やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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急に伸びました。日刊1位・高評価ありがとうございます。
やっぱり皆扇と直哉が好きなんやなって

なお今話は物語上、後半に現実の災害の要素を含みます。
予めご了承ください。


#6 初陣

2010年 11月 ◆日

 あの日以来、術式の鍛錬により気合いが入っているように思う。

 

 今年の盆の時期、禪院家で出会った直哉さんは、俺が生まれて初めて直に対峙した格上の敵だった。

 

 あの場をこちら優位にできたのは、ハッタリと原作知識に任せた作戦勝ちだ。次はない。

 

 あの時だって引いてくれたからよかったものの、それは直哉さんにとってどうでもいい状況で、問題が「知らないガキに譲るのが気にいらない」という一点だけだったから上手く行ったのだ。本当にやりあっていたら、直哉さんの言う通り俺が半殺しにされていただろう。

 

 改めて実感したが、俺の強さはまだまだだ。 

 

 一級相当の術師の中でも最高峰だろう直哉さんクラスとは行かずとも、まずは父を超えるため、今はとにかく経験が欲しい。

 

 とは言え実戦の方は頼んでどうにかなるものでもない。そちらはおいおい考えるとして、今はひたすら術式・体術・呪力操作の三本柱を鍛えあげるのみだ。

 

 まずは反転術式の精度アップと……次なる拡張術式、「大刀(だいとう)」の習得あたりが目標だろうか。これまた「たち」ではないらしいのがややこしいところだ。

 

 

 

 

2011年 1月 ▼日

 空閑は九州呪術界における最高位の名門だ。土地柄昔ながらの風習が残りがちなのもあって、盆正月の時期は毎年大わらわである。

 

 集結する各地に散らばった分家の面々、挨拶に来る九州各地の呪術師たち、1000通単位で届く年賀状、トラック満載で送られてくる大量のお歳暮(勿論、うちから送るのも似たような量)……どれもこれも、10年経っても中々慣れるものではない。

 

 そんな正月には、親戚が集結するのを利用した慶事(結婚、出産、次期当主決定その他)の報告会的な側面もあるのだが、もう一つ我が家の伝統としてちょっとした演武というか、大会が行われるのが習わしだ。

 

 これは呪術師のみ参加が許されているので、俺も会場(例によって、実家所有の裏山)に入れてもらえるようになったのはここ数年である。

 

 今より呪術師の力が強かった時代は今の太宰府天満宮の敷地を借りて、かつて行われていた京の天覧試合(御三家の当主も出場していた、いわば呪術の全国大会)に追いつけ追い越せの勢いだったらしいが、今は流石にスケールダウンしている。

 

 前の年に戦闘部門入りした新人による試合と、現当主と戦闘部隊隊長による模範演武の二種が行われるのだが、模範の方は特に毎年かなり高レベルの戦いで非常に勉強になる(というか、見て盗めるように敢えてそうするのが習わしらしい)。

 

 我が家の戦闘部門に禪院家の"炳"や"灯"のような名はなく、組織もその時所属している術師の特性に応じて変わるらしい。因みに、指令系統は当主(祖父)→隊長(父)→班長→構成員だ。実は隊長と当主がイコールではない(兼任することも多いらしいが)。

 

 現在は父こと空閑徹大(一級)を隊長、一族お抱え……要は雇われの腕利きであるレアさん(特別一級)を副長として、下に3人いる準一級相当の術師たちが班長としてそれぞれ10人ほどを管理、計34人で構成されている。

 

 禪院家と比べて特殊なのは、一族の当主=総大将だけはどちらかと言うと統率力や政治力重視で選ばれ、純粋な最高戦力は現場のトップである戦闘部隊隊長のポストに置かれる所だろう。

 

 現に今の当主である祖父は準一級術師であり、全体戦力ナンバー3と言ったところ。とりあえず一番強いものをトップに据える禪院とはまた趣が異なる。

 

 という訳で、ここ数年の模範演武は父と祖父による禁縁呪法対決だ。

 

 「小刀」を得意とする父に対し、祖父は「大刀」――斬撃の方の解釈を拡張し、呪力を込めた斬撃を飛ばす大技――を使う。見栄えを意識して組み立てられたそれらは、「通常の上限を超えた6~7本の飛来する小刀を祖父が片っ端から飛ぶ斬撃で叩き落とす」というすさまじい見ごたえの試合展開となる。

 

 拡張術式「小刀」の使用例としてこれ以上はないだろう。将来はあの場で自分が演武を見せられるように、今はしっかり目に焼き付けなければ。

 

 

 

 

2011年 1月 △日

 およそ5ヶ月ぶりに、禪院家へ挨拶に行った。

 

 前回の一件があるのであまり出歩かない方がいいだろうと、今回は客間でストーブに当たりながらボーっとしていたのだが、何故か真依ちゃんの方から部屋に入ってきた。

 

