東電旧経営陣への13兆円賠償命令、二審が取り消し 原発事故巡り
東京電力福島第1原子力発電所事故を巡る株主代表訴訟で東京高裁は6日、東電旧経営陣の賠償責任を認めない判決を言い渡した。地震発生前の時点で「(巨大津波の)予見可能性があったとは認められない」と判断した。旧経営陣4人に13兆円超の賠償を命じた一審・東京地裁判決を取り消し、株主側の請求を棄却した。
東日本大震災の発生前における知見に基づき、津波の予見可能性の有無について厳格な判断を示したと言える。東電の株主は旧経営陣が対策を怠ったとして、23兆円超を同社に支払うよう求めていた。株主側は判決を不服として最高裁に上告する方針。
訴訟を起こされたのは勝俣恒久元会長=2024年10月に死去=、清水正孝元社長(80)、武黒一郎元副社長(79)、武藤栄元副社長(74)、小森明生元常務(72)の旧経営陣5人。勝俣元会長の訴訟は遺族が承継した。
訴訟では①政府機関が02年に公表した地震予測「長期評価」に基づき、東日本大震災による巨大津波の襲来を予測できたかの「予見可能性」②対策をすれば事故を防げたかという「結果回避可能性」――の2点が主な争点だった。
木納敏和裁判長はまず、事故を防ぐためには原発の運転を停止し、津波対策工事を速やかに実施するよう指示する必要があったとした。そのうえで地震前の時点で運転停止を指示するほどの切迫性や現実性がある予見可能性があったかどうか検討した。
長期評価については国の中央防災会議でも防災対策を決める上で検討対象となっていなかったことなどをあげ、「運転停止を法的に義務付ける根拠としては必ずしも十分ではない」と判断。旧経営陣が巨大津波を予見できたとは認められず、「切迫感を抱かなかったとしてもやむを得ない」と結論づけた。
一方、原発事故の予見可能性について現在は当時と状況は異なると言及。「具体性の程度をより抽象化し、(電力事業者の)取締役には事故前よりも一層重い責任を課す方向で検討すべきだ」と述べた。
判決を受け東電は「(事故について)改めて心からおわび申し上げる。個別の訴訟に関することは回答を差し控える」とのコメントを出した。
訴訟で株主側は東電側が08年に長期評価に基づき最大15.7メートルの津波が到達するとの試算を行っていた点を挙げ、巨大津波の発生は予測可能だったと主張。原発建屋などへの浸水を防ぐといった「水密化」対策を講じていれば事故は防げたとし、旧経営陣に善管注意義務違反があったと訴えていた。
一方、旧経営陣側は「長期評価は原発事業者に津波対策を義務付けるほどの信頼性はなかった」と反論。株主側が挙げた対策についても「事故が起きてからの後知恵」とし、「事故前の知見」で判断するよう求めていた。
22年の一審・東京地裁は長期評価については「相応の科学的信頼性があった」として巨大津波は予見できたと認定。同評価を踏まえて対策を講じていれば、重大事故を避けられた可能性があったと結論付け、10年に常務に就任した小森氏を除く旧経営陣4人に計13兆3210億円の賠償を命じる判決を言い渡していた。
旧経営陣側と株主側の双方が控訴。控訴審で株主側は被災者への賠償額の増加などを踏まえ、請求額を一審段階よりも1兆4千億円積み増していた。
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(更新)- 矢野寿彦日本経済新聞社 編集委員分析・考察
福島第一原発事故の際、何兆ベクレル、何京ベクレルという普段使わないとてつもない大きな数字が紙面をにぎわしました。原発からの「核のごみ」も保管期間は10万年です。 今回の東電株主代表訴訟の一審判決で下された「13兆円」も司法の世界ではあまりお目にかかりません。原子力が人知の及ばない巨大なエネルギー(力)であるあかしといえるでしょう。 ひとたび大事故が起きるとそのリスクは無限性を帯びます。電力会社や保険制度によって担えるものではありません。 国が原発を再び前に進めるというのであれば、事実上、電力会社に無限責任をかす「原賠法」を抜本的に改めるべきだと思います。
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(更新) - 青木慎一日本経済新聞社 編集委員・論説委員ひとこと解説
「極めてまれではあるが可能性がある津波」の想定を根拠に対策工事が不可欠だったとは問えないでしょう。ある意味、妥当な判決だとは思います。しかし、武藤栄元副社長ら経営幹部が現場の危惧を退けず、少しでもできる対策に着手していれば、事故の結果は違ったかもしれません。企業のリスク管理や事業継続計画(BCP)の観点から、反省すべきことは多々あります。
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