やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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#47 存亡(下)

 (つじ) (ぎり) () (めん)は、禁縁呪法の「表向き」の極ノ番と同様、複数の術式効果と結界術の合わせ技からなる空閑徹のオリジナルである。

 

 呪詞はこうだ。

 

 

 闇より出でて闇より黒く、以て(うけい)と代ゆるべし。

 

 

 祈(うけい)とは、多くの場合2択の運試しを行い、出た結果によって神意を測る古式の占いである。現代まで伝わっているものとしては「明日天気になあれ」などが知られる。

 

 帳の詠唱に手を加えたこの呪詞を発動の合図として、徹は二重の領域を発動させる。

 

 縛りと改良によって展開される「帳」と「簡易領域」だ。これらはセットでの発動であり、詠唱無しで発動可能な空閑タイ捨流簡易領域が先んじて展開、遅れて帳が展開される。簡易領域で自身の能力向上を、帳で出入りの制限をそれぞれ行う。

 

 帳では、「自分が死ぬ」「自分以外の全員が死ぬ」の2択に持ち込む帳の効果を「(うけい)」であると宣言し、帳それ自体の格を上げると共に、中で行われる殺し合いに決闘裁判や明神探湯(くがたち)に近い呪術的意図、ある種の縛りを与えることで、外部からの介入及び「帳」からの逃亡を限りなく不可能に近づける。

 

 帳は、自分以外の味方が効果範囲内に居る時は使用できない。「逃げ道がない」ことと「自分も逃げられず、増援を得られない」ことである程度の足し引きのバランスを成立させており、電波等の遮断や人払いに割くはずのリソースも削って出入りの阻止に特化しているため、帳としては例外的なまでの外殻強度を誇る。

 

 簡易領域の性能は、通常の空閑タイ捨流雲雀東風と変わらない。すなわち、「頭ではなく脊髄で考えて襲って来る」と称されるフルオート反射の殺戮プログラムを、動くものが無くなるまで実行し続けるのである。

 

 動作は以前に記録した「黒閃」の際の動きを可能な限り模倣するよう設定されている。通常なら外的要因によっても左右される黒閃だが、二重の領域内で限りなく画一化された条件下で運用され、明確に高い確率で黒い火花が散ることになる。

 

 通常と違うのは、「表」の極ノ番である大小拵も同時発動するところ。領域展延による防御術式の中和を伴う16本の刃物による乱舞と斬撃の滞留は、結界内という閉所にて最大限その威力を発揮する。

 

 無論、かすり傷ひとつでも付けば後は「順転による傷口の悪化」対「反転術式による傷口の治療」の押し合いに持ち込まれ、効率の悪い反転では余程のことがなければ追いつけない。

 

「続けようか」

 

 徹の刀が魔法少女の首を捉え、回避した魔法少女は反撃に移ろうとするが、背後に控えたナイフによる追撃を払うことを優先。

 

 移動先には、既に滞留した斬撃がいくつも待ち構えており、16本からなる「小刀」を弾き、躱そうとするたびに小さな切り傷が全身に残る。

 

 徹には順転がある。ついた傷は片端から修復していかなければ、不意の傷口の拡大で致命的な隙を晒す可能性がある。

 

 魔法少女の反転術式はほとんど自動発動の域にまで到達しているが、通常のそれに違わず倍の呪力量を必要とする。人の身体を得て修復が困難になった所を突かれる形であった。

 

(精度が上がっている……!!)

 

 総じて、魔法少女の人外の挙動をもってしても防ぎきれない物量攻めであることは確かだったが、魔法少女も無策で攻撃を受け続けている訳ではない。

 

「魔力認証! スターライト☆ボム!!」

 

 呪力の指向性放出であるスターライト☆キャノンを、自分を中心として指向性を与えず拡散。

 

 高密度の呪力が周囲を吹き荒らし、滞留する斬撃や刃物類を吹き飛ばす。

 

 しかし、攻めに転じる前に徹の「大刀」による斬撃が飛来し、次の瞬間には刃物が補充されている。

 

 破壊した刃物が戻ってきている訳ではない。爆発の前に距離を取り、あるいは呪力で覆われることで、ダメージから保護されているのだ。

 

 それまでの小刀と一線を画すスピードと操作性。

 

 それを実現しているのは、「フルオート反射」での迎撃プログラムによる。

 

 領域内で動いている間、徹の行動は呪力操作プログラムによってほぼ自動化される。

 

