やっぱ呪術界ってクソだわ   作:TE勢残党

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小説パートが好評のようなので定期的に挟んでいきます。


#4 禪院

2007年 10月 ◎日

 

 結局、夏油さんは人の道を外れた。

 

 あの後、次の現場が彼が最後の一線を越えるきっかけになった任務だったらしく、我が家に行った直後に村人皆殺しの狼藉を働いたからと上層部に家ごと調べられる羽目になった。

 

 もちろんこちらに非はないのでまもなく疑いは晴れたが、まさか俺まで証言台に立たされるとは思わなかった。「特級離反」の事実は俺の想像を超えて衝撃を与えているようだ。

 

 その夏油さんと直前まで一緒に任務をこなしていた父が言うには、ルーチンワークのようではあったが弱っている様子はなく、むしろクセの強いのが揃いがちな呪術師からすれば不自然なほど真面目だったとのことだ。

 

 一般人……非術師の感覚を捨てきれなかったからこうなった、もっと幼い段階から然るべき教育ができるよう一般出身術師の捜索を強化すべきとも言っていた。

 

 俺は……思うに、術師を続けるには「命より大事なもの」が必要だと思う。

 

 お金、家族、趣味、信念、恨み、好奇心、何でもいいが、そういう芯みたいなもの、「動機」を持っていないと、呪術師という仕事は務まらないか、早死にすることになる。

 

 原作の何処だったかに書いてあった「呪術師はイカれていないと務まらない」に対する、俺なりの解釈だ。術師としての人生はまだ1年ほどだが、親戚たちを見ていて感じたものを、自分の言葉にするとこうなる。

 

 だから正直、俺がちょっと軌道修正したくらいでは夏油さんは止まらないだろうとなんとなくわかっていた。彼の動機は「大義」だから。それを持てない呪術界には、夏油さんの居場所はきっとない。

 

 俺があの日会話した内容は、総監部がウソ発見器的な術式持ちを抱えていると聞いていたので隠さず喋った。むしろそれが脳裏をよぎり続けていたせいで、あの土壇場であんな遠回しな表現しかできなかった。

 

 ……いや、日記でまで言い訳するのは止めよう。俺は今の立場が崩れることと、夏油さんのメンタルケアを天秤にかけて、自分を取った。それだけのことだ。

 

 

 

 

2008年 3月 ×日

 

 またしても、前回の記入から半年近く空いてしまった。年明けとともに術式の訓練が解禁されたためだ。

 

 父曰く、俺の才能をどう育てるか家中でも判断が分かれていて、当座の処置として基礎訓練以外を禁じていたのだという。「凝」ごっこや「流」ごっこが楽しかったので気にしたこともなかったが、言われてみれば弟はもう一族の鍛錬に合流している。

 

 結局俺の扱いについては、父の「幼いうちから徹底的に鍛えて力を付けさせる」という案で纏まったらしい。そう言う訳で、俺と同じ禁縁呪法を持つ術師たちが入れ替わり立ち代わり稽古を付けてくれるようになった。

 

 以前と違い、呪力を込めた攻撃や防御、何より術式の扱いを実戦形式で学んでいく。流石に8歳の子供を呪霊と戦わせることは許されないようだが、以前より激しい稽古が増え、生傷や青あざなどもしばしば残るようになった。

 

 それでも上達が楽しくてついついのめり込んでしまい、気づいたら夜中になっていて休みを言い渡されることも多い。

 

 父の言い付け通り、余暇時間には呪力についての考察を続けている。というか、術式についての情報を一気に詰め込まれているため、考えることは尽きない。元来ひとりであれこれ思索を巡らせるのは好きなので、最近は文字通り一日中術式や呪力のことを考えている。

 

 術式のことはもう少し考えが纏まってからここに書くつもりだが、呪力については一つ気づきがある。

 

 術式を自覚した当初から、俺は呪力の知覚に優れていると言われている。呪力を体に巡らせ、割合を偏らせ、あるいは放出し……という動作が、身体の一部を動かすのと同じように出来ていた。

 

 当初は単にそういう特技だと思っていたが、流石に1年以上も褒められ続ければ理由を探す。「なんとなく出来る」ということは、いつか理由なく出来なくなる可能性があるからだ。

 

 書庫の情報や父たちの戦いの話、術師たちの「強くなった理由」を総合した時、術師として強くなるきっかけは大きく二つ。

 

 「黒閃を決めた時」と、「死の淵から生還した時」だ。

 

 内容を思い出したのは最近だが、前者は原作でも言及されていた。黒閃で「呪力の核心」の一端に触れることで、呪力への理解が深まるという。

 

 東堂曰く、黒閃経験者とそれ以外の術師では明らかに「違う」らしいので、俺も当分は黒閃を目標に稽古をしようと思う。まあ、0.00何秒のおそろしくシビアなタイミングを狙って達成できるとは思わないので、数こなしてまぐれ当たりを待つことになるだろうが。

