やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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久々の日記回なので初投稿です。


#20 戦後

2013年 6月§日

 

 戦後処理は非常にスムーズだった。

 

 元より討伐チームに死者がおらず、最悪の場合は受肉体との戦闘を想定した布陣だったこともあり夜明けまでには現場の調査が粗方終了。奪われた「ハッカイ」も受肉体の心臓部分から破壊された状態で見つかり、任務は無事完了ということになった。

 

 護衛についていた術師3人を介錯した件は、到着時点で既に助けられない状況になっていたとして全面免責。まあ、一々処分を気にして刃が鈍るようでは呪詛師の狙い通りなので、これは当たり前の判断だろう。

 

 俺、拓斗さん、御影さんの3人は京都高専に呼び出されて直々に感謝された。コトリバコが一般に流通すれば最悪呪術界の転覆もあり得たということで、あの何かと悪名高い上層部から褒められてしまった。

 

 五条悟を超える呪力量、建設重機のごとき馬力、金属と見紛う頑強さ。極めつけに外部ギミックによる呪力の無限供給ときた。あそこで止められなければ、あの怪物は五条悟に突き当たるまで全てを破壊し尽くしただろう。

 

 それを高専関係者ではない俺たちが倒したというのは、どうやら御三家主体となる呪術界上層部としては都合が良かったらしい。

 

 というのも、現在の呪術界上層部におけるパワーバランスは五条悟単騎とそれ以外の御三家が五条優位で釣り合っているような歪な状態。ここで五条悟ではなく俺達が活躍したことにより、五条の影響力を多少なりとも抑えられると上は見ているようだ。

 

 高専関連の特級クラス戦力が九十九、五条、夏油とことごとく上層部(夏油に至っては世界)アンチなものだから、業界の問題児たる空閑家とは言えどっぷり呪術界側の「優等生」の出現は上としても非常に有難いらしい。

 

 じゃあ俺も特級に認定されたのかと言うと、実はそうではない。

 

 俺に一級呪術師を超越する実力があるとしても、術式の性質上(少なくとも今は)単独での国家転覆は不可能で特級の条件を満たせないのがひとつ。呪術界でななめに外れた位置づけであり、真っ当であれば……つまり上層部の支配が及んでいる間は一級の域を出ないというのがその本質であるからだ。

 

 逆説的に、態々「特級にはしない」と上が言ってきたことには意味がある。

 

 国家転覆の恐れはないという信頼と、国家転覆の恐れはないという軽視。

 

 そして、術式的に国が滅ぼせないだけで、戦闘能力では特級相当であるというお墨付き。

 

 上層部が喉から手が出るほど欲しがっている「五条の次に強いヤツ」。

 

 俺はそれになり得ると認められたのだ。

 

 象徴になり得る真っ当な強者が欲しかった上層部の計らい(余計なお世話)により、俺の特級撃破の報はいよいよ全国に広まることになった。倒した受肉体が恐るべき強さだったことも、この扱いに拍車をかけているのだろう。

 

 だが、まだ不足だ。

 

 あと5年。いや、今想定している計画の実行を考えれば4年の間でどこまで強くなれるか。それで動きが変わって来るだろう。少なくとも、こんなところで満足していたら、渋谷で暴れていた漏瑚のカウントに「4」が追加されるのがオチだろう。

 

 高みは遥か遠く、世界の行く末をどうこうできる五条悟達に……直哉さんが言う所の「あっち側」に割って入るまでの道は、まだ長い。

 

 翻って、今回の任務。

 

 周りはもてはやしているが、俺としてはあまり勝ったと思えない。

 

 護衛の任についていた3人があんなことになっていたのは勿論、下手人は結局見つからずじまいだった。

 

 残る「シッポウ」の護衛に出ていた歌姫さん達と合流して情報を共有したが、向こうは襲撃もなく平和そのものだったとのこと。恐らく犯人の目的は「ハッカイ」一つで達成されていたのだろう。

 

 ……俺としては、あれは暗殺の類だったんじゃないかと思っている。

 

 原作にいない強力な術師2人(俺を含めれば3人)。厄介な呪具使い。それらを纏めて削り、地方術師の力をそぎ落とし、計画実行を容易にするための何者か――あの脳みそ――による仕込み。

 

 それが失敗したことで、向こうは新たな手を打って来るに違いない。依然として予断を許さない状況は続いている。

 

 例の脳みそが上層部の誰かと成り代わっている可能性も考慮して、祖父を通じてそれとなく調べ始めているものの、今の所額に縫い目のある人間は確認できていない。

 

 そう、俺があの脳みそに対して持っている一番大きなアドバンテージ、それは額の縫い目が成り代わりの証拠だと知っていて、向こうはそれを知らないこと。

 

