米アラスカ州でLNG開発事業の説明会 日本や韓国などにPR

アメリカ アラスカ州でのLNG=液化天然ガスの開発事業を推進するため、アメリカ政府は日本や韓国などの政府高官を招いて、現地で説明会を開きました。トランプ政権はLNGのアジア各国への輸出は、アメリカが抱える貿易赤字の削減にもつながるとして、各国に購入契約の締結やプロジェクトへの投資を呼びかけています。

このプロジェクトは、アラスカ州の北部で生産した天然ガスを新たに建設する1300キロのパイプラインで南部の基地まで送り、液化したうえでアジア各国に輸出するもので、総工費は440億ドル、日本円にして6兆円を超える規模になります。

この中で天然ガスの生産拠点となる北部のプルドーベイでアメリカ政府が2日、説明会を開き、日本、韓国、台湾などの政府高官が招かれました。

アメリカ側からは資源エネルギー政策のトップを務めるバーガム内務長官やエネルギー省のライト長官、州知事などが参加。バーガム内務長官は「アメリカが自国で十分なエネルギーを確保し、同盟国などに輸出できれば、彼らは敵対国から購入する必要がなくなる」などと述べ、プロジェクトの意義を強調しました。

トランプ政権は、LNGのアジア各国への輸出はアメリカが抱える貿易赤字の削減にもつながるとして、各国に購入契約の締結や投資を呼びかけています。州政府などは来年にも工事を始め、2031年以降の生産開始を目指しています。

ただ、根強いインフレによって総工費が上振れするリスクや、アメリカで今後政権交代が起きた場合のプロジェクトへの影響を懸念する声も上がっていて、日本企業にとっては難しい判断となりそうです。

今の原油パイプラインに並行するかたちで新設する計画

日本から参加した経済産業省の松尾経済産業審議官は「デジタル化が進む中でエネルギー需要が増えることが見込まれ、LNGの需要も増えていく可能性がある。日本としては調達先の多角化を図っていくことは非常に重要だ。輸送コストが低く、安定供給の面からもメリットがあるアラスカのLNGプロジェクトは1つの候補になり、現在の検討状況について詳細な情報に接するために参加した」と述べました。

一方、プロジェクトについて日本企業などからコスト面で厳しいという見方があることについては「実際にLNGがどういうコストでいつごろから提供されるようになるかが、企業にとって大きな判断のポイントになる」と述べ、今後、計画の詳細が明らかになってくれば、日本企業もLNGの購入やプロジェクトへの投資に向けた判断ができるようになるという考えを示しました。

パイプラインの全長約1300キロ

アラスカ州では原油や天然ガスなどのエネルギー産業が主力ですが、既存の施設での生産量が減少していたことを受けて、2013年、LNG=液化天然ガス開発のプロジェクトを進めるため開発公社が設立されました。

プロジェクトでは州北部で天然ガスを生産したうえで、南部ニキスキのLNG基地までパイプラインで送り輸出する計画です。パイプラインは全長およそ1300キロに及びます。

ニキスキのLNG基地では、天然ガスを年間2000万トン液化する施設と、船にLNGを積み込むための海上桟橋を建設。総工費は440億ドルになります。

ことし3月には、ニューヨークに拠点を置くエネルギー会社が開発公社から過半数の株式を取得してプロジェクトを主導することになりました。この会社は南部テキサス州のほか、南米のチリやコロンビアなどで事業を展開しています。

ブレンダン・デュバルCEOは、アラスカ州のプロジェクトはアメリカの天然ガスの指標となる価格より20%から30%ほど安く供給できるうえ、LNGの輸送でホルムズ海峡など地政学上のリスクがある場所を、通過する必要がないことが大きなメリットになるとしています。

LNGの生産は2031年から32年に開始する予定で、デュバルCEOはすでに日本や韓国などを訪問して、プロジェクトへの投資やLNGの輸入の働きかけを始めているといいます。

デュバルCEOは「アメリカが多額の貿易赤字を抱える国がアジアには多く、LNGの輸出によって貿易赤字の削減につなげることもできる。日本や韓国、台湾、タイ、インド、フィリピンからも関心が寄せられている。日本とも時間はかかると思うが大きな契約を締結できると確信している」と話しています。

