「組長のはまったガンダム」という短編が前・後篇収録されていて、これが素晴らしい。世にガンダムネタの創作物は山ほど出ていようが、こんなのは他にないだろう。
主人公は、昭和を生きる35歳のヤクザの組長で、既に立派な「オヤジ」だ。そんな組長は、最初は子供の付き添いでガンダムを見ていた。組長にとってアムロは、周りが悪いと文句ばかりいう、自分を省みない「今時のアンチャン」でしかなかったが、ある時それが、はやる気持ちだけが空回りしていた若い頃の自分と重なり、はまってしまうのだ。「今週のアムロさんはどうなったんでぇ」と気になるくらいに。
とはいえ、既に「オヤジ」であり、ニュータイプが全く理解できない組長に壮大な宇宙戦争の物語は理解不能でもあった。だから、組同士の抗争に置き換えて納得する。ジオン公国は「ヤクザの組みたいなもん」、地球連邦は「退廃したマッポ(警官)みたいなもん」、アムロの戦う理由を「いざこざは、でいり(喧嘩)で手打ちにすること」と。
そして、好きな気持ちが高じて、自宅の地下に10mの穴を掘り、実物大のガンダムの模型を作る。胸部だけだけど。コクピットの乗り込んでいう台詞は勿論、「行きます!」だ。
お茶目さんな組長だが、この後(結末)には爆笑のオチが付く。ガンダムネタで、この作品以上こ読後感が爽やかなものはないだろう。随所に橋本治らしい優れた洞察があるし。
他の作品も皆素晴らしいが、この2短篇だけを読むために購入しても絶対に損はしない。