やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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 お待たせいたしました。


#45 戦争(下)

 

「手こずっているようだね。ボクも力を貸そうか?」

 

 魔法少女の耳元、インカムから発されたその声は、魔法少女が纏っているものと同質の呪力をしていた。

 

(――何だ?)

 

 違和感。

 

「力……?」

 

「ああ。元々キミの力の一部は、ボクが外的にその制御を補助している。いわば相互協力型の術式……もとい、魔法だ」

 

 滔々と理屈を述べる何者かの語り口が「術式の開示」としての効果も帯びていることに、このはは気づいていないようだったが、相応の実戦経験を積んで来た徹にはすぐ看破できた。

 

 故に、そのまま喋らせておくわけにはいかない。

 

 徹は手持ちの日本刀と浮かせた消防斧から「大刀」の飛ぶ斬撃を浴びせかける。だが、本来であれば高層ビルを両断する一撃が三方向から飛来しても尚、魔法少女は吹き飛ぶどころか、怯む素振りさえ見せなかった。

 

「流石に隙が無いね、だが続けさせてもらうよ」

 

 土煙の中で変わらず響く声は、魔法少女の無傷を確信させるもの。

 

 既にこのは……否、()()()、徹が戦闘開始時から纏い続けている領域展延を、自分の手から離せないことを見抜いていた。

 

 魔法少女の防御性能ならば、術式効果自体を中和してしまう領域展延以外の攻撃は無意味。それを分かっていて、奴は初めから攻撃を避けさせなかったのだ。

 

 違和感。

 

 目の前の魔法少女以外で、何か大きな問題を丸ごと見落としているような。

 

「今、ボクが干渉可能なのは呪力による防御や外部からの情報提供に限られている。このくびきを外して欲しい」

 

 まるで、海外製の怪しいアプリがスマホの権限を求めるように。詐欺サイトがPCへの通知の許可を求めるように。

 

 気軽さと冷淡さで巨大な悪意を覆い隠して、()()は嘯いた。

 

「……つまり、どういうこと?」

 

「ボクが君に代わって、君の動きを最適化する。今は防御や回復、痛覚の遮断などに限定されているボクからの制御を、攻撃や移動にも使いたい」

 

 いわば問題集を解かずに答えを書き写すような行いだが、この際は仕方ない。

 

 そう言葉を結んだイルだったが、これに対する反応が一番大きかったのは一瞬躊躇した様子のこのはではなく、敵対している徹だった。

 

(バカな)

 

 あり得ない。

 

 答えを写すなんてチンケな愚行で例えられるものか。もっともらしい言い方をしているが、あれは"縛り"の提案だ。

 

 その提案に乗るということは、自分の身体の操作権限を使い魔(らしき存在)に明け渡すということになる。

 

 そんな提案を呑むくらいの信頼を築けているなら、最初から「一心同体」を前提とした術式構成になる。

 

 そうでなければ、こんな提案は論外だ。誰が他人に身体の操作権限を投げ出すのか。

 

 

 ――この時徹と、そしてブレーンを務めたレアは、彼らが「原典」になまじ詳しかったが故にひとつ思い違いをしていた。

 

 本来、呪術における「使い魔」や「式神」という存在は主人に忠実だ。実力差なり契約なり、自由意志を完全に奪って使役できないようなら一緒に戦うことなどあり得ないというのが常識。

 

 そして、「原作」プリンシパル☆スターにおける"星の精"の役どころは、星に選ばれた人間の少女と共に戦う相棒だ。

 

 最近の作品らしく後ろ暗い所もあるが、それは素質ある少女を戦わせ続けるための督戦隊的機能の話であって、戦いに赴く少女たちを献身的に補助する役回りは最後まで崩れなかった。

 

「魔法少女」の方が原作を完全再現していたために、心のどこかで当然「使い魔」の方もそうだと思い込んでいた。

 

 

「一言、唱えてくれればいい。"委ねる"と」

 

 

 ()()()()()()()

 

 

「拡張術式"播"!!」

 

 咄嗟に刀を足元に突き刺し崩壊の波を伝播させるが、このはは当然とばかりにその場で滞空。

 

 崩壊は彼女の足元まで及んだが、彼女の身体にそれが届くことはなかった。

 

「あいつを倒したいんだろう? ボクならそれができる」

 

「~ッよせ! 呪術において"身を委ねる"ことの意味は」

 