 少なくとも、原作のような秩序の破壊は避けなければならない。そのための策は、存在を気取った時から考え続けている。

 

 周りの、気楽に囃し立てている大人たちは知らないだろう。原作に居なかったのだから、空閑という家自体これから数年の間に潰される可能性もあるというのに。 

 

 そんな上からは、特別報酬として結構な額が家の口座に振り込まれた。等級が既に上限のため、出世ではなく金銭や呪具で給与が支払われることが主だ。相場は……冥冥さんがわざわざ術師の道を選ぶのに納得がいく程度と言えば理解しやすいだろう。

 

 拓斗さんと御影さんにも同様だが、勲功第一位とされた俺が一番高給になったそうだ。高専所属でなくケチれない上、期待からなのかよくわからない名目で上乗せされまくったそれは、プロ野球選手の年俸などでしか見ないような金額にまで膨れ上がっている。

 

 世界的ボクシング選手などは一試合で何十億も稼ぐというからあり得ない金額ではないのだろうが、とても子供に持たせていい金額ではない。呪術界は年齢に関わらず実力を評価する、というポーズも兼ねているのだろう。

 

 また、特級撃破に貢献したということで、長らく3級に留めおかれていた楓さんには準2を飛ばして一気に2級への昇級話が持ち込まれたそうだが、彼女はこれに激怒して固辞したと聞いている。

 

 彼女からすれば褒めるのではなく、糾弾して欲しかっただろう。罠が怖くてその指示を出した俺に今更出来ることはないけれど、せめて俺を恨んで心の支えにしてほしい。

 

 

 

2013年 6月φ日

 

 戦闘から数日明けて、我が家の空き部屋がひとつ段ボール箱で埋め尽くされた。

 

 田舎特有の繋がりの強さにより、俺が特級クラスの……それも並のそれと一線を画すレベルの呪霊(厳密には呪物の受肉体だが、モノ自体が秘匿指定なので情報が操作されている)を祓ったことは親戚・取引先・傘下の呪術師一族全体の知る所である。

 

 呪術師稼業になってからも表向きは武家として過ごして来た空閑家とその系譜の家系たちの価値観では、強力な呪霊の討伐というのは「戦場で手柄を上げた」という扱いになるようで、それが特級ともなれば大将首を取ったかのごとく一族挙げて盛大に祝うのが習わしになっているらしい。気が気でなかったからいまいち覚えていないが、そう言えば関門の時も何やら騒がしかった。

 

 この辺りはあくまで華族的やりとりを是とする御三家とは明確に違う部分であり、戦国武士の残り香が強い部分だと思う。個人的には会食より宴の方が幾分マシなのでこっちの方が好きだが。

 

 そんな家の体質を周りもよく知っているので、特級撃破の噂を聞きつけた関係各所から送られた祝い品、見舞い品の数々のうち、壊れ物や生鮮食品、要冷蔵品のような即時の対処がいるものを除いたのがこの山の正体だ。

 

 お祝いにかこつけて何とか宗家・上役にいい顔をしようと、あるいは取引先としての覚えをよくしようとここぞとばかりに送ってきた付け届けの山である。

 

 特級撃破で上に振り込まれた報酬より多いんじゃないかという贈り物の山を捌くため、父は朝から地元百貨店の外商(?)を呼び出してお返しの算段をしている。どうやら普段から大量に買い込んでいると店の方が人をよこして来るようになるようだ。

 

 お中元・お歳暮の時もそうだが、贈り物をもらったらその価値の半額~1/3程度のものを後程お返しとして送る手筈になっているので、最寄りの配送会社の出張所と郵便局には事実上の我が家担当部署が用意されているらしい。

 

 この辺りの貴族的所作はどうにも苦手だ。今日も父の後ろで見ていたが、数百人にもなる関係先の有力者の顔と名前を覚え、前に会った時期やちょっとした出来事を言い当て、相手やその家族の趣味嗜好を把握して贈り物の参考に……とやり手営業マンの如く働く父は、まさしく名門そのものの威厳とカリスマ性を持っているように見える。

 

 我が家くらいになると(御三家以外では)どこへ行っても接待される側だが、逆に言えば歓待に相応しいだけの礼儀作法や社交辞令は修めておかなければならない訳だ。

 

 ただ、あくまで本分は呪霊退治であるから、こういうものは出来ないならそれはそれで他人に任せきりでもいい選択科目のようなものらしい。父としても「こうしろ」ということではなく、「自分はこうやって生きてきた」と次期当主としての在り方の一つを見せてくれているのだろう。

 

