今回のマイクリレーを振り返ってみていかがでしたか?
もちろんみんなのことは知ってたけど普段なかなか絡みのない関係で、こういう機会に一緒にセッションできたのはうれしかったですね。しかも自分はいまツアー中で、公演が続いて心身ともにサイクルが決まってくるなかでちょっと疲れを感じていたので、今日はフレッシュなエネルギーをもらえたというか、元気になりました。超カッコよかったです、みんな。
「Red Bull RASEN」に関しては“自分にもブッキング来るんや”って意外に思ったんですけど、いつもやってないことをやりたいタイプなので是非という感じで受けました。もちろんセッションを楽しむみたいな部分もあると思うんですけど、個人的には“言いたいことを言う”ってテンションで挑んだので気持ちよかったですね。
Red Bull RASEN EP22 © Suguru Saito
個人的に気に入ってるラインは“思想強いってなに?/弱いよりマシ”っていう部分。思想ないヤツの音楽聴いてなにがおもろいのってマジで思うし。それと、“成り上がるだけならここじゃなくてもいい”というライン。べつに音楽じゃなくてもいいのに、なんで音楽を選んでいるのか、改めて問い直さないといけないなって。これはリリックを書いてて急に浮かんできて、自分でもハッとしたというか、“ほんまにそうやな”と思ったところだったんです。こういう考えはやっぱりセッションじゃないと出てこないかもしれないですね。
メロディーに関しては、基本的に自分のスタイルとしてラップのフロウが染み付いているのでそれをやりつつ、最後は歌で締めたいなと。「Red Bull RASEN」はラッパーのコンテンツという印象があったので、今回シンガーとして参加できたのはめっちゃ良かったなって。自分自身もこういうセッションを見てみたいなと前から思っていました。
自身の現在のアーティストとしてのモードを自己分析するなら?
自分は10代からネオソウルを聴いて、Mos DefやCommonといった周辺のラッパーも聴いてきました。当時はサウンドのフィーリングが好きだったんです。それからゴスペルに関心を持ちはじめるんですけど、ゴスペルにおけるリーダーみたいな人をパスタといって、説法みたいなこともやるんですね。それも含めて聴いていたんです。で、自分がラップに取り組むようになった時期に現れたのがChance The Rapper。ゴスペルの音の感じが自分にとって馴染み深いし、歌とラップが混ざったようなスタイルがメインストリームに出てきた。そののち、Sminoとかもめっちゃ好きになって。そういう時代とともにSIRUPのスタイルが作られていった感覚がありますね。SIRUPとしてデビューした曲が“ Synapse ”という、歌とラップがシームレスなものだったというのも偶然じゃないというか。 それから活動を続けていろんな知識や経験が入っていくなかで、言いたいことに対して言葉数が足りなくなってきたんです。社会のこととか、精神のこととか。この3年間であれば、コロナ禍を経て……いやまだ経てないですけど、政治についても学んだし、社会問題に対しても言いたいことが増えてきた。自分のルーツにネオソウルやR&Bがあるから歌うんですけど、ゴスペルの説法や、ヒップホップの言葉であらわす文化をすごくリスペクトしていて、それを自分なりのかたちで表現している、というのが現在ですね。
ヒップホップも改めて近年は特にすごく盛り上がってるじゃないですか。4月にリリースしたEP『BLUE BLUR』でもKMさんやChaki Zuluさんといった日本のメインストリームのヒップホップのプロデューサーと曲を作ってもらいましたけど、おもしろいことって盛り上がっているところで起きるから、かっこいいなと思うプロデューサーがそこにいるのは当たり前で自然な流れだったと思います。
Red Bull RASEN EP22 © Suguru Saito
そもそも自分が大阪にいてクラブカルチャーと密接な距離にいたころ、風営法の改案でシーンが一気に崩れ、流れてしまったのを間近で見た経験があって。だからいまこうやって大きなうねりが起きているのは確かだと感じながらも、またおなじことになるんじゃないかっていう危惧があるんですよね。加えて、R&Bもヒップホップも、USだけじゃなく日本やアジアでもポップス化しているけど、ルーツであるアフリカ系アメリカ人に絶対に敬意を払わなあかん、というのも自分にとってのいちばんのルールです。自分がそういったアーティストたちにすごくエネルギーをもらってきたからこそ、そう思います。これらを踏まえて、日本でも世界でもプレイヤーがめっちゃ増えて消費の速度が早くなってきているなかで、文化を作っているのは自分たちなのか、大人が波を作っているだけなのか、ということは明白にしていかないといけないなって。これから消費が進んで、世間的に飽きられたということになるかもしれないけど、文化は飽きるとか飽きひんとかじゃなく、ずっとあるものだから。そうならないためにも、なんのために音楽をやっているのかっていうのはミュージシャンも音楽に関わる人も全員考えないといけないなと思っています。
いちばんというとムズいっすけど、Stevie WonderとAlicia Keysで音楽の世界に触れて、Musiq SoulchildやD'AngeloとかのR&B / Soul・ネオソウル系のシンガーにいまも自分のルーツを感じていますね。政治的なことにも声をあげるとか、そういう思想についての影響源はヒップホップが大きいと思うけど、それはR&Bもそうだし、もう全部っすよね。
たとえばCommonとLauryn Hillが中絶の歌を歌ったり、いまだったらKendrick LamarとBeyoncéが"AMERICA HAS A PROBLEM"と訴えたり、ずっとやってるんで。そこに境目はないというか。もちろん最初はサウンドで好きになったけど、こうした精神性を知って“だからオレはこの音楽が好きなんや”って思えるようになったんです。
Red Bull RASEN EP22 © Suguru Saito
日本でヒップホップやR&Bという音楽をルーツに持っているアーティストたちにフォーカスしたフェスみたいなことをやりたいんですよ。今日のセッションに参加していたみんなもそうですね。だから自分が海外のアーティストともっと曲を作って、そういう人たちをこっちに呼んで、刺激しあえるような場を作れたらもっとシーンがおもしろくなるだろうなって思うんです。
いま、メインストリームでがんばろうとは思っていなくて。というのも、ミドル層が盛り上がったら音楽シーン全体がおもしろくなるって言われているっぽくて……これは誰が言ってるか知らんっすけど(笑)、自分でもそう感じるんですよ。この層が分厚くなったら、好きなことやってご飯食べられるっていう人も増えるし、もっといろんな音楽が生まれるんじゃないかなって。自分はそこに貢献できたらいいなと思って、ずっと音楽やってますね。
SIRUP主催・企画イベント『channel 03』
12月6日 (水) KT Zepp Yokohama [神奈川]
12月15日 (金) Zepp Namba [大阪]
1Fスタンディング/ 2F指定席:¥7,700(税込)
👉SIRUPインタビュー『ゴスペルの説法、ヒップホップの言葉…自分のルーツへの敬意を歌でかたちに』