 前見た時が酷すぎただけかも知れないが、明らかに以前より身なりが良くなっているというか、傷や汚れが殆ど見られなくなっている。そう指摘してみると、俺が直哉さんを退けて以来、その手のいじめがピタリとやんだのだと嬉しそうに教えてくれた。

 

 あの直哉さんがあれくらいのことでいじめをやめるとも思えないが、裏でどういうやりとりがあったのやら。推測だが、客人にあの場面を露見させたのが向こうの当主さん(確か直哉さんの父親)にバレてこっぴどく折檻されたとかだろうか。

 

 俺が時間を忘れて思索に浸っている間、子供らしく気を引くでもどこかへ行くでもなく正座のまま無言でニコニコしていた真依ちゃんに言いようのない違和感を感じたが、それ以上考えていても仕方ないと、彼女のとりとめのない話を聞いていた。

 

 原作の時系列と今の時期を照らし合わせるに、彼女は俺の1つ年下に当たるはず。果たして躾の賜物なのか、他に理由があるのか。少なくとも今の俺には良く分からない。

 

 それよりも。俺が知る限り、禪院真依というキャラクターは高専入学で家を出るまでずっと冷遇され続けていたはず。夏油の時は失敗したが、今回はどうやら原作との乖離が生じているようだ。

 

 これがどんな影響を生むのかは分からないが、やったからには受け入れるしかないだろう。せめて彼女にとっていい方向に進むといいのだが。

 

 ……因みに、帰りに父から真依ちゃんとの仲について尋ねられた。これはアレか、裏で見合い話でも進んでいるのだろうか?

 

 

 

 

2012年 3月 26日

 単調な生活が続いていると、ついつい日記を後回しにしてしまう。いつの間にか1年以上も経っていたとは思わなかった。身体づくりをし、技を磨き、盆正月には禅院家へ挨拶に。そういう日々を繰り替えしているうちに気づけば1年以上が過ぎ去っている。

 

 社会人になると月日が経つのが速いみたいな話を聞くが、自由時間が少なければ子供だろうと同じことになるようだ。

 

 そんな中で今日日記を書いているのは、ついに初陣に出ることが決まったからだ。もちろん呪霊狩りのことである。これまで基礎トレと組手ばかりで実戦には出してもらえなかったが(年齢を考えれば当然だろうが)、明日からはいよいよ現場で本物の呪霊を相手することになる。

 

 父や家人によれば、本来なら数えで15歳、元服の時に低級の呪霊を狩って初陣とするのが通例らしいのだが、家全体……というか界隈全体が酷い人手不足状態に陥っていたのをいいことに強く志願し「一度でも弱音を吐いたら後方に下げる」という条件付きで押し通した。

 

 術式の練度もそうだが、今の俺には何より場数が足りない。それを稼ぐためには一日も早く前線に出なければいけないと思ったからだ。

 

 何も死に急いでいる訳ではない、それなりに訓練を積んだ今の実力なら、特級以外の相手からは少なくとも逃げ切ることは可能と判断したから言っているし、周りもそう思っていなければ父が許可を出さないだろう。

 

 こういう時、任務を割り振ってくれる家族の存在は非常に頼もしい。縁なく高専に入った場合の等級詐欺任務の多さを原作で知っている身としては本当にありがたいことだ。

 

 俺は空閑家戦闘部隊のうち、父直属の遊撃班に配置されることとなった。ちょっと過保護な気もするが、考えて見れば俺は11歳。戦場の雰囲気だけ学べればよしくらいの考えなのだろう。

 

 

 

 

2012年 3月 30日

 雰囲気を知るなどとんでもない。バリバリの最前線であった。

 

 本邸を出てから3日間、1度も戻らず各地を転戦、4~3級の雑魚ばかりとは言え、既に10体以上の呪霊を撃破している。

 

 父はどうやら一度前線で死なない程度に揉まれれば諦めるだろうとの判断だったようで、露払いやら援護やら、今の俺に可能な範囲の指示を容赦なく飛ばしてくる。正直、戦いや殺しのストレスなんかより強行軍と休息の少なさの方がしんどい。

 

 現状の戦闘部隊は、下記の作戦のもと九州全土で呪霊討伐を行っている。

 

 ①「窓」と構成員に各地を監視させ、通報があれば即応する。

 ②①の人員で対応しきれない場合は一旦引いて当主(祖父)に救援要請。

 ③祖父の判断で父が選抜・指揮している遊撃部隊に連絡が行き、対処。

 

 地方の呪霊は数はいても階級は低めなことが多く、高専基準4級術師であっても一定の戦力になる。空閑家独自基準で「5級」が定められていて、4級未満の呪霊相手に投入されることもあるくらいだ。

 

 通常は③まで行く事例は滅多にないのだが、俺が合流して3日は常に高レベル呪霊と戦い通しであった。

 

 周りの反応を見るに俺(子供)がいることは一切考慮されていないらしく、同じ部隊のレアさんたちに何かと気を使われてしまっている。子供だが十分に戦力として数えられることはアピールしているし、足手まといになった覚えもないが、もう暫く子供扱いは改めてもらえなさそうだ。

 

