東電 株主代表訴訟 きょう2審判決 1審は旧経営陣に賠償命じる

福島第一原発の事故について、東京電力の株主が旧経営陣に対し、会社に賠償するよう求めた裁判の2審の判決が6日に、東京高等裁判所で言い渡されます。1審は、国内で最高額とみられる合わせて13兆円余りの賠償を命じていて、巨大津波を予測し事故を防げたのか、高裁の判断が注目されます。

東京電力の株主たちは、14年前の2011年に福島第一原発で事故が起きたのは、安全対策が不十分だったためだとして、旧経営陣5人に対し、被害者への支払いや廃炉、除染にかかった費用など、23兆円余りを会社に賠償するよう求めています。

1審の東京地方裁判所は、元会長ら4人の賠償責任を認め、国内の裁判で最高額とみられる、合わせて13兆3210億円の賠償を命じ、双方が控訴しました。

これまでの裁判で、▽株主側は、国の機関が2002年に地震の予測についてまとめた「長期評価」に基づき、巨大津波への対策をとるべきだったと主張した一方、▽旧経営陣側は「長期評価の信頼性は低く、巨大津波は予測できず、対策をしても事故は防げなかった」などとして、責任はないと主張しました。

未曽有の原発事故をめぐる旧経営陣の責任を、高裁がどのように判断するか注目されます。

争点と1審の判断は

裁判では、原発事故当時、東京電力の経営を担い、去年、死去した勝俣恒久 元会長と、清水正孝元社長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長、小森明生元常務の5人の対応に過失があったかどうかが争われています。

事故を予測できたか
最大の争点は、巨大津波が原発を襲う可能性を、旧経営陣が事前に予測できたかどうかです。

その前提として焦点となるのが、地震や津波などの専門家でつくる国の地震調査研究推進本部が、東日本大震災の9年前の2002年に公表した「長期評価」の信頼性です。

この「長期評価」では、福島県沖を含む太平洋側の広い範囲で、マグニチュード8クラスの津波を伴う大地震が、30年以内に20%程度の確率で発生するという新たな見解が示されました。

東京電力の子会社は、事故の前、「長期評価」の見解をもとに、福島第一原発に到達する津波の高さが、最大で15.7メートルになるという試算を出していました。

しかし、当時の経営陣は、専門家の間でも見解が分かれていたことなどから、学会に研究を委ねることとし、対策はとられませんでした。

こうした経緯について、▽株主側は、「長期評価は十分な信頼性があった」と主張し、旧経営陣5人は、巨大津波に襲われ事故が起きる危険性を予測できたと主張しました。

一方、▽旧経営陣側は、「長期評価」について、「国の機関や専門家など多方面から疑問も示されていて、信頼性があったとは言えない」と反論し、巨大津波は予測できなかったと主張しました。

事故は防げたか
対策を取らせていれば事故を防げたかどうかも、重要な争点となりました。

▽株主側は、「防潮堤の建設や、施設に水が入らないようにする『水密化』などの対策が可能で、事故は防げた」と主張しました。

一方、▽旧経営陣側は、「『長期評価』に基づいて対策をしても、実際の津波の規模は想定とは全く異なり、事故を防ぐことはできなかった。工事などに時間がかかり対策は間に合わなかった」などと主張しました。

1審の判断は
2022年の1審の判決で、東京地方裁判所は▽「長期評価」について、「相応の科学的信頼性があった」と判断し、▽『水密化』などの浸水対策をとっていれば、重大な事態を避けられた可能性が十分あるとして、勝俣元会長ら4人の賠償責任を認めました。

賠償額は▽廃炉と汚染水の対策費用として1兆6150億円▽被害者への損害賠償で合意している7兆834億円さらに、▽除染と中間貯蔵の対策費用として4兆6226億円の、合わせて13兆3210億円を、旧経営陣による損害と認定しました。

国内の裁判では、最高額とみられます。

小森元常務については、就任したのが震災の前の年の6月で、対策を指示しても間に合わなかったとして、賠償責任はないと判断しました。

勝俣元会長については、亡くなったあと、一部の遺族が訴訟を引き継いでいます。

刑事裁判では無罪判決

旧経営陣5人のうち、去年、死去した勝俣恒久元会長と、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の3人については、刑事責任を問う裁判も行われました。

3人は、津波を予測できたのに適切な措置をとらず、原発事故の避難の過程で、福島県の入院患者などを死亡させたとして、検察審査会の議決によって、業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴されました。

刑事裁判でも、▽津波を予測できたかと、▽事故を防げたかどうかが争点となり、1審と2審では、3人とも無罪となりました。

その後、▽勝俣元会長が、亡くなったため起訴が取り消され、▽副社長2人については、ことし3月、最高裁判所が「10メートルを超える津波を予測できたと認めることはできない」として、検察官役の弁護士の上告を退け、無罪が確定しています。

一方、旧経営陣の責任が問われた今回の民事裁判では、1審で巨額の賠償が命じられ、民事と刑事で判断が分かれていました。

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