身寄りのない高齢者を受け入れてきた養護老人ホーム「安立園(あんりゅうえん)」(東京都府中市)で起きた着服事案。判明しただけで20人の入所者から現金計約70万円を不正に得ていたとして男性職員が懲戒解雇された。だが、高齢者の経済的虐待は同園だけでなく、全国で急増しており、深刻だ。虐待を食い止めるすべは本当にないのか、改めて考えた。(木原育子)
		
			
		◆引き渡しのルールはあったが…
			 「利用者の皆さんに本当に申し訳なく思う」。5月中旬、「こちら特報部」の取材に応じた安立園法人本部の水越正事務長と、養護老人ホームの鵜崎恒施設長がそう弁明した。
		
			
		
			 法人の預かり金取扱規定では、入所者が金銭を必要とした場合、「出金依頼票」に手書きで記入し、まずは担当職員に提出。出納責任者が入所者の口座から引き出して、施設ロッカー内の棟別の引き出しにいったん預け、別の職員の立ち会いの下で引き渡すとされていた。
		
			
		
			
		
			 だが実態は違った。規定は守られず、引き出された現金は誰でもアクセスできる状態だった。
		
			
		◆簡単に着服できてしまう環境
			 今回、不正をした男性職員も入所者に成り済まして依頼票を作成。意思決定に支援が必要な高齢者が書いたと見せかけるためか、日付や名前を間違えて二重線で消すなどの痕跡も。担当職員の印鑑を100円ショップで購入して判を押し、職員が休みの日を狙って不正を繰り返した。
		
			
		
			
		
			 情報公開請求などで入手した不正の一覧表によると、不正が始まった2021年は3件で計9万円、22年は5件で15万円、23年は11件で29万5000円などと跳ね上がった。男性限定の施設で、電気シェーバーやひげそりといったものが用途として記載されていた。必要な入所者はいるだろうが、不自然な頻度の購入も目につく。
		
			
		
			 引き出されたお金を預けるロッカーは男性職員の自席近くにあり、使途の領収書もいらず、管理責任者である施設長の決裁も必要なし。つまり、着服しやすい環境が出来上がっていたとも取れる。鵜崎施設長は「男性職員は長く施設に勤め、入所者からの信頼も厚かった。だが、やろうと思えば(金銭を)取れてしまう体制で、信頼を損なうことになってしまった」と説明する。
		
			
		◆身寄りない人の頼みの施設が
			 安立園は1926(大正15)年に、府中刑務所の教誨師(きょうかいし)だった僧侶が、出所後の現状を嘆き立ち上げた。現在は入所者は刑務所から出所した高齢者だけではなくなったが、いずれも何らかの事情で行き場がない高齢者がほとんど。施設が葬儀を出し、お墓も備えるなど、身寄りのない人の「終(つい)の棲家(すみか)」だった。ある自治体の担当者も「難しいケースも引き受けてくれる東京の福祉の『最後の砦(とりで)』だと信じていた」。
		
			
		
			
		
			 そんな社会のセーフティーネットの場で起きた事案。問題発覚後の施設側の対応にも疑問が残る。一つは示談のあり方だ。男性職員が憔悴(しょうすい)していたとし、施設側が「乙(施設職員)は本件について深く反省し、甲(被害を受けた入所者)に対しての謝罪の意を表し、甲はこれを受け入れる」などと書かれた示談書を作成。
		
			
		◆追い出されるかも…弱い立場
			 後日、男性職員と鵜崎施設長、水越事務長の3人が控えた会議室に、被害を受けた入所者を1人ずつ入室させ、示談書を交わした。被害を受けた20人のうち3人が他界し、残る17人のうち16人の示談書を取り付け、1人はボールペンが持てず署名できなかった。
		
			
		
			 このような示談について、水越事務長は「被害者と着服した男性職員の間で解決すべき問題だと考えた」と話す一方、「今思えば、弁護士など第三者に立ち会ってもらうべきだった」。
		
			
		
			
		
			 一連の問題について、どう考えるか。日本...
		
		
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