 君が思ってるよりずっと重いんだぞ、という徹の叫びは、間違いなく彼なりの善意に基づいたものだったが。

 

「ぁは、初めてヤな顔になった」

 

 魔法少女から見た徹がどうしようもなく"敵"であったことを、考慮から外してしまっていた。

 

「わかった、()()()。それでこいつがもっと嫌な顔をす――」

 

 るなら、と最後まで言い終えるより早く、彼女の身体は糸が切れたようにだらりと脱力し、倒れるより先に持ち直す。

 

 ただそれだけ。あまりにもあっけなく、彼女のヒトとしての意識は、結ばれた"縛り"の効力によって霧散していった。

 

 

 

 呪力の質に変化はない。出力や総量に変化があった訳でもない。

 

 それでも徹は、呪力の流れが劇的に変化したのを察知し、距離を取った。

 

「――ふぅ、ようやく自由に動けるよ。自分でそうしたとは言え、バカの相手は疲れるね」

 

 顔を上げた()()()は、それまでの魔法少女とは明らかに異なる超然とした表情をしており。

 

「初めまして、でいいかな」

 

 

 ボクは真言(マコト)

 

 君たち(にんげん)が定義する所の、呪霊だよ。

 

 

「お前……ずっとその子に取り憑いてたのか」

 

「憑く……確かに一面ではそうかも知れない。だが、この力は間違いなくこの少女のものだ。ボクはそれを引き出したに過ぎない」

 

 徹の問いかけに対して、真言(マコト)と名乗ったそれは一瞬首を傾げてから、何食わぬ顔で答える。

 

 いや、その口角はわずかに上がっており、さながら「腕前」を自慢する得意げな表情に見えた。

 

「さて、ボクはこの身体の持ち主と違って君を殺す理由は持っていないし、対人なら五条悟に次ぐだろう(空閑徹)と戦いたくはないんだが」

 

 見逃してくれたりは? という問いへの返答は、徹の放った「大刀・穿」の一撃であった。

 

「駄目か。覚醒のためとは言え、殺しをさせたのはやはり下策だったかな」

 

 それを片手でいなしてなお、冷静。

 

 徹は喜怒哀楽が存在していないかのようなそのありようを気味悪く思うと同時に、会話が成立するどころか、ひとりの少女を騙して身体を明け渡させるほどの知略を行使する「自称・呪霊」の存在に驚愕していた。

 

(間違いなく自然呪霊と同格の存在、だが何故今まで現れなかった? 何故今現れた……!?)

 

 攻撃の手は緩めず、しかしかつてない勢いで脳を回転させる。

 

 通常、格の高い呪霊ほどはっきりした意思を持つ。普通の呪霊は知っている単語を繰り返す程度、少年院の特級で賢い動物レベル、自然呪霊級になって初めて人語を解する。

 

 それで行くと、眼前の存在は明らかに人間並みの知能を持っているが、原作には影も形も登場していないはずだ。

 

 考えられるとすれば、コトリバコの時と同じように、()()()()()()()()()()()()()()()()()存在。

 

 そこまで考えて、徹の脳裏にある情報が浮かぶ。

 

「……お前」

 

「何だい?」

 

 長らく、疑問に思っていたことのひとつ。

 

 同時に、そういうものだろうと納得していたこと。

 

()の呪霊だ?」

 

 問いかけに、真言は一瞬きょとんとした表情を見せてから、先ほどの「どや顔」とは比にならないほど口角を吊りあげ、破顔する。

 

「はは! 分かっているくせに! それとも答え合わせがしたいのかな?」

 

 

 問。何故、真人ほどの格のある呪霊が原作時点で産まれたてだったのか?

 

 

 

――()()だよ。

 

 

 

 答。「先代」に相当する呪霊が、つい数年前に祓われたばかりだったから。

 

 

 人間の魂でなら早くとも数百年かかる生まれ変わりが、人口の急激な増加に伴い、該当する負の感情の集まりがあまりにも多くなり過ぎたためにほぼ一瞬で再出現した結果が(真人)であり。

 

 恐らくは、五条悟が何かの拍子に瞬殺するはずだった存在が、正しく育ち切ってしまった。

 

 そうして完成した"魔法少女"が、徹の眼前に立ちはだかっている。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「なるほどね。事前に呪力を与えるなりして体を慣れさせ、呪物の力もしくは縛りで体を乗っ取る訳か。技術供与、感謝するよ」

 

 遡ること数年前。

 

