【解説】いわき信用組合の不正融資総額は247億円 第三者委

いわき市に本店があるいわき信用組合が不正に資金を流用していた問題で実態の調査を続けてきた第三者委員会は、不正は遅くとも2004年から続けられ、認定された不正融資の総額は少なくとも247億円にのぼるなどとする調査結果を発表しました。

いわき信用組合は去年11月、旧経営陣が大口の融資先の企業の資金繰りを支えるため、融資先の役員やその親族などの名義の口座に融資する形で、不正に資金を流用していたと発表し、外部の弁護士などでつくる第三者委員会が事実関係の確認を進めてきました。

第三者委員会は30日、いわき市で記者会見し、調査報告書を公表しました。

それによりますと、組合は遅くとも2004年から実態のない企業3社を介した不正な融資を行い、さらに2007年からは役員やその親族、それに、一般の顧客の名義を無断で使用した口座を使った融資を開始したとしています。

その後、東日本大震災でこの大口融資先が被災し、不正な融資の必要がなくなったにもかかわらず、利息の返済などのために継続し、調査で認定された不正融資の総額は、去年11月までの20年間で少なくとも247億円にのぼるとしています。

また、長期間、巨額の不正が続けられてきた背景について、去年11月まで20年にわたって理事長や会長として組織を率いた江尻次郎氏に権限が集中し、経営を監視する機能が働かず、コンプライアンス意識が欠如していたと指摘しています。

第三者委員会は、報告書の中で今回の不正について「約20年もの長期間にわたり多くの役職員が関与して多数回の犯罪的な不正融資が行われていてわが国の金融機関の歴史を見ても類例をみないほどに悪質だ」と厳しく批判し、経営陣の刷新を求めています。

組合はこのあと第三者委員会の会見に続いて本多洋八理事長らが記者会見を開くことにしていて、いまの経営陣の辞任や再発防止策などを発表するとみられます。

■信用組合とは

信用組合は、銀行や信用金庫と同じように預金を集めたり貸し出しをしたりする金融機関ですが、これらの中で最も規模が小さく、地域に密着した経営が特徴です。

福島県内に本店を置く主な金融機関としては、いわゆる「第一地銀」で、規模が最も大きい東邦銀行と、「第二地銀」の福島銀行と大東銀行。それに、8つの信用金庫と、4つの信用組合があります。

「銀行」は、エリアなどの制限はなく、営利企業として自由に営業活動を行うことができる一方、信用金庫と信用組合は会員や組合員が出資して非営利で運営され、エリアや会員・組合員の規模に制限があります。

具体的には、
信用金庫は会員企業の資本金が9億円以下、
信用組合は組合員となる企業の資本金が3億円以下と定められています。

また、一般的に、信用金庫より信用組合の方が狭いエリアで営業しています。

メガバンクが主に大企業を、地方銀行が主に地域の中小企業を顧客とするのに対し、信用金庫や信用組合は主に小規模事業者や個人の事業者を顧客に融資を行っています。

とりわけ信用組合は、地域の事業者や個人がお互いに資金を融通し合う、相互扶助から発展してきた歴史的な経緯もあり、ほかの金融機関からの融資が受けられない事業者をいわば“最後のより所”として支援し、地域経済を支える役割もあるとされます。

■いわき信用組合とは

いわき信用組合は、昭和23年=1948年に「江名町信用組合」としていわき市で設立され、いわき市内と楢葉町に15の店舗があります。

去年3月時点で、組合員は法人と個人あわせて4万1800人、預金残高は県内に4つある信用組合の中で最大の2041億円。
役職員数は185人です。

いわき信用組合には、東日本大震災のあと、2012年に国の公的資金と信用組合の全国組織による資金支援で、あわせて200億円が投入されています。

健全性を示す自己資本比率は18%あまりと国内基準の4%を大幅に上回っています。

■江尻氏とは

いわき信用組合では2004年から2022年まで江尻次郎氏が理事長を務め、理事長を退いたあとも新設した「会長」に就任し、一連の不正があった期間を含めて20年にわたり、経営トップとして組織を率いました。

組合によりますと、江尻氏は内部調査の中で一連の問題について「ざんきに堪えず、反省している」などと話し、問題を公表する直前の去年11月に引責辞任しています。

■いわき市長「非常に残念。市内事業者の資金繰りに混乱生じないよう対応検討」

いわき信用組合が不正に資金を流用していた問題で第三者委員会による調査結果の公表を受けて、いわき市の内田広之市長は、「これまで地域経済の発展に熱意をもって取組み、重要な役割を担ってきたので重大な法令違反が発覚したことは非常に残念だ。新たな経営陣のもと、法令遵守態勢を確立したうえで再発防止を徹底し、信頼回復に努めてもらいたい」とコメントしました。

そのうえでいわき市の対応として「今後、市内事業者の資金繰りなどに混乱が生じないよう関係機関とも連携し相談体制の確保や支援など地域経済への影響をできる限り小さくするための対応を検討するほか、『いわしん』の名が付けられている市の音楽ホールのネーミングライツなどについて今回の内容を十分精査し、今後の方向性を速やかに判断していく」としています。

■第三者委員会の報告書 職員による多額の横領についても

第三者委員会の報告書では、いわき信用組合の職員による多額の横領についても調査結果をまとめています。

この職員は、2010年から2014年にかけて在籍していた2つの支店で、旧経営陣が顧客の名義を無断で使用した口座を使って不正に資金を流用した手口をまねるなどして、少なくともおよそ2億円を横領していました。

この横領が発覚した当時、組合は東日本大震災のあと、2012年に国の公的資金などあわせて200億円の資本増強を受けたばかりだったことや、旧経営陣による不正な資金流用の手口が発覚するのを防ぐため、この不祥事を隠蔽し、職員の処分も行いませんでした。

報告書では、横領で被った損失の一部の穴埋めに不正な流用で捻出した資金があてられた可能性があるとしています。
また、最終的にこの横領に関係して融資を実行した総額はおよそ2億9000万円にのぼったとしています。

■今後の焦点は

いわき信用組合は今後、顧客離れなどによる経営への影響を抑えるためにも、これまでの企業風土を一新し、失われた信頼を回復できるどうかが焦点です。

一連の不祥事をめぐり、いわき信用組合について、東北財務局は業務改善命令のなかで「法令順守よりも上意下達を絶対としてきた企業風土」だと指摘しました。

経営陣だけでなく、支店の融資担当者なども不正融資の指示を批判することなく受け入れ、規程に違反した事務処理を平然と行っていたとも指摘しています。

いわき信用組合は29日、経営の監視を強化するための有識者による第三者機関を設立すると発表しましたが、再発防止のためには、経営幹部だけでなく店舗の現場担当者にいたるまで、組織全体に長年染みついてきた体質の一新が求められます。

今回の不正を受けて、組合員の一部には、すでに預金を引き出したり、口座を解約したりする動きもあり、一定程度、顧客離れが進むのは避けられないのではないかという見方もあります。

一方、融資の相談に真摯に向き合い、粘り強く融資先を支える営業活動を評価し、いわき信用組合は地域経済の発展に欠かせない金融機関だという声も、少なくありません。

物価の高騰や人件費の上昇など、小規模事業者の経営を取り巻く環境が厳しさを増す中、地域に根ざした金融機関に期待される役割は大きくなっているだけに、今後、信頼の回復に向けた取り組みが厳しく問われることになります。

(詳しくは動画をご覧ください)

福島のニュース