やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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#40 呪霊(下)

2014年 6月 ≧日

 

 魔法少女から始まる三連戦から一夜。魔法少女の捜索は続いているが、その辺りは非術師や"窓"の領分なので俺は休養中だ。

 

 あの日の無茶は家中にも知れており、頭薩摩武士なところがある親戚たちにはまたしても散々に持ち上げられることとなった。

 

 父からは次期当主として生存を優先しろと苦言を呈されたが、あの状況では下手に撤退するより突っ込んだ方が生存率は高かったろう。とは言え、心配してすっ飛んできた母や妊娠中で前線に出られないレアの取り乱しようを見た後だと何も言えない。

 

 というのも、無理が祟ったか帰還直後に意識を失ってそのまま爆睡していたようで、気が付いた時にはかかりつけの病院に担ぎ込まれていたのである。

 

 涙目でむくれていた母はともかく、レアなどは俺が目覚めるまでじっと俺の手を握っていたというので流石に反省している。流石に夏油傑が現れた時点で退くべきだったか。

 

 あの後、うずまきを間一髪斬り払った俺は、返す刀で夏油を庇うように割り込んで来た化け猫を両断。AKの掃射に構わず突進するも、既に夏油の姿はなく。

 

 やむなく銃の呪霊を対処したが「最大同時展開数を4体として、呪力が残っている限りいくらでも復活できる」プラス「周囲の残穢を吸って自分の呪力に転化できる」というこれまた厄介な術式を抱えていた。使い方次第では五条悟相手にも時間稼ぎくらいはできそうな性能をしていたため、この場で祓えてよかったと思うほかない。

 

 俺が化け猫から始末することを読んでの選択だろう。真っ二つになった化け猫はまんまと銃の呪霊に吸収され、ほぼ無限再生状態の呪霊が完成してしまったのである。HPを個別で持ってダメージが伝播しないことで反転術式も大した意味を持たず、数えている限りでおよそ150体を蹴散らしてもなおピンピンしていた。

 

 結局時間経過で術式を回復させ、領域展開に巻き込むまで撃破できなかった。火力をAKに頼っている分攻撃面では強くなかったが、しぶとさだけならコトリバコと同格クラスだったろう。

 

 呪霊を祓い終えた後は、一向に気絶から覚めてこない直哉さんを丁重に回収し、自分も迎えに来た遊撃部隊メンバーに保護され今に至る。

 

 魔法少女も禪院直哉も特級呪霊二体も倒せたが、不覚を取った事実は変わらない。

 

 五条悟でも、両面宿儺でも、偽夏油でもない相手に負けるとは、自分でも思っていなかった。どこかに驕りがあったのかも知れない。

 

 療養しながら、自分の慢心を戒めなければならないな。

 

 

 

2014年 6月 ▲日

 

 非術師の家人たちが中心となって、戦後処理が急ピッチで進められている。

 

 俺はと言えば、戦闘で負った傷を治すために一週間の休養を命じられている。謹慎や聴聞も覚悟しての帰還だったが、その手のお咎めが下ることはなかった。

 

 ――ゆめタウン久留米にて発生の確認された一級相当呪霊を狩るため、空閑家の遊撃部隊が派遣される。しかしそこにいたのは2体の特級呪霊であり、空閑徹は負傷しながらも撃破。現場の残穢から夏油傑の呪力が観測され、呪霊操術を悪用した犯行とみて捜査を進めている。

 

 これが公式に発表されている「全容」だ。魔法少女の出現も禪院直哉の乱入も夏油傑の登場もすべてはなかったことにされ、夏油が置いて行った特級呪霊2体の撃破だけが記録に残る結果となる。

 

 魔法少女を取り逃がしたのは禪院も空閑も同じことで、向こうの最高戦力である直哉が俺に負けたという醜聞と禪院家側が無許可で領域侵犯をして来たことが、こちらが事前の密約を破って魔法少女保護に動いた件と相殺された形になる。

 

 本来だったらもう少し空閑家不利の結論が出るはずであったが、禪院家側に意外なほど譲歩の動きがあったのだ。

 