プロジェクトには懸念も

プロジェクトをめぐっては、計画された工事の難しさや販売するガスの価格上昇など、懸念も出ています。

アラスカ大学フェアバンクス校のロマノフスキー教授は、永久凍土を貫いてパイプラインを設置する工事が課題になると考えています。

永久凍土とは地表または地層の温度が2年以上、0度以下になっている場所で、凍結している期間は数百年から数千年を超え、数百万年に及ぶこともあります。

教授は40年以上にわたって永久凍土を研究していますが、温暖化の影響で永久凍土の氷が溶ける可能性が高まっていると指摘します。

アラスカ州 ロマノフスキー教授撮影

氷が溶け始めると、地層が崩れたり地盤沈下が起きたりして地中のパイプラインが変形するおそれもあるということです。

また、氷が夏場に溶けて冬に再び凍ることで凍土の体積が変化し、パイプラインに影響を及ぼすことも想定されるといいます。

教授は、技術的には対応できる課題だとしたうえで「永久凍土を安定させるためのあらゆる計算を行って非常に慎重に工事を進めないといけない」と話しています。

インフレや米政権交代に伴う政策転換も懸念材料

このほかにも、アメリカで続く根強いインフレによって総工費が膨らみ、LNGの販売価格が上昇する可能性など懸念も出ています。

また、日米のエネルギー業界の関係者の間では、アメリカの政権交代に伴ってエネルギー政策が大きく転換されることもリスクになると認識されています。

トランプ政権は化石燃料の増産を強力に後押ししていますが、民主党のバイデン前政権ではLNGから排出されるメタンが地球環境に及ぼす影響を調査するため、LNGの輸出の承認手続きを一時凍結する措置をとりました。

2028年のアメリカ大統領選挙で気候変動対策を重視する民主党政権に変われば、プロジェクトが計画通り推進できなくなる可能性もあると指摘され、事業への投資や参画にあたってのハードルになっています。

アラスカ州知事「途切れなく大量のガス供給できる」

アラスカのLNGプロジェクトについて、ダンリービー州知事がNHKのインタビューに応じました。

日本とアラスカの関係について「1969年に世界で初めて日本にLNGを出荷してから、50年間にわたって輸出を続けてきた。LNGだけでなく水産物や木材などの貿易を通じて長年、日本とのビジネス関係を築きあげてきた」と述べました。

そのうえで、今回のプロジェクトについて「トランプ政権下ですべての許認可を取得しているが、バイデン前政権下でも支援を受けてきた。共和・民主両党からの支持がある」として、今後アメリカで政権交代が起きても影響は受けないという考えを示しました。

一方、インフレの影響などからパイプラインの設置工事でコストの上振れが発生する可能性もあるとしたうえで、「基本設計を進めていて数か月後には答えを得られるが、プロジェクトを主導する民間企業などの関係者は現時点では工事に着手できることに非常に楽観的だ」と述べました。

プロジェクトの今後の見通しについては「政府からのすべての許認可や権利の取得など、準備は整っている。ことしの秋から冬にかけてパイプラインの設計が完了し、FID=最終投資決定をへて来年秋には建設が開始されることを期待している」としています。

そして、日本企業と協議を続けていることを明らかにした上で「今回、日本との合意が成立すればこれからふたたび40年から50年間、場合によってはそれ以上の期間、途切れることなく大量の信頼できるガスを供給できると確信している」と述べました。

また、アラスカ産のLNGはアメリカが抱える貿易赤字の削減に向けた日米協議においても有効だとして、日本のLNG購入やプロジェクトへの投資や参画に期待を示しました。

日本とアラスカ LNGでの関わりは60年代から

LNGをめぐる日本とアラスカ州の関わりは1960年代にさかのぼります。

当時の日本は石炭に依存し、公害問題が深刻化していたことから、石炭に比べクリーンなエネルギーとして、1969年、アラスカからLNGの輸入を始めました。

しかし、アラスカでは既存のガス田での生産が減る一方、2010年代半ば以降は「シェール革命」によってアメリカ南部のテキサス州やルイジアナ州での生産が飛躍的に拡大し、日本企業も南部にあるLNG施設に巨額の投資を行って輸入を増やしてきました。

アラスカでは州の経済を支えるためにも新たな開発が必要な状況が続いていて、南部にある自治体のピーター・ミキチ市長は「アラスカと日本の価値あるパートナーシップが新たなプロジェクトで継続してほしい。日本の人たちにとってアラスカが再び重要な存在になることを願っている」と述べました。

ミキチ市長はかつて石油会社の社員として日本への輸出にも関わっていたということです。また、地元の経済や雇用への効果も期待されています。

最大都市アンカレジの中心部で再開発事業を進めるマーク・ベギッチさんは、新たな事業に伴って地域で働く従業員や国内外から訪れる関係者が増えることなどを見込んでいます。再開発では客室が250あるホテルを新たに建設しているほか、隣接する商業施設も住宅や鮮魚のマーケット、劇場などが入る形にリニューアルする計画です。

ベギッチさんは「新たな天然ガス事業は建設だけでも1万2000人の雇用を生み出し、投資によってアラスカ経済の流れが変わる。将来に希望が持てるようになる」と話しています。

あわせて読みたい

スペシャルコンテンツ