やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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戦闘シーンが思ったより長引きそうなので初投稿です。


#23 演習(上)

「どんな女がタイプかな?」

 

 徹の眼前には、特級・九十九由基。

 

 お決まりの文句は徹の知る通りのもので、年齢不詳の美貌も漫画そのまま。

 

 夏油傑、五条悟をその目で見たことのある徹は、これで現存する全ての特級術師と対面したことになる。

 

「あわ、わ、わぁ……」

「答え方如何で死人が出そうなんですが」

 

 明らかに挙動不審になり出したレアを無視してツッコミを入れつつ、キョロキョロと周囲を確認する徹。何せ家人に聞かれでもしたら余計な厄介ごとを招くに決まっている。

 

 そして同時に、初陣の頃から一緒にいるレアは徹のそういう警戒の外にいる。 

 

「それは自分の性癖を隠す理由にはならないだろう?」

 

 首をかしげる由基からは、嘘や方便で言っている感じが全くしない。

 

 それはそうだろう。彼女は秩序に迎合せず、我が道を行くと決めた人間だ。自分の行動によって生じる犠牲を顧みることはあっても、止まることはない。

 

 あるいは進み続けることが、彼女にとっての犠牲との向き合い方なのかも知れなかった。

 

「性癖には、己の全てが反映される。経験上、"自分"を押し付けられない人間はこの界隈では生きていけないよ」

 

 故にその言葉には、性癖の話とは思えないほどの説得力が籠っており。

 

「……人間関係の外側に、自分の芯になる行動指針を持っている人。周りに影響されないマイペースな人。有体に言えば、何かのオタク。そういう人間が俺は好きです」

 

 故に徹も、思う所をそのまま答えた。

 

「ミーハーは嫌いかい?」

 

「"ミーハーでいること"がブレないなら好きですよ。"自分"を押し付けられない人間は生き残れない、俺もそう思います」

 

 図らずも、それは原作の伏黒恵と似たもので。

 

「つまらない男だね、君は」

 

 よって九十九の返答も、原作の東堂葵と似たようなものであった。

 

「それは人間としての好悪、理性の話だろう。私はそんなお為ごかしではなく、キミの剥き出しの本能の形と、それが向くところを聞いているんだ」

 

 違ったのは、そこに具体的な説明があったこと。

 

「それとも、私では曝け出すのに不足かな?」

 

「不足ですね。私たちの遊び心は容易く人を殺す。分からない貴女じゃないはずだ」

 

 煽りと、即答。あたりには俄かに、剣呑な空気が流れ始める。

 

「なんだか当たりが強くないかな? 初対面だよ?」

 

「少なくとも、人が若い身空で殺し合ってる時に優雅に研究三昧の特級がいたら印象が悪くもなりますよ。時に、そんな貴女がどうしてここへ?」

 

「コトリバコを倒した術師を見てみたかったのもあるけど……上が珍しく本気でうるさくてね。空閑徹と戦わないなら呪詛師認定も辞さないとまで言ってきた」

 

「ああ、なるほど。俺がいるから強く出られるようになったのか」

 

 やれやれと首を振る九十九と、合点がいったと頷く徹。

 

 五条悟がそんな内ゲバに協力するとは到底思えず、戦力を考慮すれば処刑人として指名されるのは間違いなく徹だ。

 

「つまり俺と戦うか俺と殺し合うかの2択と。上は変わりませんね」

 

「12歳に言われてるんじゃ相当だ」

 

 二人は一瞬笑いあって、

 

「じゃあ、手っ取り早く済ませましょうか」

 

「同感。開会セレモニーには丁度いいでしょ」

 

 あまりにもあっけなく、特級クラスの戦力を持つ2人のマッチアップが決まった。

 

 

「ああ、そうだ。結局女の好みを聞けてなかった。男でもいいよ」

「……そこに居ますよ」

 

 開けた場所へと移動しようとする徹の視線の先には、いよいよ茹蛸のようになって伏し目がちに何やら指を絡ませているレアがおり。

 

「結局本心は聞けなかったな」と口に出さない程度の情けは、九十九にも存在した。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 7日間の日程は例年、銃火器を使った火力演習から始まる。