 

 問題は後者だ。

 

 起死回生の展開はいわゆる「ピンチからの覚醒」で語りとして面白いので、最初はただ武勇伝として残りやすいだけかと思っていた。しかしそれを差し引いても、戦いの中、特に死の危険の傍で術師が成長するケースは非常に多い。

 

 確認できた事例だと、呪霊に敗北して命からがら撤退したとか、訓練中の事故で生死の境をさまよったとかは勿論、酷いものだと不倫がバレて女に刺された、という事例すらある。

 

 また、非術師も呪霊に取り殺される寸前には呪霊が見えるようになるらしい。さらに言えば、呪力以外の方法で死んだ者は死後呪霊(つまり、呪力の塊)になることもある。

 

 これら全て、死に瀕する前と後で明らかに術師としての適性が上がっていたり、術式の威力が変わっていたり、土壇場で新たな技に至ったりなど、「呪力との親和性が増す」という点で共通している。

 

 歴史書には戦いの中で領域展開に至ったケースさえ登場しており、どうやら術師は死にかけることで成長することが経験的に知られている節もある。

 

 つまり、「死」は呪術にとって重要なファクターであることは勿論、そこ……仮に「彼岸」とするが、呪力の核心は彼岸にあって、そこへ近づくことで黒閃と同じく呪力の核心に近づけるのではないか。

 

 そこまで考えて、思い至ったことがある。

 

 俺は前世の記憶をうっすらとだが保持する転生者だ。

 

 つまり俺は、恐らく世界で唯一()()()()()()()()

 

 そのことが知らず俺を彼岸へと近づけ、呪力を知覚しやすい体質になったのではないだろうか。

 

 これも最近思い出したことだが、確か黒閃を決めた呪術師は、一時的にアスリートで言うゾーンに入った状態になり、普段意識的に行っている呪力操作を呼吸のように自然と行えるという。

 

 つまり今の俺は、平常時からその状態にある。

 

 そりゃあ、天才と言われるわけだ。自分でも課題が妙に簡単だとは思っていたが、ちょっとしたズルというか、バグみたいなものである。念能力ごっこなどと言っていられたのも才能によるものだったらしい。

 

 お陰で、8歳にして呪力操作の精密さでは既に父を超えていると太鼓判を押されている。今生の父は一族最強の呼び声高い一級術師、それもどちらかと言えばテクニックタイプなので、あまり実感はないが相当な水準にいるのだろう。

 

 殺傷力の高い術式の訓練が解禁されたのも、基礎となる呪力操作がこれだけ出来るならという部分が大きいのだろう。期待に背かないよう、鍛錬を積むことにする。

 

 

 

2008年 11月 ▽日

 

 術式の基本的な部分はマスターできた。

 

 と言っても、空閑家相伝の"禁縁呪法"は「相手に付けた傷を広げる」というシンプルな術式だ。①刃物に呪力を込め、②対象となるものを斬りつける、という二工程さえ達成できれば簡単に発動できる。

 

 訓練には試し斬りに使う巻藁や弾道ゼラチン、マネキンなどを用い、訓練用の日本刀(真剣である。正直これをまともに振る練習の方がキツい)でひたすら斬りつけ、術式を発動する。この繰り返しだ。

 

 呪力のコントロールに問題はない為、ちょっとしたささくれのようなキズから一瞬でバラバラまで持っていくことも可能ではあるが、まだまだ体力と呪力が不足している。

 

 呪力自体は結構な量を練れるし、なまじ出力も高くできるばかりに、それを制御するのが難しい。呪力量不足や呪力効率の悪さは深刻だ。修行と成長を通じて体が出来上がって来ると呪力も増え、慣れれば効率も良くなると言うが、今のままでは2~3回全力で傷を広げたら終わり。継戦能力が不足している。

 

 同時並行で素振りと体術の練習も加えられるようになり、いよいよ本格的に一族の一員になったという感じがする。

 

 

 

2009年 1月 ◎日

 

 近頃は専ら、術式発動時の呪力消費をいかに抑えるかに執心している。

 

 体に呪力を循環させたり、手に持ったものにそれを移すくらいなら良かったが、刀からそれを放出するとなると話は別だ。

 

 力任せに流し込んでも上手く術式に沿わないので効率が悪いし、当然込める力が弱すぎれば抵抗され、最悪呪いが跳ね返る。

 

 初めから六眼でこの辺りの調整を完璧に出来、ロス呪力ほぼゼロで回せるという五条悟には驚嘆するばかりだが、呪力の理解では俺も負けてはいないはず。

 

 術式の起動自体は問題なくできているので、後は効率アップと肉体強化が課題だ。

 

 

 

2010年 3月 ×日

 

