やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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 最新話がヤバすぎるので初投稿です。


#9 経験

記録 2012年4月29日 23時38分

 

 山口県下関市みもすそ川町 壇ノ浦古戦場

 

 呪術高専京都校より通達:甲三十八号観測拠点にて緊急通報あり。

 一級以上と推定される呪胎3体(名称未定)の出現を"窓"の目視で確認。

 

2012年4月29日 23時42分

 

 呪術高専京都校-空閑家間のホットラインが作動。

 京都高専学長、楽巌寺嘉伸より、事態の収拾を空閑家に要請。

 空閑家当主、空閑徹司がこれを受諾。以降、作戦の指揮権は空閑徹司に移る。

 

2012年4月30日 00時25分

 

 呪霊災害対策委員会設置。

 緊急事態につき、関門橋の封鎖を開始。

 県警、周辺住民293名の避難誘導を開始。

 

2012年4月30日 02時36分

 

 カバーストーリー「爆破予告」にて関門橋封鎖完了。

 空閑家所属の人員が現着。避難誘導と橋の警備に当たる。

 

2012年4月30日 03時17分

 

 周辺住民の避難率95%突破。

 県警及び窓の判断により周辺地域を封鎖。

 

2012年4月30日 04時39分

 

 福岡県北九州市門司区

 

 "帳"の展開完了。

 空閑家戦闘部隊4名が現着。内訳は別表*1の通り。

 

2012年4月30日 05時00分

 

 戦闘部隊、関門トンネル人道(門司側)より突入。

 

2012年4月30日 05時17分

 関門トンネル人道(下関側)の警備に当たっていた人員と連絡が途絶。

 

2012年4月30日 05時18分

 空閑家戦闘部隊、トンネル内にて移動中の呪霊と接敵。呪胎が既に孵っていたことが確認される。

 戦闘部隊、呪霊を暫定的に「三色髑髏」と命名。以降この名称を用いる。

 

2012年4月30日 06時07分

「三色髑髏」の撃破を確認。

 戦闘中、増崎宏美二級術師が殉職したとの報告あり。死体処理班を派遣。

 

2012年4月30日 07時39分

 増崎宏美二級術師の死亡を確認。

 

2012年5月1日

捜査の結果、「三色髑髏」を特級呪霊と認定。

 撃破に貢献した4名に特別報酬を支給。

 

 

2012年6月1日

 

 呪術総監部より通達。

 

・特級呪霊討伐への多大な貢献

・戦闘中の黒閃発動

・単独での1級呪霊討伐

・1級として必要十分に高度な術式*2の行使

 

 以上の功績を認め

 空閑徹を特別一級術師に認定する。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

2012年 5月 3日

 

 色々整理するのに2日かかった。

 

 関門の呪霊は、壇ノ浦の戦いの怨念と、そこに持ち込まれたという「三種の神器」への畏怖が混ざって産まれた特級仮想怨霊だった。つまり三体ワンセットだったのだ。

 

 そこを見誤った"窓"の人員が「1級3体」と報告したことで、戦力不十分な状態で特級と戦う羽目になった。

 

 だが、こういう任務は残念ながらそう珍しいものではない。今までが環境と運に恵まれていただけだ。

 

 等級詐欺は呪術師の死因のかなり多くを占めることから出来る限りの対策はされているものの、そもそも呪霊を視認できる人が少なく戦える者がもっと少ない現状では、どこかで無茶が必要になる。

 

 宏美さんは目の前で袈裟懸けに斬られ、どうにか敵を倒し駆け寄った時にはすっかり冷たくなっていた。検死によると失血死らしい。敵の攻撃が激しく、連れて逃げることも反転術式を使うことも不可能だった。

 

 無茶のしわ寄せはいつだってその場で一番弱い者に降りかかると父は言った。

 

 生き残ったことは罪ではない、履き違えるなとも。

 

 幸か不幸か、俺は自分で思っているより薄情だ。斬られた宏美さんを見た時、俺は怒るでも怖がるでもなく、ただ何か、頭の中でギアが一つ上がったような感覚を得た。

 

 感情が高ぶっていたのは間違いない。どこか漫然としていた気持ちが覚めて、「火事場の馬鹿力」の脳みそ版とでも言うのか、最適な動きを組み立てることだけに全てのリソースを注ぎ込んでいるような、そういう感覚に陥った。

 