 

 だがこの日、島の中央部に位置する高台には、今島にいる人員のほぼ全員が詰めかけていた。

 

 安全を考慮し戦いの場となる南端の砂浜から200メートル以上離れているが見晴らしはよく、備品として用意されていた双眼鏡も行きわたっている。

 

「とりあえず殺しはしないとして、術式開示はお互いの判断に任せる、でどう?」

「いいですよ。別に術式は隠してもいませんし」

 

 

 "空閑の麒麟児"空閑徹 対 "特級術師"九十九由基。

 

 

 それは開幕の一戦とするにはあまりにも豪華であり、空閑家としては、ようとして知れない特級術師・九十九由基の戦闘スタイルを知る好機。そして高専サイドの人間と九十九にとっては、未だ底の知れない空閑徹の実力を知る好機。

 

 互いの望まない形で、しかし不思議なところで利害のバランスが一致したことで実現した取組は、それが奇跡的に発生し得たこの場限りのものだと、この場の全員が理解している。

 

「兄ちゃん……!」

 

 丘は東西で大雑把に陣営が別れ、徹側(東)の最前列で食い入るようになりゆきを見ているのが徹也だった。

 

 戦闘部隊に加入したとは言え、彼はまだ後方支援要員。実際に戦う徹を見るのは初めてではないが、そのどれもが圧倒的格下を相手にした組手で、複数人が纏めてかかっても嫌がらせのようなハンデを背負わされても、徹はついでのようにそれらをなぎ倒して来た。

 

 初めて、徹の「蹂躙」ではなく、「戦い」が見られるかもしれない。

 

 その考えはコトリバコと直接戦っていない家中の者達も同じで、徹大と徹司ら幹部格は勿論、大きなケースを持って群衆に紛れている岸辺リョウも、不測の事態に備え壁役のゴーレムを展開させて警備しているレアさえも同様に固唾を飲んで見守っている。

 

 一方、高専側も纏う緊張感は同じだ。

 

 何も、空閑徹の実力を測って来いと言い含められたのは九十九だけではない。

 

 最年少特別一級術師。黒閃経験者。特級呪霊撃破2回。空閑家当主候補筆頭。大それた逸話は数知れず、未だ実力の底が見えない徹がどれほどのものか、興味のない者は今の呪術界にはいないだろう。

 

 そして、何より。

 

「歌姫、何とかならないのカ?」

 

 問いかけたのは、明らかに人型ロボットのような見た目の何者か。

 

「何とかしてあげたいけど……あの時からずっと塞ぎ込んでて、出てきたと思ったらこれは……何て声掛けたらいいか……」

 

 答えたのは、高専側の引率を押し付けられている京都校教授、庵歌姫。戦闘も想定されるとあって、仕事用の巫女服姿である。

 

「昔はもっと活発というカ、変ではあっても暗くはなかっタ。いヤ、あんな現場に立ち会えば無理もないカ……」

 

 ロボットは当たり前のようにくぐもった声で会話し、あまつさえ過去の出来事を思い返してさえいる。

 

 そう、彼の正体は傀儡操術を使いこなす呪術師「与幸吉」、またの名を「究極(アルティメット)メカ丸」。天与呪縛により「本体」がまともに動けないほど虚弱なのと引き換えに、日本全国どこへでもリアルタイムで操作可能な人形を差し向けられる実力者だ。

 

 体質の問題で幼少より京都高専に保護されている彼は、操る人形が破壊されようが本体にダメージが行かない特性を活かし既に任務でも活躍している。だがその実、「本体」の年齢は徹や徹也と同年代。耳をすませば、人形越しに聞こえて来る本人の声に幼さがあるのが分かる。

 

 人形の稼働限界を調べるのを兼ねて離島に連れ出されたメカ丸(の操る人形)だが、彼と引率の歌姫に限って言えば、徹の戦いぶりなどよりも気掛かりなことがあった。

 

 そう。この場で唯一、徹の戦いぶりを間近で見たことがある井口楓が、高専側にはいる。

 