 それは行動パターンを見切られ、カウンターを取られるリスクがある一方で、どう動くか考える思考リソースを小刀操作に集中できるのだ。

 

 ドーピング込みでなら最大32本滞留可能な小刀の本数を絞り、簡易領域の空間内を埋め尽くすほどの速度を齎す。

 

 莫大に見えた呪力量もみるみるうちに削れていき、やがては徹本体の黒閃を受けきれなくなるだろう。

 

「ようやく冷静さが消えたな」

 

 加えてこの時、魔法少女の脳内では数十種類に及ぶアラートが「未来予想図」という形で無理矢理脳に投影されている。

 

 斬撃で埋めつくされたこの空間、この場所に存在する全ての攻撃が、その後の順転によって致命打たり得る。

 

 命に届く攻撃を自動的に選別・警告してしまう未来予知の力は、短期間に大量の致命傷を受けるリスクによって、事実上無力化されているのだった。

 

 それは常人ならとうに発狂している情報量であったが、呪霊としての性能の高さと反転術式の精度ゆえに戦える状況をキープできていたのである。

 

 それでも、その絶大なストレスは魔法少女の脳を揺さぶり――

 

「舐めるなよ小僧」

 

 鼻と目から血を流しながら、魔法少女は被弾覚悟で掌印を結ぶ。

 

 

 

領 域 展 開

 

(じん) (こう) (そく) (げつ)

 

 

 

 簡易領域の上から展開された魔法少女の領域は、ウユニ塩湖のような薄く水の張った平坦な大地に上書きされてゆく。

 

 巨大な月が青白く照らすその領域は、しかし効果を発揮する前に簡易領域とぶつかり、その輪郭をみるみるうちに削っていく。

 

 領域同士のぶつかり合いは、その決着がつくまでお互いの必中効果が留保されるという性質がある。

 

 これは簡易領域に対しても同様で、領域展開と比べて干渉力に劣る分、すぐに削り切られることになるものの、その間数秒間は領域展開は本来の効果が発揮されないことになる。

 

 当然、領域展開を使える存在であれば、詰みの状況を対処するためにはそれを使う。あらゆる状況を一旦フラットにした上で、相手を自分の土俵に引きずり込めるのだ。領域対策のない相手ならその時点で勝ちは確定、相手が領域使いだったとして、初めてイーブンな押し合い勝負になる。

 

使()()()()

 

 だから徹は、この極ノ番にもう一つ機能を仕込んでいた。

 

 

 

領 域 展 開

 

(ばん) (しょう) (つるぎ) () (おか)

 

 

 

 領域展延しながら術式の行使が(限定的ながら)可能な徹にとって、簡易領域を維持したまま領域展開を行うことは容易。

 

 ここまでは魔法少女の想定内。

 

 想定外だったのは、簡易領域にかぶせる形で展開された、徹の領域の広さと形状。

 

「ん、なっ……!?」

 

 それは魔法少女の展開したそれをちょうどすっぽり覆うように、セオリーを無視して()()()()()()()()()()()展開されて行く領域。

 

 通常、領域同士のぶつかり合いはそれぞれの術者を中心として球状に展開される領域が接触して起こる。

 

 徹がそれを曲げて、相手と同じ場所を中心に据えているのは、相手の領域を破るための策に他ならない。

 

 当たり前だが、領域展開は呪術戦の極致だ。それぞれの術者が自らの術式や呪力の特性と向き合い、最適な配分と力加減を見つけ出してようやく実現できることが殆どである。間違っても、易々と展開時の条件を変えられるものではない。

 

 それでも、徹の領域がこのような複雑さを持ったのには、それ相応の理由がある。

 

 コトリバコ戦の雨宮御影に始まり、九十九由基、禪院直哉と立て続けに領域展開可能な強者の戦いを観測した徹は、他人の使う領域展開というものの性質について、当代では五条悟に次ぐ経験値を保持している。

 

 極ノ番によって展開される簡易領域は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして徹の領域展開は、簡易領域をすっぽり覆うサイズで展開される相手の領域を、さらにすっぽり覆うサイズで展開されるよう仕組まれていた。

 

 ――領域は、外側からの攻撃に弱い。

 

 それは、閉じない領域展開は今の技量的に不可能であると考えた徹の、現状講じうる最大限の領域対策であった。

 

 極ノ番で領域展開を誘発させ、それが簡易領域を削り切るより先にこちらも一回り大きな領域を展開。

 

 領域を領域で包み込み、外側から割る!

