転生オールスターで戦う時代──経験者アイドルが変える“成長物語”のルール
アイドルが経験値で殴り合う市場へ
いまや「はじめての武道館」より“元◯◯”という肩書きのほうが強力なフックになっている。解散を経た人気メンバーが合流し、新ユニットとして再デビュー──そんな“転生オールスター”現象が、2020年代後半のアイドルシーンを静かに、しかし確実に塗り替えつつあります。
短命化・供給過多で新人の希少価値が希薄になった現在、ファンは「ゼロからの成長物語」より“続き”を欲しがる。運営は新人教育コストと失敗リスクを嫌い、メンバー本人は積み上げたキャリアを捨てたくない。三者の利害が噛み合った結果がこのブームだ。しかも可処分時間が奪い合いになる時代、ファンにとっては“前世”のバックグラウンドを知っている方が情報効率も高い。“転生”は時間貧乏ファンへのUX改善策でもあるのだろうか。
本コラムではこの現象を〈市場・運営・ファン〉の三方向から機会や脅威を整理し、マーケター観点で今後の市場を見通します。
転生アイドル急増の4ファクター
当然この流れが拡大するには様々な理由があり、主に3C+P(プロモーション)観点で整理してみるとどれも合理的な理由になっている。
1)市場環境:新人インフレと実績プレミア
年間300組がデビューするなかで、話題を獲得できる新人は一握り。実績を示せるメンバーは、それだけで差別化ポイントになる。
2)運営メリット:投資回収の高速化
過去ファンダムを連れて来られるため投資回収が早い。また、レッスン期間も抑えられ、楽曲やプロモーションなどに最初から一定の資金を投下できる側面も。
3)ファン心理:物語の“続き”を楽しめる
解散ロス勢にとって“復活通知”はご褒美。完結よりシーズン2、別ルートのIFストーリーを観るような感覚で財布のヒモが緩む。
4)SNS効果:過去動画の自動プロモーション
アルゴリズムは前世動画も容赦なく拡散する。同じタイムラインで「いま知った」「昔から推してた」が共存する。K‑POPが“練習生→完成品デビュー”で時間を圧縮するのに対し、日本型は“解散→再集合”で回す擬似タイムマシンだ。
このようなトレンドになっている背景には、K-POPアイドル及びその文化の流入による市場の競争激化とニーズ多様化があるように思う。アイドル戦国時代と言われ始めて10年以上たち、増え続けるプレイヤーの中で成功を掴むのは日々難しくなる、0から育ててブレイクを掴む難易度は今後も相対的に上昇し続けるでしょう。
なお、上記の4ファクターにはアイドル本人の視点が入っていないが、
「未練のリベンジと承認欲求のセーフティーネット。経験をフル活用できるセカンドキャリア。」
であると考えると、中長期的に良いかは不明だがWin-Winではあるように思う。
ケーススタディ:四つの転生モデル
さて、そんな環境の中で特徴的なグループ例として4つあげるのですがが、どのグループもやや切り口が違います。
fav me ― 大手事務所の横綱相撲 ➜ 勝利のフレームワークで高再現性
アソビシステムの新たなアイドルプロジェクト「PEAK SPOT」から誕生する初のガールズグループ。デビュー前からTikTokでセルフPRを積み重ね、公開リハを物語化。プレイボールズや#Mooove!で人気メンバーとして活躍した中本こまりさんや白キャン小野寺梓さんなどフォロワー数大かつアイドル経験豊富なメンバーが揃う。
清 竜人25(再始動) ― 清竜人という世界観の再装填 ➜ アートセンスを継承した第二章
一夫多妻コンセプトをそのままにメンバー再招集。「解散…のはずが続編決定」というメタ演出がトレンド入りし、YouTube登録者が急増。作家性が“解散=完結”を“演出”へ変えた好例。一期は全員オーディションだったが、二期は全員キャリアありという、まさに本稿テーマに沿って形態を変えている。元でんぱ組の根本凪さんをはじめ、現femme fatale 頓知気さきなさん、現きゅるりんってしてみてチバゆなさんなどTikTokで大バズりしてる曲を持つメンバーが多いのも強み。
amini ― クセつよ渡り鳥メンバー集合型 ➜ 個性がぶつかりすぎて何が起こるかわからない
地下〜中堅を渡り歩いたメンバーがコミュニティを持ち寄り、雑多感をどうブランドに昇華していくのか注目。パン・ルナリーフィさんは、二期BiS、CARRY LOOSE、HO6LA、NARLOWといったグループでの活動歴。西井万理那さんは、生ハムと焼うどん、APOKALIPPPS、ZOCなどどこにいても個性を発揮してきた。元フェアリーズ、現清竜人25でも活動している林田真尋さんはこのグループでも活動する。
