NHKニュース
◆国際
天安門事件から36年 政府の徹底した言論統制で知らない若者も
中国の首都、北京で民主化を求めた学生らの活動が武力で鎮圧され大勢の死者が出た「天安門事件」から4日で36年です。中国政府は徹底した言論統制を続けていて中国の若い世代では事件を知らない人も多くなっています。
1989年6月4日に起きた「天安門事件」では、軍が、民主化を求めて北京の天安門広場やその周辺に集まっていた学生や市民に対して発砲するなどして多くの犠牲者が出ました。
中国政府は、死者は319人としていますが、実際ははるかに多いという指摘が根強くあります。
事件の現場やそれにつながる大通りでは先週から厳重な警戒態勢が敷かれ警察による歩行者への本人確認が強化されていて、追悼活動などを警戒しているとみられます。
事件の真相究明や責任の追及などを求める犠牲者の遺族の1人は、今月1日から当局の圧力で北京の自宅に戻れない状況に置かれていて、NHKの電話取材に対し「いまは多くを語ることができない」と話していました。
中国政府は当時の学生らの動きを「動乱」だと結論づけて対応は正しかったとする立場を続けています。
その一方、事件に関連する言論は徹底的に抑え込んでいて中国国内では事件の日付が連想される「64」という数字でさえもタブー視されています。
北京の街頭では外国メディアの取材を拒む人がほとんどです。
山西省に住むという30代の女性は「事件について聞いたことがあるような気もするが、よくわかっていない。学んだことはなく記憶もない」と話していました。
事件から36年がたち、中国の若い世代では事件を知らない人も多くなっています。
遺族「事件の犠牲者のために正義を求め続ける」
天安門事件の犠牲者の遺族でつくるグループ「天安門の母」は、事件の真相究明などを訴え続けていて、ことしも6月4日を前に108人が連名でネット上に声明を公表しました。
声明では、遺族の高齢化が進み、この1年だけでも複数の遺族が相次いで亡くなったとしたうえで「彼らが36年前に受けた苦しみを永遠に忘れないよう願う」としています。
そして、事件の公正な調査と犠牲者の名前や人数の公表、遺族などへの賠償、それに、事件の法的な責任の追及を求めるとして、中国政府に問題解決に向けた対話を呼びかけています。
遺族のグループのメンバーで当時19歳だった息子を亡くした張先玲さん(87)は声明にあわせて公開した映像で「私たちは当局との対話を通じた問題解決を何度も提案してきた。しかし36年がたっても当局はいまだに応じないばかりか、あらゆる手段で監視や盗聴をしている。私たちは事件の犠牲者のために正義を求め続ける」と訴えています。
今回の声明や映像は中国当局が事件に関する情報を厳しく統制する中、中国国内では一般の人たちが目にしないよう閲覧が制限されています。
香港でも犠牲者追悼の動きなど封じ込め
天安門事件から36年となる4日、香港でも犠牲者を追悼する動きや真相究明を求める声は封じ込められています。
「一国二制度」のもと言論や集会の自由が認められてきた香港では、以前は6月4日にあわせて毎年大規模な追悼集会が開かれてきましたが、当局の締めつけなどによって2019年を最後に開催できなくなりました。
かつて集会が開かれていたビクトリア公園では、4日午前中から大勢の警察官が動員されて厳戒態勢が敷かれ、追悼の動きに監視の目を光らせていました。
NHKのクルーも取材中に警察官に囲まれ、安全上の理由だとしてIDカードの提示を求められました。
一方、公園では、親中派の団体によって中国各地の特産品を販売するイベントが開かれました。
去年は、路上で天安門事件の責任追及などを求めるスローガンを叫び、中国政府への憎悪をあおったなどとして4人が逮捕されました。
長年、追悼集会を主催してきた市民団体は、2020年に香港国家安全維持法が施行されたあと、当局の圧力によって解散に追い込まれたほか、主要なメンバーが政権の転覆をあおった罪などで起訴され、3年以上拘束されたままです。
このうち、副代表を務めた鄒幸※トウさんは、この日に合わせてハンガーストライキを行うことを支援者を通じて明らかにしたうえで「皆さんがそれぞれの方法できょうの日を心に刻むことを信じています」と訴えています。