 実際自分で思い返してみても、その時は普段以上に動きのキレが増していたし、明らかに頭の回転が早まっていた。

 

 たぶん俺は、「現実」を認識したのだ。

 

 一度死んだあの時からもう11年余りになる。その間ずっと、俺はどこか夢見心地でいた。

 

 本当の自分はもう死んでいて、今のこれは夢や走馬灯みたいなもの。そういう認識が心のどこかにずっとあって、どこかゲーム感覚というか、今生きているこれが現実だと、ピンと来て居なかったのだ。

 

 こないだまでどうでもいい話で盛り上がっていた同年代の女の子が斬られて、血が顔にかかって、それが暖かくて、鉄臭くて、敵の呪力で切り口が腐り爛れて。それでも敵が健在で、構っている暇がなくて。

 

 そういうものを見て初めて、自分が今現実で殺し合いをしているんだと、ようやく……本当にようやく、実感できた。

 

 恐らく、"死"をトリガーにしてゾーンに入ったのだろう、と思う。

 

 意識的なものから反射によるもの、呼吸による肩の上下、心臓の拍動から血の巡り、呪力の流れに至るまで、あらゆる動きが寸分の狂いもなく知覚できた。

 

 そして呪力が身体の動きとピタリと同化し、打撃のタイミングを呪力が教えてくれているようだった。

 

 その時放った"大刀"が黒い稲妻を伴っていたのは見て分かったが、その時の俺にとっては当然のことだった。

 

 そのまま立て続けに……4発放って、確かそのうち3発は黒閃だったと思う。

 

 きちんと当たりさえすれば黒閃になるという確信と、呪力の核心に触れたことで得られた不思議な全能感と、極限の集中状態が合わさって、多分ハイになっていた。

 

 そんな状態でも父とレアさんはキッチリ俺と連携していたようで(この辺りは流石と言うほかない)、ラッシュを終えた時には大勢は決していた。

 

 きっと傍からは、俺が仲間の死に激昂し、覚醒したように見えている。敢えて訂正する気もないけれど、本当は違う。俺は一人で自覚して、一人で暴れただけだ。

 

 個人で完結した生き物。「呪術師とはこういうものだ」だったはずの父の教えは、「呪術師かくあるべし」に姿を変えて、もはや無意識にすら作用している。

 

 何せこうして、身内が死んだことより先に、自分の呪力についての考察ばかり書き連ねているのだから。

 

 

 

2012年 5月 ◎日

 

 東京に行ってきた。何気に、今生では初めての東京行きだ。

 

 普段は京都の呪術高専と連携している空閑家だが、今回は総監部経由なので全国区とのことだ。父曰く黒閃を出した後の「慣らし」の一環で、正式に実戦に出るに当たっての等級決めも兼ねているらしい。

 

 とは言え、東京高専に着いた瞬間夜蛾校長と五条先生に会うとは思わなかった。

 

 どうやら五条先生の出張先と近いところに1級クラスの案件があったため、顔繋ぎも兼ねて俺が派遣されたということらしい。俺を見るなり二人して苦々しい顔をしていた所からして、話が通っていなかったと思われる。

 

 そりゃあ「1級案件に対処できる人材」という触れ込みで子供が来たら誰だって騙されたと思うだろう。

 

 力で分かってもらおうにも五条先生が相手では瞬殺されて終わりだし……ということで、イヤそうにしている五条先生を横目に夜蛾先生に頼んだところ、原作で知っているよりだいぶ小ぶりなパンダがお出しされた。声はもう自分の知ってるパンダだったので心置きなく殴れたのは少し助かった。

 

 戦っていて思ったのだが、やはり黒閃を決めて以来明確に呪力の感知精度が上がっている。

 

 以前より呪力のロスが激減し、同じ呪力でより大きな効果を出せるようになったことから、継戦能力と最高出力が共に向上。

 

 動かせる「小刀」の本数は一挙に4本へ。術式そのものの精度もかなり上がって、傷口の広がるスピードもぐんぐん速まっている。今だから分かるが、父も恐らく黒閃経験者だ。あれほど難しかった小刀複数操作が、今は息をするように出来てしまう。

 

 そして、元々かなり呪力に敏感だったのもあり、今や神経を研ぎ澄ませれば相手の呪力の流れが分かり、その活性度合いで行動が手に取るように読めるようになった。

 