 前回の記入から1年余り。あまりにも単調な生活だったため日記には付けなかったが、年齢的な問題で呪霊討伐に出るのは認められておらず、出来る範囲で他の術師たちの監督をしたり、編成上の問題がないか考えたりしながらひたすら鍛錬をしていた。

 

 禁縁呪法には原作に登場した芻霊呪法のように複数の技があり、今までの術師たちが作った拡張術式も合わせればかなりの数になるという。それらは特に秘匿されるでもなく、一族の人間で、相伝を継いでいるなら書庫の巻物を引っ張り出してきて普通に学ぶことが可能だ。

 

 何故なら、使える者が非常に限られていて覚えようと思っても覚えられないためだ。うちの一族は代々相伝持ちが生まれやすいが、それでも禁縁呪法の使い手は一族全体で5人。

 

 その中で、「付けた傷を広げる」という基本技より先の段階へ進んでいるのは3人、うち2人が父と俺だ。相伝の情報が一族に秘匿されないのは、それ自体に術式の開示としての効果を持たせる狙いのほかに、「使えるもんなら使ってみろ」という挑発の意味合いがあるらしい。

 

 この術式は、持って生まれることはよくあるが、使いこなすのが極端に難しいという特徴を持っている。

 

 俺が新たに覚えたのは、術式の解釈を拡張して「呪力を込めた刃物を自分の手から離れて動かす」拡張術式。名を「小刀(しょうとう)」と言う。何故か「こがたな」ではないらしい。

 

 この技があれば、自分が手ぶらの状態でもナイフなどを飛ばして攻撃できる。あるいは手数を増やすのにも使えるかもしれない。

 

 父はこの技を得意としており、4本の刀を宙に浮かべて自在に振り回す様を見せてくれた。当たり前だが今の俺が浮かべられるのは一本のみ。分かっていたことだが父の壁は厚い。

 

 それでいてかすりでもしたら一気に傷口を広げられる訳だから、なるほど一級も納得の戦い辛さだろう。九州最強の呼び名は伊達じゃないということか。

 

 俺が真っ先に覚えたのが父の得意技だったことで、近頃はずいぶん機嫌がいい。

 

 何年も見ていれば流石に分かって来る。父は俺に自分を超えて欲しいようだ。普段落ち着いた雰囲気なので忘れそうになるが、父はまだ30歳手前の術師なのだ。

 

 原作の五条悟曰く、呪術師は才能8割。まだ若い時分に限界にたどり着いてしまった父は、達観しているようで強さへの野心を捨てていないようだった。

 

 或いは、俺が才能を見せたから。自分を超えられるかもしれない息子を見たから、そうなったのだろうか。

 

 だとしたら、なおの事俺は強くならなければいけない。

 

 さしあたって、同時に操る刃物の数を増やそう。"小刀"はマニュアル操作なので、本数を増やすと呪力ではなく脳に限界が来る。前世で聞いた宇宙飛行士のごとく、ルームランナーで走りながら掛け算して脳を鍛えなければ。

 

 

 

2010年 8月 §日

 

 例によって修行に打ち込んでいると、盆がどうとかで禪院家に挨拶に行くことを聞かされた。

 

 元々毎年盆正月の少しズレた時期に行っているらしいのだが、一族の何人かが顔見せに行く程度で俺は今まで呼ばれていなかったそうだ。

 

 相手の方が家格が上なので、我々が京都の禪院本家まで出向く形になる。父が言うには、禪院に嫁いだ親戚の様子を見たり、逆に禪院から嫁に来た親戚の近況報告をするのが主題らしい。

 

 そもそも禪院とそんなに親密だったこと自体初耳である。御三家からはうっすら見下されていると聞いていた。

 

 曰く、相伝が扱いやすくて遺伝しやすい空閑家は、古来より優秀な術式持ちをかき集めて勢力を拡大してきた禪院家にとってもそれなりに魅力的であり、ときおり互いの血を家へ入れるようになったのだという。

 

 下手に互角だと他の御三家のように相互に足を牽制し合う状況にも陥りやすいが、明確に「禪院優位」で力関係がはっきりしているためにむしろ関係は安定しているとのことだった。

 

 そんな場所に送り込まれ、一応次期当主候補として挨拶もしたが、大人の政治闘争に割って入るには前世含めても経験が不足している。

 

 大人しく禪院邸をうろうろしているうちに楽しくなって、見た目の歳相応に大邸宅の探検などとやり始めた覚えがあった。

 

 そうして10歳らしいことをやっていると、少し離れた所から戦闘の気配。

 

 感覚的に呪霊やそれに準ずる存在はいなさそうだったが、覗きに行って驚いた。

 

 ヤンキー風の高校生くらいの術師が、俺と同年代の女の子を虐めているようなのだ。

 

 他人(ひと)ん家だが、流石にどうなのだろうと思って割って入ったのが、今にして思えば良くなかったのかもしれない。

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