 術式の関係上、呪霊としての実体を持たない真言の元を訪ねた一人の女がいた。

 

「まぁ受け取っとくけど、それより今からでも私の計画に乗る気はないか?」

 

 額に縫い目を持つその女に向けて、霞のような何者かは「ないね」と断言する。

 

「土台、呪霊の時代ってのがナンセンスなんだよ。ボクら呪霊はヒトの鏡像であり虚像だ。態々そんな真似をしなくても、人が人である限りボクらに終わりは来ない」

 

「その割には、ここ100年で随分隅に追いやられたようだけど」

 

 女はツッコミを返すが、それでも真言の返答の勢いは衰えない。

 

「その通りだが、だからこそ限界は近いだろう。今の日本社会は、少数の"見える側"に全ての負担を押し付ける歪な体制で無理矢理回っている。だから非術師の数だけがここまで増えた。維新の頃までは一般人にもその辺の理解があって術師には色々便宜を図っていたが、GHQ(アメリカ)が呪霊を理解していなかったのが致命打だ。その前提で教育体制を整えてしまったから、最早一般人に呪術師に協力しろなんて言い出せない。御恩と奉公が壊れてるんだ、放っておいたって崩壊するさ」

 

 100年もしたら、また違う形の社会を立て直すだろうけどね。

 

 そう締めくくられた未来予想図は、図らずしも夏油傑が行き当たった問題と同質であり。それを知るからこそ、女もそれ以上は反論しなかった。

 

「まあ、それで言うと君は()()だ。人が人によって滅びる分には、積極的に加勢はしないが、同じように止める理由もない。存分につぶし合うといいよ」

 

 呪霊としては現状維持が望ましく、また自分は呪霊であるから人間同士の争いには関知しない。よってこの女が目論む計画には参加も妨害もしない。

 

 そう立場を明確にした真言を前に、女は説得失敗を突きつけられ憮然としている。

 

「は~全く、どこからそんな情報仕入れてるんだか」

 

「人の営みを覗くのが好きでね。おすすめの映画でも教えようか?」

 

「遠慮するよ、名作は自分の足で探す性分なんだ。私が言うのも何だけど、現代に適応しすぎじゃないか?」 

 

「それが人間の強みだろ? こちとら人から産まれてるんだ、ヒトにできてボクに出来ないってことはないだろう……それで、さっきの技術供与の見返りに、ボクに何をしてほしいんだい」

 

 脱線しかけた話を強引に元の流れに戻し、あるいはさっさと用事を切り上げてこの女を帰らせるべく話を進める真言に対し、女はこともなげに切り出した。

 

「キミ、元々大宰府産まれだろ? 空閑家の戦力を削いでほしいんだ。このままだと私の計画の邪魔になる気がしていてね」

 

 女――羂索の依頼内容は、しかし真言の想定よりはやや軽いもの。

 

「へえ。"空閑徹を殺せ"じゃなくていいのかい?」

 

「組織立って動かれさえしなければどうにでもやりようはある。本人が無事でも、家の方を機能不全まで持って行ければ十分だ。後はどこかに雲隠れでもして、人間社会が終わるところを眺めてればいい。第一キミ、それ願ったら依頼料追加してくる気だったろ」

 

 羂索は口ではこう言っているが、十中八九この呪霊も倒されるだろうと考えている。

 

 ただし、それは空閑徹にではなく、空閑家壊滅後に、五条悟によってだ。

 

 人間の呪霊として成熟している真言は強力な手札だが、思想が合わないものを無理に従わせてもロクな結果にならないだろうと踏んで、捨て駒的に空閑家にぶつけることにしたのだ。「次の人間の呪霊」を協力者に仕立て上げることまで想定した上で。

 

 果たして、本来の時間軸(原作)ではこの目論みは成功する。

 

 空閑家は"魔法少女"の力によって壊滅するが、現着した五条悟から逃げきれず真言ごと消し飛ばされるのだ。

 

 だが、それは空閑徹を擁さず、コトリバコ戦で主力を失った後の空閑家の話。

 

 

 

 羂索はまだ、空閑徹の戦力を測りかねている。




 感想欄ではイル=羂索説が長い間有力でしたが、正解は真人の先代に当たる人間の呪霊でした。
 キャラクターモデルはMAD動画「アーマードコアライブ!」の「ほの財団」です。あれと違って人間大好きですけど。

7:18追記:序盤のイルの台詞が二重になっている不具合を修正。
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