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2024.10.29
イベントレポート|AIのメンタルヘルスケアへの応用は、どこまで進んでいるのか。研究者・専門家セッション「AIとメンタルヘルスの最前線」レポート
登壇してくださったのは信州大学准教授の髙橋史氏、中島心理相談所所長の中島美鈴氏、徳島大学准教授の山本哲也氏の3名です。AI技術とメンタルヘルスケアの最新動向について、テーマ別に発表していただきました。
信州大学教育学部 准教授
心療内科クリニックにて勤務し、うつ病、強迫症、摂食障害、社交不安症、全般不安症といった精神疾患を抱えながら子育てをしている大人や、うつ・不安・怒りといった気分の問題で困っている子どもを、認知行動療法によってサポートしてきた。また、応用行動分析を主な手法として、幼児~中学生の行動問題の解消や発達障害対応、周囲の大人へのサポートを行ってきた。
現在は、信州大学心理教育相談室にて、相談業務を行っている。また、「子育て支援のための認知行動療法」について積極的に研究を進めており、アメリカやカナダなど諸外国にも活動の場を広げている。
中島心理相談所 所長
九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了。博士(心理学)。臨床心理士。公認心理師。専門は時間管理とADHDの認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学、福岡大学などの勤務を経て、現在は中島心理相談所所長。九州大学大学院人間環境学府にて学術協力研究員および独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター臨床研究部非常勤研究員を務める。
主な著書に「ADHDタイプの大人のための時間管理ワークブック」、「働く人のための時間管理ワークブック」(星和書店)、「脱ダラダラ習慣!1日3分やめるノート」(すばる舎)など全50冊がある。最近では、時間管理の専門家としてNHKあさイチ3回出演、AmebaPrimeにてひろゆき氏と対談。朝日新聞医療サイトアピタルでのコラム連載は13年目。
徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 准教授
早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。臨床心理士、公認心理師。日本学術振興会特別研究員文部科学省脳科学研究戦略推進プログラム研究員、ピッツバーグ大学精神医学講座研究員を経て、現在は徳島大学にて教育・臨床・研究活動に従事している。専門は臨床心理学、心理情報学、認知神経科学。著書は『絶対役立つ臨床心理学』(分担執筆、ミネルヴァ書房)、『マインドフルネス:基礎と実践』(分担執筆、日本評論社)など。
近年では、臨床心理学と情報工学を融合させた領域横断的な観点に基づきながら、AI、VR/AR、ロボットなど、デジタル技術を活用して心を調整する手法の開発に主に取り組んでいる。また、放送大学において、機械学習の心理学的な応用方法に関する放送科目を担当している。
※全文の書き起こしではなく、トークを抜粋し編集しています。
子どものメンタルヘルスを専門とする高橋氏のテーマは、「AI活用『してはいけない』の最前線」。髙橋氏によると、子どものメンタルヘルスケアでもAIが注目されているそうです。その理由やAI活用の規制の動向などの発表がありました。

高橋氏は、子どものメンタルヘルスケアでAIが注目される理由として、とくにメンタルヘルスケアが必要な思春期の子どもたちが、大人に悩み事を相談しにくい傾向があることを挙げました。そこで、新たな相談役として登場したのがAIです。
しかし、AIの想定外の動作がユーザーの健康を害する可能性も。AIを導入するかどうか、一度立ち止まって考えることが必要だと訴えます。
メンタルヘルスケアにAIをどのように導入するかという議論は、まだ始まったばかり。未知数な部分があるからこそ、国外のAI規制(ハードロー)は厳し目になっています。一方、国内のハードローは国外よりも厳しくはないそうです。「国内でも、業界団体と一緒につくっていこうと、AIに関するガイドラインが整備され始めた」と話す高橋氏。
そのガイドラインでは、悪意を持ったAI活用の禁止などが定められていますが、ユーザー(AIやその関連サービスを使用する個人や組織)の安全への配慮やリスク対策、問題の把握・対応の充実化は記述が追いついていません。カバーしなければいけない分野は多岐にわたる状況下で、ユーザーを特定し、安全への配慮などを考えるのが難しいからです。
ただ、メンタルヘルスケアの専門家は、メンタルヘルスケアに関わるAIツールを利用するクライアントや患者を想定できる立場にあります。高橋氏は「私たちが出会うユーザーさんたちを守っていく方法を議論していきたい」と話します。
AI技術の進展によって、ストレスチェックで不調を予測し、メンタルヘルスの悪化を未然に防ぐことも可能に。しかし、その技術が社会にとって、必ずしも良い結果をもたらすとは限りません。たとえば採用時、AIが過去の人事にまつわる社内データを活用し、休職・退職を予測すれば、「この傾向の人は休職・退職しやすい」と偏見をより強める意思決定を後押しする可能性があります。
そうならないように、AIに判断などをすべて任せるのではなく、「より良い社会を想定したときに、AIの判断したことを望むのかどうか」を人間がきちんと考え、判断できるフローやシステムが必要です。
「次の社会を良くしてくれる技術だと思っていたAIが、社会に悪影響を及ぼす可能性もあります。そうならないように、最新の情報を踏まえて、少し先の未来を想像してみる。そのようにして見つけた意見を、いろいろな人と交換し、議論する場所こそが、AI活用『してはいけない』の最前線になるのだと思います」(高橋氏)

