少女戦から数日、あれだけ呪術界の頭を悩ませてきた魔法少女も、本人がやられてしまえばあっけないもので。その後の戦後処理は驚くほどスムーズに進んだ。

 

 まず、俺と周囲を固めていた戦闘部隊員の証言をもとに、魔法少女それ自体を特級呪詛師、とり憑いてた真言を新たに特級呪霊として登録。俺は記録上、その両方をまとめて討伐したこととなる。

 

「特級呪詛師」の階級が適用されるのは夏油傑に続く二例目(加茂憲倫の頃は階級の分け方が現在と異なっていたらしい)であり、撃破の功績はまるごと俺の手柄となった。

 

 今回の件をうけて上層部では俺の特級認定を行うかどうか議論があったようだが、「特級」は正当な呪術師から斜めに外れた位置づけ。まっとうに成長してきた俺は、国家転覆までは難しいとみなされていることと合わせ、認定を下さないことで合意が取れたようだ。

 

「特級術師に認定しない」こと自体が、俺の忠節(すくなくとも、上層部はそう表現している)への報酬に含まれるようである。あくまで上は、俺を一級最強の呪術師としておきたいらしい。

 

 今回の件で「五条悟の次に強い術師」との評判はもはや確固たるもので、五条悟案件の一部が前にも増して回ってきやすくなることだろう。

 

 世間(というか、禪院家内部)では空閑徹の箔付けのために「特級呪詛師相当」と後付けされたとの見方もあるが、これは直哉の到着が間に合わなかったどころか、忌み子「禪院唯」の存在を知られてしまった(しかも利用された挙句取り戻せなかった)禪院家の面子によるものも多分にある。放っておいても問題ないだろう。

 

 その禪院唯については、俺の情報提供を元に大阪・京都全域が捜索され、3日とたたずに大阪市西成区の廃屋から彼女のものと思われる残穢が見つかったらしい。

 

 死後数か月が経過していながら呪力の痕跡があったのは、真言の術式効果によって死後にもその呪力が使われ続けていたからだろうとのこと。この一件をもって生存の可能性なしとし、捜索は打ち切られることとなった。

 

 元より呪霊に喰われるなどした場合は残穢くらいしか痕跡が残らないので、呪術界での行方不明は死亡扱いになる基準が緩い。今回は特に、元々が忌み子とされていたからか、禪院家にもあまり真面目に探す気がなかったように思える。

 

 禪院唯の術式は幼少ゆえに未熟であり、完成すれば遠い未来を見通すことも可能になったというすさまじい力だ。それを何故秘匿したのか、何故禪院唯を座敷牢に放り込んでいたのかは不明だが、術式効果からして対五条の切り札として独占を目論んだと言ったところだろう。掘り下げてもロクな話は出て来るまい。

 

 同居していた堤このはの家族(両親・弟2人)については、警察に送致ののち尋問、"縛り"を含む口止め条項の数々に同意してもらえれば補償のうえ釈放となる。少なくとも父親はこのはの魔法少女姿を見ているが、彼らが完全な非術師であることは既に判明している。娘(姉)の身に起こったことも、あの日の戦闘で何が起こったかも理解できていないだろう。

 

 カバーストーリーとしてはガス爆発が適用され、翌朝から積極的に報道が行われている。合わせて、近隣地域への緊急点検が呪術界が費用を負担する形で行われた。

 

 そして、今回の一件で戦闘部隊第三班を預かっていた舞屋均さんと、同じく三班の隊員のひとりとして俺の影武者をやっていた人が殉職する事態となった。

 

 身内に死人が出た以上、その処分について妥協することはできず、捕縛が命じられていた魔法少女を死体で届けたのにお咎めがなかったのはその辺りの面子が考慮された結果だろう。

 

 だが今回、相手が覚醒する可能性等をきちんと考慮して慎重な人質作戦を取っておけば(つまり、俺とレアの忠告を真面目に取り合っていれば)ここまで話はこじれなかった。結果として表だってどうこう言われる訳ではないにしろ、家中での俺の発言力が増すことになった。

 

 ……レアは、見た所何ともなさそうにしている。というか、兄の死には全く触れずに俺の怪我の心配しかしていない様子なのは、果たして俺にはそう対応するのがいいと思ったからそうしているのか、シンプルに兄が嫌いなだけなのか。