 特に呪力ベースで動いている呪骸や呪霊相手には効果抜群なようで、先読みどころか未来予知レベルの行動予測が立てられる。原作の自然呪霊並みに賢いならともかく、通常の本能で動く呪霊に後れを取ることはまずないだろう。

 

 また、呪力の動きは目で感じるものではないらしく、後ろを向いていたり、間に遮蔽物があったりしてもきちんと感知可能だ。「小刀」を厚みのある中華包丁や鉈などで運用すれば、防御面もかなり堅牢になる。

 

 以前HUNTER×HUNTERに例えた呪力操作だが、今度のは見聞色の覇気に近い芸当だろうか。

 

 もちろん、ここまで来ると()()()()()()()()()()逆用される危険性も高いので、それだけに頼り切らないよう行動を組み立てて行く必要はあるが……少なくとも、3級相当(まだ原作程身体が出来上がっていないらしい)と目されるパンダ(プラス、夜蛾先生の用意した準2級クラスの呪骸3体)程度なら小手先で完封可能だった。

 

 そんな訳で動物虐待者の異名を欲しいままにした俺は、その足で東京郊外(ほぼ山梨県)の山間部へ。

 

 五条先生が特級クラスの呪霊をなんとか(瞬殺)している間に、絶妙に離れたところで発生している一級を片付けるというのが依頼内容だった。

 

 実際、かなり面倒くさい術式を持っていた1級呪霊「くねくね」をどうにか撃破したのだが、その直後に五条先生に肩を叩かれ1級おめでとうと言われた。

 

 どういうこと?

 

 

 

2012年 6月 1日

 

 正式に特別一級呪術師の称号を得た。

 

 父を問い詰めたところ、関門トンネルの呪霊討伐の前あたりから俺は特別一級に推薦されていて、ここまでの戦績でそれが認められたらしかった。

 

 なんでも、参照されやすい1級上位クラスの討伐記録に「11歳・等級無し」が載っている事実が体面的によろしくなかったので、これを「特別一級申請中」とすることで誤魔化そうとした結果らしい。ついでに俺が予想外に活躍したので、これ幸いと単独任務(こないだの東京行き)を差し向けて、それも突破したことで正式に認められたとのこと。

 

 少なくとも準一級相当と認められるのは確実だったらしく、以前に祖父が言っていた褒美とはどうやらこれのことだったようだ。

 

 そもそも「特別〇級」とは、呪術高専所属ではないが高専の任務を受けることがある術師に対して、高専基準だと何級相当になるかを示すため付けられる。御三家クラスの名門だと高専に通わず独自で稽古するため、禪院の"炳"などは1級ではなく特別1級で構成されている。

 

 作中には特別1級術師しか登場しなかったが、要は「その等級相当の実力がある」という指標兼名誉称号なので、特別2級だの特別準一級だのも存在はしているようだ。

 

 俺は将来高専に通う予定だが、今は未所属かつ前線には出ているので特別1級。言われてみれば理屈は通っている。そして多分だが、こういう無茶が通るのは、それこそ空閑一族が名門だからという側面も大きいのだろう。

 

 因みに、高専入学前の術者に一級が与えられたのは初めてだそうだ。特級なら例があるらしいが、まあそういうのは例外だろう。

 

 かくして史上最年少の特別一級術師になった訳だが、やることは変わらない。体術を鍛え、刀の扱いを学び、術式を磨く。そこに「依頼を受けて呪霊を祓う」が加わっただけだ。

 

 

 

2012年 7月 ◇日

 

 呪霊狩りで方々飛び回ることになるかと思いきや、意外に訓練の時間を取れている。

 

 特級としてなんでもかんでもやらされる五条先生やとにかく呪霊の数が多い4~3級と比べると、1級という立場は比較的安定しているようだ。特級呪霊はそうそう出るものではないし、それ以下の呪霊には安定して対処可能。任務の大半は格下狩りである。

 

 原作で呪術界を背負う人材とか何とか言っていただけあり、相応の待遇が保たれているということだろう。それに加え、今の俺は未成年ということで、父から依頼は控えめにして訓練の比率を多くするよう言われている。

 

 4~5月の殺人的な忙しさを思えば天国のような環境に思えるが、だからこそ増長しないようにしなければ。

 

 幸い、黒閃に至って以来出来そうなこともやらなければならないことも山積みだ。今できる技術を全て身に付けるころには高専に入学していることだろう。

 

