やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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総評12000、評価、感想ありがとうございます。大変遅くなりました。
皆やっぱかわいそうなのが好きなんすね。私もです。


#12 因習

2012年 8月 ▲日

 

 呪術界はクソだ。

 そして、その模範的一員である俺も。

 

 

 

 

2012年 9月 ◎日

 

 あれからおよそ1ヵ月が経った。

 

 事の裏事情については、父の拳と共によく聞かされている。

 

 前提として俺には、そう遠からず同格か少し上、可能なら御三家の女性が婚約者として紹介される。既に水面下ではその選定も始まっていたのだという。

 

 自分で言うのもなんだが……ほぼ次期当主として確定している俺の結婚相手は、これと言って大きな問題を抱えていない空閑家としては最大の関心事であるらしい。

 

 長年かけて九州制覇を完遂させた空閑家としては、盤石な内側から嫁を貰う意義は薄い(そういう事情も、増崎家が宏美さんをゴリ押ししたことに対して反感が強かった所以である)。とすると目を向けるべきは外だが、空閑は「地方名家以上御三家未満」という独自性の強い立ち位置ゆえに、中々釣り合うところを探すのが大変なようである。

 

 曲がりなりにも名門一族で嫡男をやっている身として、結婚相手を選ぶにあたって自分の意思が介在しないことに異論はない。

 

 空閑を背負って立つ男として考えるべきは、身一つでこちらに嫁いでくることになる「嫁」の居場所を作ってやることとか、「お手つき」であるレアとの関係を調整することとかだろう。前世では(多分だが)結婚していなかったし、今生ではそのように教えられてきた。

 

 問題は、自分の価値観と空閑家の価値観、そして呪術界の価値観に大きな隔たりがあること。そして、それを読み取れなかったこと。

 

 

 懺悔も込みで正直に書く。俺は、禪院真依が「その枠」になったと思っていた。

 

 双子で術式に恵まれないと言えども、彼女は禪院家当主の姪に当たる良血だ。彼女が家格的に下位にあたる空閑家に嫁ぐことは、「俺に箔がつく」「家同士の力関係がやや空閑優位に作用する」それでいて「凶兆の双子を厄介払いしただけという言い訳ができるので禪院の格もあまり落ちない」という、丁度いい落としどころになるだろうと考えたのだ。

 

 俺はつまり、この業界に横たわる「因習」という怪物を甘く見ていた。

 

 これがただ禪院家の女性を紹介されただけなら、あるいは婚前交渉ということになっても問題なかったと父は言っていた。

 

 「畜生胎」という評判の意味は俺が思っているよりずっと重くて、翻ってそれを宛がうという行為にも大きな意味があって、俺はそれにホイホイと引っかかってしまった。

 

 術師は術式がすべてと言ってもいい。

 

 各家が力を持っているのは相伝として強い術式を持っていているからで、突き詰めればその血に連なる人間に強い呪術師が多いから。

 

 その術式に、「術式が遺伝する」という価値に傷をつける人間は、ただ個人として「欠陥品」であるというだけにとどまらない。家そのもの、血そのものの価値を貶め、先人の積み上げてきた家名に泥を塗る生まれながらの「疫病神」なのだ。

 

 彼女の父である禪院扇が当主になれなかったのはひとえに実力不足だからだろうが、同時に、もし真希・真依の双子が現当主の娘だったら、今の当主が彼だったかは疑わしい。

 

『お願いします。わたしを犯してください。何もされずに帰ったらお父さんに殺されます』

 

 今ならわかる。あれは多分初めてじゃない。

 

 性行為がということじゃない。殺されかけるのがだ。

 

 あの日俺に突きつけられた選択肢は、つまりこう。

 

 真依を抱けば俺は名門としての自覚に欠ける人間、だが真依を抱かなければ役立たずとして彼女を殺す。

 

 後半は見せ札。実際に殺すと俺に確信させた上で、そして俺が真依のことを憎からず思っているのを見抜いた上で、真依自身を人質に取って抱くことを強要した。

 

 ――一連の作戦の発案者は禪院扇、真依の父であると、俺の父から聞かされた。

 

 俺が直哉さんから真依を助けたあの日、俺の「鬼ごっこ」の経緯を知った躯倶留隊の人間を経由して話が扇の耳に入った。

 

 その翌日には真依の"灯"入りは白紙撤回となり、顔や体に傷を付けるような仕打ちは厳格に禁じられたと。

 

 俺の父は事前にそれを察知していて、この"試し"が1回だけで済むように動いていたという。相手が御三家ゆえに多少の無体は止められないが、少なくとも何度も繰り返すようなら考えはあると。

 

 

 そして俺は、情に駆られて真依を守った。常識的に考えたら絶対にやってはいけないことをやってでも。

 

 「そこまでしてでも助けた」という行為によって、禪院真依には価値が生まれた。空閑徹がなりふり構わず守りに来るほど寵愛している、という価値だ。これによって、少なくとも彼女が今後殺されることはないだろう。 