 もちろん、普段からこんなに忙しい訳ではない。今が異常事態なのだ。

 

 今から数週間前……詳細な描写は敢えて省くが、東北地方で発生した大災害によって全国的に負の感情が激増。それに引っ張られる形で呪霊の大量発生が起きている。現在の呪術界は一時的にキャパオーバーを起こしてパンク状態になっているのである。

 

 3年ほど前のリーマンショックの頃も中々のもので、なんとこれまで呪霊出現数ほぼゼロだった米国に特級呪霊が出たらしいが……そちらは出張した五条悟がワンパンで片づけたらしいので詳しくは知らない。

 

 問題は、リーマン当時と違って被害の発生元が日本にあること、そして発電所の事故が絡んでいるせいで通常の災害より沈静化が遅いことだ。この性質のせいで1923年や1995年の大地震当時に策定された対策マニュアルが機能せず、湧き出る呪霊を個別に叩いていくしかないのが現状である。

 

 発生地から遠く、大した被害のなかった九州でこれである。当然ながら、直接被害を受けた東北~関東の混沌ぶりはこんなものではないだろう。

 

 両高専や御三家も地元の対処で手一杯として救援は期待できず、やむを得ず空閑家は親戚筋の若年層を学徒動員して対処する羽目になった……という経緯であった。

 

 俺以外にも何人か年の近い親戚が動員されているのを見かけたし、恐らく自分から言い出さなくても駆り出されるのは時間の問題だったに違いない。

 

 

 

 

2012年 4月 1日

 この1週間で30体は呪霊を倒している。

 

 お陰で技を試したり実戦の空気を知ることには事欠かないが、移動中に食事と睡眠を済ませてノンストップで戦い続けるのはそれなり以上にしんどいものがある。

 

 こんな状況でも平常運転の父もそうだが、快活な「~っす」口調で何かと話しかけてくれるレアさんも、俺とそんなに歳が違わないのに遊撃部隊に入っている親戚の女の子(童顔なだけで京都高専の1年らしい)も凄いものだ。俺も見習っていかないと。

 

 さしあたって、発動の安定しない「大刀」を完全にモノにしたいところだ。

 

 

 

 

2012年 4月 7日

 トータルで100は行ったんじゃないだろうか。

 

 お陰でずいぶん斬るのが上達した。

 

 

 

 

2012年 4月 12日

 救援要請に応え、現地に向かい、呪霊を倒す。

 

 流石に全員に疲労が見え、出撃当時ならどうにでもなっていた相手にもある程度手順を踏んで対処する必要が出て来ている。

 

 こういう時はいつまで平常心でいられるのかが大事だとレアさんは言っていた。

 

 焦りは禁物だ。

 

 

 

 

2012年 4月 17日 

「大刀」が安定して撃てるようになってきた。

 

 恐ろしいほどのハイペースで戦闘センスというか、戦いの組み立てが上達しているのを感じる。死に近づいているからか、あるいは単に数をこなしているからか。

 

 なんにせよ、これで俺も前衛になれる。

 

 

 

 

2012年 4月 23日 

 反転術式を他人に使えるのが父にバレた。

 

 考え得る限り最悪のタイミングに近かったが、父は少なくとも一連の戦いが終わるまでは公表しない、使うかどうかは任せると言った。

 

 現状の精度では重傷は治せないし、呪力の消費が重すぎて戦時に使えるレベルにないためだろう。少なくとも、専業の衛生兵が務まる燃費ではない。

 

 とりあえず、使い時は眼前で誰かが死にかけた時などに限定しよう。

 

 

 

 

2012年 4月 30日 

 九州圏内の情勢は安定化してきたが、中国地方からこちらへ呪霊が移動している(呪霊の長距離移動は非常に珍しい)のが確認されたため、これを関門トンネルにて迎え撃つことが決まった。相手は推定1級3体を擁する大戦力であり、激しい戦いが予想されるとのことだ。

 

 祖父いわく今回のことが落ち着いたら褒美を用意するとのことだったが、どちらかと言うと休みが欲しい。

 

 

 

 

2012年 5月 2日

 関門海峡の戦いは術師側の勝利に終わった。

 

 遊撃部隊の死者は1名。

 

 推定特級が混ざっていた割には、よくやった方じゃないだろうか。




舞屋レア(まいや れあ/レア・メイアー)
 この時20歳くらい。特別一級術師。女性。
 大戦中に日本に落ち延びた外国人呪術師のひ孫に当たる。素養に目を付けた空閑家の支援のもと一族を再興し、以来代々空閑家に仕えている。
 実力は確かだが、海外の術式を取り入れることに対して総監部が一貫して否定的なことから、対外的には傭兵とした上で空閑家が責任を持って預かるという条件で特例により特別一級を賜っている。
 しかしレアの母親は空閑家の人間であり、禁縁呪法を発現させて戦闘部門入りを果たした兄もいるなど、事実上分家の人間と言った方がいい複雑な立場にある。



24/9/23 時系列の矛盾を修正しました。
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