 

「……ッ!!」

 

 魔法少女は咄嗟に彌虚葛籠(いやこつづら)を展開。簡易領域が無くなっているのを見て逃走を試みるが、タイミングを合わせた徹に追撃され、その顔面に拳が吸い込まれて行く。

 

 領域展開、領域展延、簡易領域のうち二つを同時発動できる徹は、既に役目を終えた簡易領域を解除しており、代わりに領域展延を纏った拳が、彌虚葛籠と概念的無敵を纏った魔法少女の防御を貫く。

 

 ごきり、という鈍い音と共に彌虚葛籠が粉砕され、魔法少女は崩壊しつつある自らの結界内へ押し留められる。

 

 はからずも初対面時同様、魔法少女は徹の顔面パンチによって沈められることとなった。

 

「はは」

 

 何かを悟ったか、吹き飛ばされた先の月光の照らす水面で小さく笑った直後、その背景が粉々に崩れ落ち、そして風景が屍の山へと変わっていく。

 

 直後、ぴしりという音と共に、その身体に網目状の薄い線が刻まれ――次の瞬間には、全身から血液が噴き出し、魔法少女は細切れになった装束や槍と共に、その場へ崩れ落ちた。

 

 現代の領域は「必中必殺」が基本となる。領域と彌虚葛籠を破壊され、術式の焼け付いた魔法少女は、ここまでの攻防で領域内に滞留した数千もの斬撃と、そこから派生する傷口の悪化を全て「当たったことにされる」。

 

「げほ、っ、知ってたさ。君たち(にんげん)は認知構造上、"守る"ということが出来ない」

 

「……まだ息があったのか」

 

 顔面を含めた全身がサイコロ状の切れ目に覆われ、気道にも切れ込みが入ったか、その発言は醜い水音にまみれ、しかし不思議と聞き取れる音質の良さが残っていた。

 

 とうに致命傷、どころか動かせばそのまま原型が無くなるような状態でも、事実上の受肉体ゆえか、魔法少女……真言は、この状況になってなお、瀕死ながら命を取り留めているようであった。

 

「自分に都合の悪いものを全て滅ぼして、その結果をもって、逆説的にしか何かを守れない。星型をした殺意、それこそが人間だ」

 

 滔々と語る真言は、その計画をひっくり返されていながらなお、どこか楽し気ですらあった。

 

「負け惜しみか?」

 

「ああ、そうさ。……誰の言葉だったかな、一つ所に知的生命体が2種類現れたら、それらは決して分かり合うことはない。ヒトと呪霊も、ヒトと術師も同じことだ」

 

 咳込みながらも、魔法少女は語り続ける。

 

「ふふ、守るより、勝ち取ろうとすべきだ。そうすればキミはきっと、()の世の中で王に――」

 

 そこで、歩み寄った徹が刀を首だったところに突き立てた。

 

 穢刀によって腐り、爛れた肉の臭いが鼻を突く。

 

 それはもはや赤いのか黄色いのかも定かではない、爛れた肉の塊でしかなかったが。確かにその顔が笑っているように、徹には感じられた。

 

「……羨ましいよ」

 

 こんなこと(人殺し)の何がそんなに楽しいんだ。

 

 そう吐き捨てて、徹はその死体を抱え上げる。

 

 領域が解け、歩き出ていく中で、知っている気配が近づいて来るのを感じた。

 

 数歩も歩かないうちに、その姿が露わになる。

 

「……五条先生」

 

 190センチほどの長身と、特徴的な銀髪に色の濃いサングラス。

 

 現代最強の呪術師、五条悟。

 

「や、久しぶり。決着ついてるみたいだけど、魔法少女ちゃんは……って、聞くまでもないか。大丈夫? 凄い顔してるけど」

 

 悟は徹に魔法少女の所在について問いかけるが、しかし返答を求めることなく徹の腕の中を一瞥して話を完結させる。

 

「はい。この場は我々で制圧しました。御足労頂いた手前恐縮ですが、助太刀は無用です」

 

「……そりゃあ良かった。ああ、お土産、近くにいたおじさんに渡しといたからね。()()()()ひよこ」

 

 敵味方ともに死人の出ている状況でこれを言えるのが、そして()()()()であるひよこをわざわざ選んで持って来るのが、五条悟が五条悟たる所以であろう。

 