 今の当主である祖父はこの辺り対照的で、剛腕と武功をもって背中で人を付いてこさせるタイプだそうだ。実際、細かい仕事はほとんど父が名代としてこなしている。父は祖父が取りこぼした細かい部分をフォローし続けているうちにああいう気配りが出来るようになったんだろうなと想像がついた。

 

 同時に、あくまで父のやり方はフォローから来たもので、つまり仕える人の技術であって頂点に立つ人のやり方ではないのかもしれないと思う。

 

 自分は当主の器じゃないと語る父の真意がなんとなく見えて来る気がするのだ。

 

 父は俺が登場するまで九州最強の座にあった武人だ。一族の伝統もあり俺が12歳になった今でも30代、まだまだ現役の一級呪術師であり、空閑家の戦力的・内務的な中核であることは間違いない。

 

 今でも父の事は尊敬している。術師としての在り方も、技の数々も、周りの有力者との付き合い方も、全ては父から学んだものだ。

 

 だが、だからこそ思う。ひょっとしたら父は、賢過ぎて逆に小さく纏まってしまったのかもしれない。それで一級術師にまで到達したのだから、間違いなく才能はあったのだろうが。

 

 そして、誰より父がそれを理解していたから、俺をより強くしようと長年腐心し、繋ぎとは言え一度はなれただろう空閑家当主の座をはじめから固辞し俺を「次期当主筆頭」としたのだろう。

 

 あるいは、20代にして後継に後を託すことを決めてしまった時点で、術師としての父は頭打ちになったのかも知れない。それはつまり、自分の才能を諦めるということでもあるのだから。

 

 

 

2013年 7月 〒日

 

 演習を控え、調整期間として休みを貰った。

 

 演習とは、空閑家内で不定期に行われている大規模な実戦演習のことだ。

 

 空閑家では(というか殆どの呪術師の家系はそうだろうが)、外に術式を隠すため家の敷地内で訓練が完結するように出来ている。

 

 資金が潤沢なら、敷地内に建てられている道場、戦闘を想定して学校の校庭並に広く作られている中庭、一族で所有している山林などで訓練を積んだり、水垢離や滝行などを通じて呪力を高めるのが主流だ。

 

 ところが現代兵器を容赦なく使うスタイルの我が家では、下手なことをすると銃声を聞きつけた近隣住民に通報されてしまう。かと言っていちいち帳を張っていると今度は業界関係者に緊急事態と勘違いされてしまう。

 

 という訳で、実弾を用いる訓練には長崎県沖に一族で所有している無人島を使うのである。

 

 元を辿れば江戸時代、仕える藩が幕府に出島の警備を命じられた時に防衛拠点として使っていた島で、明治維新のドサクサで実際に管理していた空閑家側が事実上所有する形になったらしい。

 

 以来この島には設置型の大掛かりな結界が仕掛けられ、一般社会から隔離された上で様々な外聞の良くないことに使われてきた。現在ではちょっとした建物が建てられ、屋内戦を想定した演習もできるよう整備されている。

 

 維持管理には高専からも援助を受けており、空閑家が使っていない時には京都高専の生徒が実習に訪れることもあるという。

 

 そういう場所で暫く缶詰になって演習をするという、夏場にぴったりな地獄のブートキャンプの予定が組まれた。

 

 九州における呪霊多発シーズンは盆と秋。土地柄の暑さと、親戚が集まることで普段起きない軋轢が起きやすいこと、学生にとっての夏休みの終わり、そして直撃する台風。それらの繁忙期に突入する前に行事は済ませておきたいのだろう。

 

 そんな訳で、嵐の前の静けさとでも言わんばかりの休暇が戦闘部隊全員に与えられているのである。

 

 中堅以下の術師たちが来る地獄の日々を想像して身震いする中、レアなどはちょっとした夏休みだとはしゃいでいた。流石、関門の時も思ったがあの肝の太さは本当に頼りになる。

 

 そして今日はそんなレアからお誘いがあったので、朝から地元のショッピングモールに買い物に行く予定だ。

 

 思えば一応、デートということになるんだろうか?

 

 本人は水着を選ぶとか何とか言っていたので多分そういうことで良いんだろう。

 

 前世から引き継いだ知識にこの手の恋愛事の情報が殆どないから、きっと前は寂しい人生を過ごしたに違いない。そんな訳で、この手の状況での正解はサッパリ分からない。

 

 こうなれば背伸びしてもほほえましいだけだろう。見た目の若さを利用して、お姉さんにご指導ご鞭撻を賜ることにする。




レアの癒しが欲しいと大昔に聞いた気がしたのでデート回と水着回を錬成します。
待て次回。

24/9/23 時系列の矛盾を修正しました。
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