 

 代わりに、人質作戦は二度三度と繰り返されるのが常だ。俺は禪院家に大きな弱みを作った。俺が空閑家当主になった暁には、禪院家から真依をダシに散々こき使われることだろう。

 

 ……扇という人間は今まで、何かにつけて彼女を殺しにかかっていたはずだ。

 

「普通に考えて上手く行かない(=真依は見殺しにされる)だろうが、空閑徹という人間の弱みを握れるならワンチャンスに賭ける価値はある」

 

 少なくとも、「娘を殺す」という選択肢が日常に入り込んでいなければ出てこない発想だと俺は思う。

 

 彼にとっては「疫病神が死んでくれれば儲けもの、その過程で大きな利益(俺の弱み)を生み出す可能性があるなら御の字」「疫病神を作った自分の罪は、それを使って利益を齎したという功績で雪がれる」といったところだろう。こと呪術界においては、至極合理的な発想と言える。

 

 結果として、俺の評判には傷がつき、また空閑が盛り返しつつあった家同士のパワーバランスも、再び禪院優位に逆戻り。

 

 目の前で人が死んでも冷静さを保っている父があそこまで激怒するのも当然と言えた。

 

 普段褒めてくれるのはあくまで俺が期待に応えられていたからであって、彼も、この家族もまた呪術界の一員なのだと、乳歯が3本砕けて真っ赤に腫れあがったこの頬と、「普段手のかからない子は偶のやんちゃが派手だな」という微笑ましい空気が教えてくれる。

 

 今回の件は、自分の甘さと自覚の欠如が招いたことだ。けじめが必要だと思ったから殴られた時も呪力で顔を守らなかったし、反転術式も使わずにいる。

 

 だが、それでも言わせてほしい。

 

 

 呪術界はクソだ。

 

 

 

 

 

 

2013年 1月¶日

 

 取り巻く環境や立場が変わっても、呪術師としてやることは変わらない。

 

 盆に巻き起こった俺の「乱心」により、ほとぼりが冷めるまで婚約者探しはストップ。また鍛錬をし、呪霊を狩り、呪術の知識を詰め込み、内なる呪力と向き合うだけの毎日が帰ってきた。

 

 学校に通っていない俺にとって、実家の居心地の良し悪しは死活問題である。

 

 壮大なやらかしをしたとは言え、家内トップ級の実力のある俺に表だって何かを言える人間はいない。しかし陰口を叩くことくらいは出来る。今までが天才だ神童だともてはやされてきただけに、「女に入れあげて失敗するタイプ」という評価はもはや確固たるものだ。

 

 俺の所に来る前にシャットアウトされているものの、どこから聞きつけたかレアさんがどうこうしてた頃の比ではない規模のハニートラップ攻勢があるようで、対応に駆り出されている家人から遠回しに文句を言われることもある。

 

 父はあれ以来元の冷静な父に戻ったが、失敗は腕前で挽回しろと言わんばかりに難度の高い荒行を課してくる。正直言うと、今の居心地の悪さでは忙しい方が助かるのでこれはむしろ気遣いだろう。

 

 そんな中、驚いたことに態度が変わらなかったのがレアである。本人曰く、「傷心中に優しくしとくのが好感度上げの秘訣ッスからね」。流石というかなんというか……だが救われているのは事実だ。

 

 そして、真依。

 

 命を裏付けるものが俺の機嫌ひとつしかないという状況は、果たして彼女にとってどの程度の負荷なのか。

 

 虐げられていたあの頃より、状況は改善しているのか。

 

 頻繁に送られてくる徹底的にこちらを立てる文体の手紙からは、それを窺い知ることはできない。

 

 以前は年に2度だった禪院家への訪問回数も増え、現在は2ヵ月に1度といったところ。因みに、初回で不意打ち気味に喰らった全裸土下座攻勢は今も続いている。

 

 今の真依が置かれている立場は、最悪こそ脱したものの非常に不安定だ。

 

 この先彼女が生き残れるかは、彼女自身が利用価値を示すこと……すなわち、強力な術式を持った子供を産めるかに賭かっていると言っていい。自分で文字にしていて血の気が引いて来るが、事実は事実だ。目を背ける訳にはいかない。

 

 結局、今の彼女が生かされているのは、俺の首輪という役割があるから。彼女は俺の愛妾という立場を得はしたが、それは最低限の基盤を持つレアの時よりもはるかに暫定的で、脆い。

 

 (あり得ない話だが)俺が彼女に興味を無くした時、いつまでも子供が出来なかった時、出来てもまともに戦力になるレベルの子がいなければ……彼女は若さを失った時――呪術界基準での話なので、我々が考えるよりもはるかに早い――がそのまま「寿命」ということになる。

 

 俺はと言えば、会うたびに過激化する彼女の誘いをどうにか破滅的な方向へ向かわないよう制御するので手一杯である。情けない話だ。

 