※トウは、「丹」の右に「彡」
中国国内で天安門事件伝えるNHKの放送が中断
天安門事件について、NHKの海外向けテレビ放送「ワールド・プレミアム」で日本時間の4日正午すぎのニュースで伝えた際、中国国内では、カラーバーとともに「信号の異常」という文字が表示され、天安門事件の部分だけ放送が中断されました。
中国国内で放送される海外のテレビは当局が監視し、NHKの放送は日本と比べて十数秒ほど遅れていて、天安門事件に関するニュースは毎年中断されています。
事件について中国国内の情報統制を徹底する中国政府の姿勢がうかがえます。
香港の人々は口を閉ざす
香港の繁華街で天安門事件についてどう思うか人々にたずねたところ、ほとんどの人が取材を拒否するか多くを語りませんでした。
このうち若い男性は、「カメラの前ではしゃべりたくありません」とだけ話していました。
また、高齢の男性は事件について、「もちろん私にとって気分のいい日ではありません。ただ、近くに警察もいますし、うっかり話をすると面倒なことになるかもしれません」と不安を口にしていました。
台湾 頼清徳総統 “事件を思い起こすのは記憶継承のため”
台湾の頼清徳総統は、天安門事件から36年となる4日、SNSにメッセージを投稿しました。
この中で頼総統は「天安門事件を思い起こすのは、単に歴史を追悼するためだけでなく、この記憶を継承するためだ」と強調した上で、中国を念頭に「権威主義の政府は歴史に対して沈黙と忘却を選択するが、民主社会は真相を保存し、人権の理念のために犠牲を払った人々を忘れることを拒否する」としています。
そして、「36年がたったいまも権威主義がもたらす脅威は国際社会が共同で対応すべき課題だ。台湾は全世界の民主主義の防衛ラインの最前線に立ち、理念の近いパートナーと協力して現状を維持し、民主主義と自由を守り続ける」と訴えています。
中国外務省の報道官「とっくに明確な結論を出している」
中国外務省の林剣報道官は4日の記者会見で、天安門事件の犠牲者の遺族が法的な責任の追及や賠償を求めていることについて問われると「1980年代末に起きたあの政治的な騒ぎについて中国政府はとっくに明確な結論を出している」と述べこれまでの立場を重ねて強調しました。
その上で、「中国の特色ある社会主義の道は歴史と人民の選択だ」などと述べ、当時の対応の正当性を主張しました。
また、アメリカのルビオ国務長官が4日にあわせて事件に対する中国の対応を非難する声明を発表したことについて、林報道官は「中国の内政に著しく干渉している。強い不満を表明し断固として反対する」と述べ、アメリカ側に抗議したことを明らかにしました。
北京にある欧米の大使館 SNS上に関連の投稿
天安門事件が起きた4日にあわせ北京にある欧米の大使館は、SNS上に関連の投稿を行っています。
このうち、イギリス大使館は事件の時、戦車の車列の前に男性が立ちはだかった象徴的な場面をモチーフに、周囲が徐々に白く塗りつぶされ、最後には男性の姿が消えてしまう13秒の動画を投稿しました。
中国政府が事件に関する言論を徹底的に抑え込んでいることを風刺しているとみられます。
また、アメリカ大使館は、「中国共産党は事実を積極的に検閲しようとしているが、世界は決して忘れない」とするルビオ国務長官の声明を転載しました。
声明は、「自由を行使しようとして命を落とした中国の人々の勇気、そして、1989年6月4日の出来事に対する責任追及と正義を求め、迫害に苦しみ続ける人々の勇気をたたえる」としています。
これらの動画や声明は中国のSNSではなく、X上に投稿されており、中国当局の検閲を避けたとみられます。
一方、カナダ大使館は、中国のSNS、ウェイボーに、「歴史とその教訓を振り返ることは非常に重要だ。きょう、私たちは言論・集会・結社の自由を平和的に擁護した人々に敬意を表す。彼らがどこにいようとも」と中国語の文章を投稿しました。
日本時間の4日午後5時の時点でこの投稿は表示できますが、コメントを書き込もうとすると「法律または、コミュニティー規則に違反する行為が行われたため、操作を行うことができません」と表示される状態で、規制が行われているとみられます。
06/04 16:58