やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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今回から新章、まずは日記回です。


魔法少女編
#33 元服(上)


2013年 12月 Δ日

 

 今までとは違うベクトルでてんやわんやしており、気づけば4ヶ月が経過していた。自分で言うのも何だが、欠かさず毎日記録を付けるのはあまり向いていないのかも知れない。

 

 夏から秋にかけては繁忙期で、震災直後ほどではないにしろ九州全体の高等級呪霊を狩って回った。

 

 メンバーは以前と似たようなものだったが、違うのは弟・徹也が合流してきたこと。演習生還とその後の模擬戦での活躍が認められ、俺たち遊撃部隊の支援要員として随行することが認められたそうだ。

 

 実際、「再契象」の威力はすさまじいものだった。以前戦った時はタンクローリーを持ち出しての正面戦闘だった訳だが、この術式の真価は(父が見込んだ通り)後方支援である。

 

 例えば、家人に最近北海道旅行に行ってきた者がいたのだが、その時行ったラーメン屋のレシートを徹也が焼き切れば、眼の前に出来たての味噌バターラーメンが現れる。

 

 山奥だろうと絶海の孤島だろうと、レシート一枚用意しておけばどんな店のどんな料理も出来たてで食べ放題。ガソリンスタンドの領収書を持ち込めばジェリ缶で出現して補給し放題。薬局のものを使えば消毒薬や包帯、痛み止めが瞬時に出現。長期戦が想定される際には、重機の持ち込めない場所だろうとプレハブ小屋と電波塔を建築、数分にして前線基地を構築してしまう。

 

 家中から集めた数千枚のレシートや契約書を詰めたアタッシュケース1つ抱えているだけで、徹也はレストランであり、通信基地局であり、発電機であり、燃料タンクであり、薬局であり、火薬庫なのだ。事前の準備が必要なことと、未来のトンデモ道具を出せないことを除けば、ほとんど四次元ポケットと変わらない。

 

 面白い所では、ハワイだかの高級リゾートホテルの領収書を使って「数日間休んだという結果」を再現し、呪力含めた疲労をその場で回復するという芸当すら見せた。流石にこれは自分にしか使えないそうだが、将来的にこれが他人に向けばホテルや病院の領収書を使って疑似的な反転術式のアウトプットすら可能になるだろう。

 

 現在は高等級呪具を身内で何度も取引して無限増殖出来ないか試しているとのことだが、そんなことをしなくても十分以上に常識を覆す利便性を実現している。「帳」要員と戦闘員と徹也が組めば、ほぼ無補給で動き続ける完成した軍隊が出現するのだ。

 

 兵站という概念を破壊してしまう再契象は、もちろん使用済みの契約書ありきとは言え、コンビニでの買い物1つからレシートが出て来る現代文明と極端に相性のいい術式と言えるだろう。そして、そういう文明の利器を存分に利用するスタイルである我が家の在り方ともマッチしている。父が入れ込むのも納得だし、表向き「窓」として登録されて正確な実力が伏せられるのも納得だった。

 

 その関係で最近知ったのだが、我が家の呪霊討伐は一応、事業として法人化されているそうで、完全親族経営かつ活動実績が不透明な株式会社としての性質を有している。表向きの事業は一族の保有する不動産の管理と警備系の人材派遣業で、当主が社長として届出されている。

 

 実態を考えれば警備会社どころかPMCを通り越して軍閥みたいな所がある我が家だが、あくまで空閑興業㈱という形にしておいた方が民間としても行政機関としても何かとやりとりが円滑になるし、呪霊討伐で得た資金を企業利益としてロンダリングする役割もあるのだという。

 

 話が逸れたが、つまり組織が一応企業化されているからこそ、家全体からレシートをかき集めて再契象に使う体制がすぐに整った面がある。もちろん、父を始めとする事務方が有能なお陰でもあるが……父のことだから、この事態を想定して管理会計化を推し進めていたのだろう。恐らく、この辺りの組織構造が旧態依然としていて良くも悪くもどんぶり勘定な所がある他家ではここまで円滑に術式を使いこなせなかったと思われる。