 しかし、当初から一切変わらない虚ろな瞳と醸し出す剣呑な雰囲気のため、以前からの知り合いであるメカ丸すらも彼女には声を掛けられず。

 

 結果彼女は、一言たりとも喋らず、ただじっと試合の様子を凝視していた。

 

「動いた!」

 

 東京校の生徒が上げた声に反応して、その場の全員が弾かれたように砂浜を見る。

 

 見れば九十九は自らの式神「ガルダ」を身に纏わせ――

 

 その足が地面をえぐり飛ばすように蹴り上げた瞬間、あたりに10メートルはあろうかという砂の柱が吹き上がった。

 

 既にドーピング無しでの最大展開数16本の大小様々な刃物を浮かせていた徹だったが、巨大な砂柱に巻き込まれそのうち数本が制御から外れ、流砂に呑まれて行った。

 

 ノールック、視界外での「小刀」維持にはかなりの集中力を必要とする。徹の立ち回りが上手かったがために見過ごされてきた、禁縁呪法固有の大きな欠点である。

 

 砂にほとんど吸収されてなお轟く爆音と砂煙を突き破り、しかし無傷の徹が姿を現す。

 

 飛び出した正面には九十九由基。読んでいたのだ。

 

 徹が両手で振り上げた刀に対して、九十九が選んだのは防御でも回避でもなく、迎撃。

 

 この時徹の使用武器は、呪詛師「組屋柔造」のアトリエから押収された傑作「竜骨」。先のコトリバコ事件において高専生襲撃の下手人とされた彼の制作物として、恐らく最も高い性能を持つ呪具である。蓄積した衝撃やエネルギーを溜め、任意で峰から噴出させる力を持つ。

 

 対する九十九は、細長い身体であるガルダを右腕全体に巻きつけバンテージのように固定。さらに自らの術式「星の怒り(ボンバイエ)」を起動し、右腕を起点として全身に巨大な質量を付与。

 

 徹は脳天唐竹割を起点に呪力を送り込み、インパクトの瞬間に全呪力を集中。兜割から術式順転に持ち込む構え。

 

「殺さぬように」など建前。結果的にお互い死んでいなければ良い。二人の発想は一致していた。

 

 一瞬の後、二人の繰り出した刀と拳がぶち当たる。

 

 

 いわゆる「収斂進化」は動作にも起こりうる。武術に限らず、最適化された動きが結果的に似通うことはあらゆる分野で見られることだ。

 

 飛び上がり、弾丸のごとく突っ込んでくる徹の刀と、それを迎撃すべく、構えから撃ち出された由基の拳。超精密かつ流麗な呪力の操作。

 

 互いが互いの最適解を選んだがための一致。共に呪力操作と出力に長ける者同士。あとは偶然と言う名の奇跡。

 

 最適な動きを完璧に辿り切ったそれらは、寸分違わず同じタイミングで激突するに至る。

 

 

 ――打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間。

 

 空間は歪み、呪力は黒く光る!

 

 

 

 黒 閃 

 

 

 

 丘の上にいた観客たち全員が、刀と拳の間を這う黒い稲妻のごとき呪力の奔流を目の当たりにした!

 

「何だ!?」

「二人同時に吹っ飛んだぞ!?」

 

 だが、その離れ業に気が付いたのはほんのわずか。

 

 無理もない。黒閃と黒閃がぶつかり合うなどという事態が、歴史上一度でも観測されたかどうか。

 

 一拍遅れて吹き荒れる衝撃波と、それに吹き上げられた大量の砂がかなり離れた丘の上まで襲い、あたりは一時的に視界を奪われる。

 

 それを刀/拳の一振りで払い、現れたのは軽いかすり傷が付いただけの2人。

 

準備運動(ウォーミングアップ)にしては外連味ありますね」

 

「特級らしくていいんじゃないかな?」

 

 "黒閃"成立により一時的にゾーンに入った二人は、明らかに先ほどとはレベルの違う濃さの呪力を身に纏う。

 

 戦いはまだ、始まったばかりだ。




徹と九十九の黒閃の絵面は
だいたい白ひげ対ロジャーのアレです。
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