やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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#35 魔法(上)

2014年 4月 〇日

 

 4月1日付で、遊撃部隊の隊長に任命された。これは長らく父・徹大が兼任していた、戦闘部隊No.2となる地位に当たる。

 

 聞けば初陣の頃から今のポストに俺を座らせることを画策していたそうで、コトリバコ戦で指揮能力を示したことで「エース」ではなく「リーダー」にする方針で固まり、演習で見せた単体戦力を元に就任が早まったとのこと。

 

 俺が次期当主に確定したことで、特別一級術師以外にも「箔」というものを持たせようとしたのもあるらしい。

 

 流石にいきなり部隊の全権を引き継ぐ訳ではなく、当面は元々兼務していた父から引継ぎを受けつつ、ある程度自分の判断で部隊の振り分けや行先を指定するような形にしていくそうだ。流石と言うべきか、この辺の段取りがしっかりしているのが父の凄い所であり、そういう肝心な話を当事者抜きで終わらせてしまうのが父の嫌な所だ。

 

 部隊を預かるということで父から直々に受けた教育により、それまで何となくの把握にとどまっていた空閑家戦闘部隊の内情を詳しく知ることが出来た。

 

 まず、戦闘部隊に限らず、家全体のトップに立っているのは現当主である祖父・徹司。

 

 その直下に戦闘部隊の総括である父・徹大が来る。家全体のNo.2でもあり、いわゆる金庫番を任されている人よりも実質的に地位が高い。

 

 徹也の術式のくだりでレシート集めに父が口出し出来たことからも分かる通り、完全な縦割りという訳ではなく、上から下へはある程度影響力を及ぼせる状態にあるようだ。

 

 そんな父が統括する下には、現在1から3までの番号が振られた班と、俺が預かることになった遊撃班の計4班が存在する。呪術師の人数は父と祖父込みで37名(女性・子供など一線を引いている人物は含めず)だ。

 

 1班は通常の呪霊対策を担当しており、シンプルに強い呪術師が集められている部隊だ。強いと言っても禪院家の炳などには及ぶべくもないが、少なくとも九州圏内の呪霊対策には十分な2~準2級の戦力が揃っている。

 

 後始末などの仕事は完全に外部に任せている純戦闘員なので、他班に輪をかけて実力主義の気風が強い。ある意味、一番呪術師らしい部署ということになるだろう。

 

 2班は扱いの難しい呪霊や特殊条件下での仕事に強い術師、一芸特化の術師などを揃えている部隊で、1班の要請に応じ単独または少数で応援に入るのが主な業務になる。

 

 協力を主とする性質上外部との交流(と隠蔽工作)が得意で、呪霊絡みであれば仕事を選ばないことでも知られる。警察と組んで避難誘導に当たったり、自衛隊と組んで災害救助に出ていたり、一般人の目の届くところに出る可能性があるとすれば、専らここの班員だ。

 

 3班は呪詛師狩りを主眼に置いた対人戦部隊で、何と言っても防弾チョッキとヘルメット標準装備の警察特殊部隊を模した装いが特徴的だ。術式的・精神的に「そういうこと」に向いた人員を集めた、いわゆる暗部である。仕事柄、特に反社の人間とつるんだ呪詛師を街中で処刑することが多いため、組事務所などに突入していても違和感のない装備を心掛けているのだそうだ。

 

 通常の拳銃では呪詛師を相手取るのに不足として、世界中から様々な兵器を取り寄せているのも主に彼らである。空閑家を敵に回すとP90を持った完全武装の兵隊が10人ばかり押しかけて来ることになるので、抑止力としても十二分の働きをしていると言える。そもそもP90は公的には日本に導入されていない銃だが、本当に誤魔化せているんだろうか……。

 

 そして遊撃班は、上述した3班では対処できないレベルの脅威が現れた時に投入される、いわば切り札だ。と言っても普段は遊んでいられる訳ではなく、他班の手が回らないという意味で対処できない所に突っ込まされる便利屋のような扱いがその実態であるが。

 

 現在のメンバーは俺と、レア、徹也、そしてリョウさん。出世して現場にはあまり出なくなった父と殉職した宏美さんがいなくなって、代わりに徹也とリョウさんのコンビが入った形だ。ちなみに徹也、リョウさん共に高専の等級は付いていないが、評価基準に則るなら二人とも準1級相当。戦った感じからしても、特にリョウさんは最後まで撃破判定が出なかったこともありかなりの腕前なのが感じ取れる。

 

 元々遊撃班は状況に応じ臨時で編成されるもので、俺が次期当主と確定したことを受け、元々3班に居たリョウさんを引っ張ってきて常設する運びとなったそうだ。メンバーを見ればわかる通り、空閑家の中でもトップクラスの精鋭を集めて構成されており、父いわく「徹をどう活かすか」という考えのもとで結成したらしい。

 

 かねてから禪院家における「炳」のような、通常の術師部隊の上位に当たる組織を作りたかったらしいことは何となく聞いていたが、今までは「核」になり得る人材の不足により中々うまくいかなかったそうだ。