 

 そんな訳で、徹也のお陰で遠征中のQOLが劇的に向上した遊撃班は、今までにない勢いで呪霊を討伐。例年激務になりがちな夏場の労働環境がホワイト化するという成果を叩き出した。

 

 父が以前から提唱していた再契象の効果が証明された形となり、俺がいて尚長らく微妙な関係だった母方の実家との関係が完全に修復されるに至る。俺に続いて徹也を産んだ母の家中での地位はうなぎのぼり、今や女性陣でトップの権力を得るに至っている。

 

 母――令奈は名門出身ではなく、野心のある人でもないので権力はかなり持て余し気味なようだが、まああの人なら大丈夫だろう。

 

 基本鍛錬漬けで食事時くらいしか会うことのない母だが、基本的に術師としての育成は父に任せる方針で、娘たちの花嫁修業には付いているようだが男子のことは放任気味。元々、術師としての最終等級は準2級だそうなので、戦闘員としては教えられることがないのもあるだろう。

 

 基本いつものほほんとしていて、お腹を大事にしてソファに転がっている印象が強いのでぼんやりして見える人だが、家事は妊娠中だろうとテキパキこなすし俺が過労気味だとすぐに見抜いて次の予定を勝手に取り消してくる底知れない所もある。本人の弁を借りれば「怠けられるならそれに越したことはない」そうなので、多分その気になればバリバリ働けるのだろう。

 

 押しに弱いというか、流されるままに生きているように見える人だが、同時に流された先で強かに適応できる人でもある……というのが俺からの印象だ。贅沢な生活をしつつイケメン(父)に絶え間なく求められる暮らしぶりを何の屈託もなく「勝ち組」「玉の輿」と表現できるのは、俗物ではあるんだろうが、肝が太いと言わざるを得ない。言ってしまえば、癒し系肝っ玉母ちゃんとでもなるのか。ともあれ父の見る目は確かだ。

 

 

 

2014年 1月 ◆日

 

 色々なことが重なって起こりてんてこ舞いである。

 

 何から書いたものか……とりあえず、起こったことは3つ。

 

 まず、レアの妊娠が発覚した。

 

 昨年夏の演習のあたりで父に避妊がバレて見とがめられていたため遅かれ早かれではあったのだが……いざ親になるのが決まってみると、何と言うか落ち着かない気分だ。

 

 そもそも結婚して責任を取っている訳でもないのに……という気持ちがないこともない。家格やらなにやらを考えると現状の愛人関係がベストとは言え……改めて呪術界のいびつさを身をもって知ることになった一幕だった。

 

 一報入れてきたレアは嬉し泣きで顔面べちゃべちゃになっており、問いただしてみたら「やっと関係を証明できる(形に残る)ものが間に出来た」と。何度目になるか分からないが、頭を殴られたような気分だった。

 

 プレゼントを買って送ったことはある。金があるのをいいことに、年齢にあるまじき宝飾品などをデートついでに買ったことも。が、それは物だ。

 

 子供ができるより先に俺が飽きたら、レアはただのボディーガードに格落ち。場合によっては配置換えもあり得る。少なくとも俺は毛頭そんなつもりはなかったが、それはレアからは見えない要素であり。今の今まで、芯の部分では気を張り続けていたんだろう。

 

 この人は仮面が分厚いと、そして俺が決めたことに何かを言える立場ではないと、少なくとも俺は知っていたはずなんだ。付き合い始めの頃、流石に12歳で父になるのは心の準備ができないからと避妊する方針を伝えた時、この人はどんな顔をしていたんだったか。

 

 歳が歳だからとどこか引いていた所があったが、それは甘えだった。演習明けのあの時、父からの指摘を受けてしぶしぶ、といった形で辞めたことだったが、あれは必要な忠告だった。

 

 どうせ子育てはレアや使用人たち、そして母に任せることになる。どうしても前世の記憶が足を引っ張って倫理的な問題を警告してくるが、逆に言えば呪術界の外の倫理以外の部分では問題がないどころかめでたいことであり。後は俺が堂々とさえしていれば、それで済む問題だ。ならば、求められるようにすべきだろう。

