やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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有給取った割には進捗がないので初投稿です。


#31 競争

 島の中央には、コンクリート製の建物の廃墟が立ち並んでいる。

 

 数十年前に人が住んでいた……という訳ではなく、市街戦を想定した空閑家が私費で建設した模型だ。

 

 コンクリ部分はともかく、板やプラ板で出来た遮蔽や土嚢は容易に動かせるようになっている。細かな建物の配置を変更することで、戦闘訓練時に地形を覚えて対処してしまうことを防いでいるのだ。

 

 そんな街区の中央、周辺で最も高い6階建て相当の建築物の屋上に陣取った徹は、既に演習が開始されているにも関わらず無警戒に周囲を見渡している。

 

「親父殿も無茶言うよなー……」

 

 徹の言う「無茶」とは、自分ひとりに島の全員を狩らせようとしていることではない。

 

 ()()()()()()()()()()で徹を倒させようとしていることだ。

 

 この場にいる全員が彼と九十九由基との演武を目撃している以上、この決定に異を唱える者はない。高専教師陣や空閑家戦闘部隊など、参加者には1級相当の実力者も複数混ざっているが、「束になってかかれば圧倒できる」とも、「自分たちを舐めているのか」とも、声を上げる者は誰一人として出なかった。

 

 通常、呪術師が戦う可能性のある最も強い存在は特級呪霊である。

 

 それですら、1級術師を2人揃えれば原則負けはないというのが現在の呪術界における常識。

 

 昔と比べ呪霊の質は右肩上がり、発生頻度も増えているとは言え、彼らの……特に高専の人間の本質は「害虫駆除業者」であって、格下狩りが当然なのだ。互角以上の相手との死闘など初めから想定されていない。

 

 そんな中での徹である。中には、格上相手に戦いを挑むのは初めてという者もいるだろう。あるいは、そういう者に経験を積ませることこそ、このチーム分けの目的かも知れない。

 

 レアがいたら「徹クンいつからレイドボスになったんスか」とか言って笑っていそうだな、と考えて、今は敵だと思い直して思考を回す。

 

 流石の徹も、あの人数と戦力を相手に無策で勝ち残れるとは思っていない。相手方の陣容は事前に連絡を受けているが、参加している中で脅威になりうる存在のリストアップは事前に済ませている。

 

 ――その筆頭は岸辺リョウであった。

 

 呪力量、術式の練度、(ないとは思うが)領域対策。呪力の知覚による未来予知に近い行動の先読み、どこを取っても徹の優位は揺らがない。

 

 今の徹を撃破しうる攻撃手段としては、超遠距離、知覚範囲外からの大火力による狙撃か、町ごと吹き飛ばすレベルの広範囲攻撃、NBC兵器、電撃などの原理的に回避不能な攻撃が挙げられる。

 

 徹は知らない範囲になるが、渋谷事変の終わった後の「原作」にはそのまま「反転使いを殺す方法は頭を潰すか毒物」という一節が登場する。

 

 ――そして徹の反転術式は、既に半自動での毒物の選択・除去の域にたどり着いている。原作でも純粋な反転術式のみで成し遂げた者がいない領域であり、彼の秘匿するアドバンテージの一つだ。

 

 電撃は術式に頼らない場合それなりの設備が必要(スタンガン程度では呪力強化した肉体を抜けない)で、町ごと吹き飛ばす大火力は……それが出来ればこんなところでその他大勢扱いされていないだろう。

 

 故に、実現可能なラインで一番あり得るのは遠距離からの狙撃。実際にそれを得意とするリョウが敵方にいることを考慮し、徹は一番高いビルの屋上に陣取った。

 

 射線が通るということは視線も通るということ。この開けた場所なら、徹の察知能力をもってすれば撃たれる前に発見するのは容易である。

 

 何より、今の徹は周囲すべてを敵に回しながら、大胆にも一番目立つ場所にどっかり座って敵を待ち構えているのである。即席の連携でこれを崩すのは無理だと徹は考えた。

 

 徹の見立ては、概ね正しい。

 

(……来たか)

 

 誤算があるとすれば、それは彼の1つ下の弟。

 

