エスカレーターの片側通行は日本固有の遅さが原因
日本のエスカレーターでは、片側に立ち、一方を歩行者のために空ける「片側通行」の習慣が根強く続いています。関東では左側に立ち、関西では右側に立つという地域差こそあるものの、このルールは全国共通です。
しかし、多くの国では片側通行を推奨しておらず、安全や輸送効率の観点から、エスカレーターでは歩かずに両側に立つことを奨励しています。
では、なぜ日本では片側通行が続いていて、再三勧告されているのに是正されないのでしょうか。その要因の一つとして、日本のエスカレーターの速度が世界的に見て「遅い」ことが挙げられます。日本のエスカレーターは30m/分の速度が標準ですが、イギリスやシンガポール、香港では45m/分が一般的です。
国・都市別のエスカレーター速度
ソウル 47m/分
イギリス 45m/分
シンガポール 45m/分
香港 45m/分
シドニー 45m/分
モスクワ 36m/分
プラハ 36m/分
北京・上海 36m/分
日本 30m/分
この違いが、日本における片側通行の習慣を生んだ最大の要因となります。
エスカレーターの遅さが片側通行を生むメカニズム
エスカレーターの速度と利用者の行動には密接な関係があります。日本のエスカレーターが30m/分と遅いことが、片側通行を生み出している理由を以下の三つの観点から分析します。
1. 立ち止まることのストレス
エスカレーターの本来の目的は「歩かなくてもスムーズに移動できること」です。しかし、日本のエスカレーターは30m/分と世界標準より遅いため、立ち止まると移動時間が長くなり、「待たされている」というストレスを生みます。
例えば、新宿駅や東京駅のような大規模ターミナルでは、エスカレーターの利用者が多く、流れが遅いと感じやすくなります。特に朝の通勤ラッシュ時には、1分1秒でも早く移動したい人が多く、自然と「エスカレーターを歩いた方が早い」と考えるのです。
対照的に、海外のエスカレーターは速度が45m/分以上であり、歩かなくても十分に速く移動できます。そのため、そもそも「歩く必要がない」と感じる人が多く、結果的に片側通行の習慣が根付きにくくなります。
2. 片側通行の自己強化ループ
片側通行は、一度定着すると「自己強化ループ」に入ります。
エスカレーターが遅い(30m/分)
急ぐ人が歩き始める(「歩いた方が早い」と考える)
周囲も歩くのが当然と認識する
片側通行が習慣化する
このループが成立することで、歩行スペースが当然のものとして受け入れられ、エスカレーターの利用マナーが固定化されてしまうのです。逆に、エスカレーターの速度を45m/分以上にすれば、歩くメリットが小さくなり、自然とこのループは崩壊します。
3. 安全面のジレンマ
現在、日本の鉄道会社や自治体は、「エスカレーターでは立ち止まるように」と呼びかけています。しかし、速度が遅いままでは、利用者の行動を変えるのは難しいでしょう。
歩行を禁止するための啓発活動が効果を上げるには、「歩かなくても十分に早く移動できる」ことが前提となります。例えば、東京都内の主要駅でエスカレーターの速度を45m/分に引き上げた場合、移動時間が短縮されるため、歩く必要性が大幅に減少します。
つまり、安全性を高めるためにも、単なる啓発活動ではなく、根本的な「速度の引き上げ」が不可欠なのです。
「速度を上げること」が唯一の解決策である理由
エスカレーターの片側通行を解消し、安全かつ効率的な利用を促すためには、「速度を上げること」こそが唯一の解決策です。その理由を以下に示します。
1. 物理的に歩く必要がなくなる
エスカレーターの速度を45m/分以上に引き上げれば、利用者の体感速度が向上し、「急ぐために歩く必要がない」と感じる人が増えます。ロンドンや香港のように、もともと45m/分のエスカレーターが標準である国々では、片側通行の習慣がほとんど見られません。これは、速度が十分に速いため、歩く必要がないからです。
2. 安全性の向上
速度が遅いと、「歩きやすい」という錯覚が生じ、歩行者が増えてしまいます。しかし、速度が45m/分以上になると、歩行自体が難しくなり、結果的に立ち止まる人が増えます。これは、旧ソ連圏の都市で見られる現象であり、モスクワの地下鉄ではエスカレーターが50〜60m/分と高速で動いているため、歩く人はほとんどいません。
3. 輸送効率の向上
片側通行をやめて両側に立つことで、エスカレーターの輸送効率が向上します。ロンドンの地下鉄では、片側通行をやめたことで混雑が大幅に緩和されたという研究結果が出ています。しかし、日本では「速度が遅いからこそ、片側通行が必要」と考える人が多いため、速度を上げることで「そもそも片側通行が不要」という認識を広めることが重要です。
日本のエスカレーターにおける片側通行は、その速度の遅さが生み出した習慣であり、安全上の問題や輸送効率の低下を引き起こしています。この問題を根本から解決するには、「エスカレーターの速度を上げること」しかありません。
速度を45m/分以上にすれば、「歩かなくても十分に速い」と感じる利用者が増え、結果として片側通行が自然消滅します。さらに、安全性も向上し、輸送効率も高まるため、エスカレーター本来の目的である「楽に速く移動する」ことが実現されます。
片側通行の習慣をなくすためには、単なる啓発ではなく、「エスカレーターの速度を世界標準に引き上げる」という構造的な変革こそが必要なのです。


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