 

 今更何を言ったところで俺は呪術界の一員なのだし、既に自分ひとりの身体ではないのだから。

 

 同時期に、正月ということで禪院家に挨拶に行ったのだが、何処から聞きつけたのやら嫌味なんだか祝ってるんだか分からない祝辞を大量に浴びることになった。

 

 当然、向こうとしてはさっさと真依を孕ませて欲しいのだろうからさもありなん。運の問題なのだろうが、今の所妊娠の兆候のない真依はますます焦ることになるだろう。

 

 申し訳ないことだが、ここで真依に肩入れすることはできない。それで気持ちが真依の方に行ったと思われ、今度はレアに負担が行くような状況を避けたいからだ。見ていて可哀想だが、これは必要な線引きだと自分を納得させるしかない。

 

 そして2件目。今年の正月をもって元服し、次期当主として正式な指名を受けることになった。

 

 我が家の元服は数えの15歳になったタイミングで行われ、俺もその例に倣った形になる。元々ほぼ確実とされていた次期当主の座だが、これで父がつなぎになる可能性も消え、現当主にして祖父である徹司が引退すると同時に俺が当主の座につくことが確定した。

 

 本来なら本人の素質や種々の事情で時期が前後するというが、俺の元服が通常通りの時期に行われた理由は二つ。

 

 俺自身の男性機能に問題がないと確認された……要するに、お手つきを孕ませたこと。

 

 そして、難航していた婚約者探しに決着がついたことだ。

 

 知ったのは元服の儀式中だったので本当に驚いた。昔のお見合いでは、結婚式当日まで相手の顔を知らないということもザラにあったというが、実際にやられると複雑な気分である。

 

 京都に行って本人とも会ってきたが、いかにも大和撫子という感じの深窓の令嬢……と思いきや、「後は若い二人に任せて」になった途端に敬語を崩してお転婆ぶりを見せつけて来る面白い人だった。あそこまで計算ずくだとしたら相当な使い手だが、アレは素だろうなと思わせて来る不思議な安心感があった。

 

 加茂日和、名字で分かる通り呪術界御三家、加茂の本家筋……というか現当主とその正妻との娘である。歳は俺のひとつ上、女子であるため前線に出ることは少ないが実力としては現時点で準2級相当、術式は相伝・赤血操術。日本呪術界最高レベルの良血である。

 

 元より父は日和さんを本命として交渉を行っており、家格を始めとする種々の問題から難航していたところ……とある幸運によって加茂家側の態度が一変、今回の縁談にこぎつけたとのことである。

 

 とある幸運とは、加茂家現当主の庶子の中から、相伝の術式を継承した男児が見つかったこと。そう、原作の交流会編で登場した加茂憲紀のことだ。

 

 市井に流れていた彼を呼び戻し、次期当主に据えることで継承者問題を解決した加茂家は、次善策として用意していた「日和に誰かしらを婿入りさせて相伝を継がせる」案を使う必要が無くなり、俺に下げ渡すことを良しとしたようである。

 

 ――原作にて、加茂憲紀の「何故自分を贔屓にする」という台詞に、加茂の家人は「正妻が術式を継いだ男児を産めなかったから」と答えた。

 

 女児は、産んでいたのだ。それが日和さんで、加茂憲紀の異母姉に当たる。あるいは加茂憲紀は繋ぎで、俺との間に赤血操術持ちの男児を産ませて、その子を加茂家に戻して当主に据えるつもりなのかもしれない。

 

 呪術師の間での縁談では、例えば空閑家の中で十種影法術持ちの男児が生まれたらその子は禪院家が引き取る、というような契約が取り交わされることは珍しくない。加茂家として、妾腹である憲紀の子がそのまま後を継ぐよりは、格落ちとは言え名門である空閑家の血が混ざる方がマシと判断したというのは納得できる。

 

 縁は異なもの、とは言うが、こんなところで原作キャラとの接点ができるとは思わなかった。というか、俺はこの先京都高専に入学する可能性が高い訳で、そうすると義理の弟が同級生になるという非常にこじれた事態が起こるのでは……。