続いては、成人のADHDを専門とする中島氏によるセッションです。「ADHDの成人向けAIアプリとセラピスト支援プラットフォーム」をテーマに、大人のADHDの方の機能障害改善にAIをどう活用できるのか発表していただきました。

ADHDとは「不注意」「多動性」「衝動性」のうち、少なくとも2つ以上の状況が見られる状態のことです。中島氏によると、日本での有病率は2.09%で、グレーゾーン( ADHDの診断基準に完全には当てはまらないものの、いくつかの特徴や症状が見られる状態)の人も増えてきました。
よくあるのが、「自分の子どもがADHDで、その治療に付き添ううちに自分もADHDであることに気づく」という成人のパターンです。ADHDの特性が影響して生活がしづらくなったり、望まない頻回な転職や離婚や人間関係の悪化などを経験したりする人もいるそうです。
成人期のADHDで中等症以上の重症度の方への治療として国際的には薬物治療が推奨されていますが、全員に効果があるわけではありません。そこで心理的支援、とくに機能障害への対処法を学ぶことのできる認知行動療法(CBT)が推奨されています。治療のゴールは、モノの見方や行動パターンに介入して、生きやすくすることです。
従来は、週に一度の集団プログラムで、「計画を無視してスマホなどに集中してしまう」「時間をうまく見積もれない」「先延ばし」などの症状に対処するのが一般的でしたが、昨今はアプリの併用で、患者の状態をすぐに確認でき、介入しやすくなったのだとか。
ところが、「その効果は効果的に持続しなかった」と言う中島氏。集団プログラムを受けた患者は一時的に症状が改善したものの、数年後には再び元に戻ってしまうという現象が見られました。
その原因をインタビューしてみると、次のような声があったそうです。
頑張りすぎていた
仲間と習い事をするような感覚で治療をしたい
習ったことを継続しても褒めてくれる人がいない
短いやり取りで褒められないと集中力がもたない、など
中島氏は、それらのニーズに応えようと、ADHD治療にAIを活用することに。イギリスの開発者と協力し、日本語対応のADHD支援アプリを開発しました。
このアプリには、「計画から脱線してしまう」「時間をうまく見積もれない」など、ADHDの症状に対処する機能を搭載。サービスはリリースされたばかりで、まだまだ増やしたい機能はある、と言います。
中島氏は「生涯にわたって生活全般に困りごとが続くADHDのような障害にこそ、AIが果たす役割は大きいと考えています」と、今後さらにAIがメンタルヘルスケアの強力なツールになることを強調し、セッションを締めました。