 

 今は俺という、戦力の質だけで言うなら禪院を上回る「核」がある。これを活かすには、父のようにバランスよくまとまった術師より、レアやリョウさんのような一芸に秀でた使い手と、徹也のような後方支援に適した術式が良いという考えだろう。

 

 いよいよ名実ともに空閑家の最高戦力だ。今まで以上に気張っていかなくては。

 

 

 

2014年 5月 〇日

 

 有用なら新しい物もガンガン取り入れる空閑家と言えど、それは呪術師という旧弊的な界隈における「当社比」だ。家中には未だ多い機械音痴の老人たちに代わって、いわゆるDX絡みの仕事は父とレアを筆頭とする若い世代が担当しているのだった。

 

 この間一緒に見た「究極メカ丸」の劇場版なんかは特に、彼女のゴーレム造形に大きな影響を齎していると言う。女性が子育て絡み以外の趣味に傾倒していると良い顔をしない我が家の女性陣だが、術式絡みになると話は別。

 

 術師の家に産まれた人間にとって、術式はそれこそ一生モノのコンプレックスになっていることも珍しくない。

 

 特に女性がそれを笑うのは刃傷沙汰に発展しても何ら可笑しくない仕打ちであるから、術師の家に産まれた者なら「何を弄っても術式だけは弄るな」と徹底的に叩き込まれて育つ。その副作用というべきか、術式のことに関わって来るレアの趣味は、例えレアが女性であったとしても表立っては何も言われないのであった。

 

 閑話休題。そんな訳で上手く批判をかわしているレアは、今日もノートPC片手に父と何やら話し合っていた。近頃は高専のネット監視部門にも動きがあるとのことで、また何かしら事件が起こっているのかも知れない。

 

 

 

2014年 5月 ▼日

 

 徹也の「再契象」について、詳細な検証結果が出たらしい。

 

 結論から言えば、少なくとも今の徹也は「呪力」と「生物」を再現できず、また同一対象を用いた複数回の取引は一回のみ有効なようだ。

 

 例えば呪具を再契象で具現化しても、それは材質やら何やらは完全再現しているが、呪力は籠っておらず術式もない。同様に生きている動物や人間を取引した契約書を使っても、同材質の死体……と表現していいのか、肉の塊が出て来るだけで、それらが動くことはなかった。

 

 機械類は正常に動作するので、徹也の術式では「魂」とそれに由来するモノはコピーできないという結論で落ち着いたようだ。ただしこれはこれで、肉の塊を使った違法風俗だの本人を人身売買することによる臓器の培養だの、色々と悪さは出来てしまうので注意が必要なことには変わりない。今は隠せていても、「組織だってそういうことができる」と分かれば最悪の場合特級認定もあり得る。

 

 父の慧眼に感謝しつつ、貴重な戦力として依存しない程度に使わせてもらおう。これ頼りで兵站が雑になる可能性は父も懸念していたようで、どうもその辺りの「バランス調整」込みで遊撃部隊に徹也を放り込んだ節がある。まあ、ある物はありがたく使うに限るか。

 

 

 

2014年 6月 △日

 

 熊本県の某所にある里に行ってきた。いわゆる刀鍛冶の里である。

 

 空閑家が表の顔として企業をやっているのは以前日記に書いた通りだが、その延長というか、一部の資金の流入先としてNPO法人も運営している。

 

 表向き文化財としての刀剣類保護を謳っているこの団体は、その裏で呪具の製造・管理を行う職人集団を囲い込み、現代兵器以外の兵器供給源として稼働しているのである。

 

 なんとなく察しが付くように、呪具というのは量産が効かないものなので、そういうものを作るのに向いた術式持ちを丸ごと抱え、時たま産まれて来る「傑作」を待つのだ。

 

 そうでなくとも我が一族は、表の歴史では既に失伝しているはずの"同田貫"を当時の製法で作れる職人を抱えており、一族の人間の武器はここから賄っている。チョイスが同田貫なのは、単純に実用刀として優秀なのと、元が肉厚だから同じ使い方でも比較的長持ちするという2点にあるらしい。

 

 というのも、呪力を込めて武器を振るい続けているうち、使用者の呪力が武器にしみ込んで呪具化するケースはかなり多く、特に効果のない数打ちでも、100年単位で使い込んでいれば名刀になる……こともあるのだ。

 

 そういう恩恵を受けるため、呪具作り以外に「普通の」刀を作る鍛冶師たちも一族で抱えているのである。恐らく部外者だから知らないだけで、禪院にも似たような組織は存在するだろう。

 

 そんな場所へ訪れたのは、演習で折ってしまった呪具「竜骨」の代わりを作ってもらうためだ。俺専用の呪具としての刀を新造するという話自体は前からあったようで、完成は早くとも俺が高専に入る頃になる見込みとなった。

 