「もはや魔法少女は単独の呪術師ではなく夏油派呪詛師の一員と見て、特級呪詛師認定も視野に協力して対処すべき」

 

 という本音なんだか建前なんだかよく分からない非公式声明のもと、禪院直哉ははじめからあの場所に存在していなかったことになった。

 

 なお、これに前後して俺宛てに「あんなんラッキーパンチやろ、首洗って待っとれやドブカスが」というやたら達筆な差出人不明の手紙が届いたので、「やはりあの程度の相手に領域を切るべきではありませんでしたね」と書いて直哉さん宛に送り付けておいた。

 

 

 

2014年 6月 ◇日

 

 ゆめタウンでの戦闘から3日。今の所、「魔法少女」の出現は報告されていない。

 

 何度かの事情聴取と禪院家との極秘会談などを経て、おおよその方針が決定した。

 

 まず、問題の魔法少女は夏油傑の一派と合流したものとみなし、呪詛師として処刑対象とする。

 

 本件の対処は禪院家及びその委託を受けた空閑家が行う。両家は、必要に応じて他家及び呪術高専の支援を受けることができる。

 

 ただし、魔法少女が完全な一般人で呪術界との関わりが無かったことに免じ、確保、尋問の後呪術界への協力を了承した場合には死一等を減ずる。

 

 一度取り逃した時点で呪術界の介入は免れず、空閑か禪院がこっそり自家戦力に組み入れるという線はこれで消滅。また、最後の但し書きで分かる通り、五条悟の横やりが入って確保の後秘匿死刑の線もなくなった。

 

 直哉さんの言によれば魔法少女には「禪院唯」を誘拐した疑いがある。俺があの時聞いた小さい女の子の声がそれだとすると、彼女は組織だって動いているか、少なくとも何者かの支援を受けていたことになる。この「何者か」が夏油傑じゃないか、というのが現在の呪術界が(表向き)出した結論だった。

 

 「原作」の虎杖と違い、罪状としては夏油傑の仲間になった(かもしれない)ことくらいで堅気に手を出してる訳でもないので、この判断は妥当と言える。九州のことに禪院や五条が出張って来るのは越権行為だが、そこはあくまで不文律なので五条悟の戦闘力で踏み倒し可能なのである。

 

 同時に、踏み倒させたという事実が力関係の裏付けになるため、我が家の御三家に対する発言力はまたしても後退する結果となったが……今度ばかりはやむを得ないとのお達しだ。警察と第三班の包囲を破って禪院直哉と夏油傑にやって来られた以上、生きて帰ったこと自体が奇跡みたいなものである。

 

 実際、突撃に「うずまき」を合わせられた時は死ぬかと思った。領域展延を刀まで広げ、うずまきの呪力を斬り払うのが間に合わなければ今頃はこんがり焼き上がっていたことだろう。

 

 この方針を元に、引き続き魔法少女の捜索を続けていくことになる。夏油傑が捜査線上に浮上したことにより、今後は五条悟の介入を免れないだろうが……幸いにして空閑家にはまだ2つのアドバンテージがある。俺が顔を知っていること、魔法少女との戦闘データがあることだ。禪院唯との関係を考慮すると、彼女の実家や行動範囲はまだ西日本全域から迂闊に絞れない。

 

 特に戦闘データの有利は重要だ。彼女の術式・魔法少女は、恐らく形態の変化、身体強化、呪力の放出、簡易な認識阻害、そして「無敵」という概念の付与が内包される極めて複雑なものだ。

 

 流石に五条悟じゃないんだから常時無敵という訳ではなく、何らかの条件があるんだろうが、今の所内容は不明。一方で俺は、その無敵効果を領域展延で踏み倒すことが出来る。

 

 同じことをするには少なくとも領域展開が必要なので、雨宮御影が事実上引退状態の今、真似できるのは五条悟、九十九由基、禪院直哉、そしてひょっとしたら夏油傑の4人だけ。

 