LUCY ― カリスマ主導プロジェクト型 ➜ BiSやCY8ERのようなセルフブランディング強め
元二期BiSのアヤ・エイトプリンスさんを中心に選抜。現役を退いた後は裏方としてプロデュース業をやるアイドルは比較的多いが、プー・ルイさんのPIGGSをはじめ、自らプレイングをしつつクリエイティブの柱を両方やろうというのは今でもBiSイズムを感じる。WACK全盛期はBiSやBiSHにあこがれたこの方式のグループも増えた気がするが、最近はあまりプレイングプロデューサー形式はあまり見なくなった。
マーケティングの視点で課題を見てみる
ここまでは、実績や知名度が元々ある「強み」、市場が実力グループや元々好きだったアイドルの再起を求めるという「機会」にフォーカスしてきましたが、逆に「弱み」と「脅威」についても考えていきます。
1.ストーリーの薄さ:実績カードの“足し算”だけでは“物語”が希薄に見える
ステージでの実力があるグループが求められる一方で、プロデューサーの想いと共にオーディションを立ち上げるところから丁寧に過程をストーリー化しているグループも多い。時間とともに没入感と気持ちを形成していくこの仕組みは、実力だけでは埋められない絆の差になる。
2.内部格差・派閥リスク:人気の差が可視化されやすい
アイドルの宿命ではあるが、フォロワー数、特典会列の長さで明確に人気が可視化される。当然都合良く同じような人気のメンバーだけが集うわけではないので、グループ内は慣れているとしても外からの目としては気になる人もいるかも。
3.ブランド一貫性の欠如:多彩すぎて“何のグループ?”がぼやける
ストーリーともリンクするが、個々人のキャラクターとグループのキャラクターがきれいにリンクしているグループほどその個性が伝わりやすく、外にも伝播しやすい。各々の個性が融合できないと寄せ集め感につながってしまうリスクもある。そのポイントのアンサーの一つが清竜人25、清竜人25は竜人さんという世界観の軸がしっかりあって、うまく二期夫人たちをラップしていて違和感がない。
これらの弱みは明確にコントロールする必要がありそう。さらに実力やブランドといった観点だけでなく以下のような脅威もある
実力依存ではヒット保証なし:ターゲティング・楽曲・唯一無二の個性が弱いと埋没
昨今のヒット状況を見ていると、ステージでの実力そのものよりも楽曲やパフォーマンスといったクリエイティブ部分がヒットに与える影響が大きいように思える。さらには歌唱力やダンスは一足飛びにできても、想いの乗ったMCやステージングを通じて見えてくるグループならでは埋没しない個性は一朝一夕では発揮されるものではない。
アルゴリズム変動&供給過多:バズの前提が崩れると話題化コストが逆転
これだけ供給過多の時代では、いかにして新たな顧客にリーチするかが重要。以前からXをはじめとするSNSや、TikTokを初めとするショート動画がその主戦場となってきた。そして既にアソビシステムを初めとする大手事務所の物量があり、簡単にはバズれない状況になりつつある。
これらは、実力だけではなくプロデュース機能の中の”クリエイティブ”や”マーケティング”の要素。メンバーの実力以外がヒットに占める割合が大きくなってきている昨今では楽観的には見通せなさそうだ。
未来展望:成長物語2.0
新人を白紙から育てる“シーズン1型”に対し、経験値持ちメンバーが物語を更新する“シーズン制IP”が主流になる。成熟は終わりではなく拡張のトリガーだ。アイドル産業は“卒業=終幕”から“卒業=分岐点”へ書き換わり、別れをアップデートの予兆に変換するアセット思考が競争軸になる。
転生オールスター現象は、長寿コンテンツが希少化する時代において、ブランドとファンダムを同時に延命させる実験場だ。私はそこに、エンタメとマーケティングが共有できる“サステナブル成長物語”の芽を感じている。今日の推しが明日も生き残るとは限らない。だが物語をパッチ更新し続ける限り、推し活は終わらない。ファンと運営が共犯関係で物語を走らせるこの新時代、どんなセカンドシーズンが待つのか見守るのもまた乙なものではないだろうか。
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