 次期当主の権限を使えば蔵に眠った「アレ」を持ち出すことは可能だろうが、ああいう一点ものは普段使いには向かない。我が家に武器は多くても強力な呪具は少ないので、大人しく普通の刀を使うことにする。

 

 

 

2014年 6月 ×日

 

 以前にレアや父が高専とやりとりしていた件について動きがあったらしく、俺の方にも情報が入ってきた。

 

 近頃都市伝説というか、2ch(時期的にまだ5chになっていないようだ)やTwitterなどで話題になっている現象がある。

 

「魔法少女」が現実に現れたというのだ。

 

 勿論、「プリズマ☆イリヤ」の放送を直前に控え浮足立っているネット民と言えど、アニメの世界からキャラクターが飛び出してどうこうしていると本気で考えている訳ではない。

 

 むしろそういう微笑ましさを鼻で笑って悦に入るのがネットの楽しみ方……とはレアの受け売りだが、本来虚構を虚構であると誰より知っているはずのネット民が踊らされているのは、それなりの根拠あってのことだ。

 

 彼らの言い分は大別するとこう。

 

「2010年春と2012年秋に放送されていた深夜アニメ"プリンシパル☆スター"の第三期に関する実写マーケティングが行われているという噂」

 

「何らかのゲリライベント、もしくは実写版の撮影と思しき、"プリスタ"と怪人? の戦いに関する目撃情報」

 

「超クオリティの"プリスタ"コスプレイヤーの不自然な目撃情報」

 

 つまり、アニメ"プリスタ"の主人公「魔法少女プリンシパル☆スター」こと柊このはが怪人と戦っていた、という目撃情報が相次いで発見されているのである。

 

 当然、当初は呪術と何の関係もない、何らかの商業的イベントもしくはどこかの気合いの入ったクリエイターによる二次創作の一種だろうと思われ、「ハズレ情報」として一旦は放置されていた訳だが……最近になって状況が変わった。

 

 個人的にこの件を追っていた井口楓からの情報により、"プリスタ"が目撃された地点が特定された。その全てが九州北部に限定されており、殆どが人気のない学校や工事現場、病院の廊下などで、時間帯も夜間にほぼ限定されていたのである。

 

 これはネットでも知られており、幽霊説や本物説も囁かれる一因となっていた。というのもこのアニメ、作中の舞台が(明言はされていないが)福岡県福岡市とその周辺なのである。1期の時は円盤売り上げで覇権を取った程度にコンテンツ力のある作品なので、既に地元のマニア達が彼女の現れそうな場所に乗り込んで来る問題が生じているという。

 

 さらにこれをもとに調べた結果、ここ数か月になって空閑家管区内で増加していた「依頼を受けて駆け付けたはずが呪霊を見つけられなかったケース」における呪霊の出現予測地点と、"プリスタ"が現れたとされる地点がほぼ一致していたことが判明する。この中には、1級クラスの呪霊が想定されるとして俺含む遊撃班が駆り出された事例も含まれる。

 

 この段階で空閑家もようやく事態に気付き、高専のネット監視部門と全面的な協力体制を取るに至る。

 

 要するに。世間を賑わせている"プリスタ"の正体は、自分を魔法少女だと思い込んでいる野良の呪術師である可能性が高い。

 

 それが、高専と空閑家の共通見解だった。

 

 笑いごとに聞こえるが、状況は深刻である。何しろ呪術の秘匿は呪術界存続の絶対条件だ。

 

 もし"プリスタ"がこのまま活動を続け、用いているエネルギーが「本物」だと知れたら。あるいは、戦っている"怪人"たちが「本物」だと知れたら。どちらにせよ、呪術界が今まで守ってきたベールは捲られ、呪術の存在は表ざたになるだろう。それは何としても防がなければならない。

 

 何故なら、呪霊の発生源は人の負の感情だからだ。

 

 呪霊に怯える人間が増えれば、それはいつか形を作って「呪霊の呪霊」「呪霊の呪霊の呪霊」……という無限ループを生み出す恐れがある。そうでなくても、呪霊などというものが存在すると一般に知れれば、想定されるパニックの規模は計り知れない。

 

 空閑家管内の案件であるから、対処は空閑家に一任されている。これは「自分の領地で起きた問題は自分でケツ拭けや」という脅しであって、例えば対処が長引いて五条悟の介入を許せば、今後は五条家、ひいては東京高専の影響力が無視できないほどに拡大する。

 

 既に祖父は俺達遊撃班の投入を決めたようで、おあつらえ向きに次の出現予測地点は我が家からほど近いショッピングモールだ。

 

 ここで止めなければ、つまり、殺さなければならない。

 

 それが、同年代の女の子かもしれないとしても。




メカ丸の原作がグレンラガンくらいヒットしたとするなら
もう1つくらいヒットしたアニメを捏造しても問題はないだろうの精神でお送りしています。

魔法少女をぶっ殺したいっていうのは、リョナラーやってる人なら誰でも1度は考えたことがある鉄板の議題だと思います。
が、実際に作品になってるケースは意外なほど少ないので盛り込んでみました。
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