(社説)福島の除染土 社会的な合意へ熟慮を

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 東京電力福島第一原発の事故の後、除染作業で出た膨大な土をどうするか。政府が、再生利用福島県外での最終処分に向けた基本方針を決めた。ただ、受け入れ先を見つけるのは難しく、道筋は描けていない。社会全体で向き合うべき重い課題だ。

 福島県内の除染土は復興の妨げにならないよう、原発周辺に設けられた中間貯蔵施設に集められた。量は東京ドーム11杯分にのぼる。政府は地元の理解を得ようと、2045年までに土を県外に運び出して最終処分する方針を示し、県知事は「苦渋の決断」として受け入れた。

 県外処分を「国の責務」と定める法改正には、国会で多くの会派が賛成した。深刻な環境汚染やふるさとを失う苦しみを背負わされた被災地への約束は、重い意味をもつ。

 ただ、実現性を疑問視されるなか、政治主導の見切り発車だったのも確かだ。

 処分の期限まであと20年、当面は最終処分の量を減らすための再生利用が課題になる。総量の約4分の3にあたる放射能濃度が1キロあたり8千ベクレル以下の土を各地の公共事業に使う計画だ。今回の基本方針には、国が率先する姿勢を示すため首相官邸での活用も盛り込んだ。植え込みで使うという。

 政府は安全性を十分確保するため、工事の作業員らの被曝(ひばく)を国際基準以下に抑え、土の飛散や流出の防止策などもとる、としている。とはいえ科学的な安全を強調するだけでは、理解は進まない。

 環境省は首都圏で実証事業を計画したが、近隣住民の反対で頓挫した。最近も再生利用基準への意見公募に不安や疑問が多数寄せられた。

 原発事故に伴う放射能のリスクをめぐっては、農産品や処理水放出でも鋭い意見対立があった。政府はお仕着せの発信ではなく、自治体や市民との丁寧な対話を通じて懸念を払拭(ふっしょく)し、社会的な合意へ努力を尽くす責任がある。

 その先の最終処分も、議論を本格化させる時だ。再生利用も含む費用や負担、完了後の原発周辺の地域像など、課題は多い。

 除染土の扱いは、事故の処理でとりわけ大きな難問だ。環境省の調査では、県外処分の方針を知る人の割合は福島県外で4人に1人で、県内の半数強と差が大きい。

 14年前の大事故は「安全神話」のもと、日本社会が原発を使い続ける中で起きた。福島第一原発の電気は主に首都圏で使われていた。その後始末を全国で受け止め、どう解決につなげていくのか、熟慮する必要がある。

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