 言いなりになる女を手に入れた、などと言う浮ついた話では断じてない。指先どころか口先ひとつで人ひとりの命を転がせてしまうという事実は……あまりにも、重いものだ。

 

 真依もそれを分かっているから、あんなに必死になるのだろう。

 

 事あるごとに媚びて、おだてて、卑しく奉仕しようとする彼女を、俺は見ていなければならない。禪院真依という少女は、ただ俺という呪術師の我儘によって命を長らえ、今も生かされ続けている。

 

 本当に助けたいのなら、何もかも捨てて彼女と海外にでも逃げればいい。前世の記憶の一環か、これでも俺は英語が話せる。俺の戦闘能力と知識量なら、少なくとも食うに困ることはないはずだ。

 

 それをやっていない、身分を惜しんでいる限りは、俺は自分の欲望のために彼女を飼っているクズ以上のものにはなれないのだから。

 

 

 

 

 

 

2013年 5月Γ日

 

 腹立たしいくらいに鍛錬は順調だ。

 

 最近なんとなく解ってきたのだが、どうやら家全体が「鍛錬」と「女」以外のストレス解消法を封じに来ている節がある。

 

 何も俺に限った話ではなく、妾の多い人や外に女がいる人はそれなりにいる割に、賭け事やスポーツや学問や読書などに興じている人を全く見かけることが無い。

 

 代わりに、男女でどうこうすることに関しては、人の女を取るなという規定以外で規制のかかる様子がまるでない。どころか子供が多いのは良い事で、術式を遺伝させること、強い呪術師を育てることを何よりの義務としている所が見受けられる。

 

 今までこの実態が見えてこなかったのは、流石に「子供に見せるものではない」という配慮があったからか。それはそれで、童貞でなくなれば大人判定なのはどうなのかと思うが。

 

 ストレスのはけ口を「女」という1点に集中させ、かつそれを一族ぐるみで推奨しているとあれば、この現代にあって異常なほどの早婚多産ぶりにも説明がつくというものだ。

 

 これを考えると、ひとつの悍ましい結論が見えて来る。

 

 我が一族は相伝を受け継ぎやすいのではない。相伝持ちが出るまで子供を産ませ続ける仕組みが一族レベルで整備されているのである。

 

 しかし一族の女はそれが当然と教育される訳だから、外に嫁いでからも子を産むことに協力的で、結果的に「相伝が生まれやすい」という評判を確立するに至ったのだろう。

 

 『空閑家初代たる女傑は自ら17人産んで一族の基礎を固めた』というのは何かにつけて語られる逸話であるが、原作で西宮桃の言っていた「女は戦力も容姿も求められる」という言葉の意味をまざまざと見せつけられた格好だ。

 

 俺はどうかと言えば……何ら異論を挟む余地なく、空閑家の模範的一員な訳で。少なくともこのしきたりについて、俺が文句を言える筋合いではない。

 

 

 では鍛錬の方はと言うと、何しろ人数が多いため比較的効率のいいやり方が整備されている。

 

 中でも群を抜いているのは記録の多さだ。使えるものは何でも取り込む禪院とは違い「禁縁呪法」という一つの相伝に全振りしてきた一族の歴史の中で、先人たちが積み上げてきたありとあらゆる研鑽の記録を自由に参照することができる。

 

 そしてこの術式の特性は「傷を広げる」ところにある点から、伝統的に反転術式との相性が良いとされている。

 

 とは言え高難度の術式、使い手が現れるのはいいとこ3代に1人程度だが、早婚の影響で既に25代目に差し掛かろうとしている空閑家である。過去の反転使いたちの努力は俺に受け継がれ、反転の精度や効率の向上に加え、術式そのものの性能向上につながった。

 

 というのも、本来この術式は傷を「広げる」のではなく「悪化させる」ものであり、そこから使いやすい形に整備されて行った結果が今のやり方のようなのだ。

 

 そこで過去の記録からより原義に近い所へ術式を「再拡張」し、温故知新とでもいうべき傷口の腐食、悪化の力を手に入れた。これが体系的に使えるようになったのは初代以来とのことで、「小刀」、「大刀」と異なり完全なオリジナル術式として、拡張術式「穢刀(あいとう)」の名を冠することとなった。

 

 同時に、既存全ての技の習得により発現するといわれる「極ノ番」に手が届いた。

 

 今はまだ形になっただけ、という状態だが、そう遠からず実戦投入も可能になるだろう。

 

 丁度中国地方での特級案件発生により、各地の有力術者が集められている(五条先生がアイヌ呪術連の援軍に出ていて不在の為)という情報が入っていることだ。恐らく父のことだから、ここでお披露目してこいと言ってくることだろう。

 

 本当に、順調そのものだ。

 

 この家の、あるいは呪術界そのものに蔓延っているモノから、目を逸らしている限りは。




遅くなった所恐縮ですがフルスロットルです。なるべく耐えてくださいね。

24/9/23 時系列の矛盾を修正しました。
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