 呪術界上層部に反感を持ち、教育による改革を目論んでいる五条悟と、あくまで上層部の懐刀として意向に従っている空閑徹。

 

 強さの上では現呪術界の1位と2位に当たるだろう二人だが、その在り方は正反対。既に上層部は空閑徹を旗頭に「反・五条悟」で連携する動きを見せており、残念ながら悟と味方になることは出来ないだろうと徹は考えている。

 

 だからそれ以上言葉を交わそうとはせず、そのまま通り抜けようとした徹だが。

 

「あそうだ。徹はさ、なんで上層部の言う事に従ってんの?」

 

 1回仕事で同伴しただけの人間を名前で呼び捨てするなよ、と心の中で突っ込みつつ、発言の意図を探る。

 

「なんでもなにも、上役の言うことは聞くものでしょう」

 

「いやいや、大体のワガママは通る訳だし、もはや上の連中お願いする立場になってんじゃん。上がキミをどうこうしようとしたら僕が出張って来るしかないけど、僕がそんな雑用する訳ないし?」

 

 粛清執行人の役目を雑用と切って捨てる言い草は、まぎれもなく上層部にありとあらゆる我儘を通して来た問題児の面目躍如であろう。

 

「見たとこ洗脳されてる訳でもないのに、その謎の忠誠心はどっから生えて来るんだろーなーと思って。上の奴等にカンチョーかますくらいだったら全然協力するけど?」

 

 両手をカンチョーのポーズに組んで笑いかける悟を前に、何となく言いたいことを察した徹は意見を返し始める。

 

「普通にクーデター教唆ですよねそれ。五条先生、さては俺がムリヤリ今の立場に座らされてるようだったら東京校に引き抜いて匿う気ですね?」

 

 若人の青春を奪うことはあってはならない、とは、本編中の五条悟の言葉だ。

 

 一度、家の力を使って徹の訓練漬け生活に文句をつけてきたこともあった。五条悟は自分が青春に後悔を抱えているためか、児童労働には厳しい所がある。

 

「まぁ外から見ると信じがたいでしょうが……俺は別に、五条先生が思ってるほど滅私奉公してる訳じゃありません。そりゃあ、上層部や家のことで、クソだと思うことは山ほどある。今日のこれもそうです、きっと五条先生なら救えた」

 

 戦闘終了を察知して現れた戦闘部隊の人間に崩れた遺体を渡しつつ、言葉を続ける。

 

「でも同じように、五条先生のやり方では救えないものもある。どうやら、俺の救いたいものはそっち側に多いんですよ」

 

 徹の目指すところは、原作における全ての事件が終了し、世の中が平和を取り戻すまでの間、自分と家族を出来る限り守り抜くこと。

 

 呪術界の改革は、そのために想定される手段の一つでしかない。

 

 例えばレアや日和は、現行制度のままでも、自分が死ななければ幸せに出来ると徹は考えている。

 

 皮肉にも原作で、「ただ強いだけで出来ること」は全て五条悟がやり切っていて、それだけでは出来ないことこそが現在の呪術界で主流の問題であると、徹は学んでいた。

 

 故に徹は、五条悟と同じ道は進まない。五条悟が最も実力を発揮できるのは単独の時であり、自分がいて多少できることの幅を広げるより、この先も五条が取りこぼすものを必要に応じて拾った方がいいと考えているためだ。

 

「……キミ本当に中2?」

 

「中学どころか小学校も行ってませんけどね。高校からは京都の高専でお世話になります」

 

「これが対抗戦出てくんの? ダメでしょ」

 

 こうして、「現代最強」と「五条の次に強い術師」の会話は幕を閉じ。

 

 徹は変わらず、上層部の懐刀として生きる道を選ぶ。

 

 

 

「あの真言を倒すとは……やるね彼」

 

 その影響は、いかばかりだろうか。




今話と、次回の後日談をもって魔法少女編は終了となります。
次は高専編~呪術廻戦0となります。
やっと原作が近づいてきました。

5/9追記:徹の学年に誤りがあったため修正(中1→中2)



領域展開「人猴捉月(じんこうそくげつ)」

未登録の特級相当呪霊「真言」の領域展開

月下のウユニ塩湖のような、薄く水の張った地平を表すそれは
人の抱える欲望を際限なく肥大させ、速やかに精神を破壊する

呪霊たる真言から見て、人とサルとにさしたる差はない
ただ、なまじ知恵がある故に、想像を超えた愚者をも輩出する
そこが真言は好きだった
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