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“野獣先輩”に“ロリ神”──企業がネットミームに乗っかる危うさ

TikTokを中心に、懐かしいミームが再び注目を集めている。”野獣先輩”と呼ばれる男性を題材にした楽曲「YAJU&U」と、その楽曲を用いたダンスだ。だがこのミームの元ネタが何かまで把握している人は、どれだけいるだろうか──それは元々、あるゲイビデオのワンシーンであり、そこにある「笑い」は必ずしも健全なものではない。広瀬香美さんがXでの言及したり、フジテレビの番組がTikTokでダンスを投稿した事例もあるが、後者は批判のコメントが多くなり後に削除された。この出来事が示すのは、ネットミームの消費における、“知らなかった”では済まされない構造的な危うさだ。

TikTokで再燃する“野獣先輩”──テレビも乗っかったが…

現在TikTokでは「野獣先輩」に関するミームが人気を集めており、特にその独特のイントネーションや台詞、ダンスが若年層を中心に広がっている。音源を使った動画には何万件もの投稿があり、拡散の勢いはとどまるところを知らない。

なかでも注目すべきは、 2024/05/25にYouTubeに投稿された「YAJU&U」という楽曲の存在だ。

UdioというAI作曲ツールを用いて制作されたとされる当楽曲。あたかもディ○ニー映画の主題歌のような中毒性と完成度をもつこの楽曲は、単なるネタを超えて「良曲」として評価されている。楽曲のテンポや振付もTikTokに極めて親和性が高く、Z世代を中心に数多くのインフルエンサーが踊っており、流行の中心となっている。

一方、「ゲッダン」のミームでも有名な歌手 広瀬香美さんが自身のX(旧Twitter)アカウントでこのミームに言及したり

さらにフジテレビの「ネタパレ」が番組公式TikTokでお笑いコンビ・インポッシブルにこのダンスを踊らせたことも話題となった。しかし、その動画は後日削除された。

ここで問題となるのは、このネタの“出どころ”が明確に18禁のゲイポルノ作品であるという点だ。しかも、この映像やキャラクターは長年にわたりネット上で「笑いもの」や「おもちゃ」にされてきた経緯があり、単なるパロディでは片づけられない側面を持つ。

その“いじり”は笑っていいものか?

インターネットミームの多くは、文脈を切り取られて拡散される。野獣先輩ミームもそのひとつであり、「ゲイであること」や「外見的特徴」へのいじりが、笑いの構造に組み込まれていることを無視しては語れない。

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保毛尾田保毛男イメージ

ゲイネタを笑いの文脈で消費する文化は、昭和・平成のテレビバラエティに顕著だった。たとえば石橋貴明さんが演じる「保毛尾田保毛男」などのキャラクターはその象徴だ。フジテレビがそのキャラクターを復活させた際、批判が殺到したのは記憶に新しい。

つまり、「昔流行ったから」「ネットでバズっているから」という理由で安易にネタを使うと、差別の再生産に加担することになりかねない。

“ロリ神レクイエム”も同様の構造を持つ

似たような構造を持つミームとして、「粛清!!ロリ神レクイエム☆」も挙げられる。幼女風の見た目を持つVTuberしぐれうい氏による楽曲で、キャッチーなメロディと「愚かなロリコン」「触ったら逮捕」といった歌詞が特徴だ。楽曲を持ちいたダンスがTikTokなどでブームとなり、ネタ的に引用されるケースが増えている。

しかしその背後には、「未成年キャラを性的に扱う」という文化をギャグとして消費する問題がある。すでに企業アカウントがこのミームに言及して批判された例もあり、バズに乗るリスクの高さが浮き彫りになった。

無自覚な発信では済まされない

若年層がこうしたミームの出典や歴史的文脈を知らずに使ってしまうのは、ある意味では仕方のないことかもしれない。しかしそれが「知らなければ使ってよい」という免罪符になるわけではない。

たとえば「ちびくろサンボ」といった作品も、かつては一般的だったが、現在では差別的とされ、使用を避けるべき表現になっている。背景を知らずに使ったとしても、発信者がその責任を問われる時代になっているのだ。

Mrs. GREEN APPLEの「コロンブス」MVも、こうした文脈の理解不足による発信が大きな批判を招いた例だ。楽曲や映像の意図とは別に、歴史的な植民地主義を無邪気に祝うような演出が、差別的であると受け止められた。発信者側が「そんなつもりはなかった」としても、社会的責任は回避できないという現代的な例と言える。

企業がミームに乗るときの“覚悟”

近年、企業アカウントがミームを活用する事例は増えている。NISSINやマクドナルドはその代表格で、SNSでのセンスある投稿が話題になることも多い。

そんなネットミーム活用に積極的なマクドナルドのような企業であっても、「ビリー兄貴」ネタには手を出さないだろう。ニコニコ動画を象徴するミームとしては知名度も高く、一部のファンには絶大な人気を誇るが、その文脈には明確なゲイポルノ由来のネタが含まれている。笑いと差別の境界線を見極める眼力が求められるなかで、“線引き”の感覚を持ち合わせた判断が企業にとって重要になる。

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歪みない

ただ、“ネットでバズっている”からといって、無邪気に飛び乗るのはリスクが高すぎる。どんなに拡散力があり、流行の波に乗っているように見えるコンテンツでも、その背後にある文脈や歴史、差別構造を見抜く目がなければ、取り返しのつかない炎上を招くことになる。

発信には「ユーモア」だけでなく「洞察」が求められる時代だ。特に公共性の高い立場にある企業がミーム文化と向き合うなら、その軽やかさの裏に、綿密な検証と倫理観という重みを備えておくべきである。

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コメント

1
tukino
tukino

いいよこいよ…

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“野獣先輩”に“ロリ神”──企業がネットミームに乗っかる危うさ|アケサカシンタロウ(エンタメのマーケティング)
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