 圧倒的な防御性能を貫通可能な手駒は、空閑と禪院に1つずつ。状況はイーブンで、戦闘経験の分空閑やや優位と言ったところだろう。

 

 合わせて「禪院唯」についてさり気なく探りを入れているが、禪院家の中でも秘匿されている事項らしくまだ時間がかかりそうだ。

 

 

 

2014年 6月 Θ日

 

 休みの期間が長いために、色々と考えることが増えた。

 

 今までがむしゃらに鍛えてきたが、そろそろ実家の「取説」で学べることもなくなってきた所だ。これから先は、自分で必要な技術を考え、開発していかなければならない。

 

 参考にできるのは「原作」……五条悟と、漏瑚。そして渋谷事変の両面宿儺とマコラ当たりか。

 

 今の呪術界には、死滅回遊(漢字を思い出せない)で受肉したという「千人の虎杖悠仁」も、劇場版で猛威を振るった「呪いの女王」も居ない。何なら両面宿儺だってまだ指だし、呪胎九相図も呪物のままだ。伏黒甚爾は死んだ後だし、高専組は軒並み小中学生で戦力外。ついでに言えば七海健人はまだ証券会社勤務だし、原作外の強者である雨宮御影はお家騒動で事実上の隠居。

 

 今は丁度、戦力の空白期にあたる。

 

 五条悟が産まれて世界のバランスが変わった、と作中では言われていたが、個人的にはその効力が実際に現れたのは原作開始の直前になってからではないかと考えている。

 

 まず夏油傑のような「外れ値」が多く現れるようになり、それが10年程度続いた後、若い世代のレベルが急激に上がる。原作開始時点の20代前半には強力な術師が全くいないのを考慮するに、このような段階を踏んで「世界のバランス変更」はもたらされたのであろう。

 

 俺自身も虎杖が東京校に入学した時点で高専3年生、東堂葵と同学年、乙骨憂太の1つ上のはず。その辺りの強者と違って既に活動し始めている俺は、今でこそ夏油傑と九十九由基くらいしかライバルのいない「界隈2位タイ」で居られているが、渋谷事変で登場する強者たちを思えばこの程度で立ち止まっている訳には行かない。

 

 一方で、今の呪術界で俺は五条悟に続く最強扱いのため参考にできるものが極端に少ない。

 

 俺は既に一族に伝わる「取説」の殆どを実現してしまい、この先は記録にも殆ど残っていない「初代」にどれだけ近づけるか、という次元に入ってきたのだ。守破離の離である。

 

 ここからが本番だ。

 

 

 

2014年 6月 Ψ日

 

 やはり課題は領域展開後の隙だ。

 

 領域を展開した後は術式が焼け付いて、しばらくの間術式を使えなくなる。この期間が明確に隙として存在する以上、「一対一の直後にそれなりの強者をぶつける」戦術に対応する策が少ない。

 

 レアにこのことを相談したら「まずジョシュア・オブライエンをぶつけてから秘蔵っ子のセロを投入するオーメルは正しかったんスねえ」というよく分からない答えが返ってきたが、ともかくこのレベルでの呪術戦は恐らく過去に例がほぼない。

 

 そもそも術師同士の殺し合い自体、現代に近づくほど加速度的に減っているのだ。意思疎通可能なレベルの呪霊がほぼ居ないのも考慮すれば、お互い領域展開できる前提の戦闘が連続するような事態はほぼ考慮されてこなかった。

 

 だからこそ、ここを対策できれば大きなアドバンテージになり得る。

 

 ヒントになるのは、あの日夏油戦で繰り出した苦し紛れの技の数々だ。

 

 例えば刀に纏わせた領域展延。土壇場で行った技だったが、術式が焼け付いた状態で使えたということは、上手くすれば領域展開との併用も可能かも知れない。

 

 領域展延は「あえて術式なしの領域を身にまとい、相手の術式を中和する」技なので使用中は術式を行使できないが、「自分の身体に刻まれている術式」と「領域に付与した術式」はイコールではなく、コピー&ペーストの関係にあるのかもしれない。

 