 

 確かに俺が人間を手にかけるのはこれが初めてだが、そこは何というか、最早今更な感があり自分では何とも思っていない。あるいはそれ自体が異常かも知れないが、これからも呪術師を続けるなら、何より今後"原作"へと関わっていく以上は、同じように人間やそれに近い存在と対峙することは多いだろう。

 

 原作でパンダが言っていた「呪術師はその辺(人間と呪霊)の境界がボケやすい」という言葉の意味を、自分の身で実感する羽目になろうとは。

 

 場合によっては、この先も人間を斬ることになるのだろう。俺に出来るのは、その対象が守りたいものに向かないようにすることだけだ。

 

 そして……前から薄々思ってはいたが、レアの家族絡みのことに関してはあえて掘り下げないままにしておいた方がいい気がする。自分の身内より俺の事を優先してくれるのを、素直に喜んでおこう。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

2014年 8月 ※日

 

 子供が産まれた。以前から妊娠して前線から引っこんでいたレアの子である。

 

 女の子で、子供は俺に似てか、地毛が黒髪のようだ。なにしろ出産に立ち会ったのはこれが初めてなので(といっても、俺は分娩室の前で待っていただけだが)何とも言えないが、立ち会った産婆さんが言うには安産らしい。

 

 ついに俺も父親だ。何が変わるという訳でもないが、流石にこの年で親になるとは思わなかったというか、未だに時々何かが心配になる。

 

 とは言っても、少なくともこれは慶事であり、娘が……そう、俺の娘が五体満足で産まれてくれたことには大きな意味が……いや、それ以前に、これは素直に喜んでいい事だ。どうも普段からべき論で動いていると、こういう時に自分の感情を表に出すのが難しくていけない。

 

 折角レアも家族も喜んでいるんだ、今更倫理的にどうこうを気にするべきではないのだろう。今はただ、俺のために頑張ってくれたレアをねぎらいたい。それにこう言ってはなんだが、娘が可愛くて安心している自分がいる。

 

 普段から呪霊狩りやら呪詛師狩りやら血生臭いことばかりやっているせいで、何と言うかまともな人間らしい感性からずいぶん離れていた気がする。その分、こうして子供が産まれたことが、何と言うか救われたように感じる。少し、鍛錬に力を入れ過ぎたかもしれない。

 

 ……という旨をレアに話したところ、子供が産まれた瞬間に丸くなりすぎだと笑われてしまった。そうはいっても、もう良くも悪くも、昔ほどの無茶は出来ないだろう。

 

 娘は俺の子ではあるが、正妻(になる予定の加茂日和)の子ではないため扱いとしては庶長子となる。当面は母やレアが主に育て、数年後に術式の有無がはっきりしたら、その内容を元に再度扱いが変わることになる。

 

 かつての日本では、正妻の子とそれ以外の間には厳格な違いがあり、正妻との間に子が生まれないなどよほどの理由がない限りは庶子が跡継ぎになることはなかったらしい。

 

 呪術界は旧来のやり方に則っているが、あくまで優先されるのは術式の方だ。正妻の長男だろうが術式がなければ容赦なく廃嫡されたり分家に養子に出されたりする一方で、相伝の術式さえ継いでいれば市井に流れていようと次期当主として回収される。

 

 それこそ原作の呪術廻戦における加茂憲紀や伏黒恵がそうだ。なんの因果か御三家のうち2つまでも相伝を市井に流出させてしまっている現状、それでも彼らは御三家の当主候補として迎えられている(恵の事例では、五条悟の介入で失敗しているが)。

 

 残酷だが、同時にある意味で平等だ。願わくばこの子が、ここで生きていけるくらいの才能に恵まれていますように。

 

 あるいはこう願うことも、呪術界に染まったことの証左だろうか。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

2014年 9月 ◎日

 

 今年も盆の禪院家への挨拶を終えた。どこから聞きつけたのか俺の第一子誕生を盛大すぎる位に祝ってくれた。まあこれは、どちらかと言えば「お手つき」である真依の方もさっさとしろという意味だろうが。

 

