第226話 エピローグ

──Q.デンジラスのクリスマスコラボが終わったら、どうなると思う?


「「「メリー・クリスマス!」」」


 A.本物のクリスマスがやってくる。


「じゃ、お疲れ様でーす」

「うん。今日も一日お疲れ様ー」

「お疲れー」


 というわけで、現在自宅でディナー中。参加メンバーは、当然ながらウタちゃんさんと天目先輩だ。

 なお、ディナーのメニューは女性陣の手作りである。特にウタちゃんさんが気合いを入れていた模様。……どうしても俺に手作り料理を振る舞いたかったらしい。なんでやろなー?


「さあ! どうぞ山主さん! いっぱい食べてください!!」

「あ、圧が凄い……」

「ごめんね山主君。この子、前のクリスマスコラボが凄い羨ましかったみたいで……」

「だってあんなのズルじゃん! シレっと双葉も山主さんに手作り料理振舞ってるし! 付き合ってからは私やったことないのに! 山主さん、いっつも自分でご飯作っちゃうから!!」

「だってそういう企画だし……」

「私も参加したかったよ!!」

「無茶言わないで……」


 相変わらず仲良いですねー。二股というか、囲ってる側としては実にホッとする光景である。やっぱり険悪だと面倒くさいし。

 というわけで、二人のじゃれ合いを肴にワインを一口。それから目の前のトマトリゾットをパクリ。


「あ、美味しい」

「本当ですか!?」

「か、変わり身が早い……」

「双葉シャラップ!」


 楽しそう。


「で、本当ですか!? 本当に美味しいですか!?」

「美味しいですよー」

「良かったです! 私、最近は特に練習してるんですよ!」

「へー」


 凄い熱量を感じる。まあ、練習してる理由を訊ねる野暮はしないが。とりあえず、一人の男としてはありがたい限りとだけ言っておこう。


「ササッ! こっちのローストビーフも食べてください! 頑張って作ったので!」

「いただきます」

「山主君がなすがままだ……」

「いつも通りでは?」

「うん。私も自分で言っててそう思った」


 常日頃からお二人のラジコンやってるからな。だってそっちの方がお互いのタメだし。


「ちなみに、天目先輩がお作りになったものは?」

「えーと、こっちのポテトサラダと、照り焼きチキンとか?」

「では、そちらもいただけると」

「あ、うん」


 うーん。こうして見ると本当に豪華だな。女性の手料理とか、そういう付加価値を抜きにしてもよ。めっちゃ贅沢よね。単純に料理がいっぱいだし。


「いやはや。こんな凄いクリスマスは初めてですよ」

「そうなの? 山主君なら、もっと凄いクリスマスパーティーとか経験してそうだけど」

「いや、いうて去年まで独り身の男ですよ? なんだったらボッチでもありましたし。寂しいというか、そもそも普段と変わらない一日って感じでしたね」

「あー。まあ、山主さんはそうですよね。性格的にも、クリスマスとか興味なさそうなイメージが……」

「一応、VTuberのクリスマス配信とか、コンビニやスーパーのチキンとかで、『クリスマスっぽさ』は感じてましたけどね」

「山主君らしいね」


 はい。季節モノってチキンとかは買って、適当に配信見ながら飯食って。……で、配信に意識が向きすぎてチキンが冷めるという。


「逆にお二人の方は、去年のクリスマスは何してました?」

「うーん……普通に配信してたかな?」

「私はてんてんとかとご飯に行ってました」

「それはそれは」


 天目先輩はライバーらしいクリスマス。ウタちゃんさんは普通のクリスマスって感じか。


「てか、いまさらですけど。お二人とも、今日は配信しなくて良かったんですか?」

「え、うん。リスナーの皆には、普通に前から伝えてたし」

「私も。どうしてですか?」

「いやほら、女性ライバーってそのへん面倒じゃないですか。特にライブラとか、いつ頃かクリスマスに配信やんなくて燃えてた人とかいませんでした?」

「あー……」

「そんなこともありましたねぇ……」


 やっぱり人間って馬鹿というか、一定の割合でバケモノが存在しているからさ。謎の執着と独占力と妄想力を発揮するやべぇのが、この時期には一定数湧くのよ。……ついでに、それを囃し立てる愉快犯たちも。

 遠巻きに見てた側からすれば、くっだらねぇし意味分かんねぇしで、一周まわってギャグみたいな感じだったけど。いざ当事者側に立ってみると、気にならずにはいられないよねっていう。


「まあ、確かにそういうファン……ファン? ともかく、変な人はいますけど。最近は普通に無視してますし、酷い場合は事務所が対応してくると思うので。特に気にしてはないです」

「私もかな? ……というか、デンジラスの場合はアレだし。山主君がいるからか、本当にそういう人が減ってきてるんだよね」

「あー。そっちはそんな感じなんだ。そういう意味だと、ちょっとデンジラスが羨ましいかも。山主さんに守ってもらってるみたいで」

「なんなら移籍する?」

「しーまーせーんー」


 サラッとすげぇこと言ったないま。それ実現したら大事件になるやつですよ天目先輩。


「なるほど。案外そんなもんなんですねー。特にライブラさんの対応というか、スタンスが聞けたのはラッキーでした」

「というと?」

「いや、単純な興味の話で」


 俺もかつてはただのVTuberファンだったのでね。ライブラはメインにしてなかったけど、それでもやっぱり業界最大手のアレコレは気になったりしてたのですよ。

 外側からだと案外分かんないし、それでいて扱ってるコンテンツがコンテンツだから、いろいろと憶測が飛び交ってたし。

 だからまあ、実際のところはどうなんかなって。コンプラとかに引っかかんない範囲で、ちょっと訊いてみたい部分はあるというか。


「でもま、今回に限ってはアレですよね。邪推の類いも、あながち間違ってない感じになってるのが。……個人的には、ちょっと面白いかなって」

「面白い、ですか?」

「あ、それは私も分かるかも」

「天目先輩まで」


 謎の共感が発生している。


「ほら、前までは『クリスマスは彼氏と〜』みたいなこと言われても、そんなわけないのに馬鹿みたいだなって思ってたんですけど……」

「実際、こうして山主君と一緒にご飯食べてるからねぇ。ガチ恋勢の人たちに対しては若干申し訳なさはあるんだけど……それ以上に、いろいろ好き勝手言ってた人たちに『しっかり楽しんでますけど何か?』ってドヤ顔したくなる感じがね?」

「お二人が背徳感と優越感に目覚めている」

「いや言い方」

「間違ってはないんですけど……」


 ああいえ、別に悪いとは言ってませんよ? むしろ好ましく感じてます。やっぱり人間、それぐらいの我の強さというか、エゴを出している方が人生楽しいですし。


「では、そんな二人にさらなるお楽しみ要素をですね」

「お楽しみ?」

「何ですか?」

「いえ。クリスマスですし。プレゼントを」

「本当ですか!?」

「紗奈ちゃんはともかく、私にもなの……?」

「そりゃ、前のコラボは別換算ですし」


 アレはデンジラスのメンバーとしてのプレゼントなので……。企画の一環として配信上で渡している以上、それは公私における『公』の範囲であるからして。


「今回はプライベート側というか、お二人の恋人としてモノをご用意させていただきました」

「こ、恋人……」

「あ、改めて言われると照れちゃいますね……」


 俺いまそんな恥ずかしいこと言いました?


「ま、ともかく。こちらをどうぞ。指輪です」

「ありが……待って指輪!?」

「うぇっ!? ちょっ、ちょちょ、山主さん!? なんかすっごいアレなんですけど! 指輪ってだけでも驚きなのに、凄い豪華なんですけど!! これダイアモンドとか付いてますよね!?」

「はい。プレゼントは消えモノがベターなのは承知してますけど、まがりなりにも恋人ですし。重いと言われるのも覚悟しつつ、ちゃんとした指輪ってやつを選んでみました」

「いやいやいや! 重いとか言ったりしないよ!?」

「めっちゃ嬉しいですよ!? てか、そういうことじゃなくてですね!?」


 あ、そうですか? そりゃあ良かった。思い切って冒険した甲斐がありましたわぁ。


「一応、サイズの方は合ってるはずです。目測ではありますけど、俺そういうの正確に分かるんで。とりあえず、お二人の左手の薬指に合わせたやつを用意してもらってます」

「ひだっ……!?」

「ちょっ、それ、それっ!? そういう意味ですよね!? さすがの山主さんでも、そのあたりの意味分かってますよね!?」

「そりゃもちろん」


 普通に一般常識じゃないですか。……え、もしかして俺ならワンチャンあると思われてんの? そんなことすら分からない可能性があるって思われてんの? うせやろ?


「さっきも言ったじゃないですか。恋人として選んだって」

「恋人の範疇飛び出そうとしてますけど!?」

「え。恋人向けのクリスマスプレゼントって、大なり小なりこんなノリというか、そういう心持ちで選ぶもんじゃないんですか? 俺、そういうイメージだったんですけど」

「大分違うと思うよ!? 少なくとも、こんな何気ない感じで渡すことはないからね!?」


 そうなの? カップルでしょ? 将来的にどうなるかはともかく、少なくともその時は好き合ってるわけだし、わりとそういう心境でプレゼントとか贈り合ってそうだけどな。

 最終的に破局しようが、付き合ってる間にイチャついてたのは間違いないんだから。目先の感情優先で、クリスマスを過ごしてても全然おかしくないと思うのだが……。

 え、この指輪ダメ? 俺の中の『クリスマスのカップル像』に合わせて、最低限これぐらいやってそうだなって思って選んだつもりなんだけど。比較した時にしょぼかったら失礼だし。

 違うの? 世の中のカップルってそんな考えなしじゃない? 少なくとも、男はその場の雰囲気で一生を匂わすような言動取らない? それが男女の『クリスマス』ってやつだと思ってたよ俺は。


「……うーむ。見当違いな感じでしたか。では指輪の代わりに、なにかしらのドロップアイテムを──」

「「絶対に駄目!!」」

「……一応、値段とか価値的な意味ではドロップアイテムの方が上ですけど」

「「そういう問題じゃない!!」」


 ア、ハイ。








ーーー

あとがき


遅れましたが、これにてこの章はお終い。ちなみにエピローグの副題を付けるなら、『恋〇たちのクリスマス』。……念のため調べてみたけど、これ曲名だから迂闊に使えないわってなった。日本じゃ定番のフレーズになってるけど。最悪、例の組織が来てしまう。


※記憶飛んでたので修正。ご指摘してくれた方には感謝です。

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