 近頃は、禪院家に限らず方々の名家からコンタクトを取られることが増えた。どうやら特級の一件で俺のことが広く知れ渡ったらしく、取り込み工作から露骨なハニートラップまでそれはもう結構な件数が届いている。ある意味、レアさんのアレを事前に喰らっていて正解だったかもしれない。

 

 当のレアさんと今どうなっているかは……まあ、大方の察しの通りである。

 

 ある程度時間のたった今だから書くが……身内の死と、黒閃に伴う急激な成長と、極限の戦いとを、俺はそういう形でしか整理できなかった。近頃の自分の思考回路がますます一族のそれに近づいてるのは、その辺りの自嘲も含まれているんじゃないかと自分では思っている。

 

 ついでにその時知ったことだが、どうやら宏美さんは裏で俺の正妻候補として(泡沫候補だったようだが)名前の挙がっていた人物で、わざとらしさを無くすために本人には知らされていなかったが、"ワンチャン"を賭けてやや強引に遊撃部隊にねじ込まれていたという経緯があったらしい。

 

 でなければ、いくら人員不足でも高専への不義理覚悟で2級程度の人材を呼び戻すようなマネはしないと。

 

 つまり、かなり迂遠にだが「俺が前線に出たこと」と「宏美さんの死」との間には因果関係がある。

 

 レアさん情報なので100%の信憑性とは行かないが、もしそうだとしたら宏美さんが死んで以降の増崎家の扱いの悪さというか、本家の人間の当たりのキツさに説明がつく。俺もそんな風に「しくじるなよバカが」と言い切れたらもっと楽なんだろうが、胸の中のモヤモヤは当分消えてくれそうにない。

 

 

 

2012年 8月 ■日

 

 例によって、明日から禪院家に挨拶に行く。

 

 例年向こうで1泊するのだが、今回から俺にも個室が与えられると連絡があった。

 

 今までは父や同行している大人と同室だったが、俺が特別一級術師になったことで一人前として認められた、というポーズのようだ。それに際して何やら父と祖父が禪院の人と話し合っていたようだったが、面子絡みの問題だろうか。

 

 禪院と言えば、真依ちゃんは元気にしているだろうか。あれからも時々連絡(メールや電話ではなく、何故か手紙)をよこしてくれるが、実際会うのは正月以来だ。

 

 また虐められていないといいが、正直言うとほんの少しだけ、今の自分が直哉さんとどこまでやり合えるか試してみたい気持ちもある。

 

 等級上は互角になったが、直哉さんは禪院家全体でも最強の一角。なり立ての自分では在りし日の真依ちゃんのようにされて終わりだろう。もう一度胸を借りて、強さを学びたいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2012年 8月 ▲日

 

 呪術界はクソだ。

 そして、その模範的一員である俺も。

*1
空閑徹大(一級)、舞屋レア(特別一級)、増崎宏美(二級)、空閑徹(特別一級申請中)

*2
他人への反転術式




Tips:神器髑髏は少年院の特級よりちょっと弱いくらいの強さ。



―――――――――――――――――――――――――
名前  :空閑徹(くが とおる)
性別  :男性
年齢  :11歳(9話時点)
身長  :160cm弱
所属  :空閑家
階級  :特別1級呪術師
趣味  :漫画(バトルシーンが容赦ないものが好み)
好物  :ウエストのかき揚げ丼定食
苦手  :フルコース
ストレス:政治と女
備考  :ココイチの2辛に挑むも、レア共々玉砕。
―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――
名前  :舞屋レア(まいや レア)
性別  :女性
年齢  :19歳(9話時点)
身長  :170cmくらい
所属  :空閑家
階級  :特別1級呪術師
趣味  :テレビゲーム
好物  :バニラアイス
苦手  :辛いもの
ストレス:見合い話
備考  :"ブラック"より"ジョーカー2"派。
―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――
名前  :空閑徹大(くが てつひろ)
性別  :男性
年齢  :31歳(9話時点)
身長  :185cmくらい
所属  :京都高専→空閑家
階級  :1級呪術師
趣味  :強いて言えば仕事
好物  :コーヒー
苦手  :強い酒
ストレス:御三家からの嫌味
備考  :嫁曰く「私物が少なすぎて心配になる」。
―――――――――――――――――――――――――


24/9/23 時系列の矛盾を修正しました。
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