 何というか、14歳(最近誕生日を迎えた)にして年上の女性を孕ませ、子供を産ませ、産後の時期に他の女性(しかも年下)に手を出すよう求められ……とやっていると、この業界の爛れ方を再認識せざるを得ない。抵抗を感じているのが自分だけで、レアですらある程度織り込み済みと言った反応なのがなおの事心をざわつかせる。

 

 外から見たら役得かもしれないが、どちらかと言えばストレスが上回っているように思えて仕方がない。人間として溜まるものは溜まる以上、環境に甘えている自分がいるのが情けないところだが。

 

 その帰り、弟たちからも真依との関係について苦言を呈されてしまった。これはレア以外に女がいることに対してのものではなく、選びたい放題だろう候補のなかからわざわざ「真依」を選んだ、徹也の言葉を借りれば「趣味の悪さ」についてだ。

 

 真依とはそれなりの頻度(おおよそ3ヶ月に1回)で会っている(これは、同じ回数だけ身体を重ねているという意味でもある)訳だが、今の所真依には妊娠の兆候が見られない。

 

 そのことが段々と禪院・空閑両家を焦らせていることは俺も知る所で、今は俺が庇っているから表だって何かを言われることはないだろうが……俺はよくても、このままでは禪院家の立場的に、彼女の扱いは順次悪化していくことが予想される。

 

 弟たちに言われて考えてしまった。そもそも、何故彼女を助けようと思ったんだったか。

 

 特に理由はない。強いて言えば、虐げられているのを見ていられなかったからだ。そのまま、必要なことだからと流れで関係を持って、何となく庇護下に置いて来た。

 

 徹也たちの言い分は、わざわざ俺がそこまでしてやる必要はないというそれは、おそらく正しい。

 

 他の、たまたま俺の目に付かなかっただけの禪院家の女性たちと真依の間で何が違うのか。

 

 そもそも俺は、真依の事が好きなのか?

 

 ……いや、そう言う話ではないはずだ。

 

 俺には助けたいと思ったものを助ける力があって、それでたまたま真依が助かった。それでいい。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

2015年 7月 〒日

 

 気づけば前回の記載から1年近くが経過していた。

 

 あれ以来これと言って記載するような事件はなく(去年までが忙しすぎただけだと信じたい)、呪霊の発生もある程度のレベルに抑えられている。お陰で、特別一級術師として仕事をしつつ、ある程度は子供の顔を見られている。まあ、子育ての殆どの部分は女中たちとレア、そして母が担当しているので俺は顔を見るくらいしかできることがないのだが。

 

 今日、久しぶりに筆を執ったのは、いつだったかに刀の製作を依頼していた熊本の刀匠から、製作完了の連絡があったためだ。

 

 予定よりかなり早い完成となるが、そもそも呪具の製作はほぼ運試しみたいなものであり、そもそも現在確認されている方法では、人工的に製作可能な呪具には術式効果が付与されない。今回製作してもらった刀も、どちらかと言えば「術師としての俺の戦闘スタイルに最適化されたオーダーメイドの名刀」としての意義が大きいものだ。

 

 銘はなし(万一市場に渡った際の証拠隠滅のため)、単に同田貫と称する。表舞台からは退場して久しい同田貫だが、ただでさえ分厚く頑丈なつくりに現代の材料工学と呪術的な強化工程が合わさったこの刀は、美術品としての機能を無視した剛刀であり、そして俺が思いっきり振り回しても壊れないだけの頑丈さと日本刀の切れ味を備えている。

 

 試し切りは呪力無しで行い、用意された畳6枚を軽々と真っ二つにしている。やはり実戦用に用いるならこれが一番だ。

 

 刀身の長さは標準的な日本刀と同様だが、俺の膂力に対処するため斧かと思うほど分厚く、重い。大小で腰に下げているだけでかなり疲れそうなのが難点だが、心強い相棒になってくれるだろう。

 

 昨年のような死闘を演じることがない分、ここ1年ほどは実力の伸びも緩やかになっている。これは今までがおかしかっただけなので悲観するつもりはない。むしろ今まで時間が取れずに放置していた細かな部分を詰めていく機会だろう。やれることは幾らでも残っている。




久々の日記回、高専入学まで今回入れて3話を予定しています。

24/9/23 時系列の矛盾を修正しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。