 

 深く考えるのはよそう。少なくとも日和さんはどことなく影というか闇を感じる人ではあれど、悪い人ではなかった。今はそれでいい。

 

 最後の3件目、去年の秋ごろからずっとゴタついていた雨宮家の取り潰しが決まった。

 

 匿名の通報により、内部での度重なる虐待や各種の癒着・不正などが芋づる式に明らかになったのが原因だというが、その内容は中途半端にしか明かされておらず、詳細は噂の中に埋もれてしまっている。

 

 少なくとも、あの演習にも参加していた千景さんを含む2名以上の自殺者が出ていると聞いて面食らったが、もう一人の方が12だか13歳の女の子で、動機は親族による性的虐待……もっと言えば、それで妊娠したのを苦にしたというからなおの事やりきれない。

 

 それを皮切りに、雨宮家が裏で行っていた「御影の再来」を求めての所業の数々が表沙汰(と言っても、呪術界の中での話だが)になり、仮にも特別一級術師を擁する名門が起こしたスキャンダルという事でちょっとした騒ぎになった。

 

 結局、雨宮家は取り潰しとなり、当主であった御影さんは高齢を理由に罪を減じられ、無期限の謹慎処分となった。上は今までの功績を理由に不問とするつもりだったそうだが、当の御影さんが責任を取ると言って聞かず、上層部と何度かの話し合いの結果こうなったそうだ。

 

 呪術界における御家取り潰し(改易)は、その家に与えられている役職などを全て解くのと同時に、血筋に連なる全員を呪術界からの永久追放とする処刑の次に重い処罰である。

 

 元々雨宮家が担当していた業務は東京高専と近隣の呪術師一族で分配、残存している雨宮の人間は市井に降ることになるが……行状が本当なら、御影の築いた特権を手放したくなくて凶行に手を染めた者達だ。今更ただの地主に戻れるとも思えず、未来は暗いだろう。

 

 通常なら生き残りが呪詛師になることを警戒して取り潰しの沙汰が下ることはほぼない。「殺すか許すか」で処分を二極化させがちな上層部だが、今回は事実上唯一の戦力である御影が責任を取る姿勢を明確にしていて他に脅威がなく、かといって周囲の一族から嫌われている雨宮を許すのは上層部の沽券に関わるということで、この半端な処分が下ったと思われる。

 

 原作にて五条悟も言っていたが、一人強くても出来ることには限界がある。後に続かなければ、才能に目を焼かれた一族はかえって状況を悪化させかねない。

 

 ワンマンチームでは駄目だ。

 

 一時は空閑に並ぶとも言われた名門のあっけない最後に、俺はそう決意を新たにした。

 

 

 

 ――公表されている罪状が表向きのもので、実際には千景の行いを暗殺未遂として徹大らが徹底的に責め立てた結果であることを知らされたのは、かなり時間が経ってからだった。




原作のりとしに姉はいません。無から錬成しました。
真依以外のヒロインはオリキャラで固めることになりそうです。


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名前  :空閑令奈(くが れいな)
性別  :女性
年齢  :30歳(33話時点)
身長  :155cmくらい
所属  :京都高専→空閑家
階級  :準2級呪術師(引退済)
趣味  :寝ること、ぼんやりすること
好物  :徹大の買って来るスイーツ
苦手  :エナジードリンク
ストレス:悲惨な境遇だと勘違いされがちなこと
備考  :夫に趣味を持って欲しいと思っている。
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空閑興業株式会社
 福岡県に拠点を置く中小企業。創業一族である空閑家の親族経営で、従業員も殆ど親族で構成される。
 空閑家は地元では有名な大地主であり、近隣の商業施設や農地などに手広く土地を貸し出していることから、それらを管理するための会社であると認識されている。土地の管理を理由に警備部門も置いており、特に立ち入り禁止区域のガードの堅さで知られている。
 似ても似つかない名前の子会社をいくつも抱えており、それらを全て合算すると沖縄県と一部の離島を除く九州の全自治体と何らかの形で警備契約を結んでいることになるが、その事実はほぼ知られていない。
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