続いて、メンタルヘルスケアにおけるAIと3Dエージェントの新たな可能性について、山本氏に発表していただきました。

山本氏によると、数年前まで専門家ですら、生成AIの実践的な用途の多くを発見できていなかったそうです。しかし、生成AIが爆発的な進化を遂げたことから、これからは全ての人にとは言えないが、メンタルヘルスケアにも大きな役割を果たす可能性がある、と言います。
これまでにも、デジタル技術によって作り出したキャラクターが、人間に幸福感を与えることは報告されていました。その一例として紹介されたのが、バーチャルキャラクター・初音ミクと結婚した日本人男性のエピソードです。
男性はバーチャルキャラクターと心の中で会話をしていますが、これは珍しいことではありません。ぬいぐるみと会話するのと同じように癒される行為であり、「バーチャルキャラクターが人々の癒しを生み出す手段となり得る」と山本氏は言います。
診断の支援や相談の促進など、メンタルヘルス分野ですでに活用されているのが、会話エージェント(チャットボット)です。チャットボットで、抑うつや不安などの症状を緩和する効果を期待できます。
そのチャットボットよりも自然な応答を生成できるのが、生成AIに基づくエージェントです。山本氏は「ディスプレイに、キャラクターがただ映っているのではなく、実際にそこにいるように浮かび上がれば、存在感を感じて嬉しい人がいるかもしれない」という思いで、立体的に投影され、より人間らしく見える3Dエージェントの開発を試みています。
3Dエージェントはニーズに合わせて姿形を簡単に変えることができ、柔軟な対話も可能です。これまでの研究では、3Dエージェントとの対話によって、悩みの軽減や幸福感の増大、自尊心が上がったという事例も。「人前でエージェントと会話するのが恥ずかしい」という人もいましたが、会話の満足度が上がるという傾向が見られました。
ただし、「支援に関する返答内容が特定の心理療法に偏っている」「AIができないことを低く見積もり、できることを大きく見積もる」など、今後の課題も浮かび上がる結果に。安全性を確保する方法に答えが出ていないからこそ、「専門家や事業者が話し合うことが必要」だと山本氏は言います。
「デジタル技術と生成AIには可能性があると思っています。とくに新たなメンタルヘルスケアの創出につながることは間違いありません。ただ、課題もたくさんあるので、そこに留意していくことが大切です」(山本氏)

セッションの最後は、登壇してくださった3名がそれぞれの発表に対して意見を交わし合いました。

高橋:山本先生の3Dエージェントのように、「推し活」がメンタルヘルスに良いという話はよく聞きます。山本先生は、開発した3Dエージェントをどう活用していきたいですか。
山本:健康的な人の話し相手にすることです。情緒面のサポートはもちろん、子どもに何か情報を教える家庭教師のような役割にも使えるのではないかと。産業や医療とさまざまな分野で使えるはずなので、まずは安全性が危惧されないところで試していきたいですね。
高橋:3Dエージェントのように、中島先生のADHD の症状を緩和するAIアプリも、「メンタルヘルスケア」に対して大げさに構えることなく、気軽に取り組んでもらいやすい方法です。
中島:そうですね。ちょっとした物忘れやミスなどを緩和するアプリは、そこまで仰々しくする必要がないのかなと。私は山本先生のセッションを聞きながら、これからは3Dエージェントに恋をするような人も出てくるんじゃないかと感じました。
高橋:「推しに褒めてもらいたいから頑張る」みたいなことがありそうです。
中島:ですよね。また、とくに男性のお年寄りの方など、本音をなかなか話せない人でも、バーチャルだと思えば話しやすいかもしれません。
山本:人間じゃないからこそ話せるという人もいますね。そもそも、我々のような専門家にメンタルヘルスを相談に来られる方って、本当に少数じゃないですか。現場にアクセスできない人にも支援を届けられることは、デジタル技術を使った支援の強みだと思います。
高橋:今後、デジタル技術を使った支援も増えていきそうですね。今回のシンポジウムには、我々のような研究者ではない方もいて、支援が必要ないろいろなケースを目の当たりにされているはずです。どんな支援が必要なのか、みなさんと意見交換させていただき、次につなげていければと思います。
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今回のセッションでは、AIの力を活用することで、より多くのユーザーに向けてメンタルヘルスケアを提供できる可能性があることがわかりました。一方、AIの誤った活用や過信によるリスクも繰り返し指摘され、今後もAIが進化を続けるなかで慎重な運用を行なうためには、ステークホルダーが集まり、社会的な議論を深める必要がありそうです。

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AIメンタルヘルスヘルスケア協会では、今後もガイドライン策定を始め、AIのメンタルヘルスケア活用についての情報発信やセミナー、勉強会などを開催していく予定です。
今後のイベント情報は、公式ホームページ内で発信していきますので、ぜひチェックしてください。
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