 つまり自分が展延中で術式を使えなくなっている間も、発動済の領域展開を維持することは理論上可能。これは大きな発見かも知れない。もしこの仮説が正しければ、五条悟に対抗する方法が一つ増えることになる。

 

 やはりベースとなるのは結界術だろう。術式なしでも発動可能な簡易領域と落花の情、領域展延、そして帳だ。

 

 特に帳には可能性を感じている。渋谷事変の描写を見るに、条件次第で虎杖の打撃でもビクともしない強度の結界を張れる。また条件の足し引きの自由度が高いという性質は、うまく使えば相当に悪さが出来そうだ。

 

 簡易領域もそのままでは相手の領域の必中効果を防ぐだけの効果だが、例えば二重に展開すると効果は変わるのか、あるいは帳のように条件の足し引きは可能なのか、落花の情との併用は以前に実戦で試したが、展延や帳との併用はどうなのか。 

 

 これらの技術を統合して、術式が焼け付いた状態でも戦える手段づくりが1つ目のアプローチ。

 

 2つ目は、何らかの方法で術式の焼き付きを回避、または回復する手段を模索することだ。

 

 考えられる手段は反転術式だが、術式は焼け付いているのであって壊れている訳ではないから、通常の手段で修復は出来ない。

 

 それこそ脳の術式のある部位――自分の感覚とMRI画像を照らし合わせるに、恐らく右脳前頭前野あたり――をわざと潰して即座に反転術式で回復させれば理論上はリセット可能だろうが……これは流石に無謀すぎる。最終手段も良い所だろう。

 

 となると既存の手段ではなく、根本的に新しい方法を模索する必要が出て来る。これは長くなりそうだ。

 

 

 

2014年 6月 〒日

 

 考察の結果というか、副産物がある。

 

 恐らく、領域展開には段階がある。

 

 第一段階で、自らの生得領域を具現化。

 

 第二段階、生得領域に術式効果を付与。一部の簡易領域はここまで到達しているものもある。

 

 そして第三段階、必中効果の発生だ。ここまでできるようになって初めて領域展開、それ以前の段階で止まっているものは簡易領域であったりただの生得領域であったりする。

 

 しかし作中でも一部の領域展開は、術者にバフがかかることによってか、明らかに通常時と違う術式効果が付与されているものがある。五条悟の無量空処などだ。

 

 そのため、真人のそれのように最初から「当たれば必殺」ならいいが、術式それ自体では必殺足りえない場合には、領域のバフ効果を利用して術式効果を発展させ、必殺の域まで押し上げる「第四段階」が必要になる。

 

 必殺技であることにこだわった「必中必殺の領域」と、この第四段階を省いて「自分の土俵で戦う」ことを目的とした領域展開とは、同じ名前でも運用が大きく異なる。

 

 現在の俺の領域は前者。真人と同じ「当たれば勝ちの術式効果が必中になる」方式の必中必殺であり、第三段階で完成できるタイプ。

 

 しかしそれは、伸びしろがないことを意味しない。例えば領域の押し合いでの強さ、効果範囲、出の速さ。応用を利かせるべき場所は多い。特に領域同士の押し合いを想定した場合、例えば術式効果を捨てて押し合いに特化したような能力が出てこないとも限らない。そういうものへの対策をどうするか。

 

 そういうものを考察した時、さらに閃いたことがある。

 

 領域同士がぶつかった時、片方が両面宿儺がやったような「閉じない領域」だったらどうなるか。

 

 普通の領域は閉じない領域の中に納まる形になるだろう。そうすると作中、領域に囚われた七海を助けに、虎杖が割って入った時の台詞が思い出される。

 

 領域は、外側からの攻撃に弱い。

 

 閉じない領域の意図を測りかねていた。凄いことは分かるが、その凄さにどのような意義があるのかと。

 

 意義はあった。あの形の領域は、通常の領域相手に明確に有利を取れる。

 

 方針は決まった。

 

 取説でカバーできる範囲は越えたが、すべきことはまだまだあるようだ。




24/9/23 時系列の矛盾を修正しました。
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