 ビルの根本からざっと200メートル。市街の端に足を踏み入れる弟の呪力を徹ははっきりと感じている。

 

 弟……徹也の術式は知っている。

 

 知らなかったのは、その練度と応用性の高さ。

 

 そして、その術式は()()()()()()()()ということ。

 

 

 ――彼らの父、空閑徹大は一族の例に漏れず見合いによって結婚している。だがそこに、お互いの意思が介在しなかった訳ではない。

 

 今からおよそ14年前。今よりもっと堅物で冷血と評されていた10代の徹大は、京都高専に後輩として入学してきたとある女子を一目見るや、自分が動かせるリソースを総動員して「手籠め」にした。

 

 歴史こそ長かったが、保守派向きのしない術式で家格は低かった。呪術師としては半ば没落していたと言ってよく、辛うじて呪術師一族と名乗れる程度だった家柄の娘を本気で落としに行った徹大は、家中の反対を押し切ってその娘と結婚することになる。

 

 田舎の箱入り娘である。進学先で名門一族の御曹司な先輩と出会い、あの手この手で自分を求めて来るとあっては、満更でもなく受け入れてしまうのは必定であった。

 

 その一方で。この時徹大は彼女の見てくれと気立てに惚れたのは本当のことだったが、彼を本気にさせた要素はもう一つあった。というか、こちらが本命だったと言っていいだろう。

 

 その「成果」は、次男である徹也の登場をもって結実する。

 

「一手御指南ください、兄ちゃん!」

 

 気合いの入った呟きと共に、懐から取り出したA4サイズの紙を両手で挟み、それを呪力で思い切り焼き切った。

 

 すると徹也の目の前に突如として大型の車両――タンクローリーが現れ、猛スピードで徹のいる建物に突撃した。

 

 刹那、爆発。

 

 燃料満載のタンクがまき散らした閃光と轟音により、比喩でなく島が揺れた。

 

 ――履行済の契約書を呪力で焼き切ることによって、契約の内容をその場で再現する。

 

 その有用性を余すことなく使い切ったのは、その前提を整えられたのは、歴代の呪術界でたった2人。

 

 "再契象"。

 

 徹也が母親から受け継いだ術式である!

 

「おいおい……ここまでやるか……!」

 

 口調とは裏腹に、口角は愉快そうにつり上がっていく。

 

 爆炎と逆方向、崩れゆく建物から飛び出した徹は、位置的に徹也への反撃は諦め態勢の立て直しをはかる。

 

「シン・陰流『抜刀』!!」

 

 着地の瞬間、無防備な姿勢を晒したかに見えた徹の元へ刀身が迫り――無造作に差し出された左手が、それを掴み取った。

 

「思ったより速い。いいですね、それ」

 

「こいつ、誘いやがっ――」

 

 準一級呪術師、日下部篤也。つい最近高専の教職になったばかり、「術式なし」にしてシン・陰流の剣術一本で今の階級にまで到達した期待の新星であるが……白兵戦は徹の土俵。不意打ちに失敗した時点で、勝てる道理はない。

 

 片手で掴んだ刀身を手前に引っ張り、バランスを崩した日下部の顔面を掌底が直撃。

 

 破裂音と共に顔面を陥没させた日下部は、衝撃で半ばから折れた刀と一緒に数メートル吹き飛ばされ、そのまま起き上がらなくなった。

 

「次」

 

 手元に残った刀部分を投げ飛ばし、飛来したグレネードにぶつけて爆破処理。

 

「味方ごと爆破する気か……?」

 

 脚を呪力強化して砲撃の出所に向かうも、一定時間おきに自動で引き金を引くようなからくり仕掛けがしてあるのみで無人であることを遠目に確認し、手ごろな石を掴んで投げつける。

 

 徹の呪力で強化された投石は設置されたダネルMGLの回転式弾倉を貫通し、その直下に仕掛けられていたIEDを誘爆させる。

 

