「実は亡くなる5カ月前、娘の左手にリストカットした傷痕があった。それを先生に見せていたんです」。野々市市布水中の当時1年の女子生徒(13)が2021年2月に自死したいじめ問題。女子生徒の父親が3日までに、北國新聞社の取材に対して初めて明らかにした。「あの時、学校がすぐにいじめの『重大事態』と判断して対処してくれていれば、最悪の結果は防げたのではないか」
父親によると、20年9月3日、女子生徒は思い詰めたように体育の女性教諭に「リストカットする人の気持ちが分かりますか」と口にした。教諭が女子生徒の腕を見ると、左手に数本、リストカットした傷痕が。学校でのストレスが重なり、自傷行為に及んでいた。
体育では、同級生から仲間外れにされた女子生徒の班が長時間決まらなかったり、競技中に無視されたりと、いじめをうかがわせる行為が起きている。
●カウンセラー知らせず
女性教諭はリストカット痕を見た日、女子生徒の母親に電話して伝え、生徒の部屋にカッターなどの刃物があれば片付けるよう求めた。翌日には担任教員を交えて母親と面談した。
ここまでの対応は迅速だった。しかし、情報の共有は学校内の一部にとどまり、スクールカウンセラーには知らされなかった。
女子生徒の死後、市教委が設けた第三者調査委員会の報告書が指摘している。「リストカットなどの重要な事実を専門家であるスクールカウンセラーがほとんど認識していなかったのは大きな問題である」
報告書によると、カウンセラーは当時、市から学校へ週2回派遣されたが、不登校対策が中心でいじめ問題への関与は薄かった。
学校教育学が専門でいじめ問題に詳しい鳴門教育大名誉教授の阪根健二は「いじめに起因したリストカットを見つけたなら、学校はとことん踏み込んだ対応が必要だった」と指摘する。
阪根によると、いじめ防止対策推進法における「重大事態」は、いじめが原因で年間30日を目安に欠席するなどの指針があるが、リストカット痕も重大事態として動くきっかけになる。その上で「教員だけで判断せず、スクールカウンセラーら専門家を交えて丁寧にリストカットの原因を探り、とにかく被害生徒に寄り添うことが大事だ」と強調する。
●市長、あとから把握
野々市市長の粟貴章は「そういういじめ事案があったのは、亡くなられた時まで聞いていなかった」と明かす。粟には、学校や市教委から女子生徒のいじめに関する経過報告がなされず、死亡後に初めてその情報に接したという。
当時、布水中の学年主任を務めたベテラン男性教諭=金沢市=は「学年の中でできることをやったが、自死を予見できず、足らざる点が多かったのだと思う」と声を絞り出した。
「来世では幸せにして下さい」。シグナルを出し続けた女子生徒はそう日記に記して21年2月11日、自ら命を絶った。市教委が法に基づくいじめの「重大事態」と判断したのは死後のことである。それは、あまりにも遅すぎた。(敬称略)