 あくまでも飽和攻撃で処理能力を超えさせる魂胆らしいことを認識して、徹はズボンのポケットから何本かのサバイバルナイフを取り出す。片手に3本ずつ持ってその場にばら撒くように投げると、しばらく滞空してからひとりでに浮遊し出し、徹の周囲、肩のあたりを囲うように配置される。

 

"呪願(かしり)" "(やつがれ)" "片輪(■■■)(むくろ)"

 

 呪詞に応えるように、「小刀」で浮かんでいたナイフを纏う呪力の質が変わっていく。

 

「大刀・穿 六連」

 

 全方位に繰り出された6つの刺突は、周囲の瓦礫をまとめてクレーターに変えるほどの威力を持って地面に突き刺さる。

 

 直撃すれば死は免れないだろうが、少なくともこれに巻き込まれた者はいなかった。

 

 土煙の中を慌てて飛び去り、距離を取った3名。空閑徹大、徹司、そして均はしかし、怯むことなく3方向からの「大刀」でもって徹を挟撃した。

 

 これを徹が小刀3本にそれぞれ防がせたと見るや、今度は徹大と均が「小刀」を展開、大型のマチェット計7本を徹に向かわせる。

 

 同時に徹司が自らの得物である大太刀を振り下ろした。この段になって、徹はついに自ら腰に佩いた刀を抜いた。

 

 大上段から振り下ろされた大太刀は、徹司の呪力強化も相まって自動車程度なら容易く両断する破壊力を有している。

 

 それでも徹の呪力で強化された腕力と、呪具「竜骨」を押し切るにはまったく足りない……はずであった。

 

「……一級呪具。"呪詛殺し"」

 

 同時期、完璧なタイミングで起動されたその呪具がなかったなら。

 

 呪具「呪詛殺し」は、効果範囲内で用いられた呪具を一斉かつ急速に劣化させ、脆くする。

 

 呪力強化があると言えど、金属の強度を失った「竜骨」が日本刀にかなう道理もなく。

 

 インパクトの瞬間、ついに徹の刀が折れる。

 

 しかし、それだけで被弾する徹ではない。

 

 刀が持たないと見るや呪力を頭部と首、背中に集中させ、怪力自慢たる徹司の脳天唐竹割を素で防いでのけたのである!

 

「痛っ……てぇ……流石に……!!」

 

 いくら刃引きしたレプリカ品と言えど、鉄の棒で思い切り殴られたようなもの。それで気絶する可能性もあったあたり、徹の精神力はいかほどと試算されているのだろう?

 

 そして恐らくは試算よりも頑丈だった徹は、頭から一筋の血を垂らしながらも頭蓋骨が陥没した様子もなく、ただ真っすぐ徹司を見据えていた。

 

 既に事前投入されたマチェットは打ち落とされており、徹が反撃のためシャツの胸ポケットからナイフを持ち出すよりも早く、徹大が懐から銀色に光る銃身を取り出した。

 

(50口径(デザートイーグル)!?)

 

 大柄な徹大の掌に収まった大型拳銃は、これまた重い音を立てて徹の胴体めがけて鉛玉を撃ち出す。徹大ほどの呪力と熟練度があれば、いまのような片手撃ちでも十分すぎるほどの命中精度を誇った。

 

 徹はとっさに飛びのいて銃弾を躱そうとするが、その瞬間、地面が不自然にへこんで足元のバランスを崩させる!

 

「拡張術式"土石避"。土いじりもこういう時は便利ッスよね」

 

 遠隔地から戦闘の様子を見ていたレアは、ここぞというタイミングでほんの少しだけ、徹に敵対することにした。

 

「今だ! やれ!!」

 

 仕上げとばかりに徹司の掛け声に応じて飛び出してきたのは、対物ライフルを主武装とし火力のあるリョウ……ではなく。

 

 

砲呪強化形態(モード・アルバトロス)――三重大祓砲(アルティメットキャノン)!!!

 

 

 術式の特性上、既に原作開始当初と比べてもそん色ない呪力出力を誇る、究極(アルティメット)メカ丸であった!




昔乙女ゲーみたいな真似をやってたことがある主人公のパッパ。血は争えないね。
京都校の面々にとっては女子生徒(後輩)